インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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戦乙女達

水平線に朝日が昇り始める。

太陽の光が海上に浮かび上がる巨大な水球を照らし出し、キラキラとまるで宝石のように輝く。

しかし、その輝きの中にも異なる輝きが二つある。

一つは破滅の光…銀の福音が拘束を解くために銀の鐘を内部から乱射しているのだ。

それはまるで星の瞬きのように水球内で爆発を繰り返している。

一つは昏き光…どうしてそうなってしまったのか…その光を放っているものの正体は、アモンが身に纏うアプリストス。

暴走しかけている機体を抑え込むように、昏い光の繭の中に閉じこもっている。

水球内部にある為、銀の鐘の破壊エネルギーに晒されているものの、一向にびくともしない。

ISに使われているエネルギーとはまるで違う、異質なエネルギーが強固な障壁と化しているからだ。

銀の福音は危害を加えるものではないと判断しているため、昏い光の繭には手を出していない。

だが、恐怖を感じている…その異質なエネルギーに。

いずれ、いずれどうしようもないものが、其処から出てくる気がしてならない。

だが、壊すことが出来ない…銀の福音は一刻も早くその場から逃れる為に、水の障壁へと苛烈な攻撃を与え続けた。

 

 

 

 

海沿いの崖に腰掛けて、篠ノ之 束は空間投影型のディスプレイとキーボードを弄繰り回している。

銀の福音のハイパーセンサーを通してアプリストスを監視していた束は、唇を舌で湿らせてコンソールを操作して解析を行い続ける。

 

「うふふ…やっぱり君は異常だよ…異質だよ…だから、同類なんだよ…」

 

解析を行いながら、アプリストスのコアに設けてある侵入路(バックドアー)からコアの機能停止ウィルスを送り続ける。

感染すればコア内部のデータを全て消去して、ただの石ころに変えるものだ。

だが、いずれも侵入と同時に弱体化されてしまい、コアの抵抗力を以って消去されていく。

この状態もまた、束にとって非常に好ましかった。

コアは、はっきりとした思考の元で束の言う事を拒絶する。

それは心等と言う生易しいものではない…自立した完全な自我だ。

自我の芽生えは束がコアに促したかったものの一つ…それをこんな間近で見る事が出来るのは生みの親としても喜ばしいものだった。

 

「一体どうしたら、あんな短期間で自我形成できるのかな~。大して使ってもいないのに…」

 

解析を続けながらも一向に答えが出ないことに、束は徐々に苛立ち始める。

自身こそがこの世界で頂点に居る人間だと信じて止まない。

箒、千冬、一夏…自分に並ぶのはこの三人だけ。

アモン・ミュラーとて有象無象の存在に過ぎない。

彼の経歴が数年前を境に降って湧いた様に現れた…そもそもそこからして可笑しい。

あれほどの頭脳を持つ存在が、今の今までどうやって表舞台に立たずにいられたのか…?

いや、そもそも…他の人間たちと同じ人間では無い気がする。

 

「まぁ、ここで仕留められれば解剖し放題…原子までキッチリ腑分けして調べつくせばいっか~」

「ほう…束…私の男がよっぽど気に食わない様だな?」

「当り前だよ、ちーちゃん。そもそも、私たちは…たった四人だけじゃないか」

 

束は背後にまで迫っていた千冬に驚くことなく振り向く。

束は能面の様にニヤニヤとした笑みを浮かべたまま、千冬を見つめる。

対して千冬は、涼やかな表情で束を見つめ返す。

 

「そうだ、確かに四人だけだ。だが、もう四人だけじゃない…お前は一人で一体何をするつもりなんだ?」

「べっつに~。私は私の望む世界を求めていくだけさっ!」

 

束は大きな胸を揺らす様に胸を張り、愉悦に笑みを浮かべる。

現状、束が何をやろうと世界は止める手立てが無いのだ。

居場所も掴めず、仮に突き止めて精鋭部隊を送り込んだところで、人としての限界を越えている束は容易く返り討ちにしてしまう。

まさに天災…人の力では災害に対抗しうる事ができないのだ。

 

「束…アモンにちょっかいを出すな」

「なんでさ~?あんな変な人間にちょっかい出すななんて無理だよ~」

「お前だって自分の物に悪戯されたら嫌だろう?」

「それはそれ、これはこれ…第一、あんな生身で鋼鉄の塊(シュヴァルツェア・レーゲン)を解体する様な化け物の何処がいいのさ?」

 

束はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、千冬を見つめる。

束には人の心が分からない…それは、愛し合いたいと思う千冬や、溺愛している箒と一夏に対しても同様だ。

認識は出来るが、理解はできない。

千冬は、フッと笑って髪をかき上げながら束を見下ろす。

どこか、可哀想なものを見るかの様な目で。

 

