ラブライブ!~Miracle and Track~   作:K-Matsu

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第34話 溢れ出る感情

「……それはメンバーのみんなには?」

 

「伝えてきたわ。たぶん真姫も部室に残ってるメンバーから話を聞いてると思うわ」

 

ならこれでμ'sに関わる人たちには全員伝わったことになるはずだ。

 

「理事長は学校の経営者としての意見と教師としての意見を言っていたけど、今回大事なのは後者の方よ。『自分たちを、仲間をちゃんと見れていなかったんじゃないのか。こんな結果を招くために活動してきたのか。』って……」

 

オレは比奈さんの言葉が重くのし掛かった。

 

メンバー…、特に小さい頃からよく知っている穂乃果のことを自分の都合で少ししか気に止めていなかったから今回のようなことになってしまった。

 

「絵里ちゃん、すみません…。実は穂乃果が風邪を引いていたことは昨日の夜の時点で知っていたんです。それなのにオレは、穂乃果の気持ちを優先させて体調が優れない穂乃果をステージに上げてしまった。だから今回の責任は半分はオレにあるんです」

 

オレは絵里ちゃんに向かって頭を下げる。

 

「壮大だけの責任じゃないわ。私たちは自分の事にだけ一生懸命で、穂乃果の異変に気が付いてあげられなかった。それと同時に穂乃果もやる気ばかりが空回りして周りが見えていなかった。今回のアクシデントは、誰のせいでもないし、言葉を返せばみんなの責任でもあると思うの。だからあなたが責任を感じて全てを背負い込む必要は無いのよ?」

 

「…………」

 

頭では分かっている。

 

偽善や傲りだと言われるかもしれないけど、責任を感じないわけがない。

 

歯痒い思いから思わず唇を噛み、握り拳を作る。

 

「ごめんなさい…、私もまだ気持ちの整理が出来てないから今日はもう帰るわ。穂乃果のことお願いしてもいいかしら?」

 

「……はい」

 

返事を聞いた絵里ちゃんは保健室からいなくなった。

 

でも、出る瞬間に見えてしまった。

 

アイスブルーの瞳から一滴の雫が頬を伝って落ちる瞬間を…。

 

 

 

 

 

 

穂乃果の側にいるといろんな感情がごっちゃごちゃに渦巻き、自分が自分じゃなくなってしまう感じがするので適当に展示されている教室を見て回っているとアイドル研究部の部室に辿り着いてしまった。

 

その部室の電気はまだつけっぱなしだった。

 

無用心だと思い、ドアノブを捻り中に入る。

 

「にこちゃん?」

 

そこにはパソコンに向かっているにこちゃんの後ろ姿があった。

 

「壮大か…。穂乃果は?」

 

「保健室のベッドてグッスリ寝てますよ」

 

「そう……」

 

パソコンのディスプレイに写る何かを見つめているため、顔をこちらに向けずに答えるにこちゃんだったが返事に力がない。

 

「何してるんですか?」

 

「ラブライブのエントリーの取り消しよ」

 

オレはにこちゃんの行動に静かに息を呑んだ。

 

エントリーの取り消し。

 

言葉で簡単に言っているが自分たちの夢を……自分たちの成長を辿ってきた軌跡を、今にこちゃんの手で壊そうとしているのだ。

 

「でも…、ダメね。最後のページをクリックしようとしてるんだけどどうしても躊躇いが生まれちゃう」

 

にこちゃんはようやくオレのほうに向き合ってくれる。

 

一人で長い時間泣いていたのか、目の回りにはにこちゃんがよく着ているピンクのセーターで拭いたあとが残っている。

 

「オレも見ていいですか?」

 

「あんたも物好きね……」

 

「よく言われます」

 

オレが部室から立ち去らず、にこちゃんと一緒にエントリーの取り消しの瞬間を見届ける理由は1つ……。『オレたちμ'sにとっての第1回ラブライブの結末をこの目でしっかりと見届ける』ためだ。

 

「じゃあ、いくわよ?」

 

「……はい」

 

ーーーカチッ……。

 

にこちゃんがマウスをクリックした瞬間、ランキングからμ'sの名前が消えた。

 

それはすなわちμ'sの夢は道半ばで閉ざされたことを意味していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

音ノ木坂の学校祭が終わってから4日後の夕方。

 

オレは練習終わりに穂むらへやってきた。

 

「ちわーっす」

 

「いらっしゃいませー…、って壮にぃか」

 

いつぞやのように雪穂が店番をしていた。

 

最近来る度に雪穂が店番をしているような気がするのだが、雪穂が欲しいものはそんなに高価な物なのか……?

