ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
というわけで、今話はあるメンバーの妹とのお話。
それでは、れっつごー!
「泳ぎを教えてほしい?」
「うん……」
いきなり部屋のドアが開いて、また穂乃果が来たのかと思ったら意外や意外。
なんと雪穂が訪れたのだ。
雪穂の手には勉強道具を持っていなかったので、事情を聞いてみると少し困ったことになったのだそうだ。
何でも来週末の休日に雪穂とその友達数人で最近新しくできたレジャープールに遊びに行くことになったのだが、まさか泳げないから行かないという訳にもいかず、つい見栄を張ってしまったのだそうだ。
中学まで水泳部だった穂乃果に教えてもらうという案を出したが、まさかこの歳にもなってあまり泳げないというのを姉に知られたくないという意固地が働いて、言い出せなかったようだ。
「まったく…、このおバカ」
「ぅあいたっ…」
雪穂の額にデコピン1発。
デコピンされたところを抑えつつ涙目になる雪穂を見て、頭を掻きながら溜め息をついた。
「……んで?いつがいいんだ?」
「えっ?」
「泳ぎを教えてもらいたいんだろ?」
「ホント!?」
雪穂は嬉しさのあまり、オレに飛び付こうとするが頭を抑えて距離を取る。
穂乃果に飛び付かれるのは慣れているのたが、生憎雪穂には慣れていない身なんでな…。
「じゃあ…、明日じゃダメ……かな?」
「……分かった」
「ぃやったぁ!!」
普段はクールな雪穂なのだが、無邪気に喜び年相応の笑顔を姿を見てやっぱりまだまだお子様なんだな……と一人思うオレだった。
家の近くのバス停からバスに乗車してからおよそ40分程度かけて到着した先はシーマリンパーク東京。
アミューズメントパークと銘打たれるだけのことはあり、面積は東京ドーム3つ分を誇るレジャー施設だ。
何でも下見がしたいらしくて今回は下見も兼ねてということらしいのだが、東京ドーム3つ分の敷地だけあってゲートも相当高いし何より人が結構多い。
初めて来場したカップルによる記念撮影や、親子連れで一目散に走る子どもとそれを咎める親御さんなどで溢れかえっていた。
そんな光景を横目にオレと雪穂は受付を済ませ、それぞれの更衣室へ入る。
男のオレは女の子である雪穂とは違い、準備にそう時間はかからない。
なので一足先に着替え終えたオレは分かりやすい目印となるパラソルを見つけ、メッセージを飛ばす。
パラソルの下に備え付けられているチェアに横たわり、水着の腰の部分にかけているサングラスをつけて天井を見上げる。
短い時間だけど眠気が襲ってきて、うとうとし始めたその時……
「お待たせ!壮にぃ♪」
上から聞き慣れた雪穂の声が聞こえてきた。
いつもより楽しそうな声色をしていたので、サングラスを取って目を開けて確認する。
「へっ……?」
言葉を失った。
無垢の象徴でもある白を基調としたパレオがついたビキニを見事に着こなしていた。
雪穂は穂乃果よりもスタイルを気にする節があるのだが、オレからしてみれば胸は歳相応なのだがそれ以外はグラビアアイドルのように引き締まって見える。
胸の事を差し引いても、あまりにも似合いすぎてこいつホントに今年高校受験を受ける歳なのか?と思ってしまったくらいだ。
「壮にぃ、いきなり黙ってどうしたの?もしかして似合わなかったとか……?」
「へっ!?あ、あぁ!似合ってると思う……ぞ?」
「とか言いつつも、周りの人に私の水着姿を晒さないように立ち位置を変える壮にぃでありましたとさ。きゃーっ!壮にぃの所有物にされるー!」
「人聞きの悪いことを言うな!!」
所有物発言をした瞬間、近くにいたひ弱な男どもの視線がグリンッ!と効果音が聞こえそうな勢いでこちらに向いた。
「ホラ、さっさと行くぞ!」
「は~い……。あっ!その前に……、えいっ!」
掛け声とともに、にゅっと背伸びをしてオレのサングラスを取り上げる。
「何で室内なのにサングラスをかけてるの?」
そう言いながら取り上げたサングラスをパレオに引っ掛ける。
くそぅ……、そこに掛けられたら取ろうにも取れねぇじゃねぇか。
「いいじゃんか。思ってたよりも照明が強くて目がチカチカする」
「これくらい普通だって!それじゃ、行こっか!」
