ラブライブ!~Miracle and Track~   作:K-Matsu

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第3話 作詞と気恥ずかしさと

「お断りします!!」

 

なんやあってオレん家で籠城していた海未を引き摺り出し、穂乃果の部屋まで連れてきて開口一番に出てきたのはハッキリとした拒絶の言葉だった。

 

まぁ気持ちは分からなくはない。

 

黒歴史を掘り起こされてなお、作詞してくれなんて頼まれちゃ誰だってそうなる。オレだってそうすると思う。

 

「えー!?何でなんでー?」

 

「ぜっっっっっったい嫌です!!中学の時のだって恥ずかしすぎて思い出したくもないくらい何ですよ!?」

 

「いいじゃんいいじゃん!アイドルの恥は掻き捨てって言うし。」

 

「言・い・ま・せ・ん!!!」

 

そんな事初めて聞いたわ。

 

「それなら穂乃果が作詞をすればいいじゃないですか!!」

 

「あー…。それはー…。」

 

海未の抵抗に穂乃果は頬をポリポリと掻きながら余所見をする。

 

きっとあの事を思い出しているのだろう。

 

オレも鮮明に覚えている。

 

あれは小学2年生の国語の授業参観の時だった。

 

 

 

 

『では、今日の作文の発表者は……高坂さん、お願いします。』

 

『はい!!』

 

先生に当てられた穂乃果は元気よく返事をしてからその場に立ち上がった。

 

『ほのかちゃん、がんばって…。』

 

『ほのか、ハキハキとはっぴょうするのですよ。』

 

ことりと海未に心配そうに見つめる中穂乃果は2回深呼吸したあと、意を決した作文の出だしは……、

 

 

 

 

『おまんじゅう、うぐいすだんご、もうあきた!!』

 

 

 

 

自分の家の事の不満から始まる作文だったからだ。

 

 

 

 

 

「穂乃果に作詞は無理だと思うぞ…。痛烈な出だしの歌を歌いたければの話だけどさ…。」

 

 

あの後穂乃果は夏穂さんにこっぴどく叱られ、ガチ泣きしながらオレん家に転がり込んできた大変な目にあったんだからなぁ…。

 

 

「だったら壮大が……!」

 

穂乃果がダメならオレに来るよなー…。

 

正直のこの流れは予想できた。でもオレもダメだ。

 

「んなトレーニングジャンキーのオレにロマンあふれる詞なんてかけると思うか?」

 

自分で言っておいて情けなくなるような話だが、事実だから否定のしようが無い。

 

「だったら……ことりが……!!」

 

「ごめんね海未ちゃん…。ことりはきっと衣装を作るので精一杯になると思うから…。」

 

八方塞がりとはまさにこの事だ。

 

これで嫌が応にも海未が作詞を担当しなければならなくなった。

 

「おねがいっ!海未ちゃんしか頼れる人がいないんだよ!」

 

「ことりも時間があるとき手伝うからぁ!!」

 

「やれることは少ないかもしれない、というか足手まといになるかも知れねぇが頼む!海未だけの負担には絶対させないつもりだ!」

 

何なら今すぐにでも図書館に行って詩集を片っ端から借りて読み切った上で手伝おう。

 

ことりの純粋な気遣いには申し訳無いのだが、ことりは衣装を作ることだけに集中してほしい。

 

「いや……ですから……!!」

 

くそぅ…。

 

まだ渋ると言うのか……!!

 

こうなったらオレのポケットマネー全額叩いて海未の好物のほむまんをありったけ買ってやろうか?

 

と、考えていたらなにやらことりの様子が少しおかしい。

 

唐突に着ていた制服のブレザーを脱いでから目に涙を貯め、頬を少しだけ赤くなっている。

 

握られた小さな右手をことりのふくよかな胸元に持っていく…。

 

まさか……!!

 

「ことり!待て!!早まるなッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海未ちゃん……、おねがぁいっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁあっ!?」

 

「ちょっ!?そーちゃん!?何で穂乃果の部屋の天井まで吹っ飛んでるの!?」

 

そう。

 

これが我が幼馴染4人組の切り札(ジョーカー)にして秘密兵器(リーサルウェポン)

 

ことりの脳をトロかすようなボイスに乗せてお願いをする。

 

通称『ことりのお願い』。

 

それはあまりにも威力が強すぎてお願いされた本人だけじゃなく、回りにいる人(もしかしたら野郎限定なのかもしれん。現に穂乃果には影響してないし。)にも余波を食らってしまうという凶悪な攻撃力を誇る。

 

久しく聞いていなかったものだから耐性が薄れてしまい、耐性が薄れてしまうと今回みたいに謎の力が働いて身体が吹っ飛んでしまったのだ。

 

あ……。やべぇ、意識が…。

 

「ちょっとそーちゃん大丈夫!?」

 

「そーくん!?」

 

「壮大!?しっかりしてください!!」

 

べしゃっという効果音と共に身体が穂乃果の部屋に叩きつけられたのを目撃した穂乃果に加え、事の深刻さに気付いたことりと海未もオレのそばに駆け寄ってきたみたいだ。

 

「ああ、大丈夫だ。」

 

「ホント!?」

 

「ああ……。別にあの川を渡ってしまっても、構わんのだろう?」

 

「そーくん!それ三途の川だよぉ!!それにそれはフラグだよぉ!」

 

……なぜことりが元ネタを知ってるのか聞かないでおこう。

 

「こうなったら……壮大!すみません!!」

 

「ぐふぉぁっ!?」

 

