ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
「ホラ、早くしろよ。あんたが言う『プロ意識』ってやつを。」
オレは目の前のガキにとてつもない怒りを感じている。
こいつが言うにはμ'sは、『プロ意識が足りない』うんぬん『アイドルへの冒涜』かんぬんとほざいている。
別にプロ意識がどうとか言われても、プロのアイドルを目指してレッスンしたりしているわけでも無い。
むしろオレが憤りを感じているのは『アイドルへの冒涜』という部分だ。
このガキがアイドルに対して何の幻想を抱いているのか分かりたくもないし理解したくもないが、何も知ろうともしない癖に評論家ぶって評価しようとするやつを見てると吐き気がする。
「こっちだって暇じゃねぇんだからよ。見せんのか見せねぇのかハッキリさせてくんねぇかなぁ!?」
何時まで経ってもその『プロ意識』と言うものを見せようとしないので、イライラが募っていく。
「分かったわよ!見せればいいんでしょ!?見せれば!!」
なんで上から目線なんだコイツ。
見せればいいんでしょじゃねぇし。
何て言ったらヘソを曲げるかもしれないから黙って聞いておく。
するとロングコートやダサいデザインの被り物を脱ぎ捨てた。
ロングコートの下は音ノ木坂学院の制服を着ていて、穂乃果たちや凛ちゃんたちとは違うカラーの学年のリボンをしていた。
「そーちゃん!待ってよ!」
するとお店から穂乃果が出てきて、オレを止めようと何人か走ってきた。
そして…、
「にっこにっこにー!!あなたのハートににこにこにー!笑顔届ける矢澤 にこにこー!にこにーって覚えてラブにこっ!!」
「「「「「「「………………。」」」」」」」
矢澤と名乗ったガキの『プロ意識のある』アイドルの自己紹介的な物を聞かされたオレたちは絶句した。
特にμ'sのメンバーはオレに追い付いてから聞いた第一声がこれだ。
「………なぁ、これがこいついわく『プロ意識のあるアイドル』何だとさ、………どう思う?」
オレも何言ってんのかわかんねぇけど、
「えっと…。」
穂乃果は言葉を詰まらせ…、
「これは…。」
ことりが一生懸命に言葉を選んでいて…、
「凄いというか…。」
海未が無理して言葉を振り絞り…、
「ふむふむ…。」
花陽ちゃんはどこから取り出したのか分からないメモ帳に何やらメモしはじめて…、
「ちょっとというか、かなり寒くないかにゃー?」
凛ちゃんがとんでもない毒をさらっと吐き…、
「私、無理。」
真姫がハッキリ拒絶の意を示す。
媚を売るアイドルや演技しなくてもそんな感じのアイドルははいくらでもいるけど、オレは漏れなくそんなアイドルは大がつくほど嫌いだ。
なんでかって?
