艦隊これくしょん ~拝啓、鬼畜兄貴殿。恙無きや云々~ 作:ハロー=アドルフ
兄「ふぃー、案外早く着いたな。寮から近い鎮守府に希望出しといてよかった」
訓練生の寮からバイクに乗り二十分ほどで、俺が着任する鎮守府につく
鎮守府の敷地内の駐車スペースにバイクを停め、ヘルメットを脱いで、周りを見渡す
大きなクレーンに、立派な工廠、そして艦娘たちの寮などなど
鎮守府の敷地内は、物々しいもので埋め尽くされているが、港の波音以外は音が聞こえない
その静けさが逆に、どこか薄気味悪い雰囲気を作り出していた
たしか、俺と同じく、今日付けで大本営から配備された駆逐艦が一隻いるだけなんだよな
一人と一隻には、今の鎮守府は広すぎる
はやく仲間が増えればいいんだが
鎮守府の本館に入り、外よりも静かな廊下を歩いていく
廊下の先には、執務室と書かれた表札と深い木の色合いを見せる扉が待っていた
兄「ここが俺の執務室か…………たしか艦娘は、ここで待機してんだよな……………」
扉の向こうに大本営から直々に頂いた艦娘が俺を待っている
ここが新しい俺の職場だ
軍帽を深くかぶり直し、気合を入れ直しておく
何事も初めが肝心だ
いっしょに苦楽をともにする最初の仲間に、だらしのない格好を見せるわけにはいかない
俺はドアノブに手をかけ、静かにゆっくりと開く
新たな俺の戦場は驚くほど殺風景であった
まだ家具は何も置いてなく、段ボールだけ存在する寂しい部屋
照明にも灯がついてないので、窓からの光だけが木目の床に降り注ぐ
そして、部屋の奥には………………
??「あんたが司令ね?まぁ、せいぜい頑張りなさい!…………………うーん、いい線いってるんだけど、もう少し箔をつけたほうがいいわね」
銀髪の女の子が壁に向かって何やらブツブツとつぶやきていた
こちらには背中を向けていて顔は分からない
しかし、セーラー服に黒のストッキング、脇に置いてある艤装を見るに彼女が、俺の最初の艦娘でよさそうだ
??「あなたが司令?今日から馬車馬のように働きなさいよ!………………でも、実際働くのは私たちだし、これでは語弊があるわね 」
……………おもしろそうだから、しばらく様子を見るか
数十分後
なかなか最初のセリフが決まらないらしい
ついには、ポーズもつけながら練習を始めた
どうやら、俺に初っ端からなめられないようにと、気合の入ったセリフで俺と挨拶を交わすつもりのようだ
しかし、そんな健気な彼女を見てしまった俺は、なめてかかるしか選択肢がない
??「よし、決まったわ!原点回帰よ!コホンッ!……………あなたが司令ね?まぁ、せいぜい頑張りなさい!!」
ハキハキとした口調で、ついに決定した決め文句を発しながら、彼女はクルッと綺麗に半回転し、俺の方へと白い綺麗な指をさす
ポーズは綺麗に決まった
しかし、それがより滑稽に彼女を演出している
??「……………………」
兄「…………………まぁ、その…………なんだ」
目は点に、口はパクパクとさせ、固まっている艦娘
おそらく、あまりの驚きで頭が回ってないのだろう
俺は彼女を刺激しないように、フォローをいれようと試みる
兄「初めが肝心だもんな、いい心掛けだと思う!」
??「いやぁぁぁぁぁ!!!そんな優しさは今求めてないのよぉぉぉ!!!」
どうやら、フォローには失敗したようだ
兄「じゃあ、改めて自己紹介な!俺が本日付で鎮守府に着任した提督だ、よろしく!」
しばらく真っ赤な顔で泣き叫んでいた彼女をなだめるのに10分ほどかかった
ようやく落ち着いたので、ここで初めて挨拶できる
叢雲「うぅ、吹雪型 5番艦 駆逐艦の叢雲よ……………よろしくしたくないわ、この変態っ!!」
叢雲と名乗った彼女は、赤面のまま俺を睨んでくる
兄「男は誰しもが変態だ!上半身と下半身が別の生き物だ!」
叢雲「無駄にきりっとした顔で乙女になんてこと言うのよ!?私は覗きなん行為そのものが変態だって言ってるの!」
兄「覗きというか普通に部屋に入ったら、決めゼリフを真剣に考えてたんだろうが」
俺に落ち度はないはずだ!
