ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
アメリカで過ごす最終日は朝早く起きて1人で公園のランニングコースを走って朝メシを食べ、私服に着替えてからみんなとお土産を買ったり近くを観光したりと有意義な時を過ごした。
そして今は部屋を隅々まで確認し、忘れ物が無いかを確認する。
忘れ物は……無いな。
財布やケータイなどの貴重品もジーンズのポケットの中に入っている事を確認してから数日間お世話になった部屋のカギを閉める。
手荷物を持ってロビーへ向かい、チェックアウトの手続きを済ませるとみんなが荷物やお土産が入った手提げ袋を持ってゾロゾロとやって来た。
とうとうこの街とお別れする時がやってきた。
「みんな忘れ物はないわよね?」
「無いッス」
「ウチたちも無かったで~!」
「私たちの部屋も忘れ物はありませんでした」
絵里ちゃんの問いかけに各部屋の代表が答えた。
きっと忘れ物はないだろう。
みんなもそれぞれチェックアウトの手続きを済ませ、表に待たせてあるタクシーへと乗り込んでいく。
「私たちは壮大と一緒ですね」
「そーくんよろしくね~」
「ん。よろしくな」
海未とことりと一緒にタクシーに乗るとタクシーの運転手さんがどこまで行くのか聞いてきたので、来たときに降りた空港の名前を答える。
それを聞いた運転手さんはエンジンを掛け、アクセルを踏んで推進力を得たタクシーは動き出すと同時に猛烈な眠気が襲ってきた。
~Side 南 ことり~
「海未ちゃんは誰にお土産買ったの?」
「私は両親と弓道部のみんなにですね」
「そーくんは?……きゃっ!?」
そーくんにお土産の話を振ると私の右肩に頭を預けるように乗せてきて、すぐに規則正しいリズムを刻む呼吸音が聞こえてきました。
「眠っちゃってますね……」
海未ちゃんが苦笑いをしながらそーくんを呟きました。
どうやらそーくんはことりの肩を枕代わりにして眠ってしまったみたいです。
こんなに気持ち良さそうに寝ているそーくんを起こすのも気が引けるし、肩を枕にして眠るよりかはいいかな?と思いそーくんの頭を私の太ももへと持っていきいわゆる膝枕で空港まで寝かせてあげることにしました。
「ことり!?」
「しー……大声だすとそーくん起きちゃうよ?空港まで寝かせてあげて?」
「ことりがいいと言うなら止めませんが……」
海未ちゃんも最初こそ驚いていましたが、そーくんを起こすまいとことりに注意するのを止めました。
「そう言えば今回はそーくんに助けられてばかりだったね」
「そうですねぇ」
なんとか話を変えることが出来ました。
そーくんはラブライブ連盟から特別派遣アシスタントに任命された日から今回のアメリカ遠征やライブを円滑に進められるように計画を練ったり、アメリカでもラブライブ連盟へのメールによる定期報告や献身的なサポートをしてくれました。
そのおかげで今回のライブは大成功に終わり、目的のスクールアイドルとしてのPRは出来たんじゃないかなと思います。
でも、そーくんのサポートが無ければ今ごろどんな気持ちでタクシーに乗っていたか想像も付きません。
「そーくんも知らず知らずのうちに疲れを溜めてしまっていたのかな?」
「そうかもしれませんね……」
遠くから見るとチクチクしてそうで意外と柔らかい髪が頬に当たり、少しくすぐったく感じながら空港へと向かうタクシーはハイウェイへと入っていきました。
そーくん、ホントにお疲れさま。
Side out
「そーくん、起きて?」
「そろそろ空港に着きますよ?」
「んっ……?」
ことりと海未に身体を揺すられ、目を覚ます。
どうやら知らない間に眠ってしまっていたらしい。
まだ重い瞼を持ち上げると視界がタクシーのシートと平行にになっていた。
「……!?」
状況を理解したオレは急いで身体を起こし、ことりに謝る。
「ごめん、ことり!」
「ううん、ことりが勝手にしたことだから気にしないで。それよりよく眠れた?」
「そりゃまぁ……」
ことりの柔らかい膝枕で熟睡出来ない奴なんているんだろうか。
それくらいことりの膝枕は最高だった……って違うだろオレ!?
