ラブライブ!~Miracle and Track~   作:K-Matsu

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第25話 最終日前編 激励と敗北

イヤホンから流れてくるのは、μ'sが最近練習している『No brand girls』という楽曲を耳にしながらチームの名前が入ったクロスブレーカーを着込み、サブトラックの芝生を走っている。

 

長いようで短かった気がするインターハイも残すところ最終日のみとなった。

 

あ?何か時間が飛んでるけど3日目はどうしたのかって?

 

2日目とほぼ同じような感じだったから話さなくてもいいだろ?

 

違うことがあるとするなら、オレはリレーの準決勝が行われたことくらいだ。

 

結果から言うと、決勝レースには出られる。

 

準決勝で走った同じ組のチームの中で、2位になった学校がバトンを渡す際によるテイクオーバーゾーンの違反で失格となり3位に入っていたオレたちが着順判定とは別に繰り上がり決勝進出と言うわけだ。

 

そんないざこざはあったが、気持ちを切り替えて臨む最終日の今日は200Mの予選から始まる。

 

さらに言えばオレは予選1組目。

 

朝イチからトップギアに持っていかないということなので、いつものレースよりも入念なウォーミングアップをしていると言うわけだ。

 

それにしてもこの曲いいな…。

 

なんつーか…、目の前に立ちはだかる壁をブチ破っていくような勢いが出てきそうな感じだ。

 

根拠のない自信が沸いてきたところで、長めのジョグから身体の関節を解していく動的ストレッチをすることにした。

 

 

 

『男子200M 予選1組』

 

スタジアム内のアナウンスによる選手紹介も済んだところで、いつものスタート準備に入る。

 

一連のルーティーンを行い、ピストルの合図と共にスタートを切る。

 

100Mと違い、200Mはいきなりカーブしながら走る。

 

転ばないように身体を傾けつつ、スピードを乗せていかないといけない。

 

かといって、序盤から飛ばしすぎると後半に失速してしまう。

 

でも実はオレ……、100Mより200Mの方が得意なんだよね。

 

120Mのカーブ区間が終わり、残り80Mの段階で前と身体1つ分離れて3着についていた。

 

確実に準決勝進出を決めるためには、2着に入って置く必要がある。

 

オレは少し力を入れ、前を走っていた選手を抜いて2着に上がりそのまま力を少し抜いてゴールした。

 

電工掲示板には着順とタイムが並べられており、オレの名前は無事に上から2つめのところにあった。

 

「っし!」

 

とりあえず準決勝に進出することを決めたことに対し、拳を握り小さくガッツポーズをする。

 

予選から約2時間半後に行われる準決勝も力を入れて走り、決勝に進出することができた。

 

 

 

 

 

「あ。松宮ー?」

 

準決勝を終えて、決勝まで残り少ない時間の間に補給をしているとさっきまで400ハードルの準決勝に出走していたチーフが何かを思い出したかのようにオレの隣にやってきた。

 

チーフは残念ながら400ハードルの決勝に進めなかったが、最後の種目である400リレーに切り替えていたみたいだ。

 

「チーフ、お疲れっす」

 

「おう。それにしてもさすがだな、お前」

 

「あざっす」

 

チーフは昼メシとゼリードリンクを持って、座った。

 

「そう言えば、お前のスマホ結構鳴ってたぞ?」

 

「え?マジっすか……?」

 

チーフがサラッと言ったことにオレは申し訳ない気持ちになった。

 

電話をかけてきた相手に何だか悪いことしてしまったな…。

 

オレはバッグからスマートフォンを引っ張り出し、電源を入れると留守番電話とメッセージが入っていた。

 

まずはメッセージの方。

 

送り主はμ'sのメンバーみんなからだった。

 

今日は練習じゃないのか?

 

もしかしてみんなで見て一斉にメッセージを送ったのか?

 

そう思い、メッセージを開いた。

 

穂乃果の『ファイトだよっ!』や希さんの『頑張ってなー!』と言ったシンプルな激励だったり、にこさんの『ここまで来たら優勝するのよ!』や真姫の『ベストを尽くさないと承知しないんだから……!』と言った普段はツンケンしてる2人の素直な激励に思わず笑ってしまったり……。

 

他にも絵里さんや海未、ことりに花陽ちゃんも激励のメッセージが入っていたのだが1つ気になったことがあった。

 

凛ちゃんのメッセージだけがない。

 

どうしたんだろう……と思い、今度は留守番電話に繋いでみた。

 

表示された電話の相手は……、

 

 

 

 

 

『星空 凛』。

 

 

 

 

 

再生ボタンを押して、電話のスピーカー部分を耳に当てる。

 

『にゃっ?もういいのかな……?えっと、そーた先輩まずは決勝進出おめでとうだにゃ!』

 

ありがとう、と心のなかで返事をする。

 

『今日はこっちでは余りにも暑いからってことでμ'sの練習がなくて、ずーっとってわけじゃないけどそーた先輩の姿見てたんだにゃ!』

 

だからみんなもネット中継を見て示し合わせなかのようにメッセージを送ってきたのかな…。

 

『でねでね?凛もメッセージ送ろうかなと思ったんだけど、みんな送るかもーって思って裏をかいて留守番電話にしてみたんだにゃ!』

 

別に裏も表もないと思ったら負けなのか……?

