ラブライブ!~Miracle and Track~   作:K-Matsu

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気合い入れすぎて字数が14000オーバーになってしまいました。

今回のインスパイア曲は、関ジャニ∞さんの『オモイダマ』です。

昨年の熱闘甲子園のメインテーマにもなったので聞き覚えのある人にとっては分かるかもしれないですね。

それでは、どうぞ!!




高坂 穂乃果編 オモイダマ

ーーーいつからだろう?貴女といれる空間がとても心地よく感じるようになったのは…。

 

 

 

ーーーいつからだろう?貴方が頭を撫でてくれることに心地よさを感じるようになったのは……。

 

 

 

ーーーあれからどれくらい数えただろう?貴女の太陽の明るさに癒されたのは…。

 

 

 

ーーーあれからどれくらい数えただろう?貴方の芯の強さに幾度となく助けられたのは……。

 

 

 

ーーーいつからだろう?

 

 

ーーーいつからだろう?

 

 

 

そんな貴女が……

 

 

 

そんな貴方が……

 

 

 

 

とても愛おしく感じるようになったのは…。

 

 

 

 

 

 

 

~Side 高坂 穂乃果~

 

 

 

「穂乃果ー!お店の暖簾提げてきてくれるー?」

 

「はーい!!」

 

ラブライブ優勝と母校でもある音ノ木坂学院を廃校から守ってから早くも4回目の春がやってこようとしている。

 

私は高校を卒業してから大学に進学せず、実家が営んでいる穂むらという和菓子屋の正式な後継者としてその道を歩むことにした。

 

幼馴染である海未ちゃんには同じ大学に行こうという熱心な勧誘を受けたが、私も自分のことは自分で決められる年頃だ。

 

たまに海未ちゃんを始めとした当時のアイドルグループ……μ'sのメンバーが遊びに来てくれて、その度にお饅頭や餡蜜などを頼んでくれるから商売上がったりだったりもするのはナイショ。

 

そしてその時に必ずと言ってもいい程話題に上がる人物が1人。

 

私はお水が入った桶を持ってお店の入り口の前に立ち、向かい側に建っている家を見上げる。

 

海未ちゃんやことりちゃんよりも付き合いが長く、私が知りうる限りでは最も女の子にモテモテで……将来を私と共に過ごすと約束してくれた私の幼馴染3人の中で唯一の男の子である松宮 壮大くんのお家。

 

成人した私は今でも昔の名残で『そーちゃん』と呼んでいる。

 

私が音ノ木坂を卒業する1ヶ月ほど前、そーちゃんは日本を発った。

 

と言うのも、私たちが高校3年生の時にそーちゃんは全国大会で負け知らずの連戦連勝を繰り返したことが海外の陸上のコーチに見込まれて『本気で世界を目指したい』と言ってそーちゃんは異国の地へと向かっていった。

 

最初こそエアメールでやり取りしていたものの、段々エアメールが来ることが少なくなり2年くらい前から連絡がパッタリと取れなくなってしまった。

 

「そーちゃん…、今頃どうしてるかなぁ……」

 

たまには帰ってきて頭撫でて欲しいなぁ…。

 

って私ってば何考えるの!?

 

ついつい浮かんできてしまった煩悩を振り払うように頭を横に振り、穂むらの暖簾をかけてお店の中に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『OK!少し休憩にしようか!』

 

「だぁー!!クッソキツい!!脚が痙攣起こしてやがる!!」

 

『ホントだよ!コーチはボクたちをイジめるのがホント好きなんだね!!』

 

アメリカのフロリダ州マイアミのとあるビーチ。

 

リゾート地で有名なフロリダの砂浜でオレとこちらに来てから様々な方面からサポートしてくれているコーチとチームメイトでオレの1つ年下の『クリス』の3人は汗にまみれながら砂浜で走り込んでいた。

 

『ハッハッハ!そりゃそうだ!!何せミヤとクリスの苦しそうな表情を見るのが今の生き甲斐なんでな!!』

 

「サラッと外道発言してンじゃねぇ!!」

 

『なんだミヤ?ダッシュもう10本追加されたいのか?』

 

「コーチ。あなたは最高ッスよ!いよっ!世界一!!」

 

『これが噂の「テノヒラクルー」ってやつだね』

 

うるせぇ。

 

鬼畜な運動量を誇るこの練習にプラス10本なんてやってられっか。

 

オレはゴムチューブで結ばれた10kgの重りを乗せた台を外し、パラソルの下のシートに座り込んだ。

 

『ところでミヤ、そろそろキミの母国でナショナルチャンピオンシップがあるってエアメールが届いたのだが今年も出場するんだろう?』

 

するとコーチは話題を変え、全日本選手権の話を持ち込んできた。

 

「あぁ、そう言えばもうそんな時期か…」

 

『確かキミには直前のダイヤモンドリーグで参加標準A記録を突破したから参加資格はあるし、その大会はオリンピック選考レースだって聞いてるぞ。オリンピック代表をいち早く内定させてトレーニングを積むのも悪くないと思ってるけどどう思う?』

 

「勿論出るさ!ついでにそろそろ和菓子が恋しくなってきたしなぁ……」

 

『キミならそういうと思っていたよ。それにしてもワガシならキミのガールフレンド……ホノカって言ったっかな?その子に頼めばすぐにでも送ってきてくれると思うが?』

 

『えっ!?ミヤってガールフレンドいたの!?』

 

