インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~ 作:ラグ0109
昼食を挟んで夕方までみっちりと一夏達を扱いてやった。
何度も何度も叩き潰してやっても、あの手この手で俺をギャフンと言わせてやろうって言うあの気概は、鍛えてやってる側としては楽しくて仕方がない。
それに、此奴らには今以上に強くなってもらいたい気持ちがある。
五月の無人機襲撃事件、六月のVTシステム暴走事件、七月の銀の福音暴走事件…皆、一夏を中心とした専用機持ちの周辺で起きている。
俺がいつも面倒を見てやれる訳では無い以上、今よりも強くなって一人でもどうにかできるくらいになってもらいたい。
もちろん、一朝一夕でどうにかなる問題ではない以上、無理はさせてやれないが。
セシリアもシャルロットも八月には帰ってくるはず…一度専用機持ちを集めた強化合宿みたいなのを組んでみるのも良いかもな。
簪も本体の組み付け作業が佳境に入ってきているし、悪く無い筈だ。
後で千冬と協議して理事長に企画書を提出するかね?
ともあれ、まずは目先の問題…学園の打鉄とラファールの整備作業だ。
調子に乗って一夏達を扱いてた所為で大目玉を喰らった俺は、一人で合計十機のISを整備する羽目になった。
裏でドールを操ってスティーリア達の整備も進めているんで、流石の俺でもハードワークに過ぎる。
学園の設備が整っているとは言え、此処は洋上…蒸し暑い潮風が絶えず吹いている。
となると、学園の平均気温と湿度は跳ね上がり、不快な空気が屋内を支配していくってわけだ。
文句言っても仕方ないし、魔法でどうこうしようとするなら、アプリストスの力を使わないと無駄な徒労に終わる。
結果として、俺は汗で重く湿っている上着を脱いで上半身裸の状態で作業をする羽目になってる訳だ。
機械作業って事もあって冷房はあるんだが…温度設定が高めであまり意味を成していない。
こっそり学園に寄付して改善させてやろうか…ったく。
ISを各パーツ事にバラして点検、摩耗しているパーツは新品と取り換えて、そうでない場合は洗浄して油をつけて再度組み付けていく。
延々と繰り返される単純作業は、非常に重要な事だが…飽きる!
ましてや、一人で整備室に籠っての作業だ…話し相手になる奴が居ないんで、整備室にはカチャカチャとした金属音とクレーンが動く音しか響かない。
おしゃべりな詩沙は寝ているのか、だんまりを決め込んでいる。
段々と俺の目が死んだ魚の様な目になり、太陽も水平線に隠れた頃…唐突に首筋に冷たいものを当てられる。
作業に集中するあまり、他人の接近に疎くなっていたようで、突然冷たいものを当てられた所為で驚いて身体をびくつかせる。
「のわっ!!??」
「くっくっく…良い反応だ、アモン?」
整備室の床を転がる様にして背後からの襲撃者と距離を開けて、身構える。
じっとりとした汗を拭う事もせずに相手をよく見ると、犯人は缶ビールと何かが入っているスーパーの袋を持った千冬だった。
俺はホッと安堵しつつ、構えを解いてジト目で千冬を睨み付ける。
「応、いきなり何してくれやがる…?」
「いや、隙だらけだったのでな…偶には良いだろう?」
「よかねーよ…心臓止まるかと思ったがな」
千冬が投げて寄越した缶ビールを受け取りプルタブを開けると、飲み口から泡があふれ出てくるので慌てて口をつけて喉を潤していく。
一昔前は、職人の水分補給でビール飲んでたって話をドイツで聞いたことがあったな…あれ、マジなんだろうか?
