ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
海未に作詞を依頼した5日後の夕方。
昨日まででかなり強度を上げた練習をしたので、今日はリカバリー程度の練習だったので家にはまだ日が沈んでいない時間帯に帰れそうだ。
そう言えば今日の夕方は神田明神で基礎トレをやるって海未が言ってたような気がする。
……ちょっと顔出してみるか。
μ'sの3人組(グループ名は学校で募集したところ、匿名で投書されたらしくそれで即決したらしい。最初薬用石鹸かと思ったけどどうやらギリシャ神話のほうだった。)に『時間ができたから見に行く』とグループチャットで連絡したら、すぐに海未から『お待ちしております』と返事が帰ってきた。
……よし!!じゃあ、行くか!!
意を決したオレは神田明神に向かい、歩みを進めようとした……
「どけぇっ!!!」
「!?」
が、突如後ろから中年のおっさんが走ってきたので思わず半身になって避けた。
走り去ったおっさんの右肩からはおっさんの私物にしては似合わなすぎるバッグが提げられていた。
まさかあのおっさん……ひったくりか!?
「こらー!!待つにゃー!!」
おっさんが走ってきた後ろから随分長い距離を走ってきたのか、語尾に『にゃ』とつくいかにも活発そうな穂乃果とはまた違ったオレンジ色のショートカットの女の子が走ってきた。
「そこのおにーさん!あの人を捕まえて!!ひったくり犯だにゃー!!」
やっぱひったくり犯か。
だが、幸いこの辺1kmほどは脇道もない真っ直ぐな道なので余程のことがない限り見失うことがないしそれなりの距離を走ってきたおっさんはオレが通りすぎた時のスピードに比べて走るペースが落ちていた。
「……キミはここにいてこれと制服を頼む。」
「わ……分かったにゃ!!」
オレは語尾に『にゃ』とつく女の子にバッグと制服のブレザーを預け、アスファルトの地面を蹴ってトップスピードでひったくり犯のおっさんを追いかけた。
……オレ、今日リカバリーだったんだけどなぁ。
「おにーさん!かよちんを助けてくれてありがとう!」
「あ…、ありがとうございます。」
ひったくり犯のおっさんを捕まえ、バッグを取り返してさっきの女の子のところに戻ると『かよちん』と呼ばれるショートボブの女の子が待っていた。
どうやらこのバッグは『かよちん』と呼ばれる女の子の物だったらしい。
「礼には及ばないよ。……えっと。」
「小泉 花陽……と言います。花に太陽の陽で『はなよ』……です。」
あぁ……、だから『かよちん』なのね。
「凛は星空 凛だにゃ!凛とかよちんは音ノ木坂の1年生なんだにゃ!……おにーさんのお名前は?」
「オレ?オレは立華高校体育科2年の松宮 壮大。壮大って書いて『そうた』っていうんだ。……うわっ!!もうこんな時間かよっ!また何処かで会ったらよろしくな、凛ちゃん、花陽ちゃん!」
オレは凛ちゃんに預かってもらっていた制服のブレザーとバッグを持って神田明神まで全速力で走り出した。
遅れたら……海未に怒られる!!
2回目だけど、これだけは言わせてくれ。
オレ、今日リカバリーだったんだけどなぁ……。
Side Rin
凛はかよちんのバッグを取り返してくれたそーた先輩の後ろ姿を眺めていた。
実は凛は一方的にだけど、そーた先輩のことを知っていた。
中学校の時に出た陸上の大会でとても速く、それでいてキレイなフォームで走っている姿を見て、すごくカッコよかったと思ったことも記憶に新しい。
「行っちゃった…。いい人だったね、あの人。」
「……。」
「……凛ちゃん?顔赤いけどどうしたの?」
「!?……何でもないにゃ!」
嘘!?凛の顔そんなに赤いの!?
密かに憧れていたそーた先輩に会えただけなのに!?
「かよちん!凛、走ったからお腹すいちゃった!だからからラーメン食べに行こっ!」
「えっ!?ええっ!?ダレカタスケテー!!」
凛は照れ隠しのため戸惑うかよちんを引っ張り、走り出した。
そーた先輩とはまた近いうちに会える。
確証は無いけど今はそんな気がしてならないんだにゃ!