今まで口を紡いでいたクリスが『ガールフレンド』という単語を聞いて、勢いよく起き上がりながら食い付いてきた。

 

『あぁ。ミヤには勿体ないくらいキュートなガールフレンドだぞ。後でクリスにもホノカの写真を見せてあげよう』

 

「オイ!!何でコーチが穂乃果の写真持ってるんだよ!!オレコーチにあげた覚えなんて微塵もねぇぞ!?プライバシー何処に行った!?」

 

『ハッハッハ!この前スカウトでキミの母国に行ったときに道案内してもらったスピリチュアルでミコ服を着た女性にミヤの名前を出したら嬉々とした表情をしながら教えてもらったからさ☆』

 

「教えてもらったからさ☆じゃねぇぇぇぇぇえっ!」

 

生まれて始めて目上の人がウザいと思った瞬間だった。

 

あんのスピリチュアルの皮を被ったタヌキめぇぇぇぇえ!!

 

日本に帰ったら覚えとけよこんちきしょぉぉぉぉおっ!!!

 

『こりゃ楽しみだ!さぁ、ミヤ!!早くメニューを終わらせよう?』

 

「やる気になるのはいいけど動機が不純すぎるからな!?」

 

『穂乃果の写真がみたい』という不純すぎて逆に清々しい動機で、クリスは手に持っていたドリンクのボトルを投げ捨てながら立ち上がる。

 

『そうだな。私もクリスにホノカの写真を見せた時のミヤのリアクションが見たいから続きをやろうか』

 

「外道!!ここに外道が2人いる!!!」

 

『『ハッハッハ。何を今さら』』

 

「うがぁぁぁあっ!!!!」

 

コーチとクリスがユニゾンした声を聞いたオレは、台の上の重りを10kgから15kgに切り替えて暴れたい衝動を咆哮に代えてクリスとひたすら砂浜ダッシュを繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

『えっ!?壮にぃ日本に帰ってくるの!?』

 

いろんな意味でハードだったトレーニングを終え、仮住まいのアパートに帰ってきたオレは穂乃果の妹で現役バリバリの大学生である雪穂に無料通話アプリを介して電話している。

 

余談だがコーチは練習後、クリスに穂乃果の写真を見せて『ミヤのガールフレンドがこんなにキュートだなんて……!!』って血涙を流しながら自主的にウェイトトレーニングをしにいった。

 

残念だったな…、クリスもイケメンなんだからすぐに彼女できるさ。

 

「あぁ、次の全日本選手権がオリンピック選考レースでな。ついでに和菓子が恋しくなってきたから家に帰るつもりでいるよ」

 

『ホント!?みんな喜ぶと思うよ!』

 

通話状態だから表情は読み取れないけど、スピーカーから聞こえる雪穂の声を聞く限りじゃ相当嬉しそうだ。

 

「あぁ、でも穂乃果には秘密にしてもらってていいか?」

 

『何で?』

 

雪穂は心底不思議そうな声をあげた。

 

そりゃそうだろう。

 

何せオレがトレーニングに没頭しすぎてエアメールを送ることをすっかり忘れていたなんて口が裂けても言えるわけがない。

 

『どうせ壮にぃの事だし、「どうせトレーニングに没頭しすぎてお姉ちゃんにエアメール送ることを素で忘れてた」なーんて思ってるんでしょ?』

 

「うぐぅっ……」

 

心を読まれたかのように突っ込まれ、図星なオレはぐうの音も出すことが出来なかった。

 

『はぁ…。伊達に生まれたときから壮にぃを見てきてないんだから、壮にぃの考えてることくらい分かるよ』

 

「すんません」

 

『実は言うと私も壮にぃのエアメール楽しみにしてたんだからね?』

 

「返す言葉もございません」

 

自分のせいだとはいえ雪穂に責められるのは何だか申し訳無くなってくる。

 

雪穂でこの有り様だから、もし穂乃果に連絡したら多分オレ泣いちゃうかもな。

 

というか穂乃果が泣いてそれにつられてオレも泣いちゃうと思う。

 

『まったく…、お姉ちゃんには内緒にしておくから日本に帰るまでに言い訳考えときなよ?』

 

「……面目ない」

 

『壮にぃ練習で疲れてるんだから早く寝なさい!』

 

「あぁ、待った!」

 

『何?』

 

最後に一番聞きたかったことを雪穂に問いかける。

 

「穂乃果は元気か?」

 

『うん。私の前では明るく振る舞ってるけど、実は部屋では壮にぃの写真を見つめてたり暖簾出すときに壮にぃの家をボーッと見てたりしてるよ』

 

「そっか…」

 

日本に帰ったらプレゼントを持ってって穂乃果のワガママを聞いてあげよう。

 

「答えてくれてありがとな。じゃ、切るぞ?」

 

『うん。お土産待ってるからね?』

 

ちゃっかりアメリカのお土産をねだる雪穂の声を聞きながら通話を切った。

 

 

 

 

 

『よし。そろそろニホン行きの飛行機の時間だが忘れ物は無いか?』

 

「無いっす」

 

全日本選手権の1週間前。

 

オレはコーチが運転する車でフロリダ空港発成田空港行きのフライトで数年振りの日本へ旅立とうとしていた。

 

クリスには残念だが、オレがいない間コーチのドSメニューをマンツーマンで頑張ってほしい。

 

クリスは『ボクもニホンへ連れてけ』って言ってたけど、インナーマッスルを鍛える用のゴムチューブを手足に縛っておいたのでここにはいない。

 

