インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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月に酒に悪魔と女

銀の福音暴走事件の最終的な損害として、教員用IS三機が大破、専用機である甲龍、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡが中破、ブルー・ティアーズ、シュヴァルツェア・レーゲン、白式、紅椿が小破…と此処までは良いんだが、教員二名がMIAとして帰ってきていない。

ISスーツに仕込まれているGPSが使い物になら無くなっているらしく、消息がつかめないって事だ。

大破した内の二機も見つかっていないって話なんで、今学園とIS委員会から捜索隊を派遣して作戦海域周辺を虱潰しに捜索している真っ最中だ。

で、帰ってきてない教員ってのが…二組担任の緒方と四組担任の横井だ。

どちらも日本の代表候補生だった経歴の持ち主だ。

千冬と違ってISにも日常的に触れているから、ロートルって訳でもない。

どうにもクサイが、推測だけで物事を決めても仕方がないし、今はただ無事を祈るばかりだ。

学園の襲撃犯の方は随分と手練れだった様で、捕獲する事叶わずに逃げられてしまったって事だ。

引き際を見誤らない鮮やかな撤退だった…元々見透かされていた可能性が高いからな。

恐らく、学園襲撃犯は楯無の足止めが目的だったんだろうよ。

銀の福音と専用機の衝突を邪魔されたら、あのウサギは困ったんだろうしな。

結局、束は何を目的に銀の福音をぶつけてきたのかは、はっきりとは分からない。

白式と紅椿は対で運用しなきゃ駄目ですよって言うアピールの為だけだったら、今すぐ絞め殺しておかないとこの世界の為にならない気がする…。

ともあれ…ともあれ、だ…ガキ共が無事だったのは、俺としては非常に喜ばしい。

スティーリアとフランマを修理したらご褒美くれてやらなきゃな。

 

「悪いな、轡木のおっさん…色々と迷惑かけてよ」

『いえいえ、貴方が居なければ被害がもっと増えていたかもしれませんしね…教員二名の行方不明は気がかりですが』

 

もし、ISと一緒にあの二人が海を漂流しているってんならすぐに見つかるはず…。

にも拘わらず、見つからないってのはあり得ない。

と、なるとISは身に纏っていないって事になるんだが…肝心のISが見つかっていない訳で…。

こう、なんつーか…面倒事の匂いがプンプンしやがる。

 

『織斑先生には連絡してありますが、けが人もいますし今日は其方で一泊してもらう様に手配しておきました。勿論ミュラー先生も』

「マジか…マジかぁ…」

『おやぁ?嫌そうですなぁ…?』

「顏合わせにくいっつーに」

 

一度撃墜されてるところ見られちまってる所為で、結構心配をかけた事は理解している。

普段表面にはあまり出さないが、千冬はあれで独占欲が強くて寂しがり屋だ。

いや、悪い気はしないんだけどな?

ただ、なんつーか…負い目って言うか…。

 

『まぁまぁ、良いではないですか…今回の臨海学校のお宿は今時珍しい混浴ですし?』

「おっさん、マジでおっさん臭ぇから止めろ」

『ハッハッハ、いやぁ、私も昔はやんちゃしたものでしてね』

 

轡木のおっさんは愉快そうに笑いながら、昔を懐かしむように話し始める。

聞けば出るわ出るわ…相当女を泣かせてきたらしい。

よく、後ろから刺されなかったもんだ…。

 

『と、まぁ冗談はここまでにして…織斑先生はISより戦闘能力があるとは言え、生徒全員を守れるほど余裕はないでしょう。学園に帰還するまでの間の護衛、お願いしますね』

「あいよ…ったく、からかわねぇで最初っからそう言えってんだよ」

『同性の同僚って言うのはこの学園では貴重なんですよ…それに、貴方とはウマが合う。で、あればからかうと言うものっでしょう?』

「おう、帰ったら覚えとけよ、おっさん」

『はて、なあんでしょうねぇ?私、最近物覚えが悪くって』

 

最後に轡木のおっさんはからかうような笑い声を上げて通信を切る。

俺はぐったりと疲れ切ってしまい、砂浜に腰掛けて寄せては引く波を眺める。

時折、トラブルメイカーの自分が恨めしく思う。

そうなってしまう原因が分かりきっていて、それを防ぎようが無いってのも分かっている。

俺がこの世界に来なきゃ、こうもならなかったか…?