面白がって声をかけなかったこと以外はっ!
叢雲「まずノックをしなさいよ!ノックを!」
兄「アホか、自分の部屋に入るのにノックする馬鹿がどこにいるんだ」
未だにガウガウと唸っている叢雲をよそに、俺は侘しい部屋の中央に陣する段ボールに手を掛ける
叢雲「ぐぅ…………あぁ、言えばこう言うわね…………」
流石に言い返せなかったようで、押し黙る叢雲
最初の艦娘が、こんな跳ね返り娘だなんて、先が思いやられるな
兄「なぁ、そろそろ勤務に入らせてもらっていいか?一応今日の目標ぐらいは考えてきてるんでな」
俺は部屋の奥の段ボールから幾つかの書類を取り出し、それを叢雲に渡した
叢雲「この書類はなんなのよ?」
兄「初建造と初出撃に関する任務書(オはーダー)だ。今日のうちにこれを終わらせないと、お上から怒られる」
叢雲「なんで、私に持たせるのよ!」
兄「出撃まで暇だろ?だったら、いっしょに工廠まで来い!今日はお前が秘書艦だ」
叢雲「…………仕方ないわね、暇つぶしのついでに付き合ってあげるわ」
忌々しそうな顔をしながら叢雲は、しぶしぶ了承してくれた
およそ司令官たる俺に対する態度ではないな
まぁ、最初はこれぐらい反抗してくれた方が面白いか
変に萎縮されるよりかは、マシだし
兄提督in工廠
兄「君らが工廠に住む妖精か…………これからよろしく頼む」
妖精たち(ブイッ!)
いま俺と叢雲の足元には、数人の小人がいる
大きさは30cm程度、容姿は女の子のように見える彼女ら
その名は『妖精』
実は決まった名前はないらしく、その小さな姿から便宜上そのように呼ばれているのだ
これは大本営も認めているものらしい
叢雲「不思議ね、こんな小さな子が私達を作り上げてしまうなんて」
兄「こんな小さな存在に頼ることしかできないって考えると、あんがい艦娘も心もとないな」
叢雲「その言葉、そのまま酸素魚雷で打ち返すわよ、司令」
兄「けっ!」
叢雲「ふんっ!」
俺達はお互いに顔を背ける
おそらく叢雲と俺は、争い合う星の下に生まれてきたんだと思う
ガチで殴り合いとかになったら勝てる気はしないけどな
相手は艦娘だし
さぁ、こんな反抗期の娘なんぞほっといて、建造だ!
早いこと素直で元気な扱いやすいチョロいやつを手に入れるぞ
兄「建造を行う機械は……………これか。最初は軽巡が欲しいところだが、どうやっていじるのかな?」
叢雲「司令は知らないかもしれないけど…………」
馬鹿でかい機械の前で唸る俺の横にたち、叢雲は得意げに話し始めた
叢雲「この機械には、燃料、弾薬、鋼材、ボーキサイトを入れるのだけど、ある決まった割合の入れ方をしないと欲しい艦種が建造されないのよ?まぁ、私は大本営の研究室から教えられているから、あなたがお願いするなら教えてあげてもいい─────」
兄「あぁ、建造レシピのことだろ?それなら知り合いから教えてもらったから教えてくれなくていいぞ………………燃料250、弾薬30、鋼材200、ボーキサイト30…………よし、これで建造開始!」
叢雲「知ってたのかよっ!?」
コンクリートが敷き詰められた工廠の床は硬いだろうに、綺麗なズッコケをみせる叢雲
本当は、ノリがいいほうじゃないのだろうか?
