ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
~Side 高坂 雪穂~
「雪穂ー、壮大さんのお部屋ってここー?」
「ちょっと亜里沙!病院なんだから走っちゃダメだよ!」
午後から晴れる予定だった天気は段々暴風雪に近くなってきたため、亜里沙と共に早目に行動に移した。
そのお陰で本格的に荒れる前に壮にぃが入院している西木野総合病院に辿り着いた。
今ではもうだいぶ荒れてきているが、元々雪国であるロシアの生活が長かった亜里沙いわく『これくらいのブリザードはロシアでは普通』なんだそうだ。
じゃあこれよりも凄いブリザードって一体どんな恐怖が……。
「ついたー!」
ブリザードについて考え込んでいたら壮にぃの病室の前に辿り着ついていた。
亜里沙は私よりも先に壮にぃの病室に入ろうとしてドアの取っ手に手をかけ、ドアを開けるがその過程で止まってしまった。
「亜里沙?どうしたの?」
「……ウソ」
病室の遠くの方を向いたまま呟く。
その様子は私でもおかしいとすぐ気が付き、急いで亜里沙の後ろに立った。
そこには…、
「雪穂……?それに亜里沙ちゃん?」
ずーっと眠ったまま目を覚まさなかった壮にぃがベッドから身体を起こして、こちらを見つめていた。
Side out
目を覚まして現状を把握しきれていない状態で雪穂と亜里沙ちゃんがやってきた。
起きている姿を見た亜里沙ちゃんがオレを抱き締められながら泣かれてしまい、それが原因で余計に状況が分からなくなってしまった。
そして泣き疲れた亜里沙ちゃんはオレの脚を枕代わりにして突っ伏して眠ってる亜里沙ちゃんの頭を撫でながら、オレが眠っている間の出来事を中心とした話を雪穂の口から聞いた。
何でもオレは最終予選に向けた新曲を作るきっかけとなった日の夜、不審者から穂乃果を守ろうと身代わりになって腹部を刺されてから今の今までずっと目を覚まさなかったこと。
腹部からの出血が多すぎて一刻も争う事態になっていたこと。
オレを刺した犯人は未だ捕まっていないこと。
これを受けて最終予選に出るか出ないかという話し合いも穂乃果が最終予選には出よう、と決めたこと。
そして今日がその最終予選の当日だということ。
一度にいろんな事を聞かされたオレは……、
「……そうか。オレが眠っている間にそんなことが……」
何とか理解する事が出来たが、率直な感想しか口にすることができなかった。
「うん…。最初の方はお姉ちゃんも自分を責めてたよ。『私があんな事言い出さなかったらそーちゃんが刺されることはなかった筈だ』って」
「でも穂乃果はその心を強引に圧し殺して最終予選に出よう、と……」
「うん。少なくとも私にはそう見えるよ…。お姉ちゃんはどう思ってるか分からないけど……」
どうだろうな…。
穂乃果の事ならだいたいは分かるつもりではいるけれど、穂乃果の気持ちだけはあいつにしか分からないからな…。
「まぁ何はともあれ壮にぃが目を覚ましてよかったよ!これで安心してμ'sのみなさんに報告できるよ!」
「いや、その事なんだがみんなには報告しないでおいてくれると助かる」
「へっ!?なんで!?」
きっと穂乃果やことり、もしくは海未に報告するつもりでコートのポケットの部分からスマートフォンを取り出そうとするが止めさせた。
「ここでオレが目を覚ましたって報告したらさ、きっとここまで張り詰めてきた緊張の糸が途切れさせてしまうかもしれないと思うんだ。だから本番に向けて集中力や緊張感を高めていってるみんなの重石にはなりたくない……」
「……ふーん。壮にぃがそう言うならそうする」
「まだ眠ったままだけど、もし亜里沙ちゃんが目を覚ましたらそう伝えといてくれねぇか?」
「……分かった」
まだ少し納得いってない様子だけど、何とか言うことを聞いてくれてスマートフォンをまた元のコートのポケットに入れた。
「でもお姉ちゃんたち…、この天候で無事に会場につけるのかな…?」
雪穂が視線を病室の窓へと向ける。
外は……強風と共に雪が容赦なく吹き荒れる暴風雪となっていた。
~Side 絢瀬 絵里~
