ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
作曲班、作詞班についてはそんなにホイホイとインスピレーションが浮かんでくる訳ではないと思ったオレが向かった先は衣装班…、ことりたちのところだ。
「よっ、調子はどうだ?」
「そーくん、いらっしゃーい」
凛ちゃんとにこちゃんが落ちたと思われる川の畔のテントに入ると、スケッチブック片手にペンを走らせることりとすぐ側で気持ち良さそうにすやすやと眠っている穂乃果の姿があった。
ことりのペンを走らせ具合を見る限りでは比較的順調そうに見えるが…、
「よく眠ってらっしゃるな…」
「うん。穂乃果ちゃん生徒会長になってから毎日雑務とかで忙しそうだし……」
ホントは今すぐ叩き起こして『ことりを手伝ってやれ!』と言いたいところなのだが、こうも気持ち良さそうに眠っているので起こそうにも起こせない。
海未もことりも穂乃果に甘いけど、オレも大概だな……。
「ゆっくりしていきたい気もするけど、そろそろ行くわ」
「うんっ」
「穂乃果によろしくな?」
「はーいっ♪」
オレはテントから出る。
「あれ?壮大くんもう行っちゃうの?」
川岸を沿うように歩いてきた花陽ちゃんがやって来た。
両手に持つかごの中には白いコスモスの花が入っていた。
「そのコスモスは?」
「キレイだったから摘んできてみたの。少しでもことりちゃんのアイディアの足しにでもなればって……」
何ていい娘なんや……。
これはもうことりと並ぶ2大天使と言ってもいいだろう。
「いいアイディアだと思うぞ?きっとことりも喜ぶと思うしな」
「ありがとう」
オレは花陽ちゃんの肩をポンと叩いてから、次なる目的地へと向かった。
次なる目的地は別荘……の近くに建てられたテント。
真姫たちの作曲班だ。
「真姫ー?いるかー?」
『いるわよー』
真姫の声が聞こえてきたのでテントの中を覗くと、真姫は譜面に向かってサラサラと書き込んでいた。
「絵里ちゃんとにこちゃんは?」
「私が少しでもスムーズに出来るようにってご飯を作りに行ったわ……」
譜面に向かってペンを走らせながら、照れるように顔を赤くする。
作曲班に対してやれることはないと悟ったオレは、まだ見に行っていない作詞班がいるであろうテントへ向かった。
「にゃぁぁぁぁあっ!!!」
残った作詞班はテントにはいなかった。
もしやと思い、近くの山に向かったオレは山道をひたすら駆け上がるとこと約1時間。
大体中腹くらいのところで凛ちゃんはなぜか岩から落ちそうになっている所を先に上っていたであろう海未が上から引っ張りあげようとしていた。
うん…。
凛ちゃんの生命に関わることならオレも今すぐ飛んでいって助けているのだが…、
「りーんっ!絶対に手を離してはいけませんよー!!!」
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁあ!!今日はこんなのばっかりにゃーっ!!」
「ファイトが足りんよーっ!!」
下からはのんちゃんが凛ちゃんの背中を両手で支えていた。
「お前ら何してんねん……」
思わず関西弁になるほど呆れ返ってしまった。
お前らに足りてねぇのはファイトじゃない、ツッコミ役だ。
「雲がかかってきた……。山頂まで行くのは無理そうやね」
「そんな…」
のんちゃんがオレたちがいるところよりもさらに標高の高い山を見つめながら、状況を冷静に伝える。
それを聞いた海未が残念がっていた。
「せっかくここまで来たのに……」
「いや、それよりも凛ちゃん泣いてんのに何放置してんだコラ」
オレはペタンと女の子座りで泣きじゃくっている凛ちゃんの隣にしゃがみ込み、頭を優しく撫でている。
「酷いにゃ!!凛はこんな所に全っ然来たくなかったのに!!」
目に涙を浮かべて抗議をし始める凛ちゃん。
「仕方ありません……」
海未のその言葉に凛ちゃんは少し期待した目を海未に向けるが…、
「今日はここで明け方まで天候を待って、翌日アタックをかけましょう……。山頂アタックですっ!!!」
「「まだ行くの!?」」
その期待は木っ端微塵に砕け散り、オレと凛ちゃんのツッコミがハモる。
「当たり前です!何しにここまで来たと思ってるんですか!?」
「作詞に来たはずにゃーっ!!」
「……ハッ!?」
凛ちゃんの魂の
「オイ!!今完っ全に忘れてたろ!?」
「そ……、そんな事はありません!山を制覇しやり遂げたという充実感が創作の源になると私は思うのです!!」
「嘘だッ!!!」
海未は少しつっかえながら答えるが、目が泳ぐスピードがめちゃくちゃ早かったので思わず叫んでしまった。
ちなみにカラスは飛び去っていないから安心しろ。
「まぁまぁ海未ちゃん、気持ちは分かるけど今日はここまでにしといた方がいいよ。それに壮くんもそのくらいにしとき?」
「のんちゃんがそういうのなら……」
「で、ですが…」
「山で一番大切なのは何か知ってる?」
