ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
みんなで今日という1日を話しながら歩いていると駅に着いた。
改札口でお金をチャージした磁気カードを読み取る部分をタッチし、駅のホームへと向かう。
後ろで誰かが改札に引っ掛かった音が聞こえてきて異国の地でもおっちょこちょいな人物っているんだな……って思っていた。
が、それで誰が引っ掛かったのかを確認すべきだった。
駅のホームに電車が到着してみんなで電車に乗り込み、奥の方へ進んでいくと反対側のホームにも電車がやって来たらしくゾロゾロと車両へと入っていく人混みの中で妙に見覚えのある人物の後ろ姿を見た。
いや、見てしまったといった方がいいだろう。
何故ならそれは穂乃果の後ろ姿だったからだ。
~Side 高坂 穂乃果~
どうしよう……。
私は駅のホームに設置されたベンチに座り、頭を抱えていた。
みんなとはぐれてしまった。
私が乗った電車はみんなとは逆方向に進む電車だったみたいだ。
宿泊しているホテルの宿の名前も駅の名前も分からない。
英語も簡単な単語だけでまともに話せない。
そして最も頼りになる彼もここにはいない。
………ここにいても仕方ない。
そう決意した私は日本語が通じそうな人物を探し出すため駅を出て街に出る。
けど、都合よくそんな人物に出会う訳もなく私は駅に出た時の決意がどんどん揺らぎ始めた。
もう日本に帰れないのかな……。
もうみんなに会えないのかな……。
もう彼にも会えないのかな……。
最悪の事態が浮かんでは消え、消えては浮かんでを繰り返してとうとう歩く足を止めた。
……その瞬間何処からか歌が聞こえてきた。
周りを見渡すと私がいる場所から少し離れた場所にある大きな建物の横で路上ライブをしている人がいるようだ。
通行人たちの合間を縫ってその人の近くへ行ってみると歌っているのはどうやら大人の女の人で、透き通るような歌声に恥じないとてもキレイだという個人的な印象を持った。
そして私はその人の歌を聞き、気が付くと歌い終わると同時にそのお姉さんへ拍手を送っていた。
英語で通行人に向かって何かを話すと私を残してそれぞれの目的地へ向かって歩き始めており、その場には私とそのお姉さんだけが残っていた。
「……あなたは?」
「えっ?」
お姉さんはまだ残っている私の存在を不思議に思ったのか私に向かって
「あっ……ごめんなさい!キレイな声だなぁ〜って思ってつい聞いてしまって……」
「ふ〜ん……」
「……?」
お姉さんは私のことを観察するように見るや否や口元を隠しながらクスクスと笑い始めた。
……なんでこの人は笑ってるんだろう?
私が抱いた疑問はすぐに解決した。
「もしかして……迷子なの?」
「えっ!?」
なんで分かるの!?
私が迷子になっていることを当てられ動揺しているとまたお姉さんはさっきと同じように笑った。
「やっぱり迷子なんだね……。ごめんね?今あなたを試してたところなんだ」
「酷いじゃないですか!」
何だかこの人の手の上に踊らされた事に悔しさを感じ、抗議するとごめんごめんと謝ってきた。
「でも、あなたみたいに迷子になっちゃう人たまにいるよ?」
話を聞く限りだと本来行きたい場所とは真逆の方向へ行ってしまい、道に迷って途方に暮れる人を何人も見てきたらしい。
まさに今の私の状況にピッタリと当てはまる。
「それで?何処に行きたかったの?」
「へっ?」
「迷子なんでしょ?私がその場所まで着いていってあげる」
「本当ですかっ!?」
思いがけない提案に喜びを隠しきれず、ついつい行きたい場所の特徴を挙げていく。
けど、そこまで細かく覚えている訳じゃないから『大きい駅』の『大きなホテル』に行きたいって言うとその人にカラカラと笑われてしまい、恥ずかしさが生まれてしまった。
けど、それだけで伝わったらしいので私はホッと一安心するように息を吐いた。
「それじゃちょっと待ってて。マイクとか片付けるから」
「はいっ!」
お姉さんがマイクやアンプなどを片付け始め、私は片付くまでの間ずっと待っていた。
何度も繰り返し路上ライブをしてきたのか手際よく片付けていき、終わるのに数分もかからなかった。
「それじゃあ行こっか」
「はい!」
~Side out~
先にホテルへ戻ってきたオレたちはロビーで穂乃果の帰りを待っていた。
