ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
では、どうぞ~
「ぅん……」
私はカーテンから漏れる朝日の眩しさで目が覚めた。
結局昨夜亜里沙と松宮くんの言葉が頭の中でグルグル回ってほとんど眠ることができなかった。
私がやりたいこと…、それは音ノ木坂学院の廃校を守ること。
なのに何故亜里沙や松宮くんの言葉が重くのしかかるのかを考えているうちに、だんだん訳が分からなくなった。
一体私は…、
「どうしたらいいのよ…?」
その問いに答えてくれる人はいなく、呟きは空気となりかき消された。
生徒会の雑務のために朝早く学校に登校し、少し遅れて希も生徒会室に入ってきて希と雑務をこなす。
すると生徒会室のドアからノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ。」
私の返事を聞いた来客者がドアを開けた。
来客者は2年生の高坂さんに園田さん、南さんの3人だった。
「……何か用かしら?」
「えりち…。」
まさか朝からアイドル研究部のメンバーの顔を見るとは思わなかった。
希も少し心配そうに私を呼ぶ。
「生徒会長!お願いがあります。私たちにダンスを教えてください!」
「私に……、ダンスを?」
「はい!お願いします!」
3人を代表して高坂さんが用件を切り出し、頭を下げた。
どこで私がバレエをやっていたことを知ったのか…。
大方希が誰かに教えたに違いない。
私は断ろうと思い、口を開こうとしたときこの場にはいないがファーストライブで激昂した松宮くんのことを思い出した。
『テメェ生徒会長だろ!?だったら何で生徒の活動を応援してやらねぇんだよッ!!理解してやらねぇんだよッ!!!そんな奴に穂乃果たちの行動を『思い付きの行動』とかいけしゃあしゃあと言う資格なんてどこにもねぇんだよッッ!!!』
私はもう一度考え直し、高坂さんたちへ私の回答を出した。
「……分かりました。あなたたちの活動には理解できませんが人気があるのは間違いないようですし、引き受けましょう。」
「本当ですか!?」
高坂さんや南さんは私からダンスを教わることに対して、喜びの表情を浮かべる。
「ただし、引き受けるからには私が許せる水準まで頑張って貰うわよ?」
「はい!!!」
元気よく返事をして、高坂さんたちは生徒会室から出ていった。
「いいの?引き受けちゃって。」
「いいのよ。」
希が心底意外そうにしていたが、私はこれでいいと思った。
もしかしたら、何か分かるかもしれないから。
あの子たちを突き動かす何かを……。
「にゃっ!?うわわわわっ!?」
「凛ちゃん!?大丈夫!?」
「痛いにゃ~…。」
ダンスを教えている上に当たって、どのくらい踊れるのか見る必要があったので踊ってもらっている途中で1年生の星空さんって言ったかしら…、オレンジ色のショートカットの子が転んでしまっていた。
何よこれ…、全く基礎ができてないじゃない。
基礎ができてない状態でよくここまでこれたものだわ…。
「全然ダメじゃない……!よくここまで来れたわね!!」
「昨日はできてたのにー!」
昨日はできたのに今日はできない。
そんなものは勝負の世界では通用しない。
「基礎ができてないからムラが出るのよ。足を開いてみて?」
「こう?」
星空さんが座って開脚の姿勢をとったのを確認した私は、星空さんの背中を押した。
「うぎっ!?痛いにゃー!!!」
星空さんは恐ろしいくらい身体が固かった。
「これで?少なくともお腹が床につくくらいじゃないと話にならないわよ。」
「えぇー!?」
「ダンスは一旦中断。みんなの柔軟性を見せて!!」
それぞれがダンスを中断し、屋上の床に座って柔軟体操を始めた。
みんな比較的に身体が固い。
合格ラインを上回っているのは…、
「ほっ。」
「ことりちゃんすごーい!!」
「えへへ…。家で毎日お風呂上がりにやってるんだ~。」
照れくさそうに笑っている南さんくらいだ。
高坂さんは南さんを見て、感心していたがそんな場合ではない。
「感心してる場合じゃないわよ。高坂さんはできるの?ダンスで人を惹き付けたいのでしょう?」
人によっては意地悪を言ってるように聞こえるかもしれない。
でも、学校を救うということを知るためにはこのくらいでないと伝わらない。
「残り10分!!」
筋力トレーニングを挟み、片足平行立ちをやらせる。
最初こそよかったものの今はみんなが苦しそうな表情を浮かべていて
、みんなの足が笑っている。
「あっ!?」
すると1年生の一人がバランスを崩し、倒れた。
……もうこれで分かったはずよ。
「……今日はここまでよ。」
「「「「「えっ!?」」」」」
あなたたちでは人を惹き付けることはできない。
音ノ木坂は救えない。
西木野総合病院の娘さんやアイドル研究部の部長が抗議してくるが、私は2人の言い分を聞かず屋上を後にしようとした。
結局何だったのか分からなかったわね…。
「待ってください!!」
ドアに手をかけたところで高坂さんが私を呼び止める。
恨み言を言われるのかと思い、後ろを振り返るとアイドル研究部のメンバーは1列に並んでいて…、
「ありがとうございました!!明日もよろしくお願いします!!」
「「「「「「よろしくお願いします!」」」」」」
私に向かって一礼をした。
だが、私にはメンバーの人に何の言葉も言えなかった。
学校からの帰り道、私は悩んでいた。
まさかお礼を言われるなんて思ってもいなかった。
正直言うと自分たちの実力を分からせ、私自身も理解した上でスクールアイドルの活動をやめさせようとしたのだ。
けれど、お礼を言われたことで余計どうしたらいいのか分からなくなった。
家に帰ると、亜里沙がイヤホンを耳に挿して鼻唄を歌っていた。
「あ!お姉ちゃんおかえり!」
「ただいま。亜里沙、イヤホンの片方を貸して。」
私は亜里沙からイヤホンを借りて、耳に挿した。
確かこの曲は『これからのSomeday』だったかしら…?