のんちゃんの問い掛けに分からなかった海未は首を傾げる。
「それは…、『チャレンジする勇気』やなく『諦める勇気』。……分かるやろ?」
「希…」
「凛ちゃん、壮くん。下山の準備して晩ご班はラーメンにしよか?」
「ホント!?」
「そうですね…、早く降りないとすぐ暗くなってしまいそうですしね」
のんちゃんが言った夜メシのメニューを聞いて、瞬く間に笑顔になった。
「下に食べられる草がたくさんあったよ。海未ちゃんも壮くんも手伝って?」
「は、はい……」
「分かりました」
そう言ってオレたちよりも先に来た道を戻っていく。
それにしてもホントのんちゃんって何者なんだろうな……。
海未と凛ちゃんもオレとほとんど同じことを考えていたみたいで、2人で何やら話し込んでいた。
いつまでも連いて来ない不思議に思ったのんちゃんは後ろを振り向く。
その表情はほんの少しだけ緩んでいた気がした。
怪我に気を付けながらゆっくりと下山し、作詞班の夜メシであるラーメンを茹でたりしているうちにすっかり外は真っ暗になっていた。
オレが寝泊まりする予定の部屋のベランダに出て、星を眺めていると少し遠くから焚き火がに当たる作曲班が見えた。
絵里ちゃんは何やらにこちゃんと真姫と話したと思ったら、テントに潜り込んだ。
そしてテント内のライトを点けた。
あぁ、そう言えば絵里ちゃん暗所恐怖症だったっけ……。
だから真姫とにこちゃんの前で燃え盛っている焚き火が消える前にライトを点けたってことね?
そしてにこちゃんと真姫が何やら話し込み始めた。
何を話しているのかは声が聞こえないので分からないが、きっと楽曲の事について話しているのだろう。
にこちゃんはいつもはみんなにイジられているけど、締めるときはしっかり締めてくれる何だかんだ言っていい人なので、真姫はもう大丈夫だろう。
さて、そろそろ風呂にでも入ろうかな?
オレは風呂道具を持って、風呂場に向かった。
「こんな所にお風呂があったなんて~…」
「はぁ~、気持ち良い~…」
「なんか眠くなっちゃうね~…」
オレは露天風呂で一息ついていると、柵を挟んでことりたち衣装班がお風呂にやってきた。
「そーちゃん今頃どうしてるかなー?」
「壮大くんのことだからきっと海未ちゃんや真姫ちゃんの様子を見に行ってクタクタに疲れて寝てるんじゃないかな?」
「そーくん優しくて面倒見いいからねぇ……」
確かに疲れてるけど、今は女風呂の柵を挟んだ向こう側にいますよー。
それにしてもことりがオレのことをそんな風に評価しているとは思わなかったな。
留学騒動の時、ことりにだいぶ酷い事を言ったのにな……。
「他の皆、今ごろどうしてるかな?」
「ん~どうだろう?私まだできてないよ……」
花陽ちゃんがふと口にした疑問にことりが苦笑いで答える。
「できるよ!だって9人もいるんだよ?」
穂乃果はそんなことりを励ます。
ザパァッとお湯の音が聞こえたので、穂乃果が立ち上がりながら励ましたのだろう。
それを目撃したことりと花陽ちゃんは驚きの声をあげた。
「誰かが立ち止まれば誰かが引っ張る。誰かが疲れたら誰かが背中を押す。皆が少しずつ立ち止まったり、少しずつ迷ったりして、それでも進んでるんだよ」
穂乃果はそれだけ言うとまたお湯に浸かる音が聞こえた。
誰かが立ち止まれば誰かが引っ張る。誰かが疲れたら誰かが背中を押す……か。
そうだな…。
そうやってオレたちはここまで進んできたんだよなぁ…。
「だからきっとできるよ。ラブライブの予選の日はきっと上手くいくよ……」
「うん」
「そうだね」
穂乃果の言葉にことりと花陽ちゃんが同意するように返す。
暫くしてから3人は風呂から出ていった。
オレも出ていこうとしたのだが、普段はほとんどしない長風呂だったので少し逆上せてしまった。
少し身体と頭を冷やすためお散歩に出掛けることにした。
「キレイだにゃー……あっ!そーくんだ!」
外に出たついでに作詞班の様子を見に行くことにしたオレ。
すると作詞班は寝袋に入り、上半身のみ外に出して空を眺めていてオレの存在にいち早く気づいた凛ちゃんがオレに手をブンブン振った。
「天体観測か?」
「うんっ!そーくんもここに寝転がるといいにゃ!」
凛ちゃんの誘いに乗ったオレは、凛ちゃんの横に寝転がって空を眺める。
都会とは違い、空気が澄んでいるので星が鮮明に見える。
「星はいつも自分を見てくれている。星空 凛って言うくらいやから、星を好きにならないとね?」
のんちゃんの言葉に元気に頷き返す凛ちゃん。
凛ちゃんが真上に広がる星を指差し、のんちゃんがその星座を答えていく。
こうしてみると何だか姉妹に見えてきて、少し微笑ましい。
「星座に詳しいんですね…」
「一番好きな星座とか印象に残っている星とかあるんですか?」
「そうやねぇ……」
オレの質問に目を閉じて思い出すのんちゃん。
「印象に残ってるのは南十字星かな」
「南、十字星…?」
それって南半球じゃないと見れない星なんじゃなかったっけか?
