ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
いよいよ2期第11話です。
今日は都内の全高校一斉に合格発表を行う日で、雪穂も受験した音ノ木坂学院に向かっているはずだ。
実は昨日ついこの間ようやくドクターストップ解除となったので久々に陸上の練習から帰ってくると『壮にぃ…、私大丈夫かな?ちゃんと合格してるかな?』と不安で一杯の表情をしながらオレの部屋のベッドの上で体育座りになってカタカタ震えていた雪穂を宥めるのに大変だった。
でも、世の中には受験勉強にかけた日数が僅か10日で受験本番を迎えた『ファイトだよっ!』や『私、やる!やるったらやる!!』が口癖になっているどこかのおバカもいるから大丈夫だって励ましたら笑ってくれたので大丈夫……だと信じたい。
机の上に置いてある据え置き型の時計に目をやると、あと1分もしないうちに合格発表が行われる午前10時となる。
「……そろそろか」
雪穂がオレの家を後にするとき『壮にぃにはいろいろ勉強教えてもらったからもし合格してたら電話するね?』と言えるくらいまで元気になっていたし、夏辺りから計画的に勉強をしていたこともあるので雪穂が落ちるとは思っていない。
けれど雪穂もおっちょこちょいな部分があるのは姉の穂乃果に似ているからなぁ……。
「ぬおっ!?」
と、思っていたら部屋中に響く着信音に思わず肩をビクッ!とさせてしまった。
電話をしてきて相手は……合格発表に向かっているはずの雪穂からだ。
「……もしもし?」
『壮にぃ……』
電話越しに聞こえてくる雪穂の声はかなり沈んでいた。
「おい…、雪穂?」
どうしたんだ?と聞こうとした瞬間、脳裏にこれ以上ないくらい最悪のシナリオが頭を過る。
まさか……落ちたのか!?
雪穂の学力でも受からなかったなんて……。
何て声をかけたらいいのか分からず困惑していると…、
『壮にぃ……受かったよ!私、春から音ノ木坂に通えるよ!!』
沈んだ声から一転し、歓喜の声に変わった途端オレは思わずズッコけてしまった。
「紛らわしいことをするんじゃねぇ!!!」
『あはは♪ちょっとしたサプライズってことで許して!』
何がちょっとしたサプライズだよ…。
こっちは本気で心配したっていうのに…。
『それでさ、壮にぃ今お家にいる?』
「いるけど…、何でだ?」
今日のμ'sの活動はお休みだしオレ自身も特別大きな用事はないので外出する予定は組んでいなかったが…何で雪穂が家にいることを確認したんだろう?
『合格したご褒美として洋菓子食べたいなぁ……♪』
仕方のない奴だな…。
頭をガシガシ掻きながら溜め息をつく。
「分かった分かった。とりあえず来るときになったら連絡くれ」
『じゃあ、また後でね?』
そう言って電話が切れたので、手にしていたスマートフォンを財布とロードバイクのカギに切り替えて部屋を後にした。
「壮にぃ。来たよ」
午後1時を少し回ったところで、雪穂が家にやって来た。
雪穂は着ていたコートを脱ぎ、イスの背もたれにかけてからイスに座った。
「改めてだけど、雪穂合格おめでとう。今日は特別に雪穂の好物の洋菓子を買ってきたんだ!」
電話でも聞いたけど改めて合格をしたことと雪穂にあげるとき飛び付くように喜びながら食べる洋菓子も用意していることを伝える。
「うん…、ありがとう」
だが、予想していたリアクションとは違って何だか嬉しくなさそうな返事が来た。
「……どうしあって……」
そう前置きした後、ポツリポツリと話し始めた。
オレに合格発表の報告の電話を入れた後、絵里ちゃんも亜里沙ちゃんの合格発表を見守るために音ノ木坂学院に来ていたらしく合格したことを祝福してくれたらしい。
亜里沙ちゃんが『これで私もμ'sに入れる!』と喜び、絵里ちゃんが亜里沙ちゃんを褒めるように頭を撫でている最中疑問に思ってしまったらしい。
