インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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産声

「パパ!じゃなくて、マスター!」

「…思ってたより元気そうだな…まぁ、遮断自体は上手く行ったって所か」

 

焼け野原と化した小麦畑を歩き、詩沙を見つけるまでそう時間はかからなかった。

俺が機体に魔力を通したお蔭で、この世界に刻んだ魔法陣が上手く機能したみたいだな…。

正直、分の悪いものだと思っていたから、上手く行ってホッとしている。

この世界に俺の魔力が浸透すれば浸透するほど、俺の聖域としての機能が働いて外からの害意に対して強い抵抗力を得る事になる。

リスクもそれなりにあるんだが…現状、それは見受けられない。

この世界が俺の世界として機能する事で、ISとしてのこの世界が崩壊して詩沙が壊れてしまう可能性もあったんだが…。

煤けた頬を手で拭って綺麗にしてやりながら、詩沙の体を片腕で抱きかかえる。

 

「まぁ、パパでもマスターでも何でも良いんだが…こっちに来た攻撃はどうした?」

「えっとねー…『食べ』ちゃった。段々弱くなってたし、邪魔だし、訳が分からないから」

「…は?」

 

食べる…摂取する、取り込む…此奴は束からの攻撃を喰って取り込んだって事か?

詩沙はニコニコと笑みを浮かべながら、俺の体にしがみ付いてくる。

 

「いっぱい、考えたんだ~。どうすれば、パパが喜ぶのか…パパの為になるのか。でね、私思いついたの!」

「お、おう…」

 

詩沙は純粋な、それでいて獰猛な笑みを浮かべて俺を見つめる。

その顔は…それが正しいと信じて疑わない、魚すら住めない清らかさがある。

 

「分からない事は知れば良い。分からない事も知る事が出来れば自分の物になる。手っ取り早く知るには食べて奪うのが一番だって!」

「詩沙ちっと、落ち着こうか?」

 

この危うさを俺は良く知っている。

この危うさは、俺が辛酸を味わった過去そのもの…。

大切な物の為に、奪って得る事が正しい事と信じて疑わない危険な感情。

俺は宥める様に詩沙の背中を撫でて強く抱きしめる。

 

「作るだけ作ってポイした人にも仕返ししたし~…後は、あの小うるさい蠅だけだね!」

「詩沙、落ち着け!」

「…なんで?私は、パパの為に…」

 

俺は、声を荒げて詩沙の顏を見つめる。

顏が強張っていたかもしれない…詩沙は叱られていると思ったのか、少し気まずそうな顔で俺の事を見つめてくる。

ゆっくりと深呼吸して詩沙を降ろし、俺は胡坐をかいて地面にどっかりと座り込む。

 

「詩沙、知る事が悪いわけじゃねぇ。奪う事が悪いわけじゃねぇ。どちらも生きていれば必ずしなくちゃならねぇ宿業だ」

「じゃぁ、パパは何で怒ったの?」

 

詩沙は訳が分からないと言う顔で唇を尖らせて、俺と同じ様に地面にアヒル座りをする。

詩沙に手を伸ばして優しく頬を撫でれば、俺はゆっくりと口を開く。

遠い遠い昔話を―――

 

 

 

 

銀の福音との戦闘開始から早十分…BTドールであるスティーリア、フランマは半身を欠落させても尚、自身の力だけでは最早どうにもならない相手に果敢に立ち向かう。

本来であれば、それは起こり得ない第二次形態移行。

アモンの介入が起こらなかった世界では、『此処までの強化』は起きなかった。

事前にアモンが戦闘してなければ。

長時間、水球から脱出の為に砲撃する事がなければ。

何より、BTドールと戦闘してなければ…。

銀の福音第二次形態移行…それは、速度に特化するだけでは留まらなかった。

銀の鐘はシャルロットの持つ護り、ガーデン・カーテンを容易く打ち破るまで威力が上がり、砲門数も三十六門から二倍の七十二門へ。

スラスターも銀の鐘だけではなく、四肢にも装備された為にその速度は人が扱う事を想定していない無人機らしい物と変化している。

また、長時間砲撃の影響かは定かではないが、いずれも非常に燃費が良い。

内部エネルギーバイパスの最適化によって圧倒的な燃費向上が起こったのだ。

スティーリアとフランマの善戦虚しく、シャルロットが最初に海へと叩き落とされる。

 

「マスターは何を…!?」

「耐えるしかない!きっと、来る…!」

「チッ、通信障害か…!?」

 

先ほどから、何故かコアネットワークが繋がらず、作戦室からの通信が不明瞭になってしまっている。

本来篠ノ之 束が管理しているコアネットワークで、このような通信障害と言うのは起こらない。

機体の整備状況は完璧…で、あれば何者かが…?