何やら海未が鳩尾に鈍い一撃をいれたようだ。

 

だが、その一撃のお陰でオレの意識は現世に向かい急速に戻ってきた。

 

「……ハッ!?オレは一体何を……?」

 

「そーちゃん、何も起きなかったよ。」

 

穂乃果が恐怖のお化け屋敷から帰還してきたような顔付きでオレの肩に手を置いていた。

 

 

 

 

 

「それで?作詞をやってくれるのか、海未?」

 

「そーちゃん、ちゃんと自分で掃除するあたり律儀だよね…。」

 

「うるせぇ。」

 

今は茶々を入れる場面じゃないってことくらい分からんのかこのあほのか。

 

と心の中でツッコミを入れつつ、吹っ飛んだ際に溢してしまったお茶を拭き取るため穂乃果の部屋のカーペットを掃除しながら海未に確認を求める。

 

「もう……、ズルいですよ……ことり。」

 

海未は頬を赤くして、観念したように頭を垂れた。

 

そう言えば昔から海未は穂乃果には割りと甘いけど叱ってばかりだったが、ことりには穂乃果以上に甘かった。

 

その事を覚えていたことりは今回のような作戦(ぼうきょ)に出たっつーわけか…。

 

「と言うことは…!」

 

「分かりました…。やればいいのでしょう?……作詞を。」

 

「やったぁ!!」

 

「ありがとう、海未ちゃん♪」

 

「……ただし。」

 

手を取り合って喜ぶ穂乃果とことりを余所に、海未はその場におもむろに立ち上がった。

 

「ライブまでの練習メニューは私と壮大で考えますので、……覚悟しておいてくださいね?」

 

「ヒィッ!?」

 

「ちゅんっ!?」

 

すっごいいい表情で穂乃果とことりに微笑んだ。

 

なんつーか…。ドンマイ、2人とも。

 

 

 

 

 

 

あのあと少しだけ駄弁っていたけど時間も時間なので穂乃果の家で解散となり、今日の夜メシと朝メシの食材がないことを思い出したオレは近くのスーパーに行くついでに海未を家まで送っていくことにした。

 

ことりもにも送ろうか?と聞いたけど、ことりは何やら用事があるらしく丁重にお断りされた。

 

「……穂乃果たちのせいで酷い目に遭いました。」

 

すると少しだけ疲れた表情をしている海未が溜め息混じりに呟いた。

 

もしオレがさっきの海未みたいな目に遭わされたと考えると…。

 

「……お疲れさま…?」

 

自然と労いの言葉が出てきた。

 

だってオレなら断固拒否の意を示したに違いないし…。

 

「何だか労いの言葉を誘導させてしまいましたね。」

 

「いいんだ。実際海未はよくやってくれてると思う。」

 

「ふふっ、ありがとうございます。……ところで穂乃果やことりから私たちの境遇を聞いてますか?」

 

優しく微笑んだかと思ったら、急に真顔になってオレに聞いてきた。

 

「お前たちの境遇って言うと…、スクールアイドルのことについてか?」

 

「はい。実はというと学校側……、正確に言うと生徒会長が私たちのことをよく思われていないんです。」

 

それは初耳だ。

 

てっきり学校側は大賛成だと思っていた。

 

「……なんでまた?」

 

「簡単に言うと『思いつきでやっても何も変わらない。だからあなたたちが何かをしても何も変わらない。』と言われました…。」

 

なるほど…。

 

どうやら音ノ木坂の生徒会長さんはかなりの現実主義者(リアリスト)のようだ。

 

どういう人柄なのかは分からないが、オレと意見が合うことは無い人だと言うことだけは言えるだろう。

 

「生徒会長が反対してるのによくライブの許可が降りたな…。」

 

「副会長…、希先輩が生徒会長を説得してくれたんです。」

 

「そうか…。」

 

今度東條さんに会ったら礼を言わなければならないな…。

 

そうこう話してるうちに海未の家についた。

 

海未は家の門を潜ろうとしたが、オレの方向に振り返った。

 

「壮大……ありがとうございます。」

 

「……何がだ?」

 

いきなりお礼を言われたが、何のことでお礼を言われたのか分からなかった。

 

「私たちのことで、ですよ。」

 

「……ていっ。」

 

オレは海未の頭に軽くチョップし、頭の上に置いた手の甲を上に向けて海未の頭をポンポンと泣いてる子どもをあやすように撫でる。

 

「なぁ……っ!いいいいきなり何するんですかっ!?」

 

一瞬で顔が真っ赤になった海未を無視し、頭を撫で続ける。

 

「あのなぁ…。確かにお前たちの手伝いをするって言われたけど最後はオレの意思で決めたんだ。それが穂乃果じゃなくてことりがお願いしてきてもきっと聞いてたと思う。もちろん、海未がお願いに来ても聞いてたはずだ。」

 

「で……ですが!」

 

「だからお礼なんて言われる覚えは無いの。だからその代わり穂乃果が一人で突っ走らないようにことりと一緒に支えてやってくれ。……分かった?」

 

海未は何も言わずに首を縦に振ると、オレは頭に置いていた手を離す。

 

「じゃあ、また都合がついたときに顔出すから。」

 

「はい。壮大も怪我だけはしないでくださいね?」

 

それだけ言い残して少しだけ上機嫌になった海未は家に入っていった。

 

海未の後ろ姿を見ていたオレは急にさっきの自分が言ったことが恥ずかしくなってしまったので、スーパーまでの道のりをただひたすらにスピードを上げて走ることになったのはまたの機会に話すことにしよう。

 

 

 

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