ぼんやりとそんな事を思いながらビールを飲み干して、空き缶を小さく握りつぶしていく。
「進捗はどうだ?」
「どうもこうも…訓練機だから、パーツの損耗がひでぇのなんのって。普段から整備しているから大きな問題は無いけどな」
「そうか…何かと人手が足りなくなる時期だ…こき使う様で悪いが、アモンには頑張ってもらわないと」
「わかってらぁ…それで、だ…」
整備していた打鉄に背中を預ける様にして寄りかかり、腕を組んで千冬を見る。
千冬は午前の夏期講習が終わった後、銀の福音襲撃事件の後始末の為にIS委員会へと出頭していた。
現場の指揮官をやってたからな…問題は、その時の損害の責任だ。
第二次形態移行のお陰で怪我が完治したとは言え、一夏は重傷を負い、セシリア達の機体にも多大な被害が及んだ。
更には学園のISを二機喪失…人的被害の件でガタガタと文句を言われる羽目になってしまっている。
表向きは無かったことにされているとしても、だ。
俺がサクっと仕留めてやれればこんな事にはならなかったんだが…。
「気にするな、アモン…私をどうにかしようとしたら、もっと面倒な事が起きかねないからな」
「クソウサギか…」
「それもあるがな…まぁ、旧い友人はあのバカだけでは無いと言っておこうか」
千冬は此方へと近寄り、にんまりと笑みを浮かべる。
中々珍しい顔だ…周囲に目が無いんで、普段見せ無い様な表情も平気で出してるんだろうが…。
「アモン、この整備作業はどの程度で終わらせることが出来る?」
「あー…のんびりやって一週間くらいか…?」
「もっと早くできないか?」
「は…?」
千冬は期待していた答えと違う回答が出たのがご立腹なのか、ムッとした顔で此方を睨み付けてくる。
だが、すぐに千冬は表情を改めて此方を笑っていない笑顔で見つめてくる。
怖気が走るほど怖いんだが…何か悪い事したのか…俺ぇ…。
「三日で片付けろ」
「おう、無茶言いなさんな」
「お前の書類仕事は此方で片付ける…それなら問題あるまい?」
「グヌヌ…そりゃまぁ…できるが…」
なんだかんだ言っても、書類仕事ってのはいつまでも慣れない。
普通の人よりも、俺は書類仕事に時間をかけがちだ。
そんな書類仕事を千冬が受け持ってくれるってんなら…まぁ、それでも徹夜は確定なんだが。
「暫くこっちで寝泊まりするんで良いってんなら、三日で片付けてやろうじゃねぇか」
「…では、頼むぞ?」
「任されてーっと。んで、なんで短期間で整備しろなんて言うんだよ?」
普段の学園であれば、手が足りないと言う事もあって整備を急かされる…なんてのはザラだ。
だが、今は夏休み…忙しいとは言っても、ガキ共の面倒を見なくて良い分余暇がある。
で、あればこんなに急かす必要は無いと思うんだが…?
「二学期に実施される修学旅行の候補地の下見を一年の担当教諭で行くことになったんだが、知っての通り欠員が問題でな。そこでアモン、お前にも手伝ってもらう」
「…言い出しっぺは轡木のおっさんだな?」
「……」
俺がジト目で千冬の事を見つめ返してやると、千冬はサッと視線を逸らして下手くそな口笛を吹く。
あのおっさん…何考えてやがるんだかな…?
公私混同で俺たちを玩具にしようって魂胆が見え隠れしている気がしてならねぇ。
それでも、まぁ…折角の夏休みに、学園で燻ってるってのも面白味に欠けるわな。
「まぁ、決定事項になってるんだろうし、今更文句も言わねぇよ。それで、候補地ってのは何処だ?」
「修学旅行の定番である京都、だな」
「ド定番だな…っつーか、IS学園の修学旅行って何やるんだ?」
倉持技研の工場見学とかなら、話は分かるが…京都及びその周辺にはそう言った施設は無い。
京都の地下に目立たない様に作られたISバトル用のアリーナくらいか?
なんでも景観を壊すのは到底許容できないってんで、地下に施設が作られたらしい。
ISバトル用のアリーナってのも表向きで、本来は自衛隊のIS部隊をスムーズに展開させるために作られたってところだろう。
それでも地下に作られてる所為で、大分窮屈な思いをしてるんだろうが…。
「修学旅行とは名ばかりのガス抜きが目的だ。学園に缶詰状態では、女と言うのはストレスが溜まって仕方がないからな」
「二学期はイベント目白押しで息つく暇がねぇな…」
「この学園の名物だと思って諦めてくれ」
二学期の頭には学園祭が二日間に渡って開催される。
生徒に電子チケットを配布して、友人や知人…ないし親御さんなどを招待すると言う形で一般公開される。
もちろん学園と提携関係にある企業にもチケットは配られるんで、この二日間は学園の人口が一気に跳ね上がる事になる。
そうなると警備に問題がでてくる…が、それは俺のドール部隊を密かに配置してカバーする予定だ。
限界はあるだろうが、それでも人手は充分に確保できるだろう…人件費を割いてられないのが現実だしな。
その後は専用機持ち限定のタッグ・マッチトーナメント…これは学年別なんてことはせずに、総ての生徒でトーナメントを組んで行われる。
先輩後輩入り乱れてのタッグになる予定なんで、上級生は後輩を導くだけのリーダー・シップ、逆に下級生は先輩からどれだけ技術を吸収できるのかが課題になってくる。
で、最後に今回の修学旅行となるわけだ…。
これを二学期の九、十、十一月の三か月間に行う形になるんで、教師側も忙しない対応を求められることになる。
「嫌な名物だねぇ…ったく…まぁ、やるっきゃねぇから良いんだけどよ」
「冬は冬で入試があるから忙しいんだがな」
「うへぇ…急ピッチで作業やらされそうだな…」
「いや、お前は試験官だろう」
とことん人使いが荒いな…この学園…。
俺が試験官ってのも、女尊男卑の思考に陥ってる奴らの鼻っ柱をへし折ってやろうって魂胆だろうさ。
俺や一夏の様なイレギュラーがいる以上、今後の学園の風紀の事を考えると学園内での男性の地位向上ってのは初めから徹底して行っていかないと、後々大きな問題になり兼ねない。
…今後、男性適正者が出なかったとしても、だ。
「まぁ、そんな難しく考える必要はないさ…面倒見の良いお前なら何も問題は無い」
「随分と信頼されてるねぇ…」
「当り前だ…私が見初めた男なんだからな」
「ま、期待に応えて――っと、どうしたよ?」
千冬の言葉に頷けば、千冬は此方に詰め寄って体重を預ける様にして抱き付いてくる。
夏の暑さとは違った温もりが感じられて、少しばかり心地いい。
いや、暑い事は暑いんだけどな?