『ぶりっ子演じてる私、カワイイ』とか『カワイイと思ってる私、カワイイ』とか本気で思っていそうだからだ。
「ちょっとそこのオレンジのショートカットのあんた、今なんて言った?」
「えっ!?あ、いやっ…。」
矢澤は寒いと発言した凛ちゃんを睨み付け、睨まれた凛ちゃんは狼狽えていた。
「あのあの、すっごく可愛かったです……よ?」
「凛ちゃん、無理しなくていい。矢澤とか言ったな……。それがあんたの言う『プロ意識があるアイドル』って言うのなら…、
今すぐにでもそのよく分からん自己紹介辞めた方がいいんじゃねぇか?というかそもそもプロ意識って言葉の意味を履き違えてんぞ。」
「………っ!!」
オレが矢澤が言い放った自己紹介を真っ向から否定した。
すると矢澤は目に涙を溜め始める。
「あーあー、そうやって泣けばいいと思ってるのも思って。……興醒めだ。穂乃果、わりぃけどオレ先に帰るわ。」
「えっ?あ、うん…。」
状況がよく分からなくて理解に追い付けていない穂乃果たちを置いて、一足先に帰ることにした。
「ふーっ…。やっぱりいってぇな、こんちきしょう。」
左足を踏み出す度に骨に直接響くようなダメージを感じながら、ようやく神田明神前まで辿り着いた。
いつの間にか雨は上がっており、傘を畳んで剥がれかけた湿布を張り直そうとした…。
「こんなところでどうしたん?」
「うおっ!?」
ところで、東條さんがひょっこり姿を現した。
「東條さん?いつからここに?」
「うちには神出鬼没のライセンスがデフォルトで持っとるんよ。」
そんなライセンスはどこかに返却するか、不幸なことに巻き込まれる回数が多い事で有名な多額の借金を抱える執事にでもあげてください。
「それよりもそれ、どうしたん?」
東條さんは、オレの足に巻かれている包帯を指差した。
「今朝、矢澤とか名乗る奴に鉄の棒を投げられまして…。」
「にこっちが!?……足の具合は大丈夫なん?」
「2,3日安静にすれば大丈夫だろうとお医者さんが。」
東條さんはビックリするが、軽傷だということを聞いて安堵のため息を漏らした。
にこっちと言うくらいなのだから、東條さんと矢澤は面識があるようだ。
なら東條さんに相談して見るのもいいのかもしれない。
「東條さん。」
「ん?どうしたん?」
「どうして矢澤は…あの人はμ'sを毛嫌いするんですか?」
「それは……。」
「って言う事情があったみたいなんだとさ。」
翌日の夜、オレはインカムをつけて穂乃果とことりと海未の4人によるグループトークに接続し、矢澤がなぜμ'sをあんなに毛嫌いするのか事情を説明した。
ちなみに今日の放課後(今さら)生徒会にアイドル部設立の申請書を出そうとしたが、既にそのような部があると生徒会長の絢瀬さんに言われたそうだ。
それでこの話を無かったことにしたくなかったらという東條さんのアドバイスを聞いた穂乃果たちは矢澤とコンタクトをとろうとしたが門前払いを喰らったらしい。
昨日怒りに身を任せたとは言え、あんなにボロクソに罵倒したのだから当然と言えば当然なのだが。
『そんなことがあったのですね…。』
海未が矢澤に同情する。
『1年の時、彼女はスクールアイドルを目指していたが回りとの温度差がありすぎて気付けば1人になっていた。』
東條さんとの話を要約するとこんな感じの事情があったらしい。
『でもなかなか難しそうだよね…。』
『にこ先輩の理想は高いですからね…。今の私たちのパフォーマンスでは納得してくれそうにありませんし…。』
「もし矢澤を加入させたいのなら説得するしかないんじゃねぇの?……最も説得に応じるとは到底思えねぇのだけれど。」
『そうかなー?』
海未とことりとオレで話していると、インカムからお煎餅の音と一緒にのんびりとした穂乃果の声が聞こえてきた。
『にこ先輩はアイドルが好きなんだよね?それでアイドルに憧れていて、私たちに少なからず興味を持ってくれているってことだよね?』
方向性は違うけどな。と心の中でツッコミを入れておく。
『それって海未ちゃんと同じじゃないかなーって…。』
海未と同じ?
オレとことりと海未は『何でそこで海未(海未ちゃん)(私)?』といった感じでリアクションに詰まっていた。
『ほら、海未ちゃんと知り合ったとき。』
「あー…。あの時か。」
『そんなことありましたっけ?』
『海未ちゃん恥ずかしがりやだったから~。』
「『今も』だろ?」
『なぁっ!!それと今はどう関係あるのですか!?』
オレは海未の大声で鼓膜がキーンとさせながら、その当時の事を朧気に思い出していた。
オレがまだ穂乃果のことを『ほのちゃん』、ことりのことを『ことちゃん』と呼んでいて、小学校に入学したてだったとき。
穂乃果とことりたちの友だちとオレの友だち数人で公園で鬼ごっこをしていたとき、木の影からコッソリとオレたちのことを覗いていた一人の少女の存在に気づいた。
それは穂乃果も同じで、2人で木の影に隠れていた少女に声をかけたこと。
あわあわしながら涙目になっている少女を前にして穂乃果は『じゃあ、次あなたが鬼ねっ!』と言ってのけた。
その少女が当時の海未で、穂乃果たちと遊ぶときは決まってあわあわしながら穂乃果やことりの陰に隠れていたっけなぁ…。
それがあんなんになるとは全く思ってもなかったぜ…。
『壮大?何か私に対してよからぬ事を考えてはいませんか?』
「いえ?何も?」
インカム越しから怒気が混じった海未の声が聞こえてきた。
何で分かるんだよ!?