『ホノカやホノカの妹さんへのお土産は買ったか?』

 

「雪穂にはフロリダ名産のオレンジハチミツは買ったけど、穂乃果には買ってねぇよ」

 

『どうしてだい?まさかホノカに飽きて妹さんのユキホって言うのかい?その娘に鞍替えする気かい!?』

 

「何でそうなるん!?穂乃果にはまた別なことをしてあげようと考えてるだけだ!!」

 

何が楽しくて中年のおっさんにツッコミを入れないといけないのだ。

 

これ以上コーチと話してると練習よりも疲れそうだから会話を適当なところで区切ってサッサと飛行機に乗り込もう…。

 

『ほほぅ…。そのスペシャルな事とオフの時にキミが買った小さいリングケースと何か関係でもあるのかい?』

 

「何でそれを!?」

 

『さぁてね。私にはキミとクリスのプライベートの情報を収集できるライセンスをデフォルトで持っているからね』

 

「嫌なライセンスだなぁ!オイ!!」

 

もういい!!

 

オレはスーツケースのグリップを握り、搭乗口へ向かう。

 

『ミヤ!』

 

コーチが別れ際にオレのニックネームを呼んだので、振り返る。

 

『ナショナルのチャンピオンになってこい!!』

 

コーチの熱き激励を貰ったオレは…、

 

「ああ!行ってくるぜ!」

 

オレを見送るコーチに向かって拳を突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~Side 高坂 穂乃果~

 

 

早いもので残り数日で7月。

 

今年も梅雨の割には雨が降らなかったなぁ…と思い、お水が入った桶とお酌を持ってお店の入口に立つ。

 

「Hey,lady!」

 

「ひゃあっ!?」

 

打ち水をしていたら、スーツを身に纏って日焼けした顔にスポーツタイプのサングラスをかけた長身の男の人に声をかけられた。

 

「What's up?~~~?」

 

目の前の男の人は何て話しているのか分からず、私は英語に流通していそうな人を探す。

 

しかし、朝早くからそんな人は都合よくいる訳ではないので困り果ててしまった。

 

「プッ…、アッハッハッハ!!!」

 

すると英語を話していた男の人は突然お腹を抱えて笑い出した。

 

え!?えぇ!?

 

どういうこと!?

 

穂乃果何か変なことした!?

 

「えーっと…、すみませんどちら様ですか?」

 

目の前の男の人に素性を明かしてもらおうと訪ねるが、またしても笑われてしまった。

 

「ホントいつまで経ってもパニックになると慌てるクセは変わんねぇな、穂乃果。いや、()()()()()って呼べば分かるか?」

 

えっ…?ほのちゃんって…。

 

かつて私は1人の男の子にそう呼ばれていた。

 

目の前の男の人の正体に気付いたと同時に、彼はサングラスを取った。

 

「よっ。こうして会うのは3年振りか?ただいま、穂乃果」

 

「そー……ちゃん?」

 

その人の正体は私の最愛の人であり、今私のなかで最も会いたかった人である…松宮 壮大くんことそーちゃんだった。

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

久々に実家に帰ってきて、一旦身体を休めてから改めて穂むらに立ち寄った。

 

夏穂さんはおやっさんに何か頼んだかと思ったら何と営業を切り上げてにしてしまい、それからはというもの高坂家総動員で3年振りに日本に帰国したオレをこれでもかというくらいのおもてなしを受けた。

 

具体的に言うと夏穂さんが作った和食と親父さんによる出来立ての穂むら饅頭を心行くまで堪能しきった。

 

そして穂乃果は途中までオレの隣に座り、一緒に笑ったりしてたけど夏穂さんにお買い物を頼まれてしまい最初はオレと一緒に行きたいと渋っていたが夏穂さんに睨まれて渋々お使いへ行ってしまった。

 

無理してでも一緒に行けばよかった、と少しだけ後悔している。

 

「それにしても壮大くん高校の時よりもかなり逞しくなったわねぇ~!!フロリダでは元気だった?」

 

「そうですね。大きなケガも病気もしませんでしたね」

 

その間にも久しく食べていなかったお米や味噌汁を口に運ぶ。

 

やっぱり日本食最高やぁあ!!

 

あっちではパスタを中心にした献立だったからマジで美味い。

 

犯罪的に美味すぎて涙が出てきそうなくらいだ。

 

「今回はどうして日本に?」

 

「来週からの全日本選手権のためです。そんで、その大会で来年のオリンピック代表を決めるんです」

 

「あら!そうなの?」

 

「今回はフロリダのコーチも来てないですし、会場も都内ですのでしばらくは家にいるつもりです」

 

「ただいまー。おかーさーん、誰か来てるのー?」

 

無言で座る親父さんとその親父さんの分まで話す夏穂さんに今回帰国してきた理由や滞在期間を話していると学校帰りの雪穂が帰ってきた。

 

「よっ、雪穂。お邪魔しています」

 

「あぁ。そう言えば壮にぃが帰ってくるの今日だったんだっけ?何はともあれ、お帰り壮にぃ」

 

穂乃果と違って事前に帰ることを知らせていた雪穂は意外と素っ気ない態度だった。

 

だが、お兄ちゃんは見抜いてるぞ?

