ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
食事と明日の行動についてのミーティングが終わり、お風呂に入って身体のケアをしているが、何だか夢の中にいるような気分だ。
まさか自分がインターハイで優勝するなんて全く思いもしなかったからだ。
何だか優勝しちゃっていいのかな?……って。
「おーい、松宮ー」
「あっ!?はい!何ですか!?」
キャプテンがオレを呼ぶ声で、オレは現実の世界に戻った。
「さっきから電話が鳴ってるぞー。早く電話に出ろ」
「へ?」
キャプテンに言われるがままに、スマートフォンを見てみると電話が鳴っていた。
番号は……、知らない番号だ。
誰だろう?
「はい、松宮です」
オレは身の覚えのない番号からかかってきた電話に応対した。
『にゃーんにゃーんにゃーん!こんばんは、そーたせーんぱいっ♪』
オレのことを『そーた先輩』と呼び、普段から『にゃ』とつけて話すのはオレが知りうる限りじゃ一人しかいない。
「……凛ちゃん?」
『うんっ!勇気凛々、星空 凛だにゃ!』
電話をかけてきたのは、まさかまさかの凛ちゃんだった。
オレはホテルの部屋を出て、歩きながら談話室へと向かう。
「どうしたの?それに番号は誰から……?」
『おめでとうって少しでも早く言いたかったから電話しちゃった!それに番号は希先輩にこっそり教えてもらったんだにゃ!』
わざわざそんな事のために電話をくれたのか…。
次に会ったときに言えばいいものを……。
でも、祝ってもらえるということは悪い気はしない。
『改めてそーた先輩っ!優勝おめでとうだにゃ!!』
「うん……、ありがとう」
『あれれ?何だか嬉しくないように聞こえるような……。もしかして、凛からのお祝いじゃ嫌だった……?』
電話越しでも、ネコミミを生やした凛ちゃんが垂れたネコミミと共にシュンとしているのがイメージできる。
「そんなことないさ。まさか電話でお祝いしてくれると思ってなかったからすっごく嬉しい。嬉しいんだけど……」
『嬉しいんだけど……?』
「何だか他人事のような気がしてさ……。何だか優勝しちゃっていいのかな?って気がしてて」
未だに自分が優勝したなんて信じられないくらいだ…。
『そんなことないと思うけどなぁ……』
「へっ?」
オレが言ったことに対して、凛ちゃんは平然と答えた。
『だって凛、知ってるよ?そーた先輩がこの大会に向けて練習を積み重ねてきたってことを。だってそーた先輩は日本で一番真剣に練習してきたんだもん。だから優勝できたんじゃないかにゃ?』
「…………」
『だから胸張っていいと思うにゃ。「オレが優勝したんだぞー」って』
「ハハッ…。今のオレの真似か?」
凛ちゃんは全然似てないオレの物真似を披露し、それを聞いたオレは思わず笑いが込み上げてきた。
『あー!!今、バカにするように笑ったにゃー!』
「だって全く似てねぇんだもん。オレの声のトーンはもっと低いぜ?」
『うぅー!!次モノマネするときはぜーったいに似せてやるんだからー!!』
「おう。やれるもんならやってみろよ」
凛ちゃんと軽口を叩いているうちにオレは、自然と笑えるようになっていた。
それからオレがいない間のμ'sのメンバーの話や、インターハイの宿舎で起きた珍エピソードを話したりしているうちに寝るにはいい時間帯になっていた。
「凛ちゃん明日練習あるんでしょ?なら早く寝なきゃ」
『えぇー?凛、もっとそーた先輩とお話ししたいにゃー……』
「わがまま言うんじゃありません。海未に怒られてもいいの?」
『海未先輩は怒るとすっごく怖いから嫌だにゃっ!!』
自分から言っといてあれだが、海未が怒った時は男のオレでも竦み上がるくらいの威圧感を纏うからなぁ……。
怒らせなければ面倒見のいい優しいお姉ちゃんみたいな感じなのに…。
海未は不憫。
何だか某動画サイトのタグにありそうだな、うん。
「なら早く寝なきゃ。夏の疲労は意外とダメージでかいんだから」
『はーい……』
凛ちゃんは渋々とだが、素直に返事をした。
うん。素直なことはいいことだ。
どっかの赤毛のお嬢様も見習ってほしいものだ。
『それじゃ、そーた先輩っ!おやすみなさい!』
「あぁ、おやすみなさい」
これっきり電話のスピーカー部分から電子音が流れてきて、オレはスマートフォンをハーフパンツのポケットに入れて部屋に戻った。
そこにはすでに眠っているキャプテンと、枕元にキャプテンの筆跡で 『松宮、爆ぜろ』と赤のボールペンで大きく書かれた1枚の紙が置かれていた。
……キャプテン、知り合いの女の子に電話するのがそんなにいけないことなんですか……?
