ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
最終章へ繋げるSIDE STORYです。
それでは、どうぞ。
最終予選から数日後。
オレは病院入口近くの窓口にてボールペンを握り、書類内の必要事項の欄に字を書き込んでいく。
「はい、書き終わりました」
必要事項を書き終えた書類を窓口の若いお姉さんに書類を渡し、受け取ったお姉さんは書類に目を通していく。
「うんっ、特に不備はないですのでこれで退院手続き完了です」
思えば目を覚ましてからの数日間というもの寝ても覚めてもμ'sのメンバーばかり。
そーちゃん、ご飯食べる?
そーくん、トイレ行く?
そーくん、次はこのゲームはどうかにゃ?
壮大くん、背中拭いてもいい……かな?
壮大、そろそろ寝る時間じゃない?
壮大、洗濯物持ってきたわよー?
壮くんそろそろお風呂行くん?
壮大、何ですかこの本は!!……罰としてこの如何わしい本はこちらで処分しておきます。
……何故か最後だけ断定型でお怒りだった。
しかもその本はオレ買ってきたやつじゃなく、立華高校の後輩たちが勝手に買ってきたやつだ。
だが、しかぁし!!
これで退院できたオレも自由だ!!
オレは数少ない荷物を持ち、リハビリを兼ねて長らく開けていた我が家に向かって意気揚々と歩いていった。
「……寒い」
意気揚々と歩き始めてから数分後。
吐く息が白くなるのを見ながら思いの外厳しい寒さを嘆いていた。
そういえば昨年の今ごろは彼女がいない部員ばかり集まって『リア充討伐同盟参加者募集』『リア充はモテない男の敵だ!!』と言ういつの間に作ったのか分からない横断幕を掲げつつ、『リア充だとぉ!?何言ってんだてめぇ!そんな暇あったら走っとけ!!』を合言葉にして部内対抗4×400Mリレー大会をやったりしていた。
さらにその前の年……部長が1年の時は『筋肉が唸る!唸りをあげる!!』と言いながらむさ苦しい男たちによる筋トレをしていたのだとか。
冷静に考えてみたら立華高校の男子短距離チームって狂ってる事について否定はしない。
今年もしているとスマートフォンから着メロが流れてきた。
「はい?」
『もしもし?壮大?』
電話に出ると珍しいことに真姫からの電話だった。
どうかしたのだろうか。
退院するときにはちゃんと忘れ物がないかを確認したし、書類もよく目を通してからサインをしたし……。
「どうかしたのか?」
数秒ほど考えてみたが心当たりが全くと言ってもいいほど無かったので、真姫に用件を聞く。
『今日で退院したのよね?』
「そうだけど?」
『今日の夜プレゼントを持って私の家に来なさい』
「……なんで?」
『いいわね!?』
一方的に用件を伝えられ、参加するしないの有無をを言わせてもらえずに通話が切れた。
「……一体何だったんだ?」
それにプレゼントを持ってこいって言ったって何に使うんだ?
オレは首を傾げながら、ビルの隙間から吹き付けてくる冷たい風に押されながら家に向かう歩みを進めた。
そしてその日の夜。
悩みに悩み、そしてその意味を考えに考えた末に購入してラッピングしてもらった小包を持って西木野邸の前にやって来た。
豪華絢爛な門のすぐ横に備え付けられたモニター付きのインターホンを押す。
『はーい、どちら様かしら?』
数秒後、モニターに電源が入る。
スピーカーから流れてくる声を聞く限りだと、どうやら応対してくれたのは彩月さんだ。
「どうも、松宮です」
『あら、壮大くん?今開けるから待っててね~』
少し待つとストールを羽織った彩月さんが出てきて門のカギを開けてくれた。
「壮大くん、いらっしゃい。そして退院おめでとう」
「ありがとうございます。そしてお邪魔します」
玄関に通されたので、履いてきたスニーカーを脱いでから用意されていた来客用のスリッパに足を通してから彩月さんの後ろについて歩く。
しかし、リビングを通り過ぎて階段に向かっていくことに疑問を感じた。
「真姫はリビングにいるんじゃないんですか?」
「フフフッ…、残念ながら真姫ちゃんはリビングにも自分の部屋にもいないわよ?」
何やら意味あり気な含み笑いをしながら答える彩月さんはスリッパをパタパタと音を立てながら階段を降りていった。
「ここよ」
階段を降り切り、辿り着いた先は地下の一室だ。
「……ここは?」
「ここは普段真姫ちゃんが作曲するときに使う部屋よ」
あいつ普段はこんな隔離された場所で作曲してんのかい。
ここなら誰の目にも止まらずに作曲は出来そうだけど地下という密閉空間だから身体にはよろしくはないんじゃないのか…?