 

「雪穂、頬が緩んでるぞ?」

 

「え!?ウソ!?」

 

顔を赤くして慌てて両手で頬を隠すように当てる雪穂。

 

「そんなツンデレな雪穂にお土産だ。フロリダ名産のオレンジの花から取れたオレンジハチミツを進呈しよう」

 

雪穂のお土産としてオレンジハチミツをあげたが、どこか不満そうな顔つき。

 

聞いてみれば練習拠点としているマイアミのビーチで取れる星の砂とかを期待していたみたいだが、少なくとも近くの雑貨屋にはそんなものは置いていなかったので諦めてもらうしかない。

 

「ぶー…。あ!分かった!つまりこれは『次はもっと高価な物を買ってやるよ』って言う前フリってこと!?」

 

「んなわけ!そろそろいい歳なんだから彼氏にねだりなよ……って、雪穂に彼氏はいないか」

 

「おかーさーん!壮にぃがイジめるー!!」

 

冗談で言ったつもりだったのだが、ホントに彼氏がいないらしくて夏穂さんに泣きついていた。

 

「ただいまー。おかーさーん、頼まれた物買ってきたよー」

 

穂乃果がお使いから帰ってきた。

 

まさかオレがフロリダに行っている間に高坂姉妹は玄関の入り方も同じになっていたとは……姉妹の血って争えないのな。

 

でも…。

 

オレは辺りを見渡す。

 

久々にお邪魔しても嫌な顔1つせず歓迎してくれる高坂家。

 

大会のためとはいえ、日本に帰ってきてよかった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

高坂家で夜メシをごちそうになったオレは久々に自分の部屋に入った。

 

まぁ、何故か穂乃果も一緒なんだが…。

 

「えへへぇ…」

 

そんな穂乃果はオレの腕にしがみつくように抱きつく。

 

うん、フロリダに行っていた3年の間でほのっぱいは無事に成長してるな。

 

甘える穂乃果をあしらいながらも自分の部屋に入ると、ホコリ1つない状態で保存されていた。

 

「ありゃ?ホコリとかあると思ってたのに何だかサッパリしてんな…」

 

「それはね!穂乃果がそーちゃんのお部屋掃除担当だったからなんですっ!」

 

ふと呟いた疑問にここぞとばかりに腰に手を当ててえっへん!と成長したほのっぱいを強調するように胸を張りながら答える穂乃果。

 

「どう!?穂乃果偉い!?」

 

「ハイハイ、偉い偉い」

 

「もう!扱いが雑だよー!!」

 

適当な相槌に不満を覚えた穂乃果が抗議を訴えたあと頬をぷくーっと膨らませた。

 

「ありがとな、穂乃果」

 

穂乃果の髪がボサボサにならないように気を付けながら頭を撫でる。

 

「くぅーん…」

 

「お前は甘えん坊な犬か」

 

頭を撫でられた穂乃果は犬みたいな甘えた声を出す。

 

忠犬ハチ公ならぬ忠犬ほのかってか…。

 

「ねぇ、そーちゃん」

 

「ん?」

 

久々の自分のベッドに仰向けに横たわり、穂乃果も自然な流れで寝そべっているオレのすぐ近くに腰を降ろしたところで話し掛けられた。

 

「おかーさんから聞いたんだけど、しばらく日本にいられるってホント?」

 

「ホント。今回帰ってきた主な理由は全日本選手権に出場するためだし」

 

「じゃあさ!!そーちゃんが忙しくなる前にどこか出掛けようよ!!」

 

「あー…、その事なんだけどさ大会終わるまで待っててくんねぇ?」

 

実は大会が終わったあとに伝えたいことがあるんだ…。

 

思わず声にして出そうになった言葉を必死に隠す。

 

「ふーん…、そーちゃんがそう言うならいいよ。大会が終わるまで待っててあげる。……でも」

 

「穂乃……むぐぅっ!?」

 

急に色っぽい表情をして目を閉じたと思ったらオレの口は穂乃果の唇で塞がれてしまった。

 

もしかしてオレ……穂乃果にキスされてる?

 

理性に基づいた思考や浮かんでは消えていく感情もすら穂乃果とのキスの前には無意味で、大気に晒されたドライアイスのように瞬く間に蒸発していく。

 

「プハッ……。ハァ…ハァ…」

 

「ハァ…ハァ…。ほのかぁ……」

 

ほんの数十秒という短い時間にも関わらず、体感的には何十分もキスしていたみたいに息が上がっている。

 

「穂乃果ずーっと我慢してたんだよ?そーちゃんが海外に行ってからずーっとそーちゃんと恋人みたいなことしたいって思ってたんだよ?」

 

穂乃果が着ていたホットパンツや夏用の半袖パーカー、さらには学生時代の穂乃果のトレードマークだった『ほ』と書かれたシャツを脱いでいき、オレの上に馬乗りとなって耳元に近づいてきた。

 

 

 

 

 

「そーちゃんが今穂乃果にしたいこと全て受け止めてあげるから……来て?」

 

 

 

 

 

そして穂乃果の誘惑に理性が弾け飛んだのを最後に、そこから先のことはほとんど覚えていない。

 

次に理性を取り戻したら身体の前面部はマーキングされた跡が残っていて、鏡を見ると目の下にはクマができていた。

 

そして周りを見渡すと朝の訪れを知らせるスズメのさえずりと生まれたままの姿をして幸せそうに眠っていらっしゃる穂乃果がいた。

 

そしてまだ目覚め切ってない段階で頭をフル回転させ、マーキングの跡を少しでも隠すためシャワーを浴びることにした。

 