日が変わって翌日。
昨日の優勝の余韻に浸かりたいはやまやまなんだが生憎今日から3日連続で400リレーのレースが控えており、オレが出るもう1つの個人種目である200Mがある日だと1日に4本も走らないといけないという非常にタフな状況だ……。
オレは試合前はリラックスしていて、ウォーミングアップの段階から徐々に気持ちを高めていった方が成績が出しやすいタイプだと思っているので今はへにゃっとした感じでスタジアムに来ている。
「……と言うわけだ。それまでテントで他の選手を応援したり、自分の出走に合わせてアップしたりするように。以上、解散!」
やっべ……、キャプテンの話全く聞いてなかった。
宿舎に帰ろうにもここからバスで30分くらいあるし、何もやることがないんだよな…。
かといって女子選手のお尻や胸をまじまじと見るような趣味も、役員となっている地元の中学生や高校生をナンパするような度胸も持ち合わせていない。
となると、やることは1つか…。
オレは自分が出走するレースのウォーミングアップが始まる前まで応援することを決めチームで持ってきたメガホン1つと貴重品を持って、日の当たらない場所へと向かった。
「よし、お前ら準備はできたか?」
「「「押忍」」」
インターハイ競技2日目最後の種目となった400リレー。
キャプテンに短距離チーフ、副部長の3人の先輩とオレの4人は小さい円を作って気持ちを高めていた。
「いいか?相手は熾烈な地方予選を勝ち上がってきた猛者ばかりだ」
「「「……」」」
キャプテンの言葉が小さい円の中に流れる。
「だが、それは俺たちも同じだ」
「「「押忍」」」
「行くぞ!!」
「「「押忍ッ!!!」」」
オレたちは小さく鼓舞し、それぞれのポジションについた。
~Side 星空 凛~
「かよちん!早くするにゃ!」
「凛ちゃん、待って~……」
かよちんの困った声が後ろから聞こえてきているが、そんなのお構いなしにかよちんの手を引いて走る。
μ'sの練習を終えた凛たちは、凛の家のパソコンを使って今日最後の種目を見ることにしていたんだけど思ってたよりも練習が長かったためリレー種目に間に合うかどうか微妙なラインにいた。
早くしないとそーた先輩の走る姿が見られないにゃ!
「超特急凛ちゃん号、はっしーん!!」
「り、凛ちゃん!?うぅ……ダレカタスケテー!!」
結果は無事に間に合い、家に辿り着いた。
そして急いでノートパソコンを立ち上げ、公式サイトにアクセスする。
するとちょうど、そーた先輩がいる学校がスタートする直後だった。
1走の人が2走の人にバトンタッチをした。
1走の人が出遅れた分を必死に追いかけようとしていると、ある疑問に気付いた。
あれ?そーた先輩は今日でないのかな?
そーた先輩が走ってないのが少し疑問に思っていると、バトンはアンカーに渡された。
アンカーを任されていたのは、凛の目的であるそーた先輩だった。
そーた先輩は風で短めの髪を逆立たせながら走り、その勢いそのままにゴールした。
「やっぱりそーた先輩は速いなぁ……」
「そうだね……」
凛が思わず呟いた言葉をかよちんが拾い上げるように同意してくれた。
でも、かよちんはすぐに別のことを聞いてきた。
「凛ちゃん?」
「なぁに?かよちん?」
「壮大さんのこと、どう思ってるの?」
「……え?」
いたって真剣な顔つきをしているかよちんのいきなりの質問に言葉を詰まらせる。
どうって……。
何か考え事をしていたと思ったらいきなり叫び出したりするちょっぴり変態さんで、海未先輩やたまに真姫ちゃんにちょっかい出して反応を楽しんでる意地の悪い人で…。
でも、μ'sのメンバーのことを誰よりも心配してくれて絵里先輩やにこ先輩がμ'sのことを見下した……?時は物凄い勢いで怒ったりして……。
それで一緒にいて楽しくて……。
それで…、……それで?
「あれ?あれれ……?」
何が何だか分からなくなってきたにゃ……。
パソコンはチームの人と一緒に笑っているそーた先輩が写し出されているけど、そーた先輩を見ようとすると何だか恥ずかしくてついつい目を背けてしまう。
「壮大さんのこと、好きなの?」
「分かんないにゃ……」
「ふふっ……。凛ちゃんは知らないだろうけど、壮大さんを見てる時すっごく集中していて目をキラキラさせながら見てるんだよ?」
「えぇっ!?そ、そうだったの!?」
凛、全ッ然知らなかったにゃ!
確かにそーた先輩を見ている機会は多いとは思うけど!
でも!目をキラキラさせているなんて知らなかったにゃ!
「凛ちゃん」
頭の中がこんがらがっているとかよちんに呼ばれてそちらを見ると、とても柔らかい笑顔を向けていた。
「頑張ってね?」
「頑張るって……何を?」
かよちんは凛の疑問には答えてくれず、ただただ笑っていた。
凛はその意味が分からず、ただただ首を傾げるしか無かった。
~Side 小泉 花陽~
私は凛ちゃんの家を出て、帰宅途中で考え事をしていた。
『凛ちゃんはきっと、壮大さんに恋をしている』。
壮大さんを何か特別な目で見ているのは、きっと凛ちゃんだけじゃない。
私の見る限りでは、今のところは穂乃果先輩とことり先輩だけだけどもしかしたら海未先輩や真姫ちゃん…、下手したら絵里先輩もそうなる可能性があるのかもしれない。
私も最初はカッコいいなぁ……とは思っていたけど、私のは『憧れ』であって『恋』ではない。
でも凛ちゃんは恋心に気付いたら、きっと身を引いてしまうだろう。
凛ちゃんにはまだ『あのトラウマ』が残っている。
だからそれを乗り越えるまでは、いつも支えられっぱなしの私が支えてくれている凛ちゃんを支えてあげないと…。
私は人知れずにこっそりと決意し、改めて家路についた。