インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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魔王様と夏のおもひで
夏の始まり


――玉座に座し、神殿から愛すべき人々の営みを見つめる。

多種多様な人々は差別こそあれど、それでも笑顔を絶やさず其処に生きている。

私は、それを眺めているだけで幸せだったのだ。

暴虐の限りを尽くし、様々な犠牲の上に成り立った幸せであっても…私は私の愛すべき隣人の為に暴君であっても構わない。

そこに何の迷いがあろうか?

そこに何の間違いがあろうか?

私は愛すべき人々の幸せを願っていただけなのに…どうして…。

嗚呼…私は…僕は…俺は…間違っていたとでも言うのか?

――玉座に座し、荒れ果てた神殿から、消え去った人々の営みの名残を眺める。

その、どうしようもない結末を…。

 

 

 

 

 

ゆっくりと目を覚ます。

最近、嫌な夢を良く見るようになったとぼんやりと思いながら、腕の中で今も幸せそうに眠り続ける千冬を見つめる。

銀の福音暴走事件から一週間が経った。

アメリカ・イスラエル両国は事件を完全に隠蔽し、無かったことにしてしまった。

精々、IS開発中に事故が起こりましたよ、くらいの報道が二、三日ワイドショーを賑わせたくらいで、大きな騒ぎになる事は無かった。

…MIAと言う扱いだが、教師二名の死亡判定は受け持っていた二組と四組の生徒達に多大な衝撃を与えた。

今回の事件を公の物にする訳にはいかないので、葬式ですら慎ましやかなものだ…。

クソみたいに腹立たしい話だ…だが、納得しておくしかない。

遺体と機体の残骸が発見されていない以上、無事であることを祈るしかないだろう。

一年の専用機は紅椿を除いて、夏休みを利用しての大掛かりな全機オーバーホールを受ける事になった。

今回の銀の福音との戦闘で得られた高速戦闘データをキチンと回収しておきたい、と言う各国の思惑が見え隠れしているな。

無かった事にされているとは言え、第三世代機でもトップクラスの性能を誇る銀の福音との戦闘は、機体の関節の損耗具合や反応速度、操縦者のバイタルデータ等から技術的なノウハウの発展に繋がっていく。

大幅な仕様変更はISコアの戦闘経験値の無駄に繋がり兼ねないので、内部をチョコチョコと弄って終わりになるんだろう。

…話は変わって、俺の扱いについて。

委員会からの通達で、学園内での軟禁措置は解除された。

理由は、多大な戦闘能力を有するセカンド・シフト機を所有している人間に喧嘩を売る馬鹿はいないだろうと言う非常にユルーイ考えの元の決定だった。

ただし、機体のGPS機能で常に監視されている前提だけどな。

俺の機体…アプリストス・ヴァシリアは、過程をすっ飛ばして不可能を可能にする。

現状この世界では実用化の目途が立っていない核融合ですら、この機体は可能にするだけの能力を有している。

単一仕様能力『悪魔の法』…科学的に理論上は可能とされる現象を再現するこの能力は、非常に危険だ。

さっき言った核融合もそうだが、人の手に余るものをいともたやすく行使してしまう。

また、詩沙の宿るコアにも変化が起こっている。

具体的に言うと、こちらから機能をカットしない限りは魔力を生成して蓄え続けている。

今まで供給されていたエネルギーが必要ないと言わんばかりだ。

…魔力生成の件に関しては、報告する事は躊躇われた。

第二次形態移行とそれに伴う単一仕様能力…後ろ盾が無いに等しい俺は新たな火種になるからな。

黙ってれば、機能自体は普通のISと変わりない訳だし…今は大人しくしていたい。

目の前の女とダラダラと過ごしていたいしな。

 

「…ここのところ、お前は難しい顔をしているな」

「まぁな…」

 

あれやこれやと考えている内に結構な時間が経っていたらしく、千冬が目を覚まして俺の顏を見つめてくる。

いつもの様に額にキスをして体を起こすと、千冬は俺の体に腕を回して抱き付く。

 

「お前は…もう少し寝ていたらどうだ?」

「そうも言ってられねぇだろ…あんまり爛れた生活送ってっと、ガキ共に示しがつかねぇよ」

「それを言われたら弱いんだがな…」

 

千冬はそれでも離れる気はないのか、俺の体に耳を当てて鼓動を聞いている。

優しく頭を撫でながら、千冬のサラサラとした黒髪を手で梳いていく。

けたたましく鳴く蝉が気にならないほど、静かな時間がこの寮長室に流れていく。

此処には俺と千冬しかいない…邪魔な視線が無ければ千冬は素直に甘えてきてくれるのが、俺にとっては嬉しく思える。

 