 

「穂乃果は上か?」

 

「ついさっきまでμ'sのみんながお見舞いに来てたから起きてると思うよ?」

 

「そっか……。あいつにお土産をって思って穂乃果が大好きなイチゴのタルトを買ってきたんだ。あ、もちろん雪穂の分もあるからメシ食い終わったあとにでも食べてくれ」

 

「やったー!!壮にぃ大好きー!」

 

穂乃果とはあまり似ていないとはいえ、やっぱり姉妹だと言うべきなのかオレに抱きつこうとする雪穂を適当にあしらってから穂乃果の部屋へ向かう。

 

ーーコンコン。

 

『あ、はーい!どうぞー!』

 

ノックをして返事が聞こえてきたので、ドアを開ける。

 

「そーちゃん!いらっしゃーい!」

 

おでこには熱を冷ますシートが貼られ、マスクを顎のところで外している穂乃果の姿があった。

 

「よっ、熱は下がったか?」

 

「うんっ!明日から学校に行けるよ!」

 

「お前の好きなイチゴのタルト買ってきたからメシ食い終わったら雪穂と一緒に食べてくれ」

 

「わーい!そーちゃん大好きー!!」

 

「姉妹揃って同じ反応するんじゃねぇ!」

 

穂乃果も雪穂と同じ反応、同じ行動をしたので引き剥がしてベッドに戻す。

 

穂乃果をベッドの上に戻したオレは机のイスをベッドの隣に持っていき、腰掛ける。

 

ベッドの横にあるゴミ箱の中は、パッと見だが鼻をかんだティッシュよりもプリンやチョコレートといったお菓子のゴミの方が多かった。

 

「……まさかとは思うけど、ゴミ箱の中に入ってる食べ物のゴミって今日だけでこんなに食べたって訳じゃねぇだろうな?」

 

「え?今日だけでだよ?」

 

「はぁ……。風邪で寝込んでるから美味い物食べて眠るってのは悪くはないんだけど、風邪が治ったらしっかり練習して身体絞っていこうな?」

 

「えっ!?穂乃果そんなに太ったように見える!?」

 

穂乃果は目を見開いて、ショックを受けていた。

 

「見えないけど、常に体重管理をするのもアイドルの仕事だろ?」

 

「うん……、そうだね……」

 

今まで笑っていた穂乃果だったが、『アイドル』という単語に反応したのか急に笑顔が消える。

 

「ごめんね?そーちゃん、穂乃果またそーちゃんに迷惑かけて……。実は学校祭が終わった次の日に雪穂から聞いたんだ。穂乃果が倒れたときそーちゃんが観客の間を縫うようにして穂乃果を助けに行ったって……」

 

「……」

 

「穂乃果はおバカだからラブライブのことに気を取られ過ぎて、みんなのことよく見てなかった。前日の夜も雨のなか走りに行って風邪を引いて絵里ちゃんたちの最後の学校祭を台無しにしちゃっただけじゃなくてラブライブのエントリーも取り消したって……!」

 

滅多に弱音を吐かない穂乃果が次から次へ弱音を吐き、その声がドンドン震えていく。

 

「さっき絵里ちゃんたちからその話を聞いて、嘘だと思ってパソコンを開いたらホントにμ'sの名前が無くなってて……穂乃果のせいでラブライブに出られなくなったんだって……!!」

 

オレは無意識の内に穂乃果を優しく抱き締めた。

 

何でだろうな……。

 

何故か今はこうしなければ穂乃果は壊れてしまうって思ってしまったからだろうか……。

 

「……そーちゃん?」

 