うぁぁ……膝枕された身なのに急に恥ずかしくなってきた。
あっ、でももう1度してもらいたいな……ってそうじゃない!!
「壮大がものすごい勢いでシャットダウンと再起動を繰り返してるんですが……」
「フフッ、そーくんカワイイ♪」
そんなこんなで空港に着いてタクシーの運転手さんに運賃を手渡す。
お釣りを受け取るとタクシーの運転手さんは無駄に白い歯を光らせ、物凄くイイ笑顔を浮かべて親指を下に向けながらサッサと行ってしまった。
大変申し訳ない気持ちになりながら空港の中へ入ると先にとうちゃくして待っていたみんなと合流する。
「それじゃみんな揃った事だし行きましょうか」
みんなで手荷物検査へと向かうが眠さと名残惜しさで足取りは重い様子だった。
重い足取りで手荷物の検査を行うところまで歩いていき、1人ずつ手荷物検査をしていくみんなを見ていると見慣れないケースを持っている穂乃果に目が止まった。
「穂乃果、それは……?」
「うん。迷子になった時にお世話になったお姉さんのマイクが入ったケースだよ」
穂乃果がいうお姉さんとはあのお姉さんの事で合っているのか?
マイクが入ったケースを見つめながら困った表情をしながら眉をハの字に寄せていた。
「これ返したかったのに……どうしよう」
「もしまた会う機会が来たらその時に返せばいい」
「うん……」
日本に住んでいないお姉さんとは顔を合わせる保証は何処にもない。
けど、近いうちにまた会える……そんな気がしたんだ。
「さっ、飛行機に乗り込みましょ」
「そうですね。みんな眠そうですし乗っちゃいましょう」
手荷物検査をパスし、いよいよ飛行機に搭乗する。
搭乗口近辺にいるゲートキーパーに飛行機のチケットを見せて、飛行機を繋ぐ通路を経由して飛行機に乗り込む。
オレはアメリカに来るときと同じ2人掛けの窓際。
「やっほ、壮くん」
オレの隣に乗るのはのんちゃんだ。
「お疲れさまでした」
「壮くんもお疲れさま。でも家に帰るまでが遠足やで?」
ニシシ、と笑いながらからかわれた。
オレは小学生じゃないんだけどなぁ……。
「どうでした?今回の旅は」
「ん~……いい卒業旅行にはなったかな」
卒業旅行という単語で思い出した。
今の3年生はもう卒業式を終えて1ヶ月もしないうちに次のステージに立つことになる。
こうしてみんなと顔を合わせて何処かへ出掛けたり、些細な事でも笑い合えるような事がなくなるんだろうな、きっと。
そう考えると……なんだか寂しい。
「そんな悲しそうな顔せんでもええよ」
隣を見ると彼女は気丈に笑っていた。
「……そんな顔してましたか?」
「うん。なんだか寂しいって顔しとったよ」
「……」
「ウチたちは音ノ木坂から卒業した。それは変えようもない事実なのもたしか。でもウチたちと会えない訳やない」
彼女は1度紙コップに入った飲み物を口に含んで飲み込んでから話を続ける。
「みんなとは以前よりも接する機会が少なくなるかもしれん。けど、一生会えなくなるわけやない。やろ?」
「そうッスね……」
離ればなれになるけど会おうと思えばいつだって会える。
そう納得して首を縦に振り、返事をする。
「おっ、動き出したみたいやね」
話し込んでいる内に飛行機の中は満員状態になり、でテイクオフの準備のため飛行機がゆっくりと動き出す。
「てなわけで帰国するまでよろしく頼むで~。なんならことりちゃんにされたみたいに膝枕でもする?」
「お断りします!って言うか何で知ってるんですかっ!?」
「え?だってカードがそう告げてるし……」
「タロット真実告げすぎィ!!!」
オレのクッソ情けない叫びと共にテイクオフ。