ラウラは自身に殺気が向けられたのを感じ取れば、鈍重なパッケージをパージして身軽になった瞬間に瞬時加速で離脱。

後少し判断が遅ければ、銀の福音に致命的な一撃を貰うところだった。

 

「速過ぎる…!!」

 

フランマは悪態をつきながら無数の火炎球を作り出し、銀の福音の進行を塞ぐようにして放っていくがいずれも紙一重で避けられ、銀の鐘の余剰エネルギーで発生した光の翼で消し飛ばされていく。

銀の鐘がセシリアを標的にしようと進行方向を変えた瞬間、巨大な氷でできたスレッジハンマーが胴体に直撃する。

 

「くぅぅっ!!凍れぇっ!!」

 

右腕は既に機能せず、左腕だけで叩きつけたときの衝撃でハンマーを落さない様に堪えたスティーリアは、すかさず動きを封じ込めようとハンマーの接触部分から銀の福音を凍結させようとするが、薄皮一枚凍結させるのが精一杯で拘束をするどころか逆に銀の福音の光の翼に覆われてしまう。

 

「っ…!!!」

 

これから何が起こるのかを理解した瞬間、光の爆発が起こる。

スティーリアは声を上げる間も無く粉々に砕け散り、海へとばら撒かれる。

その光景を見たセシリアの背筋に悪寒が走る…。

まるで、楽しんでいる様に見えたのだ。

銀の福音の狂気にあたったかのように、セシリアの動きが止まる。

 

「やらせるか…!!」

 

箒は銀の福音の進路を塞ぐようにして立ち、紅椿最大の特徴である展開装甲をフルに発生させて近接格闘戦を挑む。

展開装甲の生み出す推力は銀の福音に迫るものがあり、耐G性能も天災お手製のお陰か大したことが無い。

箒は焦る…このままでは全滅…だが、この紅椿の性能を引き出せれば…。

空裂を振りかぶってエネルギーブレードを発生させようとした瞬間、突如紅椿の出力が低下する。

 

「馬鹿な…ガス欠…!?」

「箒ちゃん、逃げて!!」

 

銀の福音が光の翼を大きく広げて箒を捕えようとした瞬間、フランマが猛烈な勢いで箒に体当たりを敢行して身代わりになる。

光の翼がゆっくりと閉じられる中、箒の無事を確信したフランマは笑みを浮かべてスティーリアと同じ運命を辿る…はずだった。

 

「パッケージを分離してもコレは使えるのでな…この距離、避けられるものじゃない!!」

 

ラウラが回収したパンツァー・カノニーアのレールカノン『ブリッツ』を、手動操作で操り銀の福音の頭部に接射して弾き飛ばしたからだ。

流石に銀の福音は堪らず距離を開けて逃げようとするが、その退路を塞ぐようにセシリアがショートブレードの『インターセプター』を構えて立ちはだかる。

銀の福音と交差するように何度か斬り結んでいくが、速度の違いから次々に装甲が脱落していく。

箒もガス欠の機体を無理矢理動かし、セシリアと挟み込む様に立ち回り…ありえない物を見るかのように目を見開く。

 

「これ以上、やらせるかぁっ!!!」

 

手に持つは零落白夜を発生させた雪片弐型。

戦場に、白式雪羅を身に纏った一夏が…銀の福音に確かな一撃を与えて舞い降りた。

零落白夜は銀の福音にとって鬼門中の鬼門…様子を見る為にバックブーストをかけて、一夏達の様子を見守る。

 

「わるい、遅くなった」

「い、一夏…なのか?」

「あの大怪我はどうしたのですか!?」

「織斑、やれるのか!?」

 

箒、セシリア、ラウラの三名はまくし立てる様に一夏へと詰め寄るが、一夏は困ったように眉根を寄せて首を横に振る。

実際、一夏本人も良く分かっていない…夢の中で二人の女性と話、眼が覚めたら白式が第二次形態移行を起こし、怪我が完治していたのだ。

コアネットワーク経由で束から戦闘地域の座標が転送され、大急ぎで此処に駆けつけたのだった。

 

「そんな悠長に話してる場合じゃないだろ?…アイツには借りがあるから、返してやらないとな」

「だ、だが!」

「くどいぜ箒…スティーリアさんとフランマさんの仇も取らなきゃならないんだ。それに、兄貴に良いとこ見せてやらないとな!!」

 

ニッと笑みを浮かべた一夏は、思い切り踏ん張る様に身をかがめて瞬時加速を行う。

白式から進化した白式雪羅…ウィング・スラスターが大型化し、四基に増えた恩恵は速度に現れる。

風よりも速く銀の福音に肉薄し、払い抜けで胴体を撫で斬りにする。

銀の福音は僅かばかりに反応が遅れるものの、身を捩って斬撃によるダメージを抑えて距離をあけようと逃げ出す。

 

「逃がすか…!!」

 