Side out
「壮大、そんなに息を切らしてどうしたのですか?」
海未がジト目で何か聞いてるけど生憎今のオレはその問いかけに答えられる余裕がない。
神田明神で行われる基礎トレだったがランニングには間に合わなかったがこれからやる階段ダッシュには何とか間に合った。
海未に怒られるのが怖くて割りと長い距離をダッシュで来ただけでなく、階段も1段飛ばしで駆け上がったので息が上がっている。
「いや…、何でもねぇ。(遅れそうだったから全速力で走ってきた何て絶対!!……言えねぇ。)」
「?……まぁ、いいでしょう。では穂乃果、ことり……始めますよ?」
「うん!穂乃果はいつでもいいよ!」
「ことりも準備オッケーだよー!!」
「では、用意……スタートです!」
海未の合図ともに穂乃果とことりは階段ダッシュを始めた。
しばらく基礎トレを見ていなかったのでどのくらい走れるようになったか少し不安だったのだが、それは杞憂に終わりそうだ。
短期間でここまで走れるようになったのは穂乃果たちの努力と海未の徹底した練習管理のお陰だ。
「穂乃果!キツいからって下向くな!キツいときこそ前見ろ前!」
「うんっ!!」
「ことり!ペース落ちてきてるぞ!1歩のストライドを狭めるだけでも違ってくるぞ!」
「は……はいぃ!!」
うーん…。穂乃果と比べるとことりの体力面がまだちょっと不安かなぁ。
かといっていたずらに練習量増やしてもダメだしなぁ…。
考えごとをしていると…、
「キャァァァァァアッ!!!」
「おわっ!?なんだぁ!?」
下の方から悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
ビックリしたオレは結論に辿り着こうとしていた考え事がはるか彼方に吹っ飛んでしまった。
しかもあんな大きな叫び声がするなんて恐らくただ事ではないと推測できる。
「……海未、ちょっと様子見てくる。」
「え…えぇ、お願いします。」
海未の許可を得たところで叫び声が聞こえたところに走っていく。
この辺かな?と思い、曲がり角を覗いてみた。
「な……何すんのよ!!!」
「んー、まだまだ発展途上って言ったとこかなぁ?」
「……何してんすか。東條さん、真姫。」
「壮大!?」
「あら、久し振りやね壮大くん。」
するとそこには真姫の胸を鷲掴みにしてわしわしと揉みしだいているしている東條さんと、いきなり胸を鷲掴みにされた驚きとオレに見られたことによる恥ずかしさで顔が髪の毛のように真っ赤になった
「どこからつっこんでいいか分からないですけどとりあえず東條さん、その手を離してやってください。」
「うぅ…。一体何だったのよぉ…。」
「へぇー、真姫ちゃんと壮大くんって幼馴染だったんだ。」
恥ずかしそうに両手を交差させて胸を隠す真姫を尻目に、心なしか頬がツヤめいてる気がする東條さんと話し込む。
口が裂けても言えないけど目の保養になりました。
それに真姫も発育はいいようで、穂乃果と同じくらいの大きさだったな……って何考えてんだオレはぁぁっ!
「幼馴染っつーか…、父親同士が高校時代の同級生だったってだけですよ。あ、それと東條さん。あいつらのライブ許可してくれてありがとうございます。」
オレの母さんが夏穂さんと同級生のように、オレの親父と真姫の親父さんもまた高校の時の同級生なのだ。
つまりオレは小さい頃から真姫のことを知っていて、それは逆の事も言える。
ただ、オレが中学に上がり本格的に陸上に打ち込み始めてからは年に1回会うか会わないかの頻度になってしまった。
真姫の両親の西木野先生なら会うんだけどな…。
ママさんの方の西木野先生は脳外科だけど、親父さんの方の西木野先生はスポーツ整形外科と言ったアスリートのコンディショニングが専門だし。
「ええんよ。別にあの子たちのためにやったわけやないし。」
あいつらのためにやったわけじゃない……?
どういうことだ?