「千冬ー、汗臭いし油臭いぞ?」
「いいだろう、別に…それとも抱き付かれるのは迷惑か?」
「迷惑なんて一言も言ってねぇだろうがよ…」
優しく頬を撫でつつ憮然とした顔で千冬の事を見つめる。
抱き付くくらいで嫌がるほど狭量でもないし、甘えたがってる相手を放っておく程酷薄でもない。
ましてや、俺が心から愛している女であれば、な。
「そうか、なら問題は無いな」
「応よ…お前だけだからな?」
「なお、良しだ…これでも独占欲は強くてな…。私は、他の女よりも女らしくないからな…馬鹿馬鹿しい話だが、不安になる」
確かに、普段の千冬を見ていれば分かるが、鉄面皮の男勝り…それもそこらの人類が裸足で逃げ出す強さともなれば、女性らしさなんて体つきくらいなものだ。
ただまぁ、俺だけが知っている千冬の姿ってのはその真逆だ。
一夏を育てるのに必死だったせいで、誰にも甘える事ができなかった反動なのかなんなのか…兎に角スキンシップを求めてくる。
男冥利に尽きるってもんだからそれは、良いんだけどな。
こと、恋愛において千冬は非常に乙女らしい。
ファンが知ったらどんな顔をするのか見てみたいもんだが…今しばらく俺しか知らない顔としておきたい。
「んん?何が不安になんのか分からねぇなぁ…?」
「…お前はそうやって直ぐに意地悪をするな…」
意地の悪い笑みを浮かべて千冬の事を見つめると、千冬は唇を尖らせて顏を背ける。
清濁見てきてこんな反応をされちまったら、意地悪したくなるのが男ってもんよ。
…いや、まぁ…だから大人になれないって証でもあるんだが。
「悪魔め…」
「今更だろ、千冬?」
「うるさい…小娘どもに靡かれるかもと思って悪いか?」
「悪かねぇよ…そう言う嫉妬ってのは心地良いもんさ…」
鈴や簪は、ちょくちょく俺の所に来てお茶だったり遊びだったりと付き合わされる。
もちろん暇なとき限定だけどな…そうやって鈴達とコミュニケーションを取っているのを見ていると、恋愛経験の浅い千冬としては不安になる訳だ。
俺は背けられた顏を頬に手を添える形で千冬の顏を此方に向かせて優しいキスをする。
「靡いてたら、千冬にこんなことしねぇよ」
「っ…お、おまえは…!」
千冬は顏を耳まで真っ赤にさせて、俺の胸を割と本気で叩いてくる。
普通の人間だったら、肋骨がイってるような衝撃が俺の体を襲ってくる…。
「いてぇよ、千冬!」
「そこらの人間より頑丈だろう!?」
「そういう問題かっつーに」
暴れる千冬を抑えつける様にして抱きしめ、頭を優しく撫でて宥めていく。
いくら頑丈でも何度も衝撃を受けてたら、俺でも折れちまうからな。
直ぐに治るけど。
「愛してるのはお前だけだからな…だから、まぁ…心配するこたねぇよ」
「…悪魔が…」
「応よ…だから、お前を今から骨抜きにしてやらぁ」
「っ、ちょっと待て、アモン!あっ…!」
骨の髄まで愛してるって事を証明してやるんだが…まぁ、こっから先はR指定ってことで。