「じゃあ私は上にいるから何か困ったことがあったら呼びに来てね」
「あっ、はい」
彩月さんはそう話し、踵を返して歩いてきた通路をゆっくり歩いて戻っていった。
「……入るか」
いつまでもここに突っ立ってる訳にもいかないのでドアを開けるレバーを掴み、押しながら案内された部屋に入る。
___パン!パンパンパン!!
「うおぅっ!!?」
「「「「「「「「「退院おめでとう!!そしてメリークリスマース!!!」」」」」」」」」
部屋に入ってクラッカーの音と共にμ'sのみんなに祝福の挨拶を受けた。
そして部屋を見渡すと部屋の壁という壁がキレイに装飾がされていて
、そして部屋の隅にはかなり大きいクリスマスツリーが飾られていた。
それを見終わってから初めて気付いたことがあった。
「……あぁ!クリスマスだからツリーがあるのか!!」
「あーっ!やーっと気づいたにゃ!!これだからそーくんはダメなんだにゃ」
「その答えに気付くまでの壮大の顔の間抜け加減っていったら……痛い痛い痛い!!こめかみが抉られるように痛いぃぃぃぃい!!!」
然り気無く毒を吐く凛ちゃんはともかく、然り気無くディスってきてにこちゃんに向かって某アニメみたいに握り拳をこめかみに当ててグリグリと抉っていく。
慈悲?んなもんねぇよ。
「ほーら、壮大も照れ隠しににこをいじめるのをそれくらいにしておきなさい。折角のパーティーも始められないでしょ?」
絵里ちゃんに咎められたのでにこちゃんのこめかみの部分に添えていた手を仕方なく離す。
「はいっ、これがそーくんの飲み物っ。さぁさぁここに座って座って!!」
「おぉ…、ありがとう……」
ことりから飲み物が入ったプラコップを渡され、さらに背中を押されて絵里ちゃんと海未の間に空いていた席に座らされる。
「さぁみんな揃ったわね!!今日は一杯楽しむわよ!かんぱーい!!」
「「「「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」」」
「か、かんぱーい……」
こうしてμ's+オレの合計10人によるクリスマスパーティー兼オレの退院祝いパーティーが始まった。
楽しい時間というのはすぐに過ぎていくもので、パーティーが始まってから早くも2時間とちょっとが経過していた。
その間にことりが自分で持ち込んできたチーズケーキとレアチーズケーキとベイクドチーズケーキ合計3種のチーズケーキを1人で食べ切ったり、トランプを使ったテーブルゲームで海未が全敗を喫して部屋の隅っこで拗ねて機嫌を取り戻すのに少し苦労したり…。
海未の機嫌が戻ったのを見計らってクリスマスプレゼントの交換会では凛ちゃんが自分で用意した超有名ラーメン店選りすぐりのラーメンセットを、花陽ちゃんも自分で用意した新潟から取り寄せたお米をそれぞれ引き当ててメンバーの笑いを誘ったりしていた。
「みんなすごいな……。まだまだ元気有り余ってるよ……」
オレを除いたみんなはまだまだ元気ハツラツとしており、最終予選の時の話をしたりファッションの話をしたりしていて話についていけない。
「トランプタワーが崩れた時の海未ちゃんが……ありゃ?」
「どうしたの穂乃果ちゃん?」
「お菓子……もう無いの?」
穂乃果の声を聞いてから辺りを見渡してみると、お菓子はおろか飲み物ももうほとんど残っていなかった。
「ちょっくら歩いて買ってくるよ」
オレは財布と上着を持ってお菓子を買いに行こうと立ち上がる。
「待って。にこも行くわ」