相変わらず東條さんの考えが読めない…。
「んで?」
オレはもう1つのつっこみどころの原因に向き合う。
「真姫は何で
「た……たまたま通りかかっただけよ!!」
「いや、お前ん家こっから反対の方向だろ?」
「ヴェェ…。そ、それは…。」
「わざわざあの子たちの練習を見に来といて素直やないなぁ~。」
「はぁ!?何で私があの人たちの練習を見ないといけないわけ!?」
オレと東條さんの口撃を受け、そっぽを向かれてしまった。
「はぁ……。真姫、あいつらの練習が終わったらちょっと付き合え。」
「はぁ!?何でよ!?」
「いいから。入学祝いくらいさせてくれ。」
真姫は納得いかないような感じだったが、観念したのかむくれながらも頷いた。
まったく…。小さい頃は『おにぃちゃーん!真姫と一緒におままごとしよーっ!』って言ってたのにどうしてこんな素直じゃない性格になったのやら…。
「こんなところに連れ出してどうしたって言うのよ…。」
穂乃果たちの練習を終え、あいつらはあいつらで帰ったところで真姫を近くの喫茶店に連れてきた。
「まどろっこしい話は面倒くさいから単刀直入に言う。
「……どういうつもり?って言うかなんであなたが知ってるわけ?」
「あいつら……特に穂乃果とは物心がつくまえからの幼馴染でな。穂乃果を通じて聞いた。歌とピアノが上手くてオレの1つ下って言うとオレが知りうる限りでは真姫しかいないと思ってな。」
「……そう。なら話は早いわ。あの人たちに伝えといてくれる?私の音楽は中学校を卒業したと同時に終わってるの。この話は無かったことにしてくれって。紅茶、ごちそうさま。あまり美味しくなかったわ。」
「それは本心から言ってる事なのか?」
「……え?」
真姫が喫茶店から立ち去ろうと立ち上がったところで呼び止める。
まさか呼び止められる何て思ってなかった真姫は自分がいたところに座り、オレはコーヒーで口のなかを湿らせる。
「だったら何で音楽室で弾き語りなんかしていたんだ?」
「そ、それは…。」
「たまに親父さんの方の西木野先生と話すんだ。『ピアノの先生になりたい、ピアニストになりたいって目をキラキラさせて言っていた真姫がいつからかパパのようなお医者さんになるって言うようになった』って…。」
「そんなこと言ってたの…?」
「ああ。『恥ずかしいから真姫には伝えないでくれ』って言われてるけどな。」
「…じゃあ、なんで私に言ったの?」
「オレたちはまだ15歳、16歳の高校生だ。もしホントにやりたいことを犠牲にして決めなきゃいけない時がくるまで…、大人になるまでのほんの少しの僅かな自由をやりたいように過ごして何が悪いんだ?……だからお願いだ、無理にとは言わねぇ。音ノ木坂を守りたいと心から願うあいつらに力を貸してやってくれ。」
オレはもう一度真姫に向かって頭を下げる。
これでダメなら諦めがつく。
だが、もし真姫にほんの少しでもオレたちの想いが届いてくれる事を願いたい。
「……イミワカンナイ。」
真姫はそう呟いたが、無愛想な表情ではなくほんの少しだけ頬が緩んだ表情をしていた。
壮大の話を聞いた私の心は、幼い頃憧れていたピアニストになりたいという夢と医者になるという責任感の狭間で揺れていた。
小さい頃私は勉強よりもピアノを弾くのが好きだった。
コンクールで初めて優勝したときの血がざわめくような、私のために賞賛してくれる拍手喝采に包まれる快感が堪らなかった。
だが、ある日ピアノを弾いてる途中ふと考えたことがあった。
『もし私がピアニストになったら誰が病院を継ぐのだろう』…と。
最初は何気なく考えていたが、日を重ねるにつれてその考えがどんどん大きくなっていった。
そして気がつけば私は『ピアニストになりたい』『ピアノの先生になりたい』と言った本来の夢を捨て、『両親のような医者になる』と言う責任感から来る夢に変わっていった。
だが、今日壮大の話を聞いて再び『ピアニストになりたい』『ピアノの先生になりたい』と言う想いが芽生え始めてしまった。
だから私はどうしたらいいのか分からなかった。
「真姫ちゃん?具合でも悪いの?」
今日の夕食は私の好きなトマトをふんだんに使った料理なのだが、一向に箸が進まない私に対してママは心配そうに私の顔を覗き込む。
「……ねぇ、パパ。ママ。」
「どうしたんだい?」
「……真姫ちゃん?」
両親を目の前にして、今の本心を口に出そうとするがどうしても躊躇われる。
言え、言うのよ西木野 真姫…。
「もし、もしの話だけど…。わたしがまたピアニストになりたいって言ったらパパとママは背中を押してくれる…?」
言った。言い切った。
パパとママに伝えてそのまま目をギュッと閉じる。
「真姫。」
パパの優しい声にキツく閉じていた目を開ける。
「真姫の好きなようにしなさい。それに、僕は真姫に医者になるように言った覚えは無いからね。」
「ママは…?」
「パパと同じよ。パパとママは真姫ちゃんの夢を全力で応援するわ。」
「ありがとう、パパ。ママ。」
これで私のやりたいことが見つかった…。
ご飯を食べ終えたあと、自室に籠ると何も書かれていない譜面を取り出す。
「いいわ。あなたの口車に乗せられてあげようじゃない。……バカ壮大。」
そう呟いたわたしはペンを取り、譜面に曲を書き始めた。
ご愛読ありがとうございます。
それと相変わらずの駄文で申し訳ないです。
あと、この話を読んで薄々気づいてるかもしれませんがテレビアニメ1期第4話分はやらないわけではないですが、ガッツリカットします。
なので今回の話で真姫ちゃんがμ'sに協力するシーンを入れさせて頂きました。