叢雲「うぅー、しかも建造時間が1時間……見事、狙ったとおりに軽巡を引き当てたのね」
建造機械のモニターに映った必要時間は、およそ軽巡がつくられる程度の長さだった
俺の提督生活、幸先はよさそうだ
兄「さぁてと、建造おわるまで昼飯がてら一息つきますか」
叢雲「司令、一息って言っても全然働いてないじゃない!」
兄「そうか?俺今日はなにやったんだっけ?鎮守府来て、挨拶の練習をポーズまでつけてノリノリでやってた叢雲を見学して────」
叢雲「ふ、振り返らなくてもいいわよっ!!このアホ司令!!」
ギャーギャーと騒ぐ叢雲をあしらいながら工廠の外へと出た
むくれる叢雲を横目に見ながら、鎮守府本館の方へと足を進める
叢雲「司令、昼ご飯って言ってたけれども、まだ補給艦の艦娘が来てないから、食堂も開いてないわよ?」
兄「知ってるよ、それどころか酒保担当と任務担当の艦娘もまだなんだろ?…………だから、自分で作ることにした」
叢雲「はぁ?いかにも不器用そうな司令が、料理なんてできるの?」
兄「まぁ、文句は食ってからにしてくれ、いくぞ」
怪訝そうな顔をしている叢雲をおいて、俺は食堂の方へと歩く
叢雲「ちょっと!?なに、ナチュラルに私も食べることになってるのよ!いやよ!ってか、話聞け!このアホ司令!」
アホ司令は余計だ、跳ね返り艦娘
兄提督in食堂
叢雲「おいっしいっ!!!?なにこれ!?鶏肉のジューシーな旨みを卵が優しく受け止めていて、アクセントに玉ねぎの甘味!出汁もほどよい塩気で────」
さっきの態度は何処へやら…………ってのは、このことだな
親子丼出した瞬間に手のひらを返しやがった
兄「お前さ、一つの物事に対して十言わないと気が済まないタイプなのか?あれか、ボケに対して懇切丁寧なツッコミを入れるタイプか?場がしらけるぞ」
グルメリポーター並のリアクションをとる叢雲
だんだん彼女がいい娘にみえてきた
叢雲「司令はなんでこんなに料理が上手なのよ?」
兄「ガキの頃から料理を作るのが好きでな、母親の手伝いばっかしてたら、いつの間にか覚えてた……………学校が休みの時とかは、家族の昼飯とかも普通に作ってたしな」
叢雲と向き合う形で親子丼をたべる
手前味噌ながら、これは自信作だ
うまい、うまい
叢雲「見た目のわりに家庭的なのね…………」
兄「まぁ、家庭的ではない厳ついツラしてるのは自覚してる…………うしっ!食うもん食ったし、食器片付けて工廠いくぞ」
丼に残ってた米をカツカツとかき込み
ドンっと勢い良く器をテーブルに置く
叢雲「はいはい、いい艦娘ができてたらいいわね。あなたみたいに根性ひん曲がってる艦娘とかは願い下げだわ」
兄「ああそうだな、叢雲みたいな跳ね返りがきつい艦娘じゃなきゃバンバンザイだな」
叢雲「はっ?なんか言った?アホ司令?」
兄「ああん?何度でも言ってやろうか?猛反発性ウサギ耳さんよ?」
至近距離でメンチを切り合う
どんなにいい娘に見えてきても、やっぱりソリは合わないようだな
再び兄提督in工廠
兄「さて、いよいよ初建造の成果を見れるんだな」
叢雲「なに?緊張しているの?」
神妙な面持ちの俺をみて、叢雲は意地悪に笑う
兄「何事も初めてってのは、噛み締めるべきなのさ………こういう感動を素直に感じることが心を成長させるんだ」
叢雲「そっ…………ほら、早く建造ドックを開きなさいよ!」
兄「初建造した艦娘、かもーん!!!」
俺は建造機械を操作し、一番建造ドックの扉を開ける
ガガガガッ!