「そろそろ、起きねぇと今日の仕事終わらねぇぞ…?」

「…偶に不真面目になりたくなるな…」

「応、それ言うなってば…」

 

千冬は渋々と頷いて俺から離れると、汗を流すために浴室へと向かう。

洋上に作られたこのIS学園は、常時吹いてくる潮風と照りつける太陽のお陰で体感気温が異様に高い。

その所為で、ちょっと歩こうものならすぐに汗をかいてべた付く。

それは夜も変わらないので、たとえ運動をしてなくとも寝汗をたっぷりかいてしまうわけだ。

俺はベッドから重い腰を上げてベッドシーツを手早く剥ぎ取り、洗濯機に放り込んでいく。

 

「布団も干しちまうかな…」

 

千冬と生活しはじめて主夫が板についてきた気がしてならない…。

いや、千冬も花嫁修業は頑張ってはいるんだが…一人前には程遠いからな。

さくさくっと家事を済ませながら、今日の予定を確認する。

千冬は夏期講習、俺は午後までに訓練機体の整備…それと、大破したスティーリアとフランマの修復作業だな。

あの二体の修復は日々の業務もあって、遅々として進んでいなかった。

それでも、スティーリアの胴体部分は出来上がっていて移植も済んでいる。

フランマも身体を動かすことはできないものの、殆ど修復は終わっている。

後は眠りこけている魂を起こしてやるだけ…一番デリケートな部分なんだけどな。

軽く溜息付きつつ、千冬の着替えを用意してからテーブルに朝食を並べていく。

今日も一日はりきって生きますかね…。

 

 

 

畳が前面に敷かれた道場に、物を叩きつけられるような音が幾度も響いている。

道場内の窓や扉は完全に開きっぱなしになっているにもかかわらず、夏特有の熱気と人の熱気で不快なほどに室温が上がっている。

俺は道場の真ん中に立ち、竹刀を持って両腕をダランと下げている。

俺の周囲には、一夏、箒、鈴、ラウラが滝のように汗を流しながら様々な訓練用の道具を持って構えている。

 

「もうちょい気合入れてくんねぇと、アモンおじさんは寝ちまいそうだぜ?」

「四対一なのに、一本も有効打を入れられない…」

「寝かせっかよ、アモン兄に吠え面かかせるまでさ!」

「シショー、もらったぁ!」

 

箒と一夏と『和やか』に会話をしていると、鈴はそれを隙と見たのか背後から一気に詰め寄って、下段から逆袈裟の要領で刃を潰した薙刀を振ってくる。

気配からそんな事はお見通しなので逆手に持ちなおした竹刀で薙刀を防いで弾き返し、そのまま剣先で鳩尾を優しく突いて弾き飛ばす。

それらの行動を合図として、続いてラウラがただでさえ小さい背を低くしてネコ科の肉食獣の様に詰め寄り、これまた刃を潰したナイフを俺の脛に切り付けようとしてくる。

 

「シャァァッ…!」

「真っ直ぐ来すぎだ、もうちょい工夫しとけ」

「ぷぎゅっ!」

 

俺は切り付けられる予定だった右足を上げて刃を避け、そのままラウラの体を踏みつけて床に縫いとめる。

一夏と箒は俺を挟み撃ちにしようと一気に駆け寄り、手に持った刃を潰した日本刀を振りかぶる。

足元にラウラがいる所為で避ける事ができない…下手すればこいつに当たって怪我させちまうからな。

仕方がないんで、箒の刀の腹を裏拳で弾いて逸らしつつ、一夏の腹に竹刀を叩きつけて吹っ飛ばす。

 

「ぐぇっ!!」

「い、一夏!」

「間近で余所見してんじゃねぇぞ?」

 

問答無用に箒の頭に竹刀を優しく叩き落とし、すぐに鳩尾を優しく突いて押し出す。

俺はラウラから足をどかしてスタスタと歩き、全員が視界に入る位置へと移動して竹刀を肩に担ぐ。

 

「躊躇してねぇで、キチンと殺気乗せろってば…何のための訓練なんだよ?」

「だ、だが…怪我をしてしまうと思うとだな…」

「振りづらくなるわよ…シショー」

 

死屍累々…一夏達は道場の床にへたり込んで俺を見つめてくる。

事の発端は、一夏が俺にいつもやってた組み手をして欲しいと言い出したことに始まる。

最後に別れてから訓練を施してやってなかったから、俺はそれを了承。

じゃぁ、道場を借りてやろう…と言う事になったんだが、其処に偶々居合わせた箒達が一緒に鍛えて欲しいと名乗りを上げて現在に至る。

セシリアとシャルロットは里帰り中で居ない…鈴とラウラは暫く日本に留まる事にしたそうだ。

勿論、機体のオーバーホールの件があるので七月いっぱいまでらしいんだが。

 