なんだ!?海未に限らず音ノ木坂に通う子たちはエスパーばっかなのか!?
『じゃあ、明日そんな感じて行ってみようよ!』
なんか気付かないうちに穂乃果たちは結論を出したようである。
明日?いったい何をしでかそうとしてるんだ?
非常に気になる…。
オレは穂乃果たちの行動に疑問を感じながらインカムを外した。
ーーーピンポーン!!
左足の痛みで部活には参加せず、安静にしていた最近オレん家のインターホンが鳴った。
最近インターホンがよく鳴るなぁ…。と思い、玄関を開ける。
「やっほー!そーちゃん!!」
「……。」
するとそこには手を振って挨拶する穂乃果と仏頂面の矢澤の姿があった。
「……何しに来たんだ?」
「にこ先輩がそーちゃんに謝りたいことがあるんだって!…ほら、にこ先輩!! 」
「分かった!分かったから押さないでよ!!」
穂乃果に押され、矢澤はオレの前に立った。
「……えっと。この子から聞いたわ。あんた、立華の陸上部で大会も近いって。それでその……、…この間は怪我をさせてすいませんでした!!」
にこ先輩はオレに向かって頭を下げた。
「そーちゃん?にこ先輩もこうして謝っているんだし、許してあげてくれないかな…?」
穂乃果が心配そうにオレに許してやってくれと言ってくる。
絶対許さねぇって思ってたけど、ここまで泣きそうな顔をして深々と頭を下げられたら怒りたい気持ちはどこかにすっ飛んでいった。
「矢澤……、いや、にこさん。頭をあげてください。」
何時までも頭を下げていられると話をしたくてもできないので、深々と下げられた頭を上げてもらう。
「実はというとオレはあなたがμ'sに加入することは個人的には反対だったんです。」
そう言うとにこさんは下唇を噛んだ。
でもこの話にはもう少し続きがある。
「でも、穂乃果たちがにこさんが加入することに賛同してくれたのならオレは何も言いません。……穂乃果たちのことよろしくお願いします。それに、こっちこそ酷いこと言ってすみませんでした。」
オレはそう言って逆ににこさんに頭を下げた。
「別にいいわよ。お互い様ってことで。それよりもあいつらにも言ったけど、私は厳しいわよ?」
「だと思います。なのでにこさん含めて穂乃果たちを『笑顔にさせるアイドル』にしてなってください。」
オレはそう言ってにこさんに和解の証として、手を差し伸べた。
「分かったわ。だからあんたも時間があるときでいいからにこ達のサポート頼んだわよ!!」
そう言ってにこさんは差し伸べた手を握り返した。
こうしてにこさん1人だった『アイドル研究部』に合併する形で穂乃果たちμ'sに新しいメンバーが加わった。
「でも、にこさんの
「何でよ!!?」
「あと、ハンバーガーショップでやった行為は刑法235条によると10年以下の懲役か50万円以下の罰金が課せられますよ?」
「…ごめんなさい。」
「はい、よくできました。」
オレはにこさんの園児をあやすように頭を撫でる。
「バカにするなぁ!!」
にこさんは頭の上に置いたオレの手を払いのけた。
………どうやらにこさんは見た目に以上にからかい甲斐のある人みたいだ。