ゆっくりと両端へとスライドしていく鉄の扉
叢雲と俺は扉の先を凝視する
機械の中では、一隻の艦娘が、マイク的なものを持って、アイドルのようなポーズをキメて立っていた
??「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよー。よっろしくぅ〜!」
兄「………………………」
叢雲「…………………………」
那珂「………………?」
工廠の中に沈黙が訪れる
那珂と名乗った艦娘は笑顔のまま固まっていた
どうやら、俺達の反応を待っているようだ
とりあえず俺はゆっくりと─────
──────『閉』ボタンを押した
那珂「ちょっと!?まってよぉおお!!!」
閉じかけている扉を止めようと、那珂はマイク(?)を放り出し、両手を突っ込み対抗している
なるほど、バラエティでいじられて輝くタイプのアイドルなんだな
那珂「何がダメでしたっ!?露出?露出が少ないのが気に入らないのですか?」
兄「いや、俺はアイドルよりアナウンサー派だから」
那珂「そんな理由!?人気のアナウンサーなんて、すぐ野球選手と結婚するよね?」
兄「野球選手と女子アナってのは、ええと…………あの……………トンカツとキャベツみたいなもの?…………まぁ、つまり、そういうことだ」
那珂「適当な例えがでなかったんですね!?さては、アナウンサーもそんなに好きじゃないんでしょ?」
兄「二次元だろうが、三次元だろうが、画面の向こうの女に現(うつつ)を抜かせるほど純情じゃないんでな」
那珂「無駄にハードボイルドだよ、この提督さん!ってか、そろそろ扉あけてええててーーー!!!」
叢雲「そろそろ、やめてあげなさいよ!流石に可哀想になってきたわ、閉じそうな扉に顔を突っ込んでアイドルがしてはいけない顔になってるわ!」
なんだ、もう少しいじって楽しもうと思ったのに
那珂「改めまして、川内型 3番艦 軽巡洋艦の那珂ちゃんです!」
先ほどのやり取りがなかったかのように、見事な敬礼で挨拶をする那珂
ギャグを引きずらないとは、なかなかのプロ意識だ
兄「この鎮守府の提督だ、ようこそ我が城へ」
とりあえず、どんな(痛い)キャラにしろ、記念すべきはじめての軽巡であり、二番目の仲間だ
快く歓迎してやろう
叢雲「現在、ふ、ふ、く、ながらも秘書艦を務めている叢雲よ、よろしく」
やたら不服の部分を強調する叢雲
こやつは、自己紹介すら、まともにできないのか………
兄「さて、早速で悪いが、那珂と叢雲には、出撃してもらう。鎮守府の近くをぐるりとまわってこい」
叢雲「あら?そんな簡単な任務でいいの?」
兄「練度の低い艦娘2隻にできることなんて、その程度なんだよ。よし、とりあえず港へ向かうぞ」
那珂「お仕事ですねー!」
兄提督at港
兄「んんっー、やっぱり海ってのはいいな、どんなに見てても飽きねぇよ」
叢雲「そうね、海は良い…………だって、誰に対しても同じ態度で接するから………」
初めて叢雲と意見が合ったかもしれない
水平線に向かって大きく背伸びをする俺の隣で、目を細めて彼方を見る彼女
兄「どうだ?久々に海に出る気分は?」
叢雲「悪くはないわね…………この姿っていうのが、複雑だけど」
叢雲は睨むような目で海を眺めていた
彼女の言う複雑な心境を作り上げた原因の一部は、艦の魂を呼び出した人間の身勝手なのだろう
人を乗せて戦い、その多くが沈没し、艦としての役割を終えた魂
安らかに眠っていたはずの魂を無理矢理呼び起こし、人の形にしてもう一度戦わせている
そんな悪行をしているのは、俺たち人間だ
人間のエゴが、再び彼女らを傷つけている
今の俺には、叢雲にかける言葉が見つからなかった
那珂「ごめんなさーい!那珂ちゃん、艤装つけるのに手間取っちゃいました!」
兄「いいよ、いいよ、どうせ今日は出撃1回が終わったら、任務終了だから…………ただし、次回から遅れたら艦隊のアイドルから解体のアイドルに転身な」
那珂「次回からのペナルティが、すごく重いと思いますっ!!!」
これほど弄り甲斐があるアイドルもなかなか少ないだろうな
兄「さて、先程も伝えたが、我が第1艦隊には鎮守府正面に出撃してもらう」
叢雲「第1艦隊って言っても、二人だけじゃない」
兄「しゃらーぷっ!こまけーことはいいんだよ!とりあえず以下の事項を頭に叩き込んどけ
一、大破したら帰ってこい
一、俺が撤退を命じたら帰ってこい
一、天候がわるくなりそうなら帰ってこい
以上だ!」
叢雲「普通ね」
兄「へんなところで特徴づける気はねぇよ。まぁ、気楽にぐるっとまわってこい。旗艦は叢雲がつとめろ」
叢雲、那珂「「はっ!第1艦隊出撃します!」」
兄:どちらかというとS。叢雲の頭のうさ耳みたいなのが気になる。
叢雲:どちらかというとS。兄提督の坊主頭の感触が気になる。
最初のセリフ:舐められないためには、ビシッと決めなければいけない。ただし、あまり練習に熱心になってはいけない。
妖精:最近、みんなで熱海まで旅行に行ったらしい。
大本営研究室:艦娘についてイロイロ研究している。みんなはW○k○って呼んでいる。
那珂:どちらかというとM。兄提督のボケにどんな反応をしたらウケがいいか悩んでいる。
艤装:出撃の時に鎖で引っ張られてくるシステムはない。