 

 

 

 

 

~Side 高坂 穂乃果~

 

 

そーちゃんが日本に帰国してから1週間が経った今日。

 

「ゆーきほー!早く早くー!!」

 

「もう!待ってよお姉ちゃぁん!!」

 

この大会で優勝すればそーちゃんは小さい頃からの夢だったオリンピックに出られると聞いて、居ても立っても居られなくなった私は雪穂を引き連れて大会の会場にやってきた。

 

どこで見ようかを決めるため雪穂と一緒に歩いていると、ウォーミングアップをする前のストレッチをしているそーちゃんを見つけた。

 

「あっ!そーちゃーん!!」

 

「お姉ちゃんっ!!」

 

私がそーちゃんの元に向かおうとしたら雪穂に服の裾を掴まれてしまい、つんのめるように立ち止まった。

 

「雪穂!?なんで止めるの!?」

 

「…………」

 

私は雪穂に抗議をすると、無言でそーちゃんを指差したのでそちらを向いた。

 

怒ってるそーちゃんや笑ってるそーちゃん、今までいろんなそーちゃんを見てきたけど最も険しい表情をしていた。

 

「壮にぃは集中してるんだから、邪魔しちゃダメだよ……」

 

「そうだね……。行こっか」

 

「あれ?穂乃果ちゃんに雪穂ちゃん?」

 

「「え?」」

 

観客席に行こうとしたら聞き覚えのある優しそうな声が聞こえてきたので、声が聞こえてきた方角を向く。

 

「花陽ちゃん!?」

 

「花陽さん!?」

 

そこには花陽ちゃんが小さく手を振って立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

「へぇー、凛ちゃん大学でも陸上やってたんだ……」

 

花陽ちゃんは凛ちゃんが高2になったと同時にまた陸上を始めて元気にやっているとは聞いてたけど、凛ちゃんもこの大会に出るなんて知らなかったなぁ…。

 

「ところで穂乃果ちゃんたちはどうしてここに?」

 

「そーちゃんもこの大会に出るからその応援に」

 

「えぇ!?壮大さんニホンニカエッテキテタノォ!?」

 

花陽ちゃんがオーバーリアクション気味に驚き、それを聞いた周りの応援客が私たちに目を向けた。

 

花陽ちゃんは立ち上がってすみません、と周りの人に謝ってから静かに座り直した。

 

「壮大さんは元気?」

 

「うん。でも……」

 

「でも……?)

 

 

 

 

「何だかそーちゃん少し苦しそうだった……」

 

 

 

私は楽しそうに走るそーちゃんも好きなのに、今日のそーちゃんは何だか楽しくなさそうだった。

 

 

Side out

 

 

 

 

 

オレがエントリーした1つ目の種目は200M。

 

今日はその予選のみのレースとなっている。

 

高鳴り過ぎる心拍の音を強引に抑え、スタート地点へと足を踏み入れた。

 

日本国内の大会ではなかなか聞くことはない割れんばかりの歓声が耳に身体に突き刺さる。

 

選手紹介のアナウンスに合わせ、観客に向けて手を挙げたりトラックに向かって御辞儀をしたりしてスタート合図を待つ。

 

『On Your marks……』

 

最早聞きなれたスタート誘導のアナウンスに耳を傾け、クラウチングスタートの姿勢を作る。

 

『Get set……』

 

緊迫した空気の中オレの体内では心臓が大きく高鳴り、その反動で身体が小さく動く。

 

あぁ、もう…!少しは黙ってろオレの心臓!

 

呼吸を浅く繰り返している内に、スターティングピストルが鳴った。

 

反応に遅れたオレは慌ててスターティングブロックを蹴り、トップを走る選手に追い付く。

 

そしてトップを走っていた名前の知らない選手と一進一退の展開を繰り返し、そのままゴール。

 

「ハァ…ハァ…、……チッ」

 

結果を知らせる電工掲示板を見る限りでは2着で準決勝に進出することができたが、自分の中ではかなり腑に落ちないレースとなってしまい知らず知らずの内に舌打ちを漏らしてしまった。

 

こんなんじゃオリンピックなんて到底…。

 

 

 

 

 

 

 

『壮にぃ、ちょっといい?』

 

その日の夜、スピーカーを通じてリラクゼーション効果のあるクラシック音楽を流しながら部屋でストレッチをしていると雪穂がオレの部屋のドアを叩いた。

 

「いいぞー」

 

入室するのを許可するとお邪魔します、と一声掛けながら部屋に入ってくる雪穂。

 

「穂乃果は?」

 

「お姉ちゃんなら壮にぃの応援に行ったら会場でバッタリ会った花陽さんと大会に出てた凛さんと一緒にご飯食べに行ったよ」

 

「そっか。凛ちゃんもあの大会に出てたのか……」

 

「うん。凛さんめちゃくちゃ速かったよ」

 

雑談をしたりしているうちにだんだん雪穂の顔付きが険しいものになっていく。

 

「ねぇ、壮にぃ?」

 

「なんだ?」

 

 

 

 

 

「壮にぃは今、走ることは楽しい?」

 

 

 

 

背中に氷柱を突っ込まれた感覚に陥った。

 

それほどまでに雪穂の言葉は今のオレにとって突き刺すには充分すぎる鋭さがあった。

 

「……どうだろうな。楽しいか楽しくないかは別として、苦しいのは確かかな」

 