「泣きたけりゃ好きなだけ泣け。胸貸してやるから」

 

「そーちゃん……、ぐすっ……うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」

 

グリグリオレの胸元に顔を押し付け、火がついたように泣き出す穂乃果の頭を撫でる。

 

青い瞳からボロボロと溢れてくる涙は着ている制服のシャツが瞬く間に濡らしていき、穂乃果の手が握り締めている部分にはシワができている。

 

「そーちゃぁん……!そーちゃぁん……!!うわぁぁぁん!!!」

 

涙の数だけ強くなれる。

 

ガキん時に学校の音楽祭だかで歌った曲の歌詞の1フレーズだ。

 

今は泣けるだけ泣いておけ。

 

そうやって人は強くも優しくもなれるんだから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

世の中不思議なもので、悪い出来事は立て続けに起きるものだ。

 

穂乃果のお見舞いへ行った次の日の夜、不意にスマートフォンが鳴った。

 

『南 ことり』……。

 

どんな用件であれ、電話に出ないことには始まらないし自分に何を伝えようとしているのかも知り得ないので電話に出る。

 

「……ことり?どうした?」

 

『そーくん……?ちょっと話したいことがあるから、ことりの家まで来てくれる……かな?』

 

海未とことりのことについて話をした内容が頭の中にフラッシュバックされた。

 

十中八九留学のことについての話だろう……。

 

「電話じゃ……ダメだよな」

 

『うん…、とっても大事なお話だから……』

 

「分かった。すぐに向かうよ」

 

 

 

 

 

ことりの家に着いたオレは、インターホンを鳴らす。

 

家の中からことりの声でない人の声が聞こえ、玄関のドアが開く。

 

「こんばんは、比奈さ……理事長」

 

「あら、壮大くんじゃない。別に学校の中じゃないんだから名前でいいわよ?」

 

出迎えてくれたのは、μ'sのラブライブ出場辞退を提案した比奈さんだった。

 

「それよりもこんな夜遅くにどうしたの?」

 

「ことりが電話越しに大事な話があると聞かされたもんですから……」

 

「そうなの?ことりなら今お風呂に入ってるから少し時間はかかるけど、お茶でも飲んで待ってる?」

 

「そうですね。では、お言葉に甘えて頂きます」

 

 

 

 

 

比奈さんが用意してくれた紅茶に口をつける。

 

うん、美味い。

 

自分で淹れるよりも何杯も美味い。

 

彩月さんの時もそうだったが、やはり気品溢れるお母様が淹れる紅茶やコーヒーはこんなにも美味くなるのはどうしてなのか?と考え事をしていると、比奈さんがゆっくり口を開いた。

 

「おかげさまで、来年度も音ノ木坂学院は生徒の募集をすることが今日正式に決まったわ」

 

「ホントですか!?」

 

これは驚いた。

 

廃校の危機から救い出したのも、穂乃果が立ち上げたアイドル活動のお陰だ。

 

「これも壮大くんたちのおかげだわ。学校の代表としてお礼を言わせてちょうだい。壮大くん、ありがとう」

 

「買い被らないでください。オレは何もしていませんよ。お礼を言うなら発起人の穂乃果にしてあげてください。」

 

「フフッ…、あなたならそう言うと思いました。では、そろそろ真打ちと行きましょうか?」

 

比奈さんが後ろを指差し、そちらを振り向くとお風呂上がりで首から可愛らしいタオルをかけていることりが立っていた。

 

「ことり、お母さんお風呂に入ったらもう寝るから後はお願いね?」

 

「うん……」

 

比奈さんと入れ替わるように入ってきたことりは、オレが座っているイスの向かい側に座る。

 

その表情はとても険しかった。

 

「そーくん……、あのね…?」

 

「『わたし…、留学することにしました』とでも言うんだろ?」

 

オレは言うであろう台詞をことりよりも先に切り出した。

 

「知って、たんだ……」

 

「あぁ」

 

「……いつから?」

 

「最初の違和感は合宿の最終日、ことりと買い出しに行ったときだ。ずっとではないけど気にはなっていたけど点と店が線で繋がったのは夏休みが明けて最初に音ノ木坂学院に行った日の夕方、海未からことりの話を聞いたときだ」