絵里ちゃんとにこちゃんと真姫はオレたちより少し離れた場所に座って泣き崩れている海未の介抱を行っている。
「ダメ。穂乃果ちゃんのケータイに繋がらない……」
一縷の希望を信じて穂乃果へコールしても一向に繋がらかったらしく、ことりが首を横に振りながら戻ってきた。
「穂乃果ちゃん大丈夫かな……?」
「もしこのまま戻ってこなかったら……」
「凛ちゃん。そんなこと言っちゃダメやで?」
のんちゃんが凛ちゃんが漏らすネガティブな発言を優しく静止させる。
「穂乃果ちゃんは必ず無事に戻ってくる。……違う?」
それっきり凛ちゃんと花陽ちゃんは何も言わず、ただただ穂乃果の無事を祈るように両手を組み始めた。
「ことり。オレ外の空気吸ってくる」
「うん……分かった」
ことりに断りを入れてからホテルから出て、空を見上げながら深く深呼吸を繰り返していると隣にのんちゃんがやって来た。
「壮くん大丈夫?」
「……とは言いづらいですね」
今のオレの感情は怒りや呆れの他に情けなさや後悔が複雑に混ざり合い、不快な状態にあった。
『なんでチャージ残金の確認をしておかなかったのか』とか『どうしてあの時誰が引っ掛かったのか確認しなかったのか』とか……。
ホントは今すぐにでも探しに行きたい。
ここはアメリカ……日本とは勝手が違う。
穂乃果を探しに行って逆に自分が迷子になってしまったらそれこそ本末転倒だ。
探しに行きたくとも探しに行けない自分の不甲斐なさや情けなさに嫌気が差してくる。
「クソッ……」
「壮くん?」
「なんですか?」
「血、出とるよ」
のんちゃんに指摘されて初めて自分の右手を見る。
手を強く握り過ぎて爪が割れ指先からポタポタと血が滴り落ちていて、足下のコンクリートが赤黒く染みていた。
「壮くんが穂乃果ちゃんを心配する気持ちは痛いほど分かる。けど責任を全部背負い込まんでもええんよ?だから……待とうよ。無事に戻ってくるその瞬間まで」
「のんちゃん……」
「さっきも言ったけど穂乃果ちゃんは必ず戻ってくる。壮くんが誰よりも強く信じてあげないでどうするん?」
そうだ。
悔やんでいる場合じゃない。
穂乃果が無事にここに戻ってくることを祈ることだ。
「後はもう大丈夫そうやね。寒いし中で待ってよっか」
「いえ、ここで待ってます。何だかそうしたい気分なんで」
「そっか」
のんちゃんは手を擦り合わせながらホテルの中へと戻っていき、オレはホテルへと続く石段に腰を降ろして穂乃果の帰りを待つことにした。
穂乃果……無事に帰ってきてくれ!!
~Side 高坂 穂乃果~
お姉さんと一緒に自分が宿泊しているホテルがある最寄り駅へ案内してもらっている間ずっとお姉さんとの会話に花を咲かせている。
何でもお姉さんはアメリカに来て5年ほど経っているらしく、この都市以外にもさっきみたいに野外ライブをやったけど何だかんだでここが一番落ち着くらしい。
そして昔恋人がいて今は別れてお互い連絡は取っていないけど、世界のどこかで生きてはいるらしい。
「あなたにはそんな人いる?」
「えぇ……まぁ……」
「フフッ!だったら大切にしないとねっ」
おお姉さんとの約束だぞっ、とウィンクしながら恋バナに終止符を打つと同時に電車のアナウンスが聞こえてきた。
「そろそろ降りるよ」
「はいっ!」
「……あっ!?」
突然お姉さんが慌てた様に声を上げ、表情もみるみる青くなっていく。
「マイク忘れた……」
「えっ?じゃあ……それは?」
お姉さんが手にしていたケースを指差すとお姉さんはしばらくケースを見つめてから小さく舌を出した。
「てへっ」
「もうっ!驚かさないでくださいよーっ!!」
電車から降り、改札を抜けると見覚えのある建物がいっぱい建っていてその歩道をお姉さんの後ろにピッタリくっついて歩く。
何から何までお姉さんにお世話になりっぱなしはなんだか申し訳ない気持ちになるのでマイクが入ったケースを持つことを提案する。
「このマイク私が持ちますね」
「ありがとう!助かるよ」
改めてホテルに向かって歩き出すとお姉さんが自分の過去を語り始めた。
「これでも昔は仲間と一緒にみんなで歌ってたのよ?しかも日本で!」
「そうなんですか!?」
「うん!」
お姉さんの事だから今の私たちみたいに楽しい毎日を送っていたに違いない。
「でも色々とあってね~。結局グループも終わりになったんだ……」
「それで……どうしたんですか?」
「簡単だったよ」
「えっ?」
簡単だった?