日本へ向けて星が輝いている夜空へと飛び立った。
テイクオフから13時間後。
オレたちは飛行機から降りて日本の地に立った。
ベルトコンベアーで流れてきた荷物を取り、引き摺りながら外へと目指す。
「……身体重てぇ」
「またなの?ホントだらしないわね」
アメリカに着いた時と同様に真姫に呆れられてしまった。
お前は飛行機慣れしてるからそう言えるんだ。
「あっ、そうだ」
「ところで真姫ちゃん」
「ん?どうしたの2人とも」
とあることを思い出したのと同時にのんちゃんも同じように何か聞きたそうにゆっくりと真姫に近づき、真姫の耳元で何かを囁いたような気がした。
「曲は……出来た?」
「なぁっ!?」
奇遇にもオレと同じことを聞きたかったようだ。
やっぱりのんちゃんもあの後あのノートの事が気になってたんだ……。
「だからあれは関係ないって……!」
「ウチはいいと思うけど?」
「それについてはのんちゃんに同意だな」
「だからぁっ……!!」
「そろそろバスが来るみたいだから、みんな行きましょう!」
絵里ちゃんは迎えのバスが来るとみんなに告げてきたので穂乃果を先頭に空港を出ようとした……その時だった。
「見て見て!本物だ……!」
「μ’sだ…みんなカワイイ!」
空港からどことなくざわめき声が聞こえてきたのでそちらを見てみるとオレたちとそれほど歳が変わらないくらいの女の子がチラホラと見受けられた。
「穂乃果や壮大の知り合いですか?」
「ううん。知らないよ?」
「オレも見たことないな」
穂乃果たちもこの事に気付いたみたいだ。
「すごい!カワイイ!」
「あっ!こっち見たよっ!!」
「みんなカワイイ~!」
………どういうことだ?
何でオレたちは海外のスーパースターや世界大会で好成績を出したアスリートみたいな扱いをされているんだ?
「あの!すみません!」
理由を突き止めようと思っていたら、突然1人の女子高生が穂乃果たちの前に現れた。
「えっと…なんでしょう?」
穂乃果は状況を飲み込めず現れた女子高生に対してそんな風に尋ねるとその女子高生は、自分のカバンから大きな色紙のようなものを取り出してこう言ったのだ。
「……サインをください!!」
オレはその一言に驚きを隠せなかった。
1人の高校生に『サインをください!』なんてそうある出来事じゃない。
「あの……μ’sの高坂穂乃果さんですよね?」
「……はい」
「そちらは南ことりさんですよね?」
「はい……」
「そちらは…園田海未さんですよね?」
「……違います」
「えっ!?」
「海未ちゃん!何で嘘つくにゃ〜!」
海未になぜ嘘をつくのかを凛ちゃんに問い詰められていた。
その間に何気無く女子高生の後ろを見てみると……。
「何じゃありゃ……」
人、人、人。
女子高生を中心とした長蛇の列が出来ていた。
そしてあれよあれよのうちに即席のサイン会が始まっていた。
そのサイン会は5分、10分、20分と経っても一向に終わる気配がない。
……一体どうしたらいいんだ?
「すみません。あなたが松宮 壮大さんですか?」
どうしようか困っていたらいきなり黒いスーツにサングラスを掛けた厳つい人に話し掛けられた。
「えぇ。そうですが……」
「綺羅 ツバサ様からのお達しでお迎えに上がりました」
「はい!?」
なんでここでアイツの名前が出てくるんだ!?
でも、この機はありがたい話だ。
「みんな!キリのいいところで上がって行くぞ!!」
みんな今書いているサインを書き終え、オレの元へと来ると厳つい人に案内されて空港前で待っていたバスへと乗り込んだ。
……後でアイツから説明を聞かないとだな。