一足先に会場入りした私たちは会場の規模の大きさに圧倒された。
それだけじゃなく先程A-RISEの3人と邂逅し『絶対に負けない』と鋭い目付きで言われ、改めて私たちが立ち向かう相手は強敵だと言うことを再確認した。
そろそろ準備を始めないといけない時間帯に差し掛かった私たちだったが、学校で説明会に出席した2年生の3人がまだ会場入り出来てなかったので、最初は穂乃果に電話をかけるが話し中だったのでことりに電話をかけた。
「雪……止まないね」
「晴れるって言ってたのに……」
電話を繋げてる最中に希と真姫がまだ降り続けている雪を恨むように呟く。
「それで…、穂乃果たちは?」
『もしもし?絵里ちゃん?』
にこの問いかけに答えようとしたが、ことりとの電話が繋がった。
「ことり?今どこにいるの?」
『まだ学校なんだけど……、学校から動けないの』
「え!?動けない!?」
まさかの事態になっていたとは思わなかった私は驚きのあまり、声を大にして叫んだ。
それを聞いたみんなは私の回りに集まり、私は通話モードからスピーカーモードに切り替える。
『そうなの…。雪の影響で電車が止まっちゃったらしくて……』
「そんな……」
甘く見ていたつもりはなかった。
ただ、電車が止まったとなると学校から会場に来るまで時間がかかる。
『今、穂乃果ちゃんのお父さんに車を出してもらおうと……』
『ダメ!!道路が全然動かないって……!!』
電話から切羽詰まった穂乃果の悲痛な声を聞いて、みんなは動揺を隠せないでいた。
電車や車といった交通手段が断たれてしまった今、移動手段は徒歩しかなくなってしまう。
だけど今から歩いて会場まで来るとなると…。
そう思った私は身に付けていた腕時計で時間を確認する。
……ギリギリもいいところね。
「……とりあえずどんな手段を使ってでもいいから間に合うように来てちょうだい」
私はことりと繋いでいた通話を切った。
「……来られないの?」
真姫が心配そうにこちらの様子を伺ってくる。
もし穂乃果たちが来られなかったら私たちの勝機がガクッと下がる。
もしそうなったら…。
いえ、それ以上考えるのはやめておこう。
「信じましょう。あの子たちの運の強さを……」
Side out
~Side 高坂 穂乃果~
「どうしよう……?」
「ここまでやってきたというのに……!」
ことりちゃんや海未ちゃんが交通手段の全てが封殺され、もしかしたら会場に間に合わないかもしれない戸惑いやここまでやってきて努力が水の泡になってしまう不甲斐なさを滲ませていた。
そんなのは絶対イヤ!!
心に決めたんだ!!
私たちの歌声で……私たちの想いでそーちゃんの目を覚まさせるんだって……!!
「……走っていこう」
「えぇっ!?ほ…、穂乃果ちゃん!?」
「本気で言ってるんですか!?この雪道を!?」
私の提案に驚く2人。
「本気だよ!開演まであと1時間もあるんだよ!?今から走っていけばまだ間に合うよ!」
「でも、外は…」
ことりちゃんが不安そうに外へ視線を向ける。
確かに玄関の出入り口から見えるのは容赦無く吹き荒れる暴風雪が見える。
だけど…、ここで止まってなんかいられない!!
「穂乃果の言う通りです!残念ながら今は考えている時間がありませんし、今の状況を考えると走っていくのが最速の移動手段です。走って会場に向かいましょう!!」
「海未ちゃん……!!」
私の意見に海未ちゃんは賛同してくれた。
ことりちゃんは少し不安そうな顔をしていたけど、私の意見に賛成して、私たち3人は学校から走って会場に向かう事にした。
「そんな…!もうこんなに雪が…!!」
「それに…、さっきより激しくなってる!」
今までの降雪が嘘のように激しい風雪となって私たちに襲い掛かってきた。
一応傘をさしてはいるけど、とてもじゃないが大丈夫とは言えない状況だった。
「これでは、例え向かったとしても会場に間に合うかどうか…」
海未ちゃんの呟きがこの外の状況と重なり、私たちの不安はより一層に駆り立てられる。
もしかしたら最終予選に本当に間に合わないかもしれない…。
もう…ダメなのかな?