『もし今の3年生の3人が卒業したら…μ'sはどうするだろう?』……と。
「きっとお姉ちゃんに聞く前に壮にぃには言っておこうと思って……」
雪穂の話を聞き終え、スクールアイドルにとって避けては通れない話だと率直に思った。
プロのアイドルとは違い、スクールアイドルは各高校の在学期間しかいられない。
だから雪穂や亜里沙ちゃんが音ノ木坂学院に入学するということは……そういうことだ。
だが、こればかりは雪穂は勿論のことだがオレもどうにかできると言う問題でもない。
ただオレが言えるのは…、
「……こればかりは残ることとなるメンバーで決めるしかないだろうな」
そう答えることしか出来なくなっていた。
Side 高坂 雪穂
「ただいま~」
壮にぃの家から自分の家に戻り、合格発表から帰ってきた事を伝える。
「どうだった雪穂?」
「もう!一緒に行くって言ったのに何で起こしてくれなかったの!?」
合否を確認するお母さんとは対照的に、お姉ちゃんは私1人で合格発表に行った事に腹を立てていた。
お姉ちゃんの部屋まで行って起こしたんだけど、お姉ちゃんは起きることは無かったし時間も迫って来ていたので亜里沙と一緒に合格発表に行ったと言う訳だ。
「うん、合格したよ」
「あら本当!?じゃあ今日は雪穂の勉強を見ていてくれた壮大くんも呼んでお祝いしないとね!!」
「そうしようよ!きっとそーちゃんもお祝いしたいと思ってるはずだよ!!」
私の合格発表のはずなのに私よりも喜ぶお姉ちゃん。
でも、喜ぶお姉ちゃんを尻目に見る私は壮にぃにも言った事をお姉ちゃんにもぶつけてみた。
「ねぇ、お姉ちゃん」
「ん?なぁに?」
「μ’sってさ…、今の3年生が卒業したらどうするの?」
「えっ……?」
投げかけた質問にお姉ちゃんは言葉を詰まらせ、お姉ちゃんが少し困った表情をしているのを見てやっぱ聞かなきゃよかった……と少しだけ後悔した。
Side out
雪穂の合格発表から数日が経ち、音ノ木坂学院にやって来た。
今日ここに来た理由はμ'sとしてはA-RISEの大会前のコンディション調整を参考にしてオフとなっているのだが、穂乃果から『大事な話があるから学校に来てほしい』とあいつにしては珍しく声のトーンを低くして依頼されたからだ。
久々に音ノ木坂学院に入ったので、緊張しながら生徒会室のドアをノックする。
「どうぞ!」
いつもと同じような穂乃果の明るい声がドア越しに聞こえてきたので、オレは生徒会室のドアを開ける。
「そーちゃん、わざわざ放課後に呼び出してごめんね?」
「気にすんな。お前の行動に何年振り回されてると思ってんだ……って真姫もいるのな」
てっきり穂乃果しかいないと思っていた生徒会室にはスラリと伸びる足を組みながら頬杖をついている真姫もいた。
「……悪い?」
「別に悪いとは言ってないだろう?ただ珍しい組み合わせだな……と思ってさ」
ムスっとした表情をする真姫を見ながら、申し訳程度のフォローを入れる。
そしてオレは生徒会室のイスに座る。
「それで?オレをここに呼んだ理由は何なんだ?」
「うん、実はね……」
勿体ぶるように一旦言葉を区切り、続きの言葉を待った。
「大会が終わったらμ'sを続けるべきなのか……それとも終わらせるべきなのか考えてるの」
穂乃果の口から語られたのはラブライブ終了後、μ'sというアイドルグループをどうするかとのことだった。
呼び出された時点で薄々気づいてはいたが、やはりメンバーの口から出てくるとそれなりの重みはあった。
何でもにこちゃんが『私たちが卒業して脱退することになったとしてもμ'sというアイドルグループは続けていってほしい』という願いがあるらしく、その事で絵里ちゃんに相談をしてみたところ『私たちは必ず卒業していくから決められない。だからそれを決めるのは穂乃果たちなんじゃないか?』と言われたらしい。
「だから壮大の意見も貰いたいと思ってたんだけど……」
