ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
「そーちゃん!!いよいよ明日だよ!」
「ああ。そうだな…。」
向かいに住む和菓子屋『穂むら』の看板娘(?)こと穂乃果がテンション高めで身をより出してきた。
コイツオレが夜メシを食べる時間帯を狙ってデザート集りに来やがったので、イラッときたオレは和と洋を兼ね備えた至高の一品『あんパン(つぶあん)』を捩じ込んでやった。
一応詰まらせないように牛乳を添える救済は取ってやった。
じゃないと穂乃果拗ねるし…。
オレはベッドの上に座り、開けてある窓から外を眺める。
そう。いよいよ明日だ。
「オレの高校生活2年目のトラックレースの幕開けだ。」
「もう!違うよー!!」
「何が違うんだよ。」
腕をブンブン振り回し抗議してくる。
こらそこ、布団の中のチリが部屋中に舞っちゃうからやめなさい。
「ライブだよ!明日の放課後、いよいよμ'sのファーストライブなんだよー!!」
「どうせ『穂乃果たちのライブ見に来てよ!』とかって言うんだろ?」
「なんで分かったの!?もしかしてそーちゃん、エスパー!?」
オレはエスパーではない。
普通にお前の単純過ぎる思考回路のことを考えたら1発で分かるわ。
「行きたくないっていう訳じゃねぇんだ。けど、スクールアイドル始める頃に言ったろ?『オレにもやることがある』って。」
「そうだけどさぁ…。」
「確かに穂乃果たちのライブも大事だ。けど、この大会でコケたらインターハイへの道が閉ざされるんだ。」
「むー…。」
穂乃果がジト目でこちらを見つめてくる。
どうやらどうしても来てほしいらしい。
その証拠に穂乃果が頬に空気を入れてぷくっと膨らませる。
「それに穂乃果たちも明日本番なんだろ?だったら早く寝て少しでもコンディションを整えとけ。ホラ、もう夜も遅いしいくら向かいだからって言って夏穂さんに迷惑かけちゃいけないだろ?」
「うん…。分かった。お休み、そーちゃん。」
穂乃果の頭にショボンとした犬の耳の幻覚が見えたようにテンションが下がった穂乃果は静かにオレの部屋から自宅へ帰っていった。
悪いことはしたつもりはないが、何だか罪悪感が芽生えてきた。
いいや、オレは悪くねぇ!!
頭をブンブン振って部屋の電気を消して、布団を被って目を瞑る。
オレもレースが朝イチに100の予選、昼前に100の準決勝と200の予選、午後2時から200の準決勝と合わせて4本レースが控えている。
だから早く寝ないといけないのだが、何だか胸がモヤモヤして寝付けない。
……あー!もう!!分かったよ!!
オレは枕元に置いていたスマートフォンを取り、とある人物の電話番号をダイヤルしスマートフォンを耳に当てる。
「もしもし、ことり?今大丈夫か?」
『そーくん?こんな時間にどうしたの?』
電話したのはことりのスマートフォンなのだが、残念ながら今回は用事があるのはことりじゃないんだ。
「あのさ、比奈さんに頼みたいことがあるんだけどいいか?」
『うん!ちょっと待ってー。』
電話の奥から『おかーさーん。そーくんが頼みたいことがあるんだってー!』と比奈さんを呼ぶことりの声が聞こえる。
家や比奈さんと話す時でさえ脳トロボイスなのか。
こんな娘を持ったことりの親父さんも大変だろうな…。
『もしもし、壮くん?』
「こんばんは比奈さん、いや理事長とお呼びすればよろしいでしょうか?」
南 比奈さん。
ことりの母親で、今は音ノ木坂学院の理事長として勤めている。
高校2年生の娘を持つ母親とは思えないくらい若いバリバリのキャリアウーマンだ。
夏穂さん然り比奈さん然り真姫のママさん然り…、オレの知り合いの母親はどうして年齢の割りにかなり若く見えるのだろう。
『はい、こんばんは。どちらでもいいわよ。それで私に頼みたいことって何かしら?』
「音ノ木坂の入校許可証って貰えますかね?」
『許可できないことはないけれど……、ことりから聞いたけどあなた明日地方予選じゃ無かったかしら?』
「はい、明日は100と200の予選と準決勝があります。」
『大丈夫なの?大会なのにチームから抜けても。』
「うちの高校は長距離陣ばっかで短距離陣は自分のレースが終わったらサッサと帰っちゃうのでたぶん大丈夫だと思います。それに監督にもユルい人なんでその辺は抜かりないです。」
うちの高校の短距離陣の監督はオレら生徒と差ほど変わらないくらい若いけど、『結果さえ出せばプライベートのことは干渉しない。』というスタンスなのでキッチリを残せられれば問題ない。
『分かりました、そういう事でしたら許可を出しておきます。』
「ありがとうございます。」
『誰が付き添いをつけましょうか?講堂までの場所、分からないでしょう?』
……あ。
そう言われればそうだ。
いくら許可を貰えたところで講堂に辿り着けなければ意味がない。
オレの知り合いで頼みやすい人となると…。
「もし希望出来るとするならば東條さんでお願いできますか?」
『東條さん?絢瀬さん…、音ノ木坂の生徒会長じゃなくて?』
「はい。東條さんとは何回か会ったことがありますので。」
『分かりました。では明日東條さんに伝えておきます。……明日ことりたちのこと、よろしくお願いしますね。』