「あの男が、私を誑かす悪魔だからだ。そこら辺の有象無象よりも良く見える、良い悪魔()…惚れ甲斐があるじゃないか。私の人生を賭けるに値するほどにな」

「へぇ…じゃあさ、アイツが此処で死んだらどうするの?」

「どうもしないさ」

 

千冬は、束の言葉にキョトンとした顔で首を傾げる。

言っている意味が分からないとでも言いたげな顏なのが、束にとっては腹立たしかった。

千冬は束にとって――。

 

「アモンが私を残して死ぬ?無いな。昨日の撃墜で疑いはしたが、今ははっきりと無いと言える」

「根拠を教えてくれるかな?」

「分かってるだろう?アイツが…悪魔だからさ」

 

千冬が自信に満ち溢れた顏で言った瞬間、遠くに見える水球が甲高い音を響かせて一気に凍り付く。

束は慌てて海に目を向けて、その光景を見つめる。

 

「あの人形にはあれ程の出力は…」

「さて、見ようじゃないか…私の魔王様の帰還を」

 

千冬は束の隣に立ち、腕を組みながら朝日に輝く氷の球が砕け散る様を見つめる。

BTドールと専用機持ちによる作戦とは呼べない戦闘の第二ラウンド…そのゴングが高らかに鳴った。

 

 

 

 

 

「さて、各員配置につきましたね?」

「問題ないニャ」

『作戦のオペレーターは私と簪さんで行います。織斑先生は別作戦で行動中ですが…確実に撃墜しますよ!』

 

スティーリアは水球の上に立ち、BTドールとしてのリミッターを外す。

フランマも同様だ。

その瞬間、ただの攻撃端末としての側面しか見せていなかったスティーリアとフランマの内部から莫大なエネルギーが発せられる。

出力だけを見れば、軍用ISの三機分相当…しかし、同時に大きなリスクでもあった。

BTドールは人間と同等の脆さを持っている。

これは人形遣いであるアモンが、ドールを人として作っているために自ら課した制約の為だ。

スティーリア、フランマがこの出力に耐えられるのは凡そ五分…それまでに福音を完全に破壊しなければ、専用機持ち達による命がけの戦闘が始まってしまう。

勿論、束が行動を起こせばすぐにでも第二次形態移行を起こしてしまうだろう。

だが、この短い時間に於ける高出力モード…スピードと言う一点を除き、全てを凌駕する事ができる。

この五分間が勝負…各専用機持ち達は指定された配置につき、戦闘開始を待つ。

 

「さぁ、全て、総てを凍り付かし」

「全て、総てを無に返そう…我ら姉妹と勇者たちの力で」

 

スティーリアは手に持つ氷のハルバードの石突で水球を軽く突くと、水球が甲高い音を立てて一気に凍結する。

永久氷壁もかくやと言わんばかりの硬度を誇るその中で、まるでもう一つの太陽が出来上がったかのように輝くと凍り付いた水球が内部から爆発する。

 

『み、みんな!反応健在!!』

『皆さん!砲撃戦開始!篠ノ之さんと鳳さんは手筈通りに!』

 

氷の破片が雨あられと降り注ぎ、爆炎が渦巻く竜巻を発生させる中に…銀の福音は各部を損傷させながらも悠然とどこか安堵したかのように表れる

銀の福音がスティーリアとフランマを両方見比べたその瞬間、銀の福音の頭部に徹甲弾が炸裂する。

ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンのパッケージであるパンツァー・カノニーア…その最大火力である二門のレールカノン『ブリッツ』による正確無比の長距離狙撃だ。

それを戦闘開始の鐘と見たか、銀の福音は速度で大したことが無いように見えるラウラを標的として急加速する。

その瞬間、前方にレーザーの網が張られる。

 

「オールレンジ攻撃は貴方だけの特権ではありませんの…是非、踊っていってくださいましな」

 

セシリアは高機動パッケージを選択せず、距離を引きながらのBT兵器によるオールレンジ攻撃で銀の福音の進路を塞いでいく。

いずれも攻撃を目的としたものではない…あくまでもラウラへの進路を塞ぐ為の物だ。

一瞬、銀の福音が動きを止めて上昇しようとした瞬間に、上空から氷でできたクレイモアを振りかぶったスティーリアが急降下してくる。

距離が離れていて、スラスターも無いのに何故…?