「だろうね」

 

今の自分の率直な心情を雪穂に向かって吐露すると、あたかも確信したようにオレの言葉を飲み込んだ。

 

「私は壮にぃがどれだけ厳しい練習を積んできたかは分かんないけどさ、オリンピックを目標にやってきたことだけは分かるよ。それはたぶんだけどお姉ちゃんも同じ」

 

「……」

 

「そりゃ私だって壮にぃがオリンピックに出られるってなったら嬉しいけどさ、やっぱり私もお姉ちゃんも楽しそうに走る壮にぃが見たいよ。だから「雪穂!もういい」…ッ!」

 

これ以上雪穂の話を聞きたくなかったオレは話を強引に遮った。

 

大きな声を出してしまったため雪穂は肩を震わせ、身を引かせてオレとの距離を取った。

 

「……わりぃ、いきなり叫んじまって」

 

衝動的とはいえ大人気ない行動を反省し、右の手のひらを額に当てる。

 

「いや、それは別にいいけど……」

 

申し訳無さと自分の不甲斐無さを呪い、溜め息を吐いて頭をガシガシ掻いてから本音を雪穂に漏らし始めた。

 

 

 

 

~Side 高坂 雪穂~

 

 

「オレ、多分…。いや、多分じゃないな。緊張しすぎてたんだ」

 

「緊張?」

 

ポツリと壮にぃにしてはマイナスな言葉が出てきた。

 

緊張なんて壮にぃから程遠い言葉だと思っていた。

 

お姉ちゃんも緊張なんて言葉とは無縁の人だったから、てっきり壮にぃも緊張なんてしないものだと勝手に思い込んでいた。

 

「緊張しない人なんて珍しいと思うけど……」

 

まぁ、お姉ちゃんみたいな能天気な人は別だけど。

 

「そりゃそうだけどさ、今回だけは失敗は許されないんだ」

 

壮にぃは学生の時から時々自分に何かを強いることがあった。

 

それでも壮にぃは能力が高いからそのほとんどは苦労せず処理できるだろうし、現に今日まで処理してきたはずだ。

 

でも今回ばかりは壮にぃでも負荷が大きかったようだ。

 

初めてのオリンピックに手が届きそうな位置にいて、その重圧は計り知れない。

 

久々に日本に帰ってきてお姉ちゃんに自分の姿を見せたい、きっと壮にぃのことだからアメリカのコーチやチームメイトに寄せられた期待に応えたいって思っていてもおかしくない。

 

でもそんな壮にぃになんて言葉をかけたらいい?

 

私はそんな経験はあまりしてこなかったからどんな言葉を選んでいいのか分からない。

 

そんな考えとは裏腹に無意識のうちに壮にぃの頭を抱えて私の胸に埋めるように抱き締めていた。

 

「雪穂?」

 

「壮にぃは何でもかんでも抱え込みすぎ。私もお姉ちゃんも壮にぃには具体的な言葉をかけることはできないけど、たまには頼ってよ。何も壮にぃは1人じゃないんだからさ……」

 

「……そうだな」

 

「ほらっ!明日もレースがあるんだから早く寝るっ!」

 

私は壮にぃを解放する。

 

そしてそのまま早足で壮にぃの部屋から出ていこうとする。

 

「雪穂」

 

しかし、壮にぃに呼び止められてしまったので振り向くことなく立ち止まる。

 

「ありがとな」

 

私は返事をすることなく壮にぃの部屋から、壮にぃの家から自分の部屋に戻る。

 

抱き締めている時に机の上に目立たないところに指輪を入れるケースを見てしまった。

 

きっと壮にぃはオリンピックが決まったらお姉ちゃんに正式にプロポーズをするつもりなのだろう。

 

いいなぁ…、お姉ちゃん。

 

「ホントに…いいなぁ」

 

今度は自分の枕に顔を埋める。

 

そしてそのまま止めどなく溢れてくる涙に身を任せ、枯れ果てるまで泣き続けた。

 

さようなら、私の初恋…。

 

 

 

 

Side out

 

 

 

全日本選手権2日目の200Mの決勝で優勝し、まずは1つめの種目でオリンピック代表内定を決めることができた。

 

そして全日本選手権最終日の今日は100Mの決勝が行われる。

 

だけど、オレの心はとても穏やかだった。

 

昨日は周りが全く見えずにいたのだけれど、今日は周りの様子が見れるほどの余裕があった。

 

男子100M決勝の競技開始までまだ時間があるため、リラックスしながら会場を闊歩していた。

 

「そーちゃん♪」

 

「壮にぃ!」

 

スポーツドリンクを買おうと自販機に並んでいると、首からメガホンをぶら下げた高坂姉妹が向こうからやってきた。

 

「おっ、穂乃果に雪穂。応援に来てくれたのか?」

 

「うんっ!今日もファイトだよっ!」

 

「言われなくてもそのつもりだっつーの!」

 

わしゃわしゃと少し乱暴に穂乃果の頭を撫でる。

 

穂乃果はひゃーっと小さく叫びながら受け入れていた。

 

「ところでそーちゃん、そーちゃんに会わせたい人がいるんだよ?」

 

オレに会わせたい人?