絶望の縁に追いやられそうになっていると隣にいたことりちゃんが話す。
「行こう、穂乃果ちゃん!」
「ことりちゃん…?」
「死ぬ気でやれば怖くなんかないよ!行こう!!」
さっきまで不安そうな表情をしていたことりちゃんが、覚悟を決めた表情をしていた。
「この日のために頑張ってきたんだもん!きっとやれるよ!」
「ことり……」
ことりちゃんの言葉は本気だった。
「みんなが待ってる!」
そうだ。
私たちよりも先に会場入りした絵里ちゃんたちや病院でまだ眠っているそーちゃんが待ってるんだ!
だから……行かなきゃ!
行かなきゃダメなんだよ!!
私は意を決して学校の昇降口を飛び出し、私は激しく雪が降る中、走って行った。
「うぉぉぉおッ!!」
「穂乃果!!」
「うぉぉッ!……っとっとっとぉ!?」
だけど満足に歩けないことと、強風に煽られた事もあって走っている途中でバランスを崩し、雪の上で転んでしまう。
「穂乃果ちゃん!」
ことりちゃんと海未ちゃんは私の所へ歩み寄る。私は差し伸べられたことりちゃんの手を握って立ち上がり服についた雪を払う。雪が服全体についていたからとても冷たかった。
「うぅ…、冷たい……!」
「くっ…!足に雪がまとわりついて…」
「だけど…、行こう!2人とも!!」
「うんっ!」
「はいっ!!」
私は海未ちゃんとことりちゃんに声をかけて、再び会場に向けて歩き出す。
だけど強い風を受け続ける私たちはなかなか前に進めなかった。
強風に負けないように1歩1歩歩みを進めていくうちに時間がどんどん無くなっていく。
このペースで行けば会場にちゃんと着くのかどうか分からない。
下手をすれば時間に間に合わなくて、ライブが出来ないかもしれない。
そうすれば、みんなで目標にしてきたラブライブの本戦に出られなくなってしまう。
それだけは嫌だ!!
この日のために頑張ってきた事が全て無駄になっちゃうのが嫌だ!!
私たちは一歩一歩を出来るだけ早足で歩いて行った。
けれどやっとの思いで校門に来た所で、風雪が私たちの行く手を阻むように前に立ち塞がった。
今度こそもうダメかもしれない…
私の心がへし折られそうになったその時……、
「諦めちゃダメッ!!!!!」
「ことり…、ちゃん…?」
「せっかく…、せっかくここまで来たんだから!!」
ことりちゃんが大きく叫んだ。
海未ちゃんもことりちゃんに続いて想いを叫ぶ。
「私だって……!私だってそうです!!いつまでも2人の背中を追いかけてるだけじゃない!やりたいんです!!私だって……誰よりもラブライブに出たいんです!!!」
「海未…、ちゃん……」
2人の言葉はラブライブの本戦に出たいという一心。
ラブライブの本戦に出たいという2人の言葉が、強い気持ちが折れかかった心を繋げるように伝わってきた。
「私たち9人だけじゃない!壮大を含めた10人で……!最高の結果を残したいんです!!」
「行こう!穂乃果ちゃん!!」
「行きましょう!!」
そうだ……!
行くんだ!!
ラブライブに出たい!!
いや…、
だから……!ここで諦めたらダメなんだ!!
