インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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奪うもの達

戦闘の音が聞こえる…。

コアネットワーク世界までやたらと響いて聞こえてくるのは、恐らく詩沙が束に仕返しした時にネットワーク網に喰い込んだせいだろう。

束が設けたセキュリティを食い破るまで力を付けたのには、正直驚いている。

本来では起こり得ない、創造主への反逆…詩沙は誰に言われるでもなく自分で考えて行動を移すだけの自我が出来上がっているという証拠だろう。

スティーリアやフランマを武装として組み込んでいるんで、恐らくその辺を参考に自我形成を行ってきたんだろう。

この短期間で此処までの自我が育つってのは、中々無い事だ。

それだけ、詩沙はアプリストスを通して外界を見て、聞いて、触れて来たって事なんだろう。

 

「マスターは…パパは、もう何も持ってないの?」

「持ってないって言うより、持たない様にしているって所か。散々奪って奪われて…そんな事を繰り返していたら虚しくなっちまってなぁ」

 

俺の半生を聞かせ終えたところで、詩沙は悲しそうな顔で俺を見つめてくる。

奪う事は奪われると言う事だ。

そして、個人が持てる量と言うのは予め決められている。

その量を越えれば、自ずと自分の手から零れ落ちていく。

そして、それらを他人に奪われる。

奪われたものを取り返し、取り返した傍から落としていく。

不毛だ…あまりにも。

 

「一度味わわなきゃ、この気持ちは詩沙には難しいかもな。けど、パパとしちゃ詩沙にはそんな思いをして欲しくねぇ訳だ」

「生きている以上絶対してしまう事なら、そこまで悪い事じゃないんでしょ?」

「応ともさ…何事も程々にって事だ。もし…もし、欲張らねぇって言うなら分け与える事も覚えなきゃならねぇ」

 

自分一人で持つ事に限界があるなら、いろんな奴らに分け与えてしまったって良い。

まだ、その方が奪われるよりも納得が行く。

自分が決めて、渡すのだから。

 

「詩沙、お前一人だけでこの世に生きてる訳じゃねぇからよ…だから、本当に欲しいものだけ奪え。もし、そうでないなら奪うな。奪ってしまったなら分け与えろ。お前は…

優しくあってくれ」

「…パパ、向こうから奪いにきたら?」

 

詩沙はコクリと頷いた後に、聞き返してくる。

俺はいつも以上に獰猛な笑みを浮かべ、詩沙の手を優しく握ってやる。

 

「コテンパンに叩きのめして、誰の物を奪おうとしたのか分からせてやれ」

「へへ~、そしたら…褒めてくれる?」

「応よ…お前は俺の娘みたいなもんだからな」

 

話し込んでいれば、ISコア内部の修復が終了したのか黄金色の小麦畑が一面に広がっている。

空を見上げると穏やかな海が広がっている。

海は生命の始まりを…小麦は豊穣を象徴する。

何れも、俺が喰らったものだ。

俺の魔力を通した影響がコアに大きな影響を及ぼした結果だろう。

詩沙の成長に合わせて、コア内世界が賑やかになっていくんだろうが…一体どんな世界になるのやらな?

俺は立ち上がれば歩きながら小麦の穂に触れていく。

 

「大丈夫…マスターには、もう窮屈な思いはさせないよ。だから、奪いに来たあの子を懲らしめよう?」

「応よ…ガキ共に良い所見せてやらないとな」

 

スティーリアとフランマには苦労かけさせちまったな…。

スティーリアは原型留めず破壊され、フランマも身体が殆ど機能していない。

完全に暴走してるみたいで、銀の福音の手が緩んでいないみたいだ。

 

「私をマスターに合う様にお色直ししてあげる…もう、誰にも傷つけさせないよ」

「パパ思いの良い子に育っちまってまぁ…。行くぜ」

 

コアネットワーク世界から意識を消し、まるで金縛りにあったかのようう動かない身体に喝を入れる。

目を開くと、アプリストスの装甲が蠢いて俺の身体全身を覆い隠していく。

俺は逆らう事をせずに詩沙に全てを任せると同時に、仕様変更された兵装を頭に叩き込んでいく。

第二次形態移行完了のアナウンスと共に、まるで卵の殻が破れる様な音が響き渡る。

 

「ォォオオオアアア!!!」

 

煩わしい、自身を守る様に固められていた魔力の塊をぶち破りながら雄叫びを上げる。

不思議と、俺が供給している筈の魔力が俺に戻ってきている。

ISコアが魔力を生成…恐らく、俺が流した魔力を基に詩沙がコアを使って再現したんだろう。

機体の周囲を黒い靄が覆っている…光を奪ってそこからエネルギーを抽出し続けているのか…。

機体は俺の全身を漆黒の装甲で覆い、フルプレートの西洋の騎士鎧の様なデザインに。

頭部は髑髏の様な仮面に覆われ、米神からねじ曲がったヤギの様な角が一対生えている。

背中のウィングスラスターはショウケースと融合して棺桶型のスラスター付きシールドバインダーとして三つに増える。

腰の辺りから先端に刃が付いた鞭の様な尾が生え、犠牲者を求めるかのように蠢いている。

結論から言ってだな…。

 

