ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
音ノ木坂学院の学校祭前日。
今日も1日中雨だった。
まるでことりの事で海未と話した日のような天気だった。
あの日以来オレ自身の都合もつかず、音ノ木坂学院へ足は踏み入れていない。
学校祭のライブに向けた練習や調整は比較的順調らしいのだが、海未や絵里ちゃんの話によると穂乃果が熱を入れすぎている節があるらしい。
休憩中でも一人だけぶっ通しでダンスの練習に励んでいるのだとか……。
「ふぅ……」
一人自室にこもって最近買った本を読んでいるのだが、どうも気分が乗らない。
日に日に心の靄が濃くなっていくような感じだ。
気分を変えるべく、本を置いて筋トレをしようとシャツを脱ごうとした……
~♪
その時、スマートフォンが鳴り出した。
すぐに切れない辺り、どうやら電話のようだ。
電話をかけてきたのは…、
「穂乃果?」
学校祭のライブを見に来てくれっていうのだろか?
「もしもし?どうした?」
すると、電話の向こうから聞こえてきたのは穂乃果より少し幼い声だった。
『壮にぃ?私、雪穂だよ』
「雪穂?どうした?また勉強を教えてほしいのか?」
『今日は勉強って気分じゃないかな?それより、お姉ちゃんそっちに行ってない?』
「いや?穂乃果は家には来てないけど…何かあったのか?」
『傘も指さないで家を飛び出してから結構時間が経つから、もしかしたら壮にぃの家にいるのかなーって聞いてみたんだけど…』
雪穂の話を聞いて、オレは思わず耳を疑った。
そしてそれは間を置かず、これから起こりうる可能性の1つが頭に浮かんだ。
「……夏穂さんはいるか?」
少しだけ声のトーンを落とす。
『おかーさんなら下にいるけど……』
「ちょっとだけ替わってくれ」
電話越しから『おかーさーん!壮にぃが替わってくれってー!』と聞こえる。
『もしもし?壮大くん?』
「夏穂さん、穂乃果が高坂家を飛び出してから何分位経ちましたか?」
『今でちょうど1時間くらいかしら……』
最悪だ。
こんな雨の中、1時間も外にいて走っていたら着ている物が濡れるだけでなく身体の芯まで冷えてしまっているかもしれない。
「タオルと暖かいお風呂とか、とにかく暖を取れるような物を用意しておいてください」
『分かったわ……。壮大くんはこれからどうするつもり?』
「連れ戻して来ます。今すぐに」
オレは電話を切り、寒くない格好をしてから傘を指してとある場所に向かった。
「……いた」
穂乃果はすぐに見つかった。
神田明神の階段を駆け上がったり、駆け降りたりしているところだった。
「穂乃果」
「うわぁっ!?」
後ろに近づき、穂乃果を呼ぶと飛び上がるように驚いた。
「そーちゃん!?ビックリさせないでよー!!」
「何してんの?こんなとこで」
服装や履いているシューズから察するにランニングをしているようなのだが、何故ランニングをしているのか理由がサッパリ分からない。
「ラブライブに向けて走り込みをしてたとこだよ!」
「……こんな雨の中で、か?」
答えを聞いて少しばかり頭に血が上ってきてしまった。
ましてや学校での練習でも海未や絵里ちゃんの言うことを聞かずに一人練習をぶっ続け、学校祭のライブ前日で雨だと言うのに傘も指さず走り込んでいて…。
「ちょっとだけならいいかなーって思ってさ…。ランキングを見たらいてもたってもいられなくなっちゃって!」
あぁ、もうダメだ。
我慢の限界だ。
「穂乃果……、帰るぞ」
また走り出そうとしている穂乃果の手を掴み、強引に傘の中に入れる。
「きゃっ…!そーちゃん、何で止めるの!?