「……にこちゃんも?」
「なに?にこがお供じゃ悪いって言うの?」
「いやいや、そんなことないですよ」
オレは首を横に降りつつ否定する。
「そう…、なら早く行くわよ!」
にこちゃんはオレの手を掴み、懸命に引っ張りながら外へ向かった。
我ながら随分買い込んだもんだ……両手に2つずつ持つレジ袋を見て自虐的な笑いが込み上げてくる。
レジ担当の店員さんも『え?これ1人で全部食べる気なのか?』という目をしながら応対してたし、レシートも過去最高の長さを更新することになった。
お供として名乗りを上げたにこちゃんはというと、話しかけても相槌しか打たないのでどうしたものか……と考えていると急ににこちゃんは立ち止まった。
「……にこちゃん?」
「壮大……あんた穂乃果のことどう思ってるの?」
「どう……とは?」
真剣な顔付きで問い掛けてきた質問の意味が分からず、質問の内容をそっくりそのままにこちゃんに向かって投げ返す。
「好きか嫌いかって聞いてるのよ。高坂 穂乃果という幼馴染としてなのか……それとも高坂 穂乃果という1人の女の子として好きなのかを……ね」
オレはようやくここで理解した。
何故にこちゃんは買い出しに行くと言ったのか。
最終予選の日の夜、病室で穂乃果がオレにキスをしようと迫ってきたことを受けてオレが穂乃果に好意があるのかを聞き出そうとするためだったのか……と。
一度口を開いてどう思っているのかを話そうとしたけど、言葉が出てこなかった。
オレは穂乃果のことは好きだ。
いつも家に押し掛けてくるし、いつも唐突な思いつきに振り回されても特に嫌悪感は感じない。
だが、にこちゃんが今言ったことについて真剣に考えたことは一度もなかった。
オレは穂乃果の事を本当はどう思っているのだろう?
物心がつく前からの幼馴染として好きなのか…?
それとも高坂 穂乃果という1人の女の子として好きなのか…?
「幼馴染として好きなのか…、それとも1人の女の子として好きなのか……分からないです。少なくとも今は……」
「そう……」
今のところの答えを打ち明けると、にこちゃんの反応はあっさりしたものだった。
「人間誰しも恋愛感情の1つや2つあるものだし、別に『スクールアイドルだから恋愛なんてするな』なんて言うつもりはないしあんたに『諦めろ』なんて言うつもりもないわ」
それに、とにこちゃんは言葉を区切ってからもう一度口を開く。
「あんたが優しい事はメンバーのみんなも知ってるわ。でも忘れないでいて欲しいの。その優しさも時には最も凶悪で鋭い刃物のようになることを……、ね」
「…………」
オレに言いたいことを全て言い切ったにこちゃんは再び歩き出し、オレの横を通り過ぎて数メートル先に進んでから振り返る。
「何してるのよ?みんなにこたちの帰りを待ってるはずだわ」
「……はい」
小さく返事をしてから小さな歩幅で歩くにこちゃんの後ろ姿を追い掛け、真姫の家についてからはみんなに買ってきたレジ袋を渡す。
にこちゃんと2人で話していた時の緊張感から楽しい雰囲気の中に溶け込んでも、にこちゃんに言われた事はオレの心の中から消えることは一切無かった。
いよいよ物語も佳境へと差し掛かってきました。
なので、次回からはいよいよ最終章に入ります。
心が痛むシーンも少々あるかと思いますが、何卒ご了承お願いします。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
次回もよろしくお願いします!