それはどういう事なんだろう?
「
何か分かるような……分からないような……。
そんな曖昧な答えが返ってきたのでその答えを見つけようと考え込んでみても見つからない。
お姉さんはそんな私の様子を見て小さく笑ってまた意味深な事を言った。
「すぐに分かるよ」
……やっぱりお姉さんが言ってる事は難しすぎて分からない。
「穂乃果っ!!」
お姉さんが言っていたことを理解しようと考え込んでいると聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「海未ちゃん!みんなぁっ!!」
いつの間にかホテルの前に到着していて、出入り口前にはことりちゃん、絵里ちゃん、真姫ちゃん、凛ちゃん、そーちゃんが待っていた。
~Side out~
「海未ちゃん!」
みんなとまた会える事が一番嬉しいんだろうけど、待っていたこちら側からしてみればどんな思いをして穂乃果を待っていたか……。
「何やってたんですかっ!!!!!」
外の空気が震えるくらい大きく海未が叫ぶ。
「……っ!!」
穂乃果は悲痛な表情をする海未を見て言葉を失った。
海未の顔は目から涙が溢れ出ていて、右手の人差し指で拭う。
「どれだけ心配したと思っているのですかっ……!!」
「ごめん……海未ちゃん」
感動の再会を果たしているみんなを尻目にその場から立ち去ろうとしているお姉さんに目が行ったので、お礼を言いたくて後を追いかける。
「あのっ!」
「はい?」
ホテルから少し離れた場所で追い付き、お姉さんに向かって頭を下げる。
「あの娘を……穂乃果をここまで案内してくれてありがとうございます」
「そんな大した事してないよ。私の家もこの近くにあるからついでに案内しただけだから」
「それでも、です。お礼として足りないかもですけど明日彼女がリーダーを勤めるグループがライブをするんです。よろしかったら見に来ていただけませんか?μ'sっていうグループなんですけど……」
「μ's……?」
お姉さんにグループ名を告げると、お姉さんは難しそうな顔をしたっきり鼻の下に人差し指の側面を当てながら口元を手で隠して考え込んでしまった。
「……あの?」
「えっ!?あっ、うん。時間が空いてたら行くよ」
それっきりお姉さんはオレに背を向けて街並みへと消えていったのでホテルの自室へ戻るが、お姉さんが何気無くやっていた仕草がオレの中で妙に引っ掛かっていた。
………気にしすぎか?
モヤモヤした気分で部屋の前まで戻ると、穂乃果がドアの前でしゃがみこんでいた。
「あっ……そーちゃん」
「ここで話すのもあれだ。部屋、入れよ」
廊下で話すともう休んでる人に迷惑かかるかもしれない、と感じたオレは部屋のカギを開けて中に入るように促す。
部屋に入ると穂乃果はどこに座ろうか迷っていたけど、ベッドに腰掛けたので穂乃果の前までイスを持っていって穂乃果と向き合う。
「あんなところでしゃがみこんでどうしたんだ?」
「私リーダーなのにみんなにもそーちゃんにも迷惑掛けちゃって……」
なんだ、そんなことか。
「いいよ。許す」
「なんで?私がはぐれてからずっと険しい顔してたって希ちゃんが……」
「いいんだ」
確かに心配した。
やり場のない怒りで自分がどうにかなりそうだった。
けど、それはもう済んだ事だ。
「こうして無事に帰ってきたんだし、もういいだろ?」
「そーちゃん……ありがとう」
「明日本番なんだからそろそろ自分の部屋に戻ってゆっくり休め」
「その事なんだけど……」
腰掛けたベッドの上で体育座りになってみたり、両手の人差し指でツンツン合わせながらチラチラこちらを見たりして何だか落ち着かない様子。
……もしかして?
「一緒に寝たいのか?」
「……うん」
小さい声で返事をして頷いた。
はぁ……仕方ないな。
「分かった。それなら一緒に寝るか」
「やったっ……!」
一緒に寝られる事に嬉しさのあまり小さくガッツポーズする。
その後、シャワーを浴びてくると穂乃果はオレが使っていたベッドに入って寝てしまっていた。
その寝顔を見て間接照明だけを着けてノートパソコンを使って連盟宛に報告文書を送り、オレもベッドに入って眠りにつく。
……明日は頑張ろうな。