銀の福音は、視界の隅に高速機動で駆け抜ける紅のISの影を見る。

 

「余所見をするな、鉄屑が」

「貴様の相手は私達です」

 

赤のIS、鈴の甲龍に掴まってやってきたフランマが、すれ違いざまに炎で作り上げた槍を銀の福音の胴体に突き刺し一気に炎上させる。

その一撃と同時にスティーリアのクレイモアによる唐竹割りの斬撃が、銀の福音の胴体の装甲を切り裂く。

だが、直前に後方へと飛び退いたお揚げで損傷は其処まで大きくならなかった。

銀の福音は仕返しとばかりに、最大火器を持っているであろうスティーリアとフランマが固まっている隙を突く様に銀の鐘を浴びせる様に撃ってくる。

 

「やらせると思うのかい!?」

 

しかし、鮮やかなオレンジの機体がシールドを展開して福音とBTドールの間に割って入る。

堅牢なシールド…シャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの防御パッケージ『ガーデン・カーテン』により、銀の鐘の猛攻は全て遮られてしまう。

シャルロットは攻撃に晒されながらもアサルトカノン『ガルム』を呼び出して、お返しと言わんばかりに銃弾をお見舞いする。

紅と赤…箒と鈴は交差するようにしてスティーリアとフランマを回収して、高速で銀の福音の側面に躍り出る。

 

「ラウラさん!」

「セシリア!!」

 

セシリアはBT兵器の全てを銀の福音に差し向け、一斉射。

威力こそ低いものの、一部の攻撃がスラスターに直撃して爆発を起こす。

その一瞬を逃すまいとラウラは砲身が焼き付いてしまうのもお構いなしに高速で徹甲弾を銀の福音に撃ち込む。

 

「一夏の仇…」

「シショーの仇…」

「「ここで!!!」」

 

スティーリアとフランマが離れた瞬間に、箒と鈴は瞬時加速…鈴が双天牙月で武骨な横薙ぎを銀の福音に叩き込み、箒がエネルギー刃を発生させる刀『空裂』による斬撃で真っ二つに切り裂く。

往生際が悪いのか、銀の福音は銀の鐘を最大出力で放とうとエネルギーを急速充填する。

しかし、銀の鐘がその破壊の嵐を撒き散らすことは無かった。

 

「我らが王の痛みを鉄屑に知らしめてやる」

 

フランマが静かに呟いた瞬間、海が蒸発するほどの炎の嵐が吹き荒れて銀の福音の装甲を溶かし始めたためだ。

獄炎の只中に居て、フランマはただただ冷え切った笑みを浮かべる。

 

「貴様の様なゴミが屍を晒すな…目障りだ」

 

スティーリアが一度手を叩きあわせると巨大な氷塊が銀の福音の頭上と足元に現れ、爆音と共にプレスの様に勢いよく重ね合わせられる。

一切躊躇なく行われたソレを見て、スティーリアはフランマとは対照的に喜色満面の笑みを浮かべる。

 

「あぁ、でも…棺にするには、鉄屑には勿体ないものでしたね」

「「「「「うわぁ…」」」」」

 

あまりにも過激な一撃に、箒達専用機持ちとオペレーターをしていた真耶と簪は引いた様な声を上げる。

銀の福音を圧潰させた氷の塊は海水を撒き上げながら落着し、季節外れで地域外れな氷山と化す。

 

「ニャ、ともあれ箒ちゃん達のお陰で何とかなったニャ!」

「…今更あざとくなられても反応に困る…」

 

フランマは普段見せるような笑みを浮かべて、氷山に腰掛けブイサインを箒達に見せる。

冷酷な一面を惜しげもなく見た後だったせいか、箒は何とも言えない顏でフランマを見つめる。

スティーリアは水球のあった場所へと目を向け、宙に浮いている黒い塊を見つめる。

 

「後は…我らが王とアプリストスを回収するだけですね」

「あれが…ミュラー先生?」

「卵…みたいですわね…」

 

時々脈打つように胎動する黒い球体を見て、シャルロットとセシリアは不気味さに息を呑む。

直視するだけで悪寒が走る…あれは『あってはならない』ものの様に感じてしまったのだ。

だが、鈴はお構いなくその黒い球体へと近づいて行きISの腕で触れる。

 

「何も起きないわね…。スティーリア、これを運べば良いのね?」

「その前にコアも回収しなくては…」

『みな――!――げ―!!』

「簪…?」

 

鈴が黒い球体を押して運ぼうとした瞬間、氷山が木っ端微塵に砕け散る。

氷山の上にいたフランマは直前に変化に気付いた為に致命的な一撃を回避できたが、それでも左腕を失ってしまった。

 

「チッ…死にぞこないが…!!」

 

自身の体を傷つけられた事が余程頭に来たのか、フランマは悪鬼羅刹の様な顔を怒りに染め上げ上空に飛び上がった物を見上げる。

 

「皆、撤退を…私とフランマが殿を務めます」

「行くニャ…ちょっと、此奴は不味いから」

 

箒達は、逃げろと言われても動けなかった。

その、神々しくも禍々しい第二次形態移行を果たした、銀の福音から逃れられる気がしなかったから。

だが、それ以上に…専用機持ちとしてのプライドが撤退を拒んだのだ。

 

「自爆覚悟ですね…フランマ、行きますよ」

「皆も逃げる気はないみたいだからね…やれるだけやったら、マスターに褒めてもらおうそうしよう」

 

銀の福音は嘲笑うかのように、静かに光り輝く翼を広げた。

自分を邪魔するものは居ない…そう言わんばかりに。

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