 

はて……?決して広くはない交遊関係の中でそこまで会わせたい人がいるとは思わねぇんだがなぁ…。

 

思い当たる節を必死に考えていたが、全く思い浮かばなかったので首を傾げながら穂乃果と雪穂に目を向ける。

 

すると、穂乃果と雪穂は笑っていた。

 

「にゃーんにゃーんにゃーん!!!」

 

「うおっ!?」

 

「えへへっ、だーれだっ?」

 

聞き覚えのあるフレーズと一緒に視界がブラックアウトされた。

 

「この声は……凛ちゃんかっ!?」

 

「フフッ…確かに声を出したのは凛ですが、ここにいるのは凛だけじゃありませんよ?」

 

「へっ?」

 

パッと視界が晴れ、後ろを振り向くと勢揃いと言うわけでは無いけれどμ'sのメンバーがそこに立っていた。

 

「みんな……どうしてここに?」

 

「どうしてって…、壮大の応援に決まってるじゃない。それに応急処置室対応は西木野総合病院が担当よ?」

 

「それに凛もこの大会に出ていますし、壮大もフロリダから帰ってきたと聞いてこの日に合わせてみんなで応援に来たんですよ?」

 

「にこも仕事の合間を挟んで応援に来てあげたんだから感謝しなさいよねー?」

 

「私は初日から凛ちゃんの応援に来てて、その時に偶然穂乃果ちゃんと雪穂ちゃんに会って壮大くんが帰ってきてることを知ったんです」

 

「絵里ちゃんや希ちゃんとことりちゃんも来たがってたけど、仕事で来れないからそーくんに気だけを送るっていってたにゃー!」

 

えっ……?そうだったの…?

 

込み上げてくる涙を必死に堪え、真っ直ぐみんなを見据える。

 

雪穂の言うとおりだ。

 

何もオレ一人で戦っていた訳じゃないんだな……。

 

「では私たちは一足先にスタンド行ってますね。凛、壮大頑張ってくださいね」

 

「うんっ!みんなも応援よろしくおねがいしますだにゃ!…じゃあ凛もアップ行くからそーくんも頑張ろうね!」

 

みんなは応援スタンドへと消えていき、凛ちゃんもアップするといって服の中から垂らしていたイヤホンをつけてそのままウォーミングアップへ行ってしまった。

 

そして騒がしかった自販機の周りはオレと高坂姉妹だけが残された。

 

「ねっ、言ったでしょ?壮にぃは1人じゃないって」

 

雪穂が小さく話し掛けてきて、オレはその言葉を噛み締めるように頷

くとその反応に気をよくしたのかみんなの後を追いかけていった。

 

「じゃあ、穂乃果もそろそろ行くね?」

 

穂乃果も雪穂やみんなのあとを追いかけようとするが、穂乃果の小さな手を掴んだ。

 

「えっ…?そーちゃん……どうしたの?」

 

「穂乃果、今日の夜小さい頃遊んでいた公園に1人で来てくれるか?」

 

最初はポカンとしていたけど言葉の真意に気づいた穂乃果は無言で小さく頷き、掴んでいた手を放してみんなの後を追う穂乃果の背中を見送った。

 

 

 

~Side 高坂 穂乃果~

 

 

『男子100M決勝』

 

会場アナウンスが流れ、決勝に名を連ねた選手たちが次々と紹介されていく。

 

勿論その中にもそーちゃんの姿もある。

 

『On Your marks……』

 

選手たちが一礼してからスタートの姿勢になった。

 

『set ……』

 

会場が沈黙に包まれ、スタートのピストルの合図と共に会場は歓声の爆発に包まれる。

 

「速いにゃ……!!」

 

同じ陸上選手の凛ちゃんが思わず呟くほどの速さを見せるそーちゃんは次々と他の選手を置き去りしていく。

 

「頑張れー!!」

 

「そのままゴールまで行くにゃー!!」

 

みんなの応援が見えない風となりそーちゃんの背中を押していく。

 

そしてそーちゃんは先頭でゴールラインを駆け抜けていった。

 

やった……!優勝だ…!!

 

そーちゃんが勝ったんだ……!!!

 

「そーーちゃーーーんっ!!!!」

 

私は精一杯の大声でそーちゃんに向かって手を振った。

 

そーちゃんにその声が届いたのか、笑顔で私に親指と人差し指、薬指を立ててから拳を握って真上に突き上げた。

 

「あーっ!壮大のやつ!にこのあれパクったー!!」

 

にこちゃんがにっこにっこにーの手の動きを察知して騒ぎ出したのを真姫ちゃんと凛ちゃんが宥めにかかるなどの一悶着があったけど……そーちゃん、ホントにおめでとう!!

 

 

Side out

 

 

 

 

 

大会が終わった夜、一旦家に戻ってから荷物を置いて机の上に置いておいた小さなケースをハーフパンツのポケットに忍ばせて小さい頃遊んでいた公園にやって来たオレはベンチに座って空を見上げて星を眺めていた。

 

優勝してオリンピック代表に内定したという実感がまだ沸いて来ず、何だかフワフワした感じだ。

 

さっきコーチやクリスにも連絡したら実感が沸くかな?と思ったけどなにも沸いてこなかった。

 

「そーちゃん、来たよ」

 

そしてオレが待ちわびていた人がやって来た。

 

「ごめんな?呼び出しといて」

 

「うん……」

 

穂乃果は小さく返事をして、オレが座っていたベンチの隣に腰掛けた。

 

「「……」」

 

やっべぇぇぇぇぇえっ!!!

 

呼び出しておいて何話すか考えてなかったぁぁぁあっ!!