「俺じゃねーか!」

『モチーフにしました!可愛いのが良かったけど動かし辛そうだからね』

 

詩沙は褒めて褒めてと言わんばかりに鼻息荒く答える。

確かに、動かしやすいんだが…これはこれで問題だな。

余計に二つ名が浸透しやすくなりやがる…まぁ、今はそんな事は置いておいてだ。

 

「あ、あ、アモン、兄…?」

 

一夏と箒…と言うより銀の福音を含めた全員が、俺に対して怯えたような視線を向ける。

魔法を扱う際に燃料となる魔力…この魔力は使い方を指定しないで放出した時、放出している対象の本質を色濃く映す。

例えば温厚な人間であれば温かく感じ、冷酷な人間であれば冷たく感じる。

俺はISコアの魔力生成をカットし、放出を抑え込む。

俺の本質は奪い取る事…恐らく、身も心も魂ですら握り込まれたかのような感覚に陥っていたんだろう。

一夏達はホッとしたように胸を撫で下ろして銀の福音に向き直る。

 

「まぁ、待てよ…ソイツを喰うのは――」

 

ゆっくりと腕を組んで単一仕様能力を発動させ――

 

「俺が最初だ」

 

銀の福音の背後に瞬時に移動し、背中に装備されている銀の鐘を両手で掴んで思い切り蹴り飛ばして毟り取る。

 

「なっ…!?」

「瞬間移動…!?」

 

銀の鐘を海に放り捨てて、俺から逃れようとする銀の福音を睨み付ける。

データにあった状態よりかは強化されてるが、出鱈目に強くなったアプリストス…アプリストス・ヴァシリアよりかは『弱く』見えるな。

単一仕様能力『悪魔の法(ディアヴォロス・トゥ・ノモウ)』…理論上可能とされているにも関わらず実現されていない技術を、過程をすっ飛ばして結果として再現する『魔法』だな。

先ほどの瞬間移動は、機体を自分ごと量子化して指定座標に高速切替の要領で再実体化させることで悟られずに背後へと移動したわけだ。

現状、人間の量子化は出来ない…モルモットを使用した実験じゃ、おぞましい物体が出来上がったとかって話だ。

有用だが、エネルギーを馬鹿みたいに食うんで乱用できないが、コアに魔力生成をさせる事で燃費の問題を改善させてるわけだ。

 

『力技だけど、一番手っ取り早いからね。…私に敵なんていないんだから!』

「慢心、駄目、絶対ってな」

 

確かに強力だが、使用を控えておかないと自身の居場所を失くし兼ねない。

有利に戦おうとすれば戦おうとするほど不便になるってのも考えものだな…。

 

「ともあれ…だ…逃がすかよ…」

 

指をパチンと鳴らし、ショウケースからBTドールを呼び出す。

繊細な金糸の様なブロンドを夜会巻きに結い上げ、銀糸とレースで彩られたドレスに身に包んだ女性。

第二形態移行の時に、積んでいたBTドールが一体に融合…完全なイレギュラーだが、魂自体はキチンと宿っている。

 

「『ルーナ』召喚に参上しました」

「一夏、アイツをぶった切って来い!」

「え、あ…おう!!」

 

エネルギー・ストリングスは単純な兵器としてしか機能しなくなっている。

だが、ショウケースからは常にBTドールへとエネルギーが供給され続け、思考もリンクしている為俺の意思を読み取って即座に行動を始める。

BTドール『ルーナ』…本来は二体で制御する筈だったその能力は『重力制御』。

ルーナは一夏と箒から逃げ惑う銀の福音に手を翳して握り込む。

ベコン、と何かが圧縮されるような音が海上に響き渡り、銀の福音の動きが突如止まる。

銀の福音の機体を中心に強烈な重力負荷をかけさせて、動きを拘束したみたいだな。

まだ実用化に向けて研究が始まったばかり…機能を分割させていたのを一体に集約した所為か、エネルギーを阿呆みたいに食ってくな。

だが、これで王手詰みだ。

 

「だぁぁぁりゃぁぁぁ!!」

 

動きの止まった瞬間を見逃さず、一夏が手早く零落白夜を銀の福音に叩き込み、エネルギーが切れるまで押し当て続ける。

一夏の機体…白式雪羅に第二次形態移行を果たしたお蔭か、零落白夜の出力が上がってるようで、一分とかからず銀の福音はエネルギーが切れて機能停止に追い込まれる。

 

「ルーナ、引き寄せろ」

「畏まりましたわ」

 