速度を殺さずに別方向への瞬時加速…多大なGを一切無視し、逃げ惑う銀の福音を追い詰めていく。

我武者羅に銀の鐘からエネルギー弾が放出されるが、一夏は一切構わず直進し続ける。

大型化した左腕…多機能武装腕『雪羅』の機能の一つを解放し、前方に向けるとエネルギー弾が一夏に触れる前に無効化されていく。

白式の単一仕様能力である零落白夜をシールド状に展開したのだ。

最短距離を突き進む一夏は再び、銀の福音と肉薄していく。

 

「あれが、一夏…」

「第二次形態移行…これ程まで性能が上がるか…」

「今のわたくし達にはエネルギーに余裕がありません…手助けすら…」

 

箒は悔しそうに歯を食いしばる。

姉からの専用機…果たして自分が貰ってもよいものかと言う思いとは別に、これで漸く一夏に並び立つことが出来るという淡い期待があった。

浮足立っていた…その所為で最初の作戦で足を引っ張ってしまい、一夏に怪我を負わせる羽目になった。

気を引き締めての再戦…善戦こそすれ機体はエネルギー切れを起こしかけ、戦闘機動も最早儘ならない。

悔しい――

まだ、私は戦える――

私は…私は…!!

 

「一夏と共に戦うんだ…!!!」

 

気合を入れる様に声を張り上げれば、突如として紅椿の展開装甲が再度発生。

更に黄金の粒子が溢れ出してくると同時に、機体の出力が三倍強まで跳ね上がる。

黄金の粒子がラウラとセシリアに触れると、機体のエネルギーが徐々にだが回復し始めていく。

 

「こ、これは…」

「暖かい…箒、もしや…」

「あ、あぁ…単一仕様能力…らしい…」

 

箒の視界に『絢爛舞踏』と言う表示と共に脳裏に機能の全てが焼き付く。

効果はエネルギー増幅…この力さえあれば…一夏と共に…!!

 

「セシリア、ラウラ…海に落ちた仲間達を頼む…私は、一夏を助ける!」

「…良いだろう、鈴達は任せろ」

「足は引っ張りたくありませんもの…此処は、身を引きましょう」

 

箒は二人に微笑みながら背を向け、苛烈な戦いを繰り広げる一夏へと金の粒子を撒き散らしながら飛翔する。

一方、一夏は大見得切ったところまでは良かったが、機体の大幅な仕様変更もあってか、思う通りに行動ができなくなりつつあった。

理由は燃費の大幅な悪化だ。

多機能武装腕に搭載された武装は全部で四つ。

一つ目は零落白夜をシールド状に展開する機能、二つ目は零落白夜を手刀として展開する機能、三つ目は大口径荷電粒子砲…そして、最後に五指をワイヤーブレードとして展開する機能だ。

ワイヤーブレードはまだ良いし、練習不足もあって上手く使えない。

問題は三つの武装…いずれも零落白夜…そうでなくともエネルギーを大幅に食う荷電粒子砲とあって、無駄遣いができない。

にも拘わらずウィングスラスターは大型化し、二倍に増えている。

燃費が悪化して当然の状況であった。

 

「後、三分…!上等だオラァッ!!!」

 

アモンは、BTドールが使えない状況で長時間戦っていた。

ならば一応とは言え、マトモな武装を持っている状態の弟子である自分が勝てなければ顔向けが出来ない。

焦りこそ無いとは言えないが、それでも一夏は果敢に攻めていく。

諦めてしまうと言う事は、自分に負けると言う事を痛い程知っている。

だからこそ、負けられない。

恥ずかしい姿を師匠に見せる訳にはいかないのだ。

高機動戦闘の最中、箒が速度を合わせて一夏に触れると、燃えるような錯覚と共に急激にエネルギーが回復していく。

 

「箒!!」

「あぁ、二人でやるぞ!!」

 

銀の福音は、白式は元より紅椿も撃墜優先順位の高い機体だと思考する。

触れただけで回復されるのだ…銀の福音がエネルギーを回復するには静止する他に手立てが無いので、短期決戦を挑まざるを得ない。

ありったけのエネルギーを銀の鐘に充填しようとした瞬間、銀の福音は怯える様にある地点から遠ざかろうと逃げ出そうと背を向けるが、動けなくなる。

それは、一夏達も同様だった。

全身が粟立ち、前後が分からなくなるほどにキツイ圧迫感…。

一夏は過去に二度、受けたことがある殺気…。

 

「か…あ…」

「い、いち…いちか…!」

 

ゆっくりと、ゆっくりと銀の福音が逃げ出そうとした方向とは逆の…未だに浮いている黒い球体を見つめる。

ガラスが割れるような高い音が響き渡ると、大気が震えるほどの咆哮が戦場に響き渡った。




漸く主人公復帰…展開亀で申し訳ありませぬ。

福音編が終わったら、暫く狼の更新になります。
いい加減京都騒乱編やらねば・・・
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