 

まさか夢が留学に行くことだとは思わなかったがな……。

 

「もしかして、今日他のメンバーに言ったのか?」

 

「うん……」

 

「分かってくれた人はいなかったのか?」

 

「穂乃果ちゃんに『なんで言ってくれなかったんだ』って、怒られちゃって…。そのままカバン持って走って家に帰ってきたの」

 

オレが穂乃果と同じ立場だったら、きっと穂乃果のように怒っていたかもな……。

 

仲直りは……出来てる筈がないよな。

 

「よしよし、辛かったな」

 

最近よく女の子の頭を撫でてる気がするけど、気にしない。

 

ことりが座っているイスの隣に行き、今にも泣き出しそうに目が潤んでることりをあやすように撫でる。

 

「そーくん…、」

 

「ん?」

 

ことりはオレの胸元に手を添えて、オレの顔を見上げる。

 

 

 

「ことりが海外へ行っても、ことりのこと応援してくれる?」

 

 

 

 

 

 

ギャルゲーやエロゲならここで両方の選択肢を選ぶために、セーブをするのがセオリーなのだろう。

 

だが、人生にセーブポイントなんてありはしない。

 

もしことりを応援すると言ってしまえば、穂乃果や海未との絆が壊れてしまったまま海外へ行ってしまうだろう。

 

だが、残されたオレたち…、特に穂乃果はどうなのだろう?

 

後悔や自責の念に苦しめられ、ことり自身もまた『友達を裏切ってしまった』と言う十字架を背負ったまま生きていかなければならない。

 

だからオレの選択した言葉は…、

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だ」

 

 

 

 

 

 

僅か3個の平仮名で構成された否定の言葉だ。

 

オレはことりの両肩を掴み、距離を取る。

 

「……なんで?そーくん、ことりのこと応援してくれないの?」

 

「ことり、お前が合宿で夢に対しての質問をした時の答えを覚えているか?」

 

「『もし夢を叶えられるかもしれないチャンスを逃してこれからこの先後悔するよりも、チャンスに挑戦してから後悔した方が絶対いいと思ったから…』」

 

嬉しいことに、ことりはオレが言った一字一句覚えていたみたいだ。

 

「それは今でも考えは変わらない。やらないで後悔するよりはやって後悔したいし、今までオレはその下で行動してきたから」

 

「……」

 

「確かにことりはすごい。単身海外へ渡ってまで服飾の勉強をしたい!と考えて、日本を発つ覚悟を決めたことは生半可なことじゃないと思う。もし後腐れ無いと言うのならオレは全力でことりの背中を押すだろうし、もしことりが望むのなら手を取り合ってことりの夢を支えるかもしれない。けど…、」

 

オレはことりの目尻に見える雫を親指で静かに拭い取る。

 

 

 

 

「その涙が穂乃果とのケンカが原因で流している涙以外の感情が込められているとするなら、オレはことりがどれだけお願いされても応援をすることはない」

 

 

ことりは涙をボロボロと溢し、テーブルにはことりの涙が水溜まりのようになっていた。

 

 

オレはイスから立ち上がった。

 

そして再びことりの頭に手を乗せる。

 

「酷いことを言ったかもしれないが、オレはことりが嫌いだからここまで突き放した訳じゃない。ことりのことが大事だと思ったから言わせてもらったんだ……。これだけは理解してくれるか?」

 

ことりの返事はなく、代わりに頭が縦に何回か動いた。

 

「ありがとな。……じゃあ、夜も遅いしオレは帰るからな?」

 

ことり一人残して南家を後にしようとしたが、上へ続く階段の2段目に比奈さんは腰をかけていた。

 

「ことりのこと、随分とまた突き放したのね……」

 

「えぇ…、穂乃果としっかり仲直りしてもらわないと困りますからね……」

 

「優しいのね……」

 

「お世辞として受け取っておきます」

 

比奈さんとの会話を切り上げ、南家を後にした。

 

 

 

 

そして次の日、μ'sは活動停止するという報告を聞いた……。

 

 

 

 

 

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