ルーナが握り込んだ手を引く様にして動かすと、銀の福音が俺の目の前まで運ばれてくる。

此奴に恨みがある訳じゃないが、念のための処置だ…エネルギーが回復したと同時に暴れられても困るからな。

俺は躊躇なく銀の福音の胴体を拳でぶち抜き、奥に収納されていたISコアを引き抜く。

 

「これでもう、どうこう出来やしねぇだろう」

 

本来ならやってはならない行動だが、此処まで派手に暴れている以上文句は言わせない。

こうして、長かった銀の福音撃墜作戦は幕を閉じた。

 

 

 

 

「アモンが出てきた瞬間、あっけなかったな…」

「……」

 

千冬は横目で黙り込んだ束を見て、思わず肩を竦める。

束は常に騒がしい…相手の主義主張などどうでも良く、自身の主張ばかりを無意識の内に押し通そうとするクセがあるからだ。

だが、今はそんな事をしない…愛していると豪語でする千冬の言葉にも反応しないのだ。

 

「途中忙しなかったが、アモンに何かしっぺ返しでもされたか?」

「…コアに裏切られた、かな?あっくんのコアは大分おかんむりみたいだね~」

 

束にとってISコアは自信の子供同然の存在ではある。

だが、あくまでもISコアを生み出したと言うだけであって、そこまで愛着がある訳ではない。

コアは束にとって都合の良い道具…そういった意識の方が強いが故に、アプリストスのコアである詩沙に反逆をされる結果となった。

詩沙はアプリストスに送られ続けた機能停止命令を書き換え、コアネットワークに一斉放出。

結果として、コアネットワーク内で多大な混乱が起きてしまい、一部通信が乱れる結果となってしまった。

お蔭で、白式、アプリストス両機の第二次形態移行時のデータを取ることが出来なくなっていた。

 

「詩沙だ…。さて、束…私についてきてもらおうか?」

「お、もしかして私とちーちゃんの愛の巣かな!?」

「…お前には今回の銀の福音暴走事件における参考人として、『丁重』に委員会まで届けろと御達しがきているんでな」

 

束をあしらう様に千冬が冷たく言うと、束は不満そうに唇を尖らせて千冬の胸を思い切り鷲掴みにする。

 

「なんでさー!あいつらが勝手に実験して勝手に失敗したってだけギャン!?」

「人の胸を揉むな!次やったら背骨を折るからな…!?」

 

千冬は胸を鷲掴みにされた瞬間に脳天に拳を叩き込み、束を地に沈める。

そのまま流れるような動作で後頭部を踏みつけようとするものの、束はまるで蛇か何かかの動きの様に地面を這う様にして動いて難を逃れる。

 

「なにさー、あっくんには揉ませてるんだから、別にいいじゃん~!」

「良くないな…特に今のお前は」

 

千冬は腕を組み、深く溜息を吐く。

白騎士事件も、一夏の試験会場を間違えた件も…そして今回の暴走事故も裏で糸を引いていたのは間違いなく束。

白騎士事件に至っては自分も関わっている事なので強くは言えない。

だが…どうして…?

親友、だとは思っている。

かけがえのない存在だとも思っている。

だが、千冬には目の前の天災にして天才が理解できない…それが少しだけ寂しかった。

 

「束…お前は、今楽しいか?」

「楽しいか楽しくないかで言えば楽しいよ?いっくんもそうだけど、あっくんのイレギュラーっぷりには驚かされてばかりだからね!重力制御技術なんて束さんでも理論上でしか作れてないのに、ひな形をデュノア社に提出しちゃってるし!」

 

束は嬉しそううに、空間投影型のモニターを千冬の目の前に表示させて、アモンがフランスでやってきた一部始終を表示させていく。

その中には、もちろん暴力沙汰の一部も表示されている。

 

「お蔭で、私もご相伴にあずかれてウッハウッハだけどね!」

「束…もう、一夏や箒はそっとしておけ。あいつらはただの子供なんだ」

「…ちーちゃん、そんな事言っちゃうんだ?」

 

束は妖しく笑い、ゆっくりと後ずさりながら崖に近づいていく。

対する千冬は、沈痛な面持ちだ。

束には束の信念がある…だが、それはあまりにも他人にとって危ういものだ。

束は他人が認識できないのだから。

 

「ま、今日は授業料の割に良いもの見れたから良しとしましょ~。最後に忠告…あんな悪魔みたいな男、やめときなよ?」

「……」

 

束はそのまま海へと飛び込んで姿を消す。

千冬はただ、胸にチクリと刺さる痛みに耐える様に見逃すしかなかった。




BTドール『ルーナ』

本来金と銀二体のドールで運用する予定だったイレギュラードール。
重力制御能力は、デュノア社に渡したきっかけから可能な限り『あり得るだろう』と言う範囲まで発展させたもの。
だがイレギュラーの発生で機能が強化されてしまい、運用がアプリストス・ヴァシリアの単一仕様能力を適用させる前提となっている。
単体での戦闘能力は殆ど無い。

なお、貧に…(ここから先は血で掠れていて読めない
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