「オレに意見を煽ろうとするな。6人で結論を出せ」
話が終わり、立ち上がって生徒会室のドアを開けようとしたが穂乃果によって引き止められた。
「どうして……?」
「何がだ?」
「どうしてそんなことが言えるの?私たちじゃ結論を出せないからこうしてそーちゃんにも聞こうとしてるのに……今まで私たちを支えてきてくれたのにどうしてそんなことが平然と言えるの!?」
穂乃果はオレの返答次第ではタダじゃ済まさない、という目をしてオレの前に両手を広げて生徒会室のドアに背を向けるように立っていた。
「これは1・2年生……つまり学院に残ることとなるメンバーで
「「…………」」
生徒会室の中にいる2人はオレが主張した意見の本意を黙って聞いていた。
「だからこの問題は結論が出せないとかそんな甘い事を言える問題じゃない。それにオレは関係者であったとしてもメンバーではないしな……」
さらに2人に向けて意見の本意を付け加える。
「1次予選で歌った『ユメノトビラ』も最終予選で歌った『Snow halation』も……ラブライブに出ようってなったあの日もμ'sみんなで作ってみんなで決めたろ?だからオレの意見なんか参考にしないで残された6人で結論を出せ。それも精神的ダメージが本戦に響かないうちに……分かったか?」
穂乃果は黙って首を縦に動かし、真姫は溜め息をつく。
「あんたのその面倒くささも大概ね……」
「『筋が通っている』って言ってくんねぇかな?」
振り返ることもなく、生徒会室のドアを手にして廊下に出る。
Side 高坂 穂乃果
『オレの意見なんか参考にしないで残された6人で結論を出せ。それも精神的ダメージが本戦に響かないうちに……』
そーちゃんに言われた事が頭の中でグルグルと渦巻いて離れない。
μ'sを続けるべきなのか……それとも解散すべきなのか。
1人で考えてもどうすることもできないので、今日は家でゆっくりと考えようと思った私はどこにも寄り道をせずに家に帰ってきた。
靴を脱いで居間に行くと、雪穂と亜里沙ちゃんがパソコンで私たちが最終予選で披露したパフォーマンスの動画を見ていた。
「おかえり。お姉ちゃん」
「あ!穂乃果さん!」
「亜里沙ちゃん。いらっしゃい」
すると亜里沙ちゃんはおそるおそる私に近付いてきた。
「あの…、穂乃果さんに見て欲しいものがあるんです!」
「ん?なになに?」
私は亜里沙ちゃんへ問いかけると亜里沙ちゃんはやがてこう叫んだ。
「μ's!ミュージック…スタート!!」
「……っ!」
それは私たちがライブ前に必ずといってもいいほどやる掛け声そのものだった。
「どうですか?練習したんです!」
やり終えた亜里沙ちゃんは目を輝かせながら私に聞いてくる。
だけど、その目の奥の輝きを直視することは出来なかった。
「うん…。いいんじゃないかな……?」
曖昧に答えると亜里沙ちゃんは飛び跳ねるように喜び、やがて私に聞いてきた。
「穂乃果さん…」
「ん?なぁに?」
「私がμ'sに入っても……問題ないですか?」
その問いに私は『いいよ!』とも『ごめんね…?』とも言えなかった。
どう答えたらいいのか分からず、愛想笑いをしていると雪穂が助け舟を出してくれた。
「亜里沙。お姉ちゃんはラブライブの直前なんだから邪魔しないの…」
「あぅ……」
「ごめんね亜里沙ちゃん」
私は雪穂と亜里沙ちゃんがいる居間から逃げるように自室へと向かった。
学校のカバンを置いて制服から部屋着に着替えてからベッドに背を預ける形で倒れ込み、片腕で目を隠すように覆った。
「……どうしたらいいんだろう?」
その問いかけに答えてくれる人はここにはおらず、宙に溶け込むように消えていった。
もうこの時点で少し辛いです。
アニメだろうが何だろうが女の涙を見るのは辛いですよ…。(ドラマは別ですが……)
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。