「はい、任されました。」
『『はい、よろしい。ではことりに戻しますね。』………そーくん?お母さんと何話してたのー?』
「なぁに、ただの野暮用さ。……それよりそろそろ寝なくていいのか?」
『わぁっ!?もうこんな時間!?早く寝なきゃ!そーくん、お休みぃ~。』
「はい、おやすみさない。」
オレも通話が切れたのを確認し、再び布団を被った。
「すみません、今日音ノ木坂学院の入校の許可を得た松宮です。」
「松宮さんですねー。はい、こちらが許可証となりまーす。」
オレは事務室で入校許可の手続きを済ませ、腕章タイプの入校許可証を身に付ける。
「ほな、行こか。」
「ええ、お願いします。」
オレは要望通り案内役の東條さんの横にならんで歩き始める。
「壮大くん今日大会だったんやって?どうだったん?」
「100と200両方とも無事に決勝レースに進めました。」
100は自己ベストタイ記録、200は自己ベストを更新していい流れで明後日の決勝レースに挑むことが出来る。
「……ですが少し気になることが。」
「なぁに?」
「なんか…、すっげぇ見られてるんですけど……?」
廊下や教室、あげくには柱の影や階段の影と言ったありとあらゆる場所から学院生の視線が感じるしヒソヒソと何か話してる声もチラホラ。
『あの人副会長さんのなんなのかな?』とか『男よ男!しかもイケメンよ!!』とか『目が澄んだ水のようにクールね…。』とか『ウホッ!いい男…』とか…。
おい、最後の発言したやつ出てこい。
オレは青いツナギを着てベンチに座ってアレに誘うホの字じゃねぇぞゴルァ。名誉毀損で訴えんぞ。
そもそもオレはノーマルだ。年齢イコールだけど。
「男の子の入校なんてほぼ前例にないからなー…。それにレースでもよく見られてると違うん?」
「レースとこの状況を一緒にしないでください…。」
今なら動物園のオリの中にいるパンダやレッサーパンダの気持ちが分かるぜ…。
今度動物園行ったとき優しい目で見てやるからな…。
「おーっす。」
オレは東條さんに案内されて講堂の舞台裏にやってきた。
自分の仕事を終えた東條さんは『ほなな~』と手をヒラヒラさせて来た道を帰っていった。
「そーちゃん(そーくん)!?」
中に入ると衣装に着替え終えたであろう穂乃果とことりがいた。
「何でそーちゃんがここに!?ライブには来れないって…!それに大会は!?」
ピンク色の衣装を着ていた穂乃果が詰め寄ってくる。
……最近穂乃果に詰め寄られる機会が多いなぁ。オレ。
「いつオレがライブに行けねぇって言ったよ。レースはエントリーした種目2つとも決勝進出だ。」
お前たちのライブも大事だが、大会も大事だって言っただけだ。
「ところでそーくん、ことりたちの衣装…似合う?」
緑の衣装を身に纏ったことりがその場でクルリと一回転した。
うん…。何というか…。
ことりのスラッとしたスタイルにピッタリだ。
「
「そーちゃん、本音と建前が逆になってるよ?」
「ふぇぇ…。」
気が付けば少し不機嫌な穂乃果とトリップしてることりがいた。
やっべぇ。やっちまった。
似合いすぎて本音と建前が逆になっちまった。
でもしょうがないじゃん?
ことりは天使なんだし。
え?なに?ことりの本性は堕天使?何言ってんだてめぇ。
オレの(知ってる)ことりが堕天使なわけがない。
「ところで海未は?」
穂乃果とことりはいるが、海未の姿だけが見当たらない。
花でも摘みに行ったのか?
「あ!そうだ!!おーい!海未ちゃーん!!いつまで着替えてるのー?」
『今着替え終わります!』
カーテンが閉まったドレスルームにいるようだ。
「どうでしょう!?」
シャッとカーテンが開き、海未らしい青い衣装に身を包んだ海未がポーズを決めて出てきた。
……スカートの下にジャージを履いて。
「海未(海未ちゃん)……。」
オレと穂乃果は額に手を添えながら溜め息をつく。
「壮大!?いるならいると言ってください!!それにやっぱり恥ずかしいです!!」
いやいやいや…、オレと穂乃果とことりの会話くらい聞きましょうよ…。
「やっぱり制服で踊ります!」
出来るのか?オレからしてみればその衣装よりもスカート短い気がするんだが…。
「……穂乃果、あとは頼んだ。」
「分かった!海未ちゃん!!往生際が悪いよ!!」
穂乃果が海未が履いてるジャージを脱がそうとする。
オイ、ここに
「何するんですか!?やめてくださいぃ!」
お前もお前でそろそろ観念しろ、海未。
ライブ開演直前。
「じゃあ、オレはここで見てるからな?」
オレはステージ横の壁に身を預け、穂乃果たちを見守る。
「「「うん(はい)……。」」」
しかし、3人とも緊張の色が隠せてない。
「穂乃果、ことり、海未。」
名前を読んだ3人はオレがいる方向を振り向く。
「……これまでの成果、全部出しきってこい。」
「「「うんっ(うんっ♪)(はいっ)!!」
元気よく返事をして、ステージ中央へ駆けていくのを見送ったオレだったが急に胸騒ぎが起こった。
その胸騒ぎが何なのか分からないまま、ステージの幕が上がった。
オレはその瞬間、よぎった胸騒ぎの原因が分かった。
何故なら、目の前に広がっていてのは観客が誰もいない講堂だったからだ。