「やれやれ……」
雪穂に手を引かれ、あまり人がいないエリアのプールに連れていかれた。
それにしても何で女の子の手ってこんなにも小さいんだろうな……。
「雪穂…、どこまで買いに行ったんだ?」
あの後泳ぎのレッスンをしようということになり、一通り泳ぎを見たのだが教えられることはないくらい泳ぎが上手かった。
雪穂は『お姉ちゃんみたいに速くて上手に泳ぎたい』と言っていたが、穂乃果は元競泳選手だから雪穂みたいに特別決まった運動をする人じゃない人はあれくらい速く泳げたらその道の人が泣くぞ、と言って渋々だが理解させた。
そしてお昼くらいまで泳いで、お昼御飯買ってくると言ったきり戻ってこなかったのでこうして探しに歩いているところだ。
すると、前から雪穂が走ってきてオレの身体に埋もれるように抱きついてきた。
その瞳には涙が溜まっていた。
「雪穂!?どうしたんだよ!!」
「うぅ…、壮にぃ……助けて」
「オイオーイ、いきなり走り去るなんてナンセンスなことしてんじゃねーよー!」
「センパイ!あの子猫ちゃん彼氏連れですぜ!?どうしやすか!?」
何があった?と雪穂に聞く前に、明らかに雪穂にちょっかいを出したと思われる2人組のゲスい男たちが現れた。
そう言えば凛ちゃんと遊びに行った時もこんな展開だったなぁ…、とオレは溜め息をついた。
だが、その溜め息が男たちの怒りの琴線に触れてしまった。
「オイ、そこの兄ちゃん。今抱きついているその娘を離したら見逃してやるからさっさとお家に帰りな」
「悪いが、それは出来ねぇ相談だな。お前らの方こそ諦めたらどうだ?」
オレは雪穂の前に立ち、2人組から見えなくするように立ち塞がる。
そして小声で雪穂に管理人さんを呼んでくるように依頼する。
雪穂は一瞬だけ顔が青ざめたが、腕で涙をゴシゴシと拭いてオレの指示に従うように走り去っていった。
「なんだとゴルァ!?」
頭に血が上っている2人はこの場に雪穂がいなくなっていることに気付いていないようだ。
よかった……、こいつらが単細胞で助かったよ。
「そりゃそうだろう?ナンパした女の子が泣きながら逃げる時点であんたらは脈ナシなの。そんなことも分からないのか?」
「言わせておけば言いたい放題言いやがって……!ナメた口聞いてんじゃねぇぞ!!!」
『センパイ』と呼ばれたキレた2人組の片割れが拳を振り上げて襲いかかってきたと同時に、視界の隅には雪穂と一緒に管理人さんが走ってくるのが見えた。
なのでオレは拳を受け流しもせず、真っ向から拳を喰らった。
「ハッ!大した口を聞く割りには反撃もしないなんて、ザコじゃねぇか!」
反撃しないことに調子に乗ったのか、更なる追撃を試みようと再度腕を振り上げたところで……、
「キミたち!何をしている!!」
管理人さんがやってきた。
「公共の場で一方的に他人を殴るなんて何考えているんだ!さぁ、キミたちこっちへ来なさい!弁明は管理人室で聞くからな!!」
雪穂から事の顛末を聞いていた管理人さんが、主犯である2人組の男たちを凄まじい腕力で掴まえると、ズルズル引き摺って走ってきた方向へと消えていく。
「もうっ!!壮にぃのバカ!」
そして2人きりになったところで、雪穂は火がついたように怒り始めた。
「すみませんでした……」
「何で一人であんな危ない目にあってまであんなことをしたの!?もしこれで壮にぃが怪我なんてしたら……!」
目から大粒の涙を流し、泣き出してしまった。
そんな雪穂を見ていられなかったオレは、雪穂に近づいて優しく抱き締めながら頭を撫でる。
「ごめんな…、心配かけさせちまって。でも、雪穂を泣かせたやつを見ていてどうしても許せなくなっちまってさ……。だから、ホントにごめんな?」
「やだ、許さない」
なんとまさかの発言。
オレの腕の中にいるプリンセスはいったい何が御所望なのだろうか……。
「オレに何して欲しいんだ?」
具体的に何をして欲しいのかを聞くと、雪穂は涙を拭いて少し充血した目を細めて笑いながら答える。
「ここの時間が許す限り、私と一緒に遊ぼ?」
この要望に拒否権は無いので、オレは黙って頷くことにした。
お昼御飯(ここの名物スイーツでもある特大パフェ。お値段なんと2,000円込み)を食べて少し休んだオレたちが向かった先はウォータースライダー。
