インフィニット・ストラトス~人形遣いは夢見るか?~   作:ラグ0109

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そして、運命はやってくる

「どうしても行くのか?」

「応…随分と根っこ張っちまってたしな…それにテメェで面倒も見れるだろ」

「随分と一夏も懐いていたのだがな…それに、私だって」

 

千冬が日本に帰ってきた。

これが意味するところは、俺が織斑家を出て行くってこった。

そもそも、この家に来たのは千冬が一夏の面倒が見れないからであって帰ってきた後の事は契約には含まれねぇ…。

随分と馴染んでいたもんだが、そろそろ世界を見て回って…何が起ころうとしているのか知る必要がある。

俺が此処に来たのはそう言う仕事の為だ。

桜花の知的欲求を満たす…そのための中継役が俺だ。

桜の花が舞い散る中、千冬と一緒に縁側で酒を飲む。

徳利に入った冷酒を千冬のお猪口に注いでやれば、桜の花弁が紛れ込む。

 

「気持ちはありがてぇよ?雨風凌げて飯も食える…良い生活させてもらった」

「ならば…良いではないか」

「だけどな…俺は根無し草…一家団欒に紛れ込むにゃ、部外者に過ぎる」

「私達は、そう思っていない…」

 

手酌で酒を注ぎ、一気に飲み干す…腹の中身が勝手に毒だって言い切るもんで酔うに酔えねぇ…酔っちまえば楽なんだがな。

縁側から立ち上がり、軽く腕を回す。

 

「言ったろ、俺は悪魔なんでね」

「人間にしか見えん…酔っているのか?」

「生憎とあの程度じゃ酔えねぇのさ」

 

千冬は仏頂面で此方を睨むように見てくる。

多分千冬自身、何で引き止めてんのか良く分かってねぇんだろ…。

引き止める理由なんてねぇはずだからな。

掌を広げ、舞い散る花弁を手に掴む。

久々に長い休暇を楽しんでいる…そんな気分だ。

だけど、とっとと仕事に取り掛かってやんなきゃならねぇ。

 

「なぁ、アモン…どうしても去ると言うのであれば…一度手合わせしても良いか?」

「んあ…構わねぇけど…強いぜ、俺はよ」

「私に比肩する奴も少なくてな…しかも女ばかりだ。男で強い奴と戦ってみたい」

「ガチで来な…悪魔の強さってのを教えてやらぁ」

 

とは言え…得物無しの肉弾戦と言う手加減はしてやる。

千冬は立ち上がると軽くウォーミングアップを始める。

 

「ふん、後悔するなよ?」

「生憎と後悔なんざとっくに卒業してんでね…来な」

 

挑発する様に手招きをし、千冬を迎え撃つ。

千冬は挑発に乗り、一気に俺の懐深くまで踏み込んでくる。

はえぇな…人間にしちゃ…だが、反応できねぇ訳でもねぇ。

素早いレバーフックを片手で掴んで受け止め、庭の桜の木に向かって放り投げる。

 

「がはっ…!」

「この程度じゃねぇんだろ?見せてみな…お前の力をさ」

 

俺は追撃を入れる余裕があった、と言わんばかりにゆっくりと歩いて千冬の元まで向かう。

千冬は目を輝かせながら立ち上がれば果敢に襲い掛かってくる。

拳と拳の応酬。

千冬の一撃は成人男性の様に重く、獣の様に速い。

普通の人間相手なら…いや、身のこなしからして生身でもISを相手に戦えるような気がしてくる。

弾き、掴み、投げ、殴打…繰り返される応酬の中でダメージが蓄積していくのは千冬ばかり。

一方的なワンサイド・ゲームが続いていく。

 

「くっ…届かないのか!?」

「体の出来が違うんでね」

 

恐らく、千冬にとって初めての出来事だろうな…負けるならばまだしも、一撃も入れられないままに倒されると言うのは。

千冬の顔に冷や汗が流れていく。

 

「だからと言って負けることは出来ない…!!」

「わりぃな…気迫で負けちゃ名が廃るんでね」

 

同じ名前の神、悪魔なんてのは色んな世界にいる。

そんな奴らが見てるかもしれねぇってのに、ただの人間なんぞに負けられっかよ。

千冬は、一足飛びに飛び込んで鋭い回し蹴りを此方に叩き込んでくる。

俺は、同じように回し蹴りで受け止めてそのまま振り抜く。

そのまま体を回転させながら足払いを放ち、千冬の体勢を崩させれば地面に激突する直前で体を受け止めて胸元に拳を突きつける。

さ、触ってねぇからな?