「ペンギンさんと一緒に見たんやけどね」
「「「南極!?」」」
平然と答えるので、オレたちは思わず驚いてしまった。
「あ、流れ星」
のんちゃんの突然の言葉に顔を見合わせていたオレと凛ちゃんは、流れ星と聞いて慌てて夜空に視線を戻す。
が、流れ星は見つからなかった。
「南に向かう流れ星は物事が進む暗示……。一番大切なのは本人の気持ちよ?」
のんちゃんは海未にウィンクをするとテントの中に入っていった。
「あーあ、結局流れ星見つからなかったにゃ…」
「いいえ。流れ星なんて最初からありませんでしたよ?」
流れ星が見つけられなかったことをボヤく凛ちゃんに海未が優しく微笑んだ。
そして凛ちゃんものんちゃんの後に続いてテントの中に入ったところで、オレは別荘へと戻ることにした。
別荘へ歩き始めて少し時間が経ってから海未が後ろから走ってきて横に並ぶと速度を緩め、オレの歩くスピードに合わせて歩き始める。
「どうした?」
「いえ、別荘の方からピアノの旋律が聞こえたので……」
歩いている音で気が付かなかったが、耳を澄ませば確かにピアノの旋律が聞こえてきた。
「……ようやく構想がまとまったみたいだな」
「えぇ。希のお陰でようやく私も作詞のメドが立ちました」
「おっ、それは頼もしい。そのインスピレーションを忘れないうちに早く別荘へ戻ろうか?」
「はいっ!」
そのまま海未と雑談をしながら別荘の入り口に辿り着くと、反対側からことりがやってきた。
どうやら海未と同じでピアノの旋律を聞いてここにやって来たのだそうだ。
オレたちは互いの顔を見比べ、笑いあってからリビングへと足を踏み入れる。
「いつもどんな時も全員の為に……か」
真姫の呟きを聞き、オレたちは真姫に近付く。
そしてオレたちは笑顔で見合うと3人は各々の作業に取り掛かり、オレはその3人に紅茶やコーヒーを振る舞ったりするなどサポートを始めた。
作業は朝日が上るまで続き、ようやく完成した衣装デザインと歌詞カードを眠たい目を擦り欠伸を漏らしながらリビングのテーブルへと移動させる。
夜通しで作業していた3人に毛布をかけ、簡単な朝食をラップして3人の近くに置いたオレはティーカップとソーサーを片付け始める。
「あら、随分と早いのね?」
洗い物を済ませると絵里ちゃんがキッチンに顔を出した。
「えぇ、なにせ寝ていませんからね」
「どういうことかしら?」
「ついて来てください。リビングへ行けば分かりますから」
食器を拭く布巾を元の場所に戻したオレは、絵里ちゃんを連れてリビングへと向かう。
「……そういうことね?」
「はい。そういうことです」
眠っている3人とテーブルに置いた歌詞カードと衣装デザインが描かれたスケッチブックを見た絵里ちゃんはクスリと笑う。
「でも起きたらすぐ練習よ。バッチリと…ね?」
歌詞カードとスケッチブックを置いた絵里ちゃんは静かにリビングから出ていった。
こうしてラブライブの1次予選の楽曲が出来上がった。
タイトルは……、『ユメノトビラ』。
ラブライブという夢へと前進し始める今のμ'sに相応しい1曲に仕上がった。