「登ってみたら結構高いね……」
「さすが日本最長と名乗りを上げているだけのことはあるな……」
順番が回ってくるのを待っている間、列に並びながら落下防止のフェンスから下を覗き込んでみる。
終着点である着水用プールでは、随分とハデな水飛沫が上がっているのが見えた。
多少の危険もありそうな感じがするが、ここがオープンしてから日が浅いとは言え事故が起きたというニュースは聞かされていない。
つまり、あのハデな水飛沫はこのウォータースライダーのフィニッシュを彩る演出だということになるのだろう。
「次のお客様、どうぞー」
順番が呼ばれたので、乗り口へ向かう。
「お客様は2名様でよろしいですか?」
「はい」
「では、こちらのボードをお使いくださーい」
係員のお姉さんから渡されたのは、円の形をしたボードだった。
「こちらのボードはカップルやご夫婦、家族連れのお客様にはこちらの専用ボートをご利用いただいておりまーっす」
「なぁっ……!?」
カップルという単語を聞いた雪穂は頭から湯気が出るほど赤くなっていった。
オレたちは幼馴染の妹と、姉の幼馴染の関係なのだが何も知らない人から見たらカップルのように見えるのか……。
でも雪穂が嫌なら別々で滑っていくのもいいのだけど……。
うーん、どうしたものか。
「壮にぃ?」
「どうした?」
「……どっちが前に乗る?」
パレオをキュッと掴み、上目遣いでオレを見る雪穂。
「嫌じゃないのか?」
「まさか!むしろ嬉しいというか……その……」
「ハイハイ!ラブってコメる展開は一部のお客様に対して多大なる迷惑をお掛けしますのでさっさとお乗りになられやがってくださいな?」
頬を限界まで引きつつも、目のハイライトさんが消えた係員のお姉さんが急かす様にオレたちをボートへと押し込む。
先に並んでいた雪穂が必然的に前になり、オレの身体に背を預ける形で座り込む。
雪穂がボートの前にある姿勢をキープするための手綱を掴み、オレは振り落とされないようにするため所謂あすなろ抱きをする。
「壮にぃ?変なところ触ったりしたら許さないんだからねっ!」
「分かってるよ。オレが雪穂が嫌がるような事するやつに見えるか?」
「見えないけど……」
なんてやり取りをしていると、後ろにいた係員のお姉さんの何かが切れるような音が聞こえてきた。
「み……」
「「み?」」
「見せつけてんじゃねぇぞゴルァ!!いいからさっさと滑っていきやがりなさいませお客様ァァァァア!!!いいや!限界だ押すね!今だッ!!」
係員のお姉さんの魂からの咆哮と共にオレの背中を押し、オレたちを乗せたボードが動き始める。
一気に加速したボートは、急角度のカーブやつづら折りを瞬く間に滑り落ちていきそのまま着水用プールに飛び込んだ。
「ぷはっ!!」
まず先にオレが着水用プールから顔を出す。
辺りを見渡し、雪穂の姿を探す。
「ぷはーっ!あー面白かったーっ!」
すると、オレより1.5メートルくらい先にいた雪穂が何事も無かったかのように水面に顔を出した。
「どうする?もう1回乗るか?」
「乗る!」
雪穂が着水用プールから上がり、ボードはオレが持って2人でウォータースライダーの階段へ駆け出した。
あの後、係員のお姉さんが血涙を流すまでウォータースライダーに乗るだけじゃなく様々なアトラクションを楽しんだオレたち。
そろそろ帰らないと夏穂さんに怒られると思い、名残惜しいけど帰ることになった。
「雪穂、今日は楽しかった……か?」
帰りのバスに揺られながら雪穂に話しかけようとしたが、返事の代わりに何か肩に乗る感覚があったのでそちらを見る。
「すぅ……すぅ……」
すると、雪穂がオレの肩を枕代わりにして眠っていた。
その寝顔はとても可愛く、そして心地良さそうだった。
不覚にもその寝顔にときめいてしまったオレは、ポンポンと雪穂の頭を撫でる。
「よしよし、今日もたくさん遊んで疲れたろ?最寄りのバス停に着いたら起こしてやるから今はゆっくり寝てろ。……な?」
「うにゅ…、そう……にぃ……」
オレが言ったことが聞こえたのか定かではないが、雪穂はオレが着ている上着をキュッと掴んで微笑む。
また、来ような?
今度は穂乃果も誘って…、さ。
オレは最寄りのバス停につくまでずっと雪穂の頭を撫で続けた。