穂乃果は小さく悲鳴を上げ、頬を膨らませながら抗議する。
「何でもハンデもあるか。身体冷え切ってんじゃねぇか」
オレは穂乃果が着ていたパーカーを脱がせ、その上にオーバージャージを着せる。
「でも!これくらい大丈夫だよ!!」
「大丈夫じゃないから止めたんだよ。それに、気付いてないとでも思ったか?」
「何を……?」
「足、フラついてんぞ?」
「っ!?」
上手く隠し通せていたと思っていた穂乃果は図星を突かれていた。
雨に当たって濡れてるのにも関わらず足がフラついていて、少し顔も赤い。
そんなバレバレな状態で隠し通せる訳ねぇだろうが、まったく……。
「ともかく今日は明日に備えて少しでも休む。分かったんなら早く帰るぞ?雪穂も夏穂さんも心配してたぞ」
「うん……」
ようやく観念したのか傘の下で大人しくなった穂乃果を連れて、高坂家へ連れ戻すこととなった。
「壮にぃ、お姉ちゃん大丈夫かな?」
雪穂が心配そうな顔で上に目線を向けた。
穂乃果を連れ戻したついでに夏穂さんのご好意で高坂家へお邪魔した。
穂乃果はオレの言うことを聞いて、ご飯を食べてお風呂から上がったら素直に眠った。
オレは久々に雪穂とテレビを見たり、トランプをしたりして遊んでいるところだ。
「……十中八九大丈夫じゃないだろうな」
穂乃果は明らかに風邪をひいてしまっている。
「明日お姉ちゃんたちは学校でライブするんだよね?」
「学校祭だからな。雪穂は見に行くのか?」
「うん。亜里沙…、絵里さんの妹と一緒に見に行く予定」
「オレも一緒に行っていいか?」
ここ最近胸騒ぎが酷かったのだが、ここに来て最も大きな波となって襲いかかってきている。
それはよい傾向へ傾くのか、悪い方向へ傾くのか……。
どんな結末でも受け入れると言ってしまった以上、この目でシッカリと確認しておかなければならないと思っている。
「いいと思うけど……、もしお姉ちゃんがライブの途中で倒れたりしたらどうなっちゃうの?」
「それはその時になってみないと分からない。けど、これだけは断言できるのは……」
「できるのは…?」
「
そう呟いたオレは、中から窓を眺める。
雨はまだ止んでいなかった。
学校祭当日。
オレと雪穂は音ノ木坂学院の校門前にやって来ると、手をブンブン振る女の子がいた。
「ゆーきほー!!」
「頼むから大声で呼ぶのは辞めて……」
「だってライブだよ?μ'sだよ!?」
雪穂は自分の生江を大声で呼んだ女の子を宥めていた。
「ところで雪穂、隣のお兄さんは……彼氏?」
「ブハッ!?」
唐突に降下された爆弾に思わず吹き出してしまった。
「違ーう!この人は近所のお兄さんの…!!」
「松宮 壮大だ。キミのお姉さんにお世話になってるよ」
「壮大さん?お姉ちゃんの話でいつも出てくる…、あの壮大さん?」
目の前の女の子は超ピュアな目で首を傾げる。
「もしキミのお姉さんがここの生徒会長で、μ'sのメンバーの絢瀬 絵里さんならその壮大さんであってる……と、思う」
「そうだったんですか!?お姉ちゃんがお世話になってます。絢瀬 絵里の妹の
ペコリと頭を下げる女の子が昨日雪穂がチラッと言っていた亜里沙ちゃんのようだ。
絵里ちゃんの妹ということもあって、絵里ちゃんと同じくらいの背丈なのかな?と思っていたが、雪穂と同じくらい小柄な女の子だった。
「とりあえず学校の中に入ろっか?」
「「はい!(うん!)」」
「あっ!もしかして、キミが松宮くん?」
雪穂と亜里沙ちゃんとは別行動で学校を見て回っていると、後ろから3人組の女の子に話しかけられた。
「ん?確かにオレは松宮だけど…、キミたちは?」
「私たちは穂乃果たちのクラスメートで、松宮くんと同じμ'sのサポートをしてるヒデコと…、」
「フミコです」
「ミカだよー!!」
えっと…、おでこが出ているのがヒデコちゃんで、ポニテにしているのがフミコちゃんで、襟足でぴょこんと小さくまとめているのがミカちゃんでいいのかな…?
「今日もライブのサポートをするのか?」
「もっちろん!生憎の雨だけど、穂乃果たちがシッカリ輝けるように頑張ろうって言ってたんだよ!」
オレの問いかけにミカちゃんが答える。
「そうか…。あいつらが迷惑駆けるかもしれないが、オレからもよろしく頼む」
「まっかしといてー!じゃ、またライブでね!」
ヒデコちゃんがグッと拳を固めてオレにそれを見せると、向こうへ行ってしまった。
あの子達がサポートをしていたのか…。
いい友達を持ったな…、穂乃果。
……おっと、ここで感傷に耽っていてもしょうがないな。
ライブまで時間もないけど、メンバーに顔を出してこようかな?