そう、思う事もあるわけで…。

量子化していた煙草とライター、携帯灰皿を呼び出して煙草を口に咥えれば、オイルライターの蓋を開け閉めしながら次来るであろう一手を考える。

恐らく、数少ない第二次形態移行を果たした白式とアプリストスの戦闘データ…ないし、、実機の奪取。

それと、束のお手製ISである紅椿か。

どいつもこいつも曰くつき…事件に巻き込まれるなって方が無理か。

なら、事件が起きてもどうとでもなる様にしなくちゃな…。

漸く火を点ける決心をして、煙草に火を点けてユックリと味わう。

今回の事で、他所の世界におけるISのデータはアテにならないって事が良く分かった。

 

「次はしくじらねぇ…」

「シショー!!」

 

背後から此方に駆けてくる音がしたと思ったら、いきなり両肩に衝撃が走る。

どうやら跳躍して肩車の要領で俺の肩に座ってるようで、視界に入る程よく鍛えられたしなやかで綺麗な足が眩しい。

 

「鈴、おまえ怪我どうした…っつーか、水着かよ…?」

「打撲なんて怪我にも入らないわよ!それよりシショー、なんでISスーツのままなのよ?」

「引継ぎしてから見張りやってたからな。お前の担任帰ってきてないだろ?」

 

鈴は俺の頭にしがみ付く様に腕を回し力を込める。

それなりに不安ではあるってところだろう…命のやり取りをさっきまでしてたんだから余計にな。

火傷させるのも嫌なんで、煙草を携帯灰皿に捨てる。

 

「絶対とはいえねぇけど、多分生きてるだろうさ…ISがそれなりに優秀なのは身に染みて分かってるだろ?」

「まぁ、そうだけどさ…シャルロットも怪我らしい怪我は無かったし」

「担任の事を信じてやれよ、な?」

 

俺はバランスを崩さない様に鈴の足を掴みながら立ち上がり、砂浜を歩きだす。

まだまだ、酸いも甘いも知らないお子様だからな…中々こう言った本格的な戦闘って奴の本質は受け入れがたいものがあるだろ。

それなりに心のケアってのをやっていってあげなきゃな。

帰ったら、学園のカウンセラーがやってくれるだろうが…。

暫く歩いていると、謹慎が解けたであろう他の生徒達が砂浜に眩しい水着姿でやってくる。

この分だと一日自由時間だろう…宿に缶詰状態じゃ、可哀想だろうしな。

 

「あー、アモン先生じゃん!」

「学園にヒッキーじゃなかったの!?」

「おーう、遊ぶのは良いけど羽目外すんじゃねーぞ~?」

 

鈴を肩から降ろして、生徒たちの方へと背中を押し出してやる。

なにより、今は遊んで気持ちを切り替える事が重要だろう。

 

「見ててやっから、遊んで来い…」

「うん…ありがと、シショー。チーム分けてビーチバレーやるわよー!!」

「「「おっけー!!」」」

 

鈴を送り出せば、再び煙草に火を点けて吸い始める。

…顔、合わせづらいなぁ…。

 

 

 

結局、夜になっても千冬と顔を合わせる事は無く、皆が寝静まった夜に宿の温泉で一人寂しく湯に浸かっている。

途中寝てたようなものだとは言え、徹夜状態で肉体にも疲労が溜まっている。

ゆっくりと肉体のメンテナンスを行い、具合を確かめていく。

今日も眠る事はできないからな…せめて、肉体だけでも万全にする必要がある。

詩沙は流石に疲れているのか、休眠状態になってダンマリを決め込んでいる。

詩沙にとっては初めての大仕事…可能な限り俺を理解し、力を理解し、あり方を理解した上で機体を作り直した。

ISの自己進化が内面だけではなく、その存在そのものにまで影響を及ぼすとは思わなかった。

詳しく調べるのはスティーリアとフランマを修理してやってからだが…恐らく、本当の意味で束の影響から外れているだろう。

アイツに干渉されないってのは良いんだがな…一波乱呼び込む種になるのは目に見えている。

温泉に浮かべたお盆の上で徳利から御猪口に清酒を注ぎ、一息で煽る。

鬼殺しと呼ばれるものは特に辛く、強いアルコールの香りが鼻を突き抜けていく。

月夜に酒としゃれ込んで、一人で呑気に楽しんでいると屋内温泉から露天風呂に通ずる引き戸が開く音が響き渡る。

ひた、ひた、ひた、と裸足で歩く音がして湯船に入る音がすれば背中に誰かが寄りかかってくる。

 

「…アモン、一人酒とはつれないじゃないか」

「応…偶にはな」

 

千冬は背中合わせで俺に寄りかかり、少しだけ疲れを見せる声で文句を言ってくる。

鍛え上げられている筈の肉体は決して硬くなく、女性特有の柔らかさを背中越しに俺に伝えてくる。

 