 

『わっ……、もう残り少ないのかにゃ…。そーた先輩決勝も頑張ってください!ファイトだにゃ!!』

 

それを最後に留守番電話が終わり、スマートフォンをバッグのなかに閉まった。

 

「誰からだったんだ?」

 

「知り合いからでした」

 

チーフがこちらを見ずに聞いてきた。

 

「もしかして出発の日に見送りに来てくれたオレンジのショートカットの娘か?」

 

「まぁ、そんなとこです」

 

「ふーん……。その娘は何だって?」

 

「頑張れ。だそうです」

 

オレはそれっきりテントからサブトラックに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

個人種目最後のレースとなる200M決勝。

 

目を閉じて極限まで集中力を高めていく。

 

深呼吸を1度、2度と繰り返す。

 

水の中にいるイメージがいつもより鮮明に、そして深いところにいる。

 

よし、行こう。

 

オレは目を開けて、自分のスタート場所に向かって歩き始めた。

 

 

 

スタート地点に着いてすぐ、回りを見渡してみた。

 

最終日ということもあって朝から大勢の人がスタジアムを埋め尽くしている。

 

そしてすぐに足元に置かれているスターティングブロックの足を置く

場所を調整し、1度スタートを切ってみる。

 

よし、問題ない。

 

あとはスタートするだけだ。

 

決勝に残った選手全員が準備し終えたところで、聞き慣れた声のお姉さんによる選手紹介のアナウンスがスタジアム内に流れ呼ばれた選手は手を上げたりジャンプしたりしている。

 

オレは今回は人差し指を高々と掲げてみた。

 

『On your marks……』

 

スターターの声に合わせて、スターティングブロックに足を乗せる。

 

熱を吸い込んだトラックで手が火傷しそうだ……。

 

『Set……』

 

腰を上げて、いつでも電子ピストルがなってもいいように出来るだけ全身の力を抜いておく。

 

あっちぃ……。吸い込んだスタジアムの熱気でやられそうだ。

 

まだか……!スタートはまだか……!!

 

そして電子ピストルの音が聞こえた瞬間、オレは完璧なタイミングでスターティングブロックを蹴った。

 

スタジアム内が声援や歓声に包まれる中、出来るだけ上体が起き上がらないように加速しつつカーブを曲がっていく。

 

1つ右隣にいた選手と並びながらカーブを走っていく。

 

カーブが終わり、残り80Mのストレートに差し掛かるとオレの前には1人走っていた。

 

確かあいつは今大会の200Mの全国1位の選手だったっけか……。

 

めっちゃくちゃ速いけど、オレだって負ける訳にはいかない。

 

ストライドを広げ、コーナリングでつけた加速力を最大限に生かして足を運ぶ。

 

クッソ、追い付かねぇ……!!

 

前を走る相手はとても滑らかなフォームで走り、なかなか差が縮まらない。

 

残り40Mでやっと追い付き、そのまま並走する。

 

チィッ!粘ってねぇで早くタレろよ!!

 

オレの思いとは裏腹に、驚異的な粘りを見せて続ける。

 

残り10M……。

 

負けて……たまるかぁぁぁぁあっ!!!

 

最後の最後まで粘る相手に、食らいつくように振り落とすようにトラックを蹴り続けた。

 

そしてそのまま、オレも相手もフィニッシュラインを越えた。

 

フィニッシュラインを越えてから減速するようにブレーキをかけ、止まってから電工掲示板に目を向けた。

 

結果は……、0.01差でオレの負けだった。

 

勝った相手は涙を流しながらウィニングランを走り、負けたオレはトラックに一礼をしてからその場から立ち去った。

 

相手は確かに速かったが、スピードだけならオレも負けているとは思わなかった。

 

でも、相手の方がより『勝ちたい』という気持ちが強かったということだ。

 

「よっ、惜しかったな」

 

「キャプテン……」

 

次の種目に出るキャプテンがオレに声をかけてきてくれた。

 

「悔しいか?」

 

悔しいか悔しくないかと言われれば、とても悔しい。

 

2秒とかなら練習が足りなかったな……と思えるのだが、0.01秒差で負けた経験なんて今まで無かったから今になってものすごく悔しさが込み上げてきた。

 

「……悔しいっす。ものすごく」

 

「そうか……。でも、まだ落ち込んでいる暇はねぇぞ」

 

悔しさで泣きそうになったオレは、キャプテンの言葉でハッとする。

 

そうだ。まだオレのインターハイは終わっていない。

 

まだ400リレーが残されている。

 

「落ち込むならリレーが終わってからにしろ。リレーが始まるまで気持ち切り替えとけよ、このバカ」

 

オレの肩をポンと叩いてから、キャプテンはオレに背を向けてスタジアムへ入っていった。

 

オレは自分の両頬を思いっきり叩いて、気持ちを切り替えるべく近くの水道の蛇口を捻り水を思いっきり被った。

 

「……うっしゃ!!」

 

出てくる水を止め、手櫛でわしゃわしゃと水気を切って気合いを入れてからリレーに向けて先にアップを始めていたチーフと副部長のところに走って向かうことにした。

 

 

 

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