 

「ほい、俺の勝ち。満足したか?」

「……」

「千冬?」

「っ…!!はっ放せっ!!」

 

千冬は一瞬頬を赤らめたかと思えば、俺の顎に思い切り綺麗な右ストレートを叩き込む。

ぐっは…頭ん中身が揺れやがる…なんつう拳してやがるんだ!?

 

「ってー!!なにしやがんだ!?」

「っ、す、すまない!私にも何がなんだか…」

 

ぐらぐらと揺れる頭を抑えつつ、千冬の体を起こしてやる。

千冬は不思議そうな顔をして首を傾げながら胸元を抑える。

 

「んだよ…調子が悪いのか?」

「いや、そんな事はないんだが…」

 

どうにもハッキリしやがらねぇな…。

何かしっくりこねぇが…まぁ、良いか…。

俺は縁側に置いておいたコートに袖を通し、トランクを手に持つ。

雑貨とかは買ってねぇし、荷物がこれだけで済むってのは気楽で良い。

 

「今夜くらいはゆっくりしても良いんじゃないか?」

「一夏が駄々こねっと面倒くせぇからな…俺は行くぜ」

 

軽く肩を竦めて苦笑する。

一夏はすっかり俺に懐いちまって、まるで刷り込み働いたヒヨコみたいに後をついて来る。

まぁ、家族みてぇに見られてるって言うのは悪い気はしねぇんだけどよ…。

 

「そう、か…いつでも訪ねて来い…歓迎する」

「千冬はきちんと片付けられるようになれよ」

「や、やかましい!!」

 

俺はこうして月明かりが照らす中、織斑宅をひっそりと出て行った。

名残惜しいと言えば名残惜しい暖かい家。

まぁ、それでもずっと居られるわけでもねぇんだし…頃合だった。

 

 

 

「ってのが約一年前の話だな」

「へ~、そ~なんだ~?」

「応、中々濃い時間だったな」

 

俺は南の島国にあるとある無人島で、何故かあの変態…篠ノ之 束と紅茶を飲んでいる。

ふらぁっと島に文字通り立ち寄ったら、何故かコイツが浜辺で仁王立ちしてやがる…。

何故か…っつーより、単純にこの無人島…束の潜伏していた島だったってだけなんだが…偶然にしちゃ、ちょっとなぁ…。

何とも釈然としない顔で紅茶を飲んでいると、束はニマニマと嫌な笑みを浮かべて顔を近付けてくる。

 

「ねぇねぇ、あっくん。そろそろ世界見終わったんじゃなぁい~?」

「あぁ?んだよ、藪から棒に…まぁ、大体は見終えたな」

「どう思った~?」

 

束は興味津々と言った感じで俺の顔をまじまじと見つめてくる。

コイツは桜花と同じ知的好奇心の塊だ…ただし、手段は選ばない。

手段を選んでいるってんなら『白騎士事件』なんざ起きてねぇだろ。

人類初のIS『白騎士』による無差別ミサイル迎撃事件…それが『白騎士事件』だ。

一斉にハッキングされたミサイルが日本に向かって発射され、それを白騎士が悉く無力化したって言う話。

もう、話だけで首謀者が分かっちまうようなもんだが…。

気を取り直しつつ束の質問に答える。

 

「まぁ、概ね平和なんじゃね?毎日阿呆みたいにそこら中で殺し合いしてるわけでもねぇし。それなりに生活に困らねぇだけの支援している所もある。ったく、何で俺がこんな所に来たんだかな…」

 

この世界には死の匂いが充満しているわけじゃねぇ…そりゃ、無いとは言わねぇがこの世界は平和すぎる。

俺が知っている他の世界よりもな。

…具体的には同族食いして明日の命を繋げているなんて世界もあったくらいだ。

 