音楽を聞いていると、亜里沙が口を開いた。
「私ね、μ'sのライブを見てると心がカーッて熱くなるの!一生懸命で、目一杯楽しそうで!!」
「そう?全然なってないわ。」
私は亜里沙の言葉を即座に否定する。
「お姉ちゃんに比べるとそうだけど…、でも!すごく元気がもらえるんだ!!」
亜里沙は笑顔でそう言った。
でも、私の目から見た映像だとまだまだだと思った。
数日後の朝、私は屋上のドアの前で立ち止まっていた。
何故だか分からないが、日が経つにつれてこのドアを開けるのに躊躇いを感じてしまう。
「にゃん?かいちょーさん?」
後ろから星空さんがやって来た。
「何しているんですかにゃ?早く行っくにゃー!!」
星空さんが有無を言わさずに私の背中を押した。
「にゃんにゃにゃんにゃにゃーん♪」
「え!?ちょっと!!」
押し込まれるように入った屋上では、メンバーが歓談しながらウォーミングアップをしていた。
「あ!生徒会長!おはようございます!」
「まずは柔軟体操からですよね?」
高坂さんが私に挨拶をし、南さんが練習内容の確認を取ろうと私に聞いてきた。
「…、辛くないの?」
「えっ?」
私が溢した呟きに高坂さんは反応した。
「毎日昨日みたいな練習になるかもしれないのに、上手くなるなんて保証はどこにもないのに…。どうしてあなたたちはここまで辛くて地味な練習を頑張れるの?」
「やりたいからです!!」
高坂さんは間髪を入れず、答えた。
答えた彼女の目は一点の曇りもなく、澄んでいた。
「確かに練習はキツいですし、身体中痛いです!!生徒会長が言う通り上手くなる保証なんてどこにもないかもしれません!でも廃校を阻止したい、音ノ木坂学院を救いたいという思いは生徒会長にも負けません!!」
『私ね、μ'sのライブを見てると心がカーッて熱くなるの!一生懸命で、目一杯楽しそうで!!』
『すごく元気がもらえるんだ!!』
あぁ、亜里沙が言っていた意味がやっと分かった。
何故彼女たちがここまで人気があるのか…。
何故彼女たちから元気が貰えるのか……。
「私、急用を思い出したわ。」
そう言って私は静かに屋上を後にした。
Side out
~Side 東條 希~
えりちにバレないようにこっそり屋上へ行ったが、えりちの声が聞こえなかった。
責任感が強いえりちがコーチをサボるとは到底思えず、生徒会室へ向かった。
すると生徒会室の前でえりちを見つけた。
「ここにおったんやね…」
「希……」
うちは常々気になっていたことを聞いてみた。
「うちな、えりちと友達になって生徒会一緒にやって来てずっと思ってたことがあるんや。えりちはホントは何がしたいんやろって……」
「……!」
うちはえりちがほんの少しだが目を見開いたのを見逃さず、えりちに畳み掛けた。
「えりちが頑張るのはいつも誰かのためばっかりで…、いつも何かを我慢していてばっかりで…、全然自分の事を考えてなくて…。学校のことだってそうや。学校を存続させようとするのだって生徒会長としての義務感から来るもんなんやろ!?だから理事長だってえりちのこと認めなかったんと違う!?」
気づけばうちもヒートアップしていて、言葉に熱がこもっていた。
「えりちの…、えりちが本当にやりたいことは一体何なん!?」
うちがもう一度えりちに問いかけた。
すると今まで黙って聞いてくれたえりちが口を開いた。
「何よ……!どうにかしないといけないんだからしょうがないじゃない!!!!」
今までで聞いたこともなかったような声だった。
怒り、戸惑い、そして何かを圧し殺そうとしている声。
「私だって、好きなことだけをやってそれだけで何とかなるならそうしたいわよ!!!!」
そう叫んだえりちの目なら涙が溢れ落ちた。
「自分が不器用だっていうのは分かってる!でも…!今さらアイドルを始めたいなんて言えると思う……?」
するとえりちは私に背を向けて、走り出してしまった。
「えりちっ!!!」
うちの制止の声を振り払うように、走って、走って…。
うちは追いかけようとしたが、それは叶わなかった。
今うちがえりちに追い掛ける資格なんてあるのだろうか…?
もしあったところで何て声をかけてやればいいのだろうか…?
さっきえりちが叫んでいたこと。
あれが彼女の本心なのには違いがない。
でも、どうしたらいいのだろう…。
……『何か困ったことがあればそこに連絡下さい』
そうや……!彼なら、彼ならこの状況を打破してくれるかもしれない……!!
うちは生徒会室に入り、スマートフォンの電源を入れる。
そして登録されている電話帳の中から彼の名前を見つけ、祈るように電話を掛ける。
ワンコール、ツーコール。
僅かな時間なのに酷く長く感じる…。
聞き慣れた呼び出し音が一向に鳴り止まず、諦めかけたとき電話が繋がった。
『はい、もしもし?』
Side out