 

「ねぇ…、そーちゃん」

 

先に沈黙を破ったのは穂乃果だ。

 

「ん?」

 

「次は……いつ会えるのかな?」

 

「どうだろうな…、意外とすぐかもしれないぞ」

 

「これからがどんどん有名になってテレビとかで見るたびに思う。

私とは住んでる世界が、見てる世界が違うんだなぁって」

 

「……」

 

「その度に考えちゃうんだよ。そーちゃんにはきっとそーちゃんに釣り合った人が現れる。その時に私が隣にいていいのかなって……」

 

「穂乃果」

 

オレは穂乃果の名を呼び、こちらに向かせる。

 

振り向いた穂乃果の背中に手を回し、強く抱き締めた。

 

「そーちゃん、痛いよ……」

 

「不安なのはオレも一緒だ。だとしてもオレの隣に最も相応しいのは穂乃果しかいないんだよ」

 

「穂乃果、バカだし甘えん坊だから寂しいとすぐ甘えちゃうよ?そーちゃんの夢路の邪魔になっちゃうかもだよ?」

 

「そんなことなんて知ったこっちゃない。オレはお前と共に笑っていたいんだ。意見の食い違いで泣かせてしまうかも知れない!それでも!穂乃果と一緒に笑っていたいんだよ」

 

お互いの気持ちの確認をしたオレは穂乃果を解放し、ハーフパンツの中に忍び込んでいたケースを取り出す。

 

穂乃果の目の前に持っていって、中身を見せるようにケースを開けた。

 

その中身は3ヶ月間フロリダ中のジュエリーショップを駆け回り、ようやく探しだした穂乃果の誕生日……8月3日の誕生石であるクリソベリル・キャッツ・アイをあしらった婚約指輪(エンゲージ・リング)だ。

 

 

 

 

「これからのオレの物語を穂乃果と一緒に叶えていきたいんだ。だから……オレと結婚してくださいっ!!」

 

 

 

 

「はいっ……!こちらこそ……よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

涙を流しながら笑って返事をしたあと、思いっきり飛び付いてくる穂乃果を受け止める。

 

涙目の穂乃果を抱きしめ、そのまま涙に濡れる唇を重ねた。

 

幸せを噛み締めながら強く……そして優しく抱き締めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー1年後…、フロリダ州マイアミ。

 

 

『ハッハッハ!オリンピック内定と同時にプロポーズなんてミヤも随分とロマンチストなんだな!!』

 

『しかもプロポーズの場所が子どもの頃の思い出の公園と来た!!やっぱり私が見込んだ選手だけの事はあるよ!!』

 

「帰国早々やかましいわッッッ!!って言うか何でオレがプロポーズしたこと知ってんの!?」

 

『『ハッハッハッハ!!!ミヤの活躍を観にニホンへ行ってたからに決まってるじゃないか!!』』

 

「だったら連絡の1つくらい寄越せや!!」

 

日本に別れを告げて早くも1年が経ち、マイアミに戻ってきてからクリスとコーチの3人でオレとクリスのオリンピック内定が正式に決まったことに対するささやかなホームパーティーでの何故かオレのプロポーズの話になっていた。

 

『いやー、マイアミに戻ってきて首元にキスマークをつけて戻ってきた時はビックリしたよ!』

 

『クリス、ミヤは口ではああ言ってるけどホノカにゾッコンなんだ』

 

『所謂「ツンデレ」って奴だね?』

 

「お前らホントにだぁっとれぇぇぇえい!!!」

 

 

 

 

 

「はー…、ホンットに疲れた……」

 

コーチとクリスの相手でクタクタになった身体を引きずりながら帰宅する。

 

今までならそのまま眠るだけなのだが、今オレの帰る場所にはあいつがいる。

 

「お帰り、そーちゃんっ♪」

 

「ただいま、穂乃果」

 

オレの自慢の妻である穂乃果が笑顔でオレの帰宅を迎え入れた。

 

「またクリスくんとコーチにイジめられたの?」

 

「あの2人がオレのプロポーズ話で盛り上がってそれにツッコミを入れてただけだ」

 

「あはは…、あのプロポーズは未だに思い出すだけでも恥ずかしいんだよねぇ…」

 

「何言ってんだお前。オレの方が恥ずかしいわ」

 

キラリと光る指輪を見つつ、互いに笑いあってあの日の事を思い出した。

 

プロポーズをしたあの後、穂むらに立ち寄ったオレは穂乃果以外の高坂家のみんなに向かって『穂乃果をオレがいるフロリダに連れて行かせてやってください!!』と頭を下げた。

 

すると夏穂さんと雪穂さんは『どうぞ!!遠慮なく持っていって下さい!!』と即答し、親父さんも珍しく『……穂乃果を、よろしく頼む』と高坂家の大黒柱の許しを得て穂乃果と共にフロリダへやって来たのだ。

 

同じ屋根の下で暮らすオレたちはこれからも何度も何度も衝突するかもしれないが、これだけは言えることがある。

 

 

~♪BGM:オモイダマ~

 

 

 

オレと穂乃果ならどこへだって行ける。

 

 

 

今しか見ることができない夢の先の向こう側へ……!!

 

 

 




長文の上に駄文ですみません……。

『自分の中に隠された穂乃果ちゃんへの愛がここまで書き上げてしまった』って感じです。

推しの凛ちゃん編……これ以上の字数越えられる気がしないので、今からチャージしていきたいと思います。


それまでこの小説が続かせないといけないですね……。
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