昔々のエウロぺの北の方にある何処かの山に、ドルチェという女の子がおばあさんと暮らしてました。
ドルチェはおばあさんの言う事を聞く子で、おばあさんもそんなドルチェの事を大切に育てていました。
ある太陽も出る前の事です、おばあさんはドルチェを起こしにきました。
「ドルチェや。ほうらドルチェ、起きておくれよ」
杖で床をノックしてやりますが、なかなか起きません。おばあさんは皺だらけの頬に手を当てると、ふと思いついた様にランタンを近づけてやります。
すると、今までぴくりともしなかった少女が起き上がり、窓の外を一瞥してからこっくりとおばあさんに問いかけました。
「ふぁ……お祖母様おはようございます。随分お早く起こされましたがどうしたのでしょうか?」
「ごめんなさいね、ちょっと東の街までお使いに行ってもらいたくてね。ほら、この月の末のワルプルギスの祭の時にお父さんとお母さんが帰ってくるだろう?せっかくだから皆の好きな物を作ってあげたいんだけど、お祭りの用意をしていたらすっかり買ってくるのを忘れちゃってねえ」
ドルチェの眼が睡蓮の花のように見開かられました。両親が帰ってくるのは四月と五月の境目にある祭りの日だけなのです。
「帰りはいつもの行商さんが乗せてってくれると思うから頑張ってちょうだいね」
朝ごはんはもう出来てるよ、皺くちゃな笑顔を浮かべながら部屋を出て行ったおばあさんの後をドルチェはうさぎのように追いかけて行きました。
街は活気に満ち溢れていて、どんなに高いところから見ても寂しげな隙間がありません。
「やぁ、ドルチェちゃん。今日は何を買いに来たんだい?」
買う物を纏めたメモを見ながら左へ右へ行くと、やんわりとした雰囲気の若い行商が話しかけてきました。
「ああ、マールさんじゃないですか。そうなんですよ、今度の月終わりに両親が帰ってくるのでちょっと食材を買いに来たんです」
これをお願いします、とさっきまで眼を通していた物をお金と一緒に渡します。ちょっと周りを見渡してから隣で客に手を振っている女性に気付いた。
「モードさん、お久しぶりです。元気にされてましたか?」
「あら、ドルチェちゃんじゃない!見ないうちに随分大きくなったわねえ」
凛としたよく通る声で抱きかかえてくる女性はさっき会った男性とは真逆の物で、この街の活気を一人で支えているようです。
「そうなんですよ私最近身長がすっごい伸びたんです、おばあちゃんよりも大きくなったんですよ!」
二人はクルクルと回りながら笑い声をあげていました。
家に帰ってからドルチェは夕飯を食べながら、おばあさんに今日あったことを話していました。
おばあさんはそうだったんだね、それは楽しかったね、と言いながら笑顔でドルチェの話を聞いていました。
「そういえばドルチェや、あんた祭の事は街の人に話してないだろうね?」
一通り話し終えたとこおばあさんが心配そうに尋ねました。
「ええ、お祖母様との約束です。私が破るわけないじゃないですか」
変なお祖母様、寝間着に着替え終えたドルチェはクスクスと笑うと自分の部屋へ戻って行きました。
「そうかい、それなら良いんだ」
お婆さんは笑みを浮かべると椅子に座りなおし、一人呟きました。
「魔女の祭は絶対に人に見られてはいけない。二つの岸を繋ぐ禁忌の祭なんかは絶対にだ」
紅い月光が醜く嗤う老婆を照らした。