「へ~、ふ~ん、ほ~ん…じゃぁさ!じゃぁさ!今、暇だよねぇ~?」

「まぁ、暇っちゃぁ暇だな」

「と、言うと思いましてあっくんにお願いが~」

「断る。何でド変態のお願い聞かなきゃならねぇんだよ」

 

絶対碌でもねぇことに違いねぇ…関わったら最後、骨の髄までしゃぶり尽くされる的な…。

言い知れぬ悪寒を感じて俺は凄まじい勢いで首を横に振り続ける。

第一、俺はこいつのお願いなんぞ聞く義理はねぇ…むしろ人形返せって言わねぇだけ有難いと思ってもらいてぇくらいだ。

 

「そんな風に、言わないでよ~」

「うるせぇ、嫌な予感がすっからそう言ってんだろうが!?」

 

此方に抱きついて頬ずりしてくる束を無理矢理引き剥がそうとするが、どう言う筋力してんのか全然引き剥がせねぇ。

こいつ人間かよ!?

 

「って言っても、もうちーちゃんに連絡してお願い済みなんだよね~」

「テメェ…」

 

外堀が完全に埋まってやがる…世話になっといて千冬に迷惑かけるわけにゃ、いかんだろうが。

頭を抱えながら身悶えていると、悪戯が上手く行ったのが嬉しいのか束はご満悦な笑みを浮かべている。

くそ…マジぶっ殺してぇ…。

 

「はい、これ…大切に使ってね?」

「なんだよ、コレ…」

 

束がこちらに拳大程の水晶玉を投げて寄越す。

これで大道芸でもやれってのかよ…個数足んねぇよ…。

 

「あっくん用のISコア」

「は?ISって女以外使えないんだろ?」

「まっさか~。私がセーフティかけてるに決まってんじゃ~ん」

 

さらっと話される衝撃の真実である。

…何が目的で女性限定に絞ったんだかな…っつーか、俺が使えるようにする意味がわからねぇ…。

 

「…おまえなぁ…さらっと言うかそんな事…」

「だってあっくん言いふらすような『悪魔』じゃないでしょ?」

「言ったら混乱起きるわい!」

 

現状、世界は軍事力の一端をISに依存している…そら、そこら辺の戦闘機よりも打撃力がありゃそうするわな。

んで、そのISは女性にしか扱えないから女尊男卑の情勢が出来上がってる。

男としちゃ堪んねぇわな…。

だから各国で色々とISの研究をして、男性でも使える様にしようとしてるわけなんだが…。

実際はどう言う理由か知らねぇけど、このド変態がセーフティかけて使えなくしてたと。

…何が目的なんだかな?

 

「まぁまぁ、いいじゃな~い…私は、私の目的果たしてぇ…あっくんはあっくんで楽しく過ごせれば~」

「お~う…聞き様によっちゃぁ、ラスボスみてぇじゃねぇか」

「束さんはちょ~強い隠しボス扱いがいいな~」

 

束はウキウキとしながら指をパチンと鳴らすと、何処からとも無く鋼鉄製の人参が落ちてくる。

なんつー趣味的な…ウンザリとしながら人参を眺めていると、パカッと人参が割れて中に乗り込めるようになる。

 

「ほら!時間無いから早く早くぅ~!」

「は?それに乗れってのかよ!?」

「あったりまえじゃ~ん。明日IS学園の始業式なんだからさ!」

「おい待て、ふざけんな…この外見年齢で学校行けってのか!?」

「正確には、教育実習生?」

 

教員免許なんざ持ってねぇぞ…どうすんだよ…マジで…。

目まぐるしく変わっていくこの世界の俺に対する扱いに吐き気がしてくる。

呆然としていると、荷物と一緒に人参の中に体が放り込まれてしまう。

 

「おい、クソウサギ…」

「なぁに?あっく~ん?」

「次会ったら、文字通りヒィヒィ言わせてやるからな…覚えてろよ?」

「え~…しっらな~い。それじゃ、あっくん…ちーちゃんといっくんに宜しくね?」

 

パチンと指を鳴らした瞬間、人参型ロケットのハッチが閉まり俺は強制的に日本へと戻る羽目になった。

この時、束の事で頭がいっぱいだった俺は大切な事に気付いてなかった。

IS学園に放り込まれると言う事がどう言う事に繋がるのかと言う事を。




導入編、長かったね!
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