「…ひやひやさせてくれるな…取り乱しそうになったではないか」

「応…いや、悪かったな…こっちも手一杯でよ」

 

千冬は俺を押し出そうと体重を此方に預けてくる。

暫く、岩でできた湯船に温泉が注がれる音だけが浴場に響く。

月明りだけで海は見えず、波が寄せる音が微かに聞こえて来るだけだ。

酒の乗ったお盆を軽く押し出して離せば体の向きを変えて、千冬の体を背中から抱きしめてやる。

 

「ISの損害はまだ良いが…同僚が居なくなると言うのは少しばかり堪えるな」

「どこほっつき歩いているんだかな…捜索は?」

「こちらの警察に引き継いでもらって、学園側は引き上げる。警備の見直しも進めなくてはならない…これから、また忙しくなるな」

 

千冬は俺の腕を撫でる様に手を這わせていく。

まるで、きちんと自分の元に居るのを確かめるかのように。

 

「私は…自分が恨めしい…一夏が立派になるまで守ろうと心に決めて、必死になってきたのに…何もできなかった」

「気に病むなよ…どうにもならねぇことだってある。どんなに手に届く距離にいたって…手が差し伸べられねぇ時があるんだよ」

「だからと言って…それに甘んじて良いわけではないだろう」

 

千冬はISを使えない…前に言った通り、その類い稀な戦闘能力の所為で危険視されている為だ。

止められる可能性があるのは、イタリアの国家代表くらいしかいない…って話だ。

完全に核みたいな扱いになっちまった所為で、こうして首輪を付けられている。

政治的な思惑に踊らされるの国家代表…否、IS操縦者だ。

 

「このままでは、全て取りこぼしてしまう…そんな気さえしてしまう。ただでさえ…」

「…随分と弱気じゃねぇか…」

「お前の前ぐらいは良いだろう…?」

「俺の前だけにしとけ…お前はいつも凛としていねぇと一夏が…皆不安になるだろ?」

 

少しだけ抱きしめる力を強くして、より肌を密着させていく。

千冬は強張る体の力を抜いて、俺に体を委ねる。

 

「随分と弱くなったものだ…親が失踪した後は、束の両親に手を貸してもらっていたとは言え全部一人でこなしていたものだが…」

「なんでもかんでも出来るってわけではねぇだろうよ…俺はお飾りで傍に居る気はねぇ。お前がどうにもならねぇって言うのならキチンと支えてやるさ」

 

そう、なんでもかんでも自分でこなそうとする。

それが美徳か悪徳かはさて置き、織斑 千冬は出来ない事も無理を通してでもこなす。

結果出来上がったのは鉄の女と言う人物像…勝手にそうイメージされしまえば、千冬もそう簡単に弱音を吐けなくなる。

そうなってしまったら…誰にも頼れないだろうさ。

だから、酒が入ると支離滅裂な事を言う…本音と建前が同居しちまうからだ。

最近は俺のお陰かめっきり減ったんだが。

 

「強いやつなんていねぇんだ…皆何かしら弱みを抱えて生きている。だから、もし本当に強い奴が居るんだとしたら…そいつはただの化け物だろうさ」

「お前はどうなんだ?」

「いつも言ってるだろうが…俺は、悪魔だってな」

 

異物にして化け物…かと言って弱みがないってわけでもない。

目の前の弱みを愛でる様に頬を撫でていく。

 

「本当に悪魔なのだと…そう、信じても構わないな?」

「応よ…千冬にゃ、なるべく嘘はつきたくねぇからな」

 

千冬の顏を此方に向けさせる様に頬に手を添え、唇が触れる程度のキスをする。

子供の様に幾度も唇を重ね合わせてキスを繰り返す。

次第にヒートアップしていくのを感じて、漸く顏を離す。

あんまり羽目を外して迷惑かける訳にもいかねぇしな…。

 

「もう、終わりか…?」

「続きは帰ってからじゃダメか…?」

「…まぁ、良いだろう」

 

千冬は弱化不満そうな顔をするものの、軽く首を横に振って俺から離れる。

流石に逆上せてくるから俺も同様に立ち上がる。

湯船に浮かせたお盆を持ち上げると、千冬が徳利を横からかっさらって中身を飲み干す。

 

「勿体ないだろう…最後までキチンと飲み干さなくてはな」

「そらそうだ…ったく…仕方ねぇなぁ…」

 

俺は湯冷めしない内に千冬の腰を抱き寄せて、一緒に露天風呂を後にする。

せめて、二人きりの時くらいは…離さない様にしなくては、なんて思いながら。

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