「うんっ!!」
私は海未ちゃんの言葉に頷き、荒々しく吹き荒れる暴風雪に耐える。
校門を出ると暴風雪が止み、雪もまた穏やかにしんしんと降り始めた。
私はゆっくり傘を持ち上げると目の前には驚きの光景を目にした。
それには海未ちゃんもことりちゃんもそれを見て驚いていた。
「えっ!?」
「これって…?」
「どういう事…、ですか?」
それは学校前の階段からずっと一本道に雪かきをされていて、道が開けていた。
「遅いわよ!」
「「「!!」」」
階段の横にいてウィンドブレーカーを着込んでいたヒデコが声を掛けてきた。
「また少し積もっちゃったじゃない!」
ヒデコの横にいたミカがスコップを持ち、積もった雪を掻いていた。
私たちはこの目の前の光景に驚き過ぎて状況を飲み込めなかったけど、ヒデコたちが雪掻きをしてくれた事だけは理解する事が出来た。
「これ…、みんなが?」
「うん。さっきやけに背が高くてガッシリとした男の人に『最終予選会場までの道の雪を掻いてやってくれ』って言われてね…』
「その人が『穂乃果たちにこれを』って…」
ヒデコがそう言いながら目の前に3足のブーツを私たちの前に置いた。
「……これは?」
「スノーブーツ。『サイズが合うかどうかは分からないけど、その辺は大目に見てくれ』ってさ」
渡されたスノーブーツに履き替えると、驚くほどピッタリだった。
それはことりちゃんと海未ちゃんも同様だった。
「……どうして?」
「電車が止まったっていうから、みんなに呼びかけたんだ。『穂乃果たちのために集まってくれ~』って……」
ミカが片方の手に握られたスマートフォンを振りながら答え、そして後ろを向いた。
「そしたらさ…、来たんだよ。『全校生徒全員』が」
「えっ?」
視線を少し遠目に向けるとフミコを中心に指示を飛ばし、雪を掻いてくれていた。
その光景を見て視界が涙で滲んできた。
「みんな…、バカだよ。なんで私たちのために……」
穂乃果を庇って包丁で刺されたそーちゃん然り、私たちのために積もった雪を掻いてくれた音ノ木坂のみんな然り…。
私の呟きにヒデコが答える。
「みんな音ノ木坂が好きなんだよ。歴史だとか伝統だとか関係ない。今ここにある音ノ木坂がみんな大好きなんだよ…。穂乃果と同じようにね」
「ヒデコ……」
「さぁ!話はこれで終わりだよ!!行け穂乃果!音ノ木坂のみんなの想いを乗せて会場まで駆け抜けろ!!」
「うん!」
涙で滲んだ目をコートの袖口で擦り、みんなが作った道だけを見据える。
「行こう!海未ちゃん!!ことりちゃん!!」
「うんっ!」
「はいっ!!」
私は海未ちゃんとことりちゃんと、音ノ木坂のみんなが作ってくれた道を走って、会場に向かった。
会場に向かうまでの道のりで多くの学院生からエールを貰った。
それがとても嬉しかった。
その度に涙が出そうになり、その度に袖口で涙を拭った。
そして走り始めてから十数分…。
「穂乃果~!!」
「穂乃果ちゃーん!!」
その声が絵里ちゃんと凛ちゃんの声だとすぐに分かった。
その2人が大きく手を振っている後ろでみんなが待ってくれているのが、ちゃんと見て取れた。
やっと辿り着いた。
私たちが目指してきた予選の会場に間に合ったんだ!!
それまで我慢してきた感情が溢れ出してきて、今日だけで何度目か分からない涙が浮かんできた。
そして…、
「絵里ちゃん!!」
「穂乃果!!」
絵里ちゃんが広げて待ち構えていた腕の中に飛び込んだ。
寒かった。
怖かった。
みんなで結果を残せるのはこれで最後になるかもしれないと思ってみんなで今日まで頑張ってきたのに何にも残らないかもしれない。
そう思うだけでとても悲しかった。
いろんな感情が混ざり合い、絵里ちゃんの腕の中で泣き続けた。
みんなも感極まって涙ぐんでいた。
「でも…、みんなまだ泣くのは早いんじゃない?」
目尻に浮かぶ涙を拭い取る真姫ちゃんの一声にみんな振り向いた。
「まだ私たちにはやるべき事が残ってる……違う?」
そうだ。
ここがゴールじゃない。
まだ私たちにはやらなければならないことが残っている。
「さぁみんな!控え室に戻って準備に取り掛かるわよ!!」
「「「「「「「「はいっ!!!」」」」」」」」
私たちはみんなで控え室に戻って準備に取りかかった。
今回は前書きはナシで!
実は(テレビアニメ第9話分)もうちょっとだけ続くんじゃよ……
その『もうちょっと』は執筆中でございます。
次でテレビアニメ第9話分……終わるといいなぁ。(願望)
次回もお楽しみに!!