「よっ」
アイドル研究部の部室のドアを開けると、ライブ衣装に着替え終わっていた。
「壮大、来てくれたのね?」
「えぇ。9人揃ったライブを見るのは初めてですから」
近くにいた絵里ちゃんと話し込む。
部室の隅っこで海未とことりが何やら話し込んでいる。
留学の事を切り出す機会のことについて話しているのかもしれない。
なら、オレはあそこに近づくべきではないな。
「ところで、穂乃果は見なかった?」
絵里ちゃんに言われ、ここに穂乃果がいないことに気づいた。
でも、事情を知っているオレはバカ正直に風邪をひいて遅れているなんて言えるわけがない。
「さぁ?大方今日のライブで興奮して眠れなかったとかなんじゃないですかね?」
「なら、いいんだけど……」
「おはよ~……」
噂をすればなんとやら、穂乃果は制服姿で部室に入ってきた。
「穂乃果!」
「遅いわよ!あんた今まで何してたのよ!」
「ごめん、にこちゃん……。おっとっと!」
穂乃果はバランスを崩し、近くにあったパイプ椅子に寄り掛かるように座り込んだ。
「穂乃果ちゃん!?大丈夫!?」
「ありがとうことりちゃん……」
「悪い、穂乃果。足引っ掛けちまった……」
ことりが穂乃果に近寄ろうとするが、オレは咄嗟にウソをついて穂乃果が風邪をひいていることがバレないようにごまかす。
「絵里ちゃん、そろそろリハーサル始めないと不味いんじゃない?」
「え?でも……」
「穂乃果のことはオレに任せてください。急いで準備させますから」
「……分かったわ。じゃあみんな!リハーサル始めるわよ!」
みんなは元気よく返事をしてから部室を飛び出していった。
そして穂乃果は隣のスペースで着替えを始め、オレはドアに背を預けるようにして座り込む。
「なぁ、穂乃果?」
『なに?』
ドア越しに話しかけたため、穂乃果の返答は少し籠った感じになった。
ドアの向こうでは布が擦れる音が聞こえてくる。
いくら穂乃果と言えども、やっぱりどこか意識してしまう。
「風邪、大丈夫なのか?」
『少し熱と声が出しにくい感じがあるよ…』
間もなく穂乃果が向こうからノックする。
オレはすぐに立ち上がり、ドアを自由にさせる。
「これ、舐めてから行け」
オレはポケットからのど飴を取り出し、穂乃果に向かってコイントスの要領で弾き飛ばす。
「ありがとう、そーちゃん……」
穂乃果は袋からのど飴を取り出し、ゴミとなった袋を寄越すように手を伸ばす。
受け取ったゴミは、またポケットの中に仕舞い込む。
「本番当日に風邪引きやがってとか、体調管理がなってないとかいろいろ言いたいことがあるけど……」
穂乃果の頭に手を乗せ、髪の毛がくしゃくしゃに跳ねないように優しく撫でる。
「無理だけは絶対にするな。オレからお前に今言えるのはそれだけだ」
「うん…、分かった」
飴を舐め終えた穂乃果はアイドル研究部の部室からみんながいる元へと向かっていった。
いよいよライブ開演直前。
降りしきる雨の中にも関わらず、かなりのお客さんがライブを見に来ていた。
もちろんその中にはオレや雪穂、亜里沙ちゃんもカウントされている。
いよいよ始まる……。
「それじゃあ、行こう!!!」
穂乃果の掛け声と共に、ライブステージの幕が上がる。
旗の中心に大きく『μ's』と書かれた大きな旗が風で揺れ動き、その旗の下には9人の女神たちがオレたち観客に向けて背を向けている。
そして、ギターの前奏と共にライブは始まった。
『No brand girls』。
力強さをコンセプトにし、立ちはだかる大きな壁に立ち向かっていくアップテンポなナンバー。
メンバーのダンスからも力強さを感じ、観客のハートを鷲掴みにしていたと思う。
……だが、事件は『No brand girls』の全演奏が終わった瞬間に起きた。
ーーーバシャアッ!!!
「「「「穂乃果っ!?」」」」
「「「「穂乃果ちゃんっ!?」」」」
穂乃果が糸が切れた操り人形のように力なく倒れ込んでしまった。
オレはそれを見た瞬間、身体が勝手にステージへと走り出していた。
「穂乃果ッ!!しっかりしろ!」
「早く…、次の曲を……」
譫言のようにライブ続行を促す穂乃果。
「ダメだ!そんなことはオレが認めない!……絵里ちゃん!」
「ええ……!すみません!メンバーにアクシデントが起きたので、ライブを中止させていただきます!」
突然のライブ中止にざわめく会場。
「真姫ッ!!」
「な、なによ!?」
呆然とする真姫を呼びつけ、オレの近くに来させる。
「保健室はどこだ!?」
「こっちよ!!」
真姫と一緒に穂乃果を背負い、屋上から逃げ出すように保健室へと連れていく。
「ダメだよ…、ラブライブに、出るんだから……」
「穂乃果!それ以上喋るな!!」
オレはこれ以上、穂乃果の口から漏れる譫言は聞きたくなかった。
こんな状況になって……、ラブライブに出られるわけねぇじゃねぇか!!
「壮大、真姫。入るわよ?」
保健室で真姫と一緒に穂乃果の看病をしていると、制服に着替えた絵里ちゃんが静かに保健室にやってきた。
「……真姫、風邪ひくから着替えてきなよ」
「分かったわ……」
素直に食い下がり、まだ衣装のままだった真姫は制服に着替るため保健室から出ていった。
「……穂乃果の容態は?」
「今、ようやく眠ったところだ」
保健室に運び込んだ勅語に意識を取り戻した穂乃果は、ついさっきまでライブを中止した現実を受け止め切れずに崩れ落ちるように大粒の涙を流して泣いていて、ようやく落ち着いて眠りについたところだ。
「それよりも今重要なのはμ'sの処遇についての方です。比奈さん…、理事長はなんて言ってましたか?」
「これはあくまで理事長の意見なんだけど、私も理事長と同じことを思ってた。μ's…、
穂乃果のアクシデントの代償はオレたちにとって余りにも重く、最も残酷な現実だった。