「そりゃ、命を奪う重さだって認識してる証拠だ。普段はISのパワー・アシストのお陰で感じない重さも、それならはっきり認識できるだろ?」

「竹刀とかより振りにくくなるとは思わなかった…けど、俺は強くなりたい」

「応よ…一夏みてぇにガッツがある奴は大歓迎だ」

 

一夏は脇腹を抑えながら立ち上がり、両手でしっかりと竹刀を構えて真っ直ぐに此方を見据えて呼吸を整える。

俺は不敵な笑みを浮かべて、竹刀で肩を叩きながら空いた手で手招きする。

 

「来いよ、ガキんちょ鍛えてやるのが俺のお仕事だからな…コテンパンに叩きのめしてやんよ」

「言ってろ、兄貴!!」

 

一夏は腹から声を出して気合を入れると、まるで千冬の踏み込みの様に素早く間合いに入り込んで刀を横薙ぎに振り抜こうとする。

すこしばかり一夏の事を見直しつつ、素早くしないで刀の腹を叩いてかち上げさせてから、回し蹴りをがら空きになった胴体に叩き込む。

一夏は回し蹴りが入る瞬間に跳躍して衝撃から逃れつつ、そのまま弾き飛ばされて距離を開ける。

さっきから一夏にだけは手加減していない…にも関わらず武器を手放すことなく必死に喰らい付いてくるんで、師匠の俺としてはかなり楽しくなってきちまう。

 

「げほっ…いってぇ…」

「手ぇ抜いたら、お前怒るじゃねぇかよ?」

「当り前だろ?強く、なるんだよ…皆、守れるようになりたいからさ!」

「…まぁ、良いけどな。すこしばかり休憩しようか」

 

白熱しすぎて熱中症になっちまったら意味がないし、命にも関わる。

女子共もぐったりしてるからな…道場の隅に置いてあったクーラーボックスから適当にペットボトルを取りだして、全員に渡していく。

急激に身体を冷やすのは良くないが、クソ熱い時にキンキンに冷えたジュースとか酒ってのは美味いからなぁ…。

 

「あ、ありがとうございます」

「あー…生き返るわぁ…」

「その後、またアモン先生に地獄に叩き落とされ…」

「ラウラ、それ言うんじゃないわよ…」

 

箒達は冷えたジュースで喉を潤して畳に寝そべっている。

訓練開始から二時間弱…延々と打ち込ましては叩きのめしてを繰り返していたからな。

とは言え、無駄になるって事もないだろう。

どうすれば、攻撃が届くのか?

どのタイミングで連携をすべきなのか?

間合いの最適な取り方は?

そう言った事の試行錯誤を自ずとするようになるからだ。

向上心があるこいつ等なら、間違いなく敗北だって己の糧にしてくれるだろう。

もちろん、一夏も。

 

「一夏、さっきの踏み込みは中々良かったぜ」

「っし…!千冬姉の昔の映像とかで研究してたしな」

「つっても、まだまだ俺にゃぁ届かねぇけどな~」

 

けっけっけ、と笑いながら一夏をおちょくっていると、鈴が此方にやってくる。

少しばかり不満そうな顔をしているな…。

 

「シショー、私達に手加減したでしょ?」

「ん~、どうしてそう思うんだよ?」

「ラウラは踏みつけだったけど、箒とあたしには押し出しだけじゃない」

 

まぁ、あからさますぎてバレもするか…。

流石に俺とて女の柔肌傷つけるってのには、余程の事がなきゃ抵抗を覚えちまう。

ましてや夏…薄着が多くなるこの季節は肌を晒す機会だって多くなるからな。

女の子にとっちゃ、死活問題になるだろうよ…。

 

「あ~…まぁ、本気でやりあったら痣だらけになっからな。そりゃ俺だって躊躇するってもんだろ」

「シショーは、気を使いすぎ。それじゃ訓練にならないじゃない!」

「その台詞はマトモに打ち込んでから俺に言うこった」

 

わしわし、と乱暴に頭を撫でてやりながら鈴をからかう。

急いで強くなる必要はないわけだし、此奴らには身の丈にあった速さで成長してもらいたい。

そんな風に俺は考えている。

ただ、そのための協力を惜しむような事はしない。

教師って言うよりも、大人だからって言う理由だけどな。

 

「うっし、それじゃ今度はサシでやるか。他の奴らは駄目出ししてやれ」

「ハードル上げるわね…一番手あたしもーらい!」

 

一夏達が道場の隅に移動し、俺と鈴は互いに武器を構えて向かい合う。

へとへとに疲れてるだろうに、何ともまぁ…元気なこったな。

外で鳴く蝉以上に気合の入った声が道場にこだまするのだった。

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