ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
黒服さんが運転するバスは音ノ木坂学院まで送ってもらい、そこからはファンの人に見つからないように穂乃果の家へと向かった。
「……周りには人の気配は無い。入るなら今だな」
周囲にファンの人がいないことを伝えるとみんなは黙って頷き、穂乃果の家へと入っていく。
オレは手荷物を自分の家へ置き、動きやすい服装に着替えてからみんなとまた合流しようと思った矢先に電話が鳴った。
ディスプレイに表示されている名は……『綺羅 ツバサ』。
特に何も警戒する事もなく電話に出た。
「はい」
『私よ。電話に出られるってことは空港から抜け出せたってことよね?』
「あぁ。お陰様でな」
『お疲れのところ悪いけどUTXまで来られるかしら?』
「奇遇だな。オレもちょうど聞きたい事があったんだ」
『決まりね。待ってるわ』
「お待ちしておりました」
穂乃果たちに『少し用事が出来た』と伝え、そのまま穂むらで手土産を買ってからUTXへと向かった。
出入口には『生徒会長』と刺繍された腕章を着けた女子生徒が来賓用のタグを持って待っており、そのタグを受け取り首から提げるように身に付ける。
「いつ帰国されたんですか?」
「つい1時間半、2時間前くらいです」
「はぁ……ツバサさんったら」
エレベーターで綺羅が待っているフロアに向かって上昇している間に聞かれたことを答えると、会長さんは頭に手をやりながら溜め息をついた。
何となくだけどこの人とは話が合いそうな気がする。
苦労してるな……お互いに。
心の中で会長さんに同情していると目的のフロアに着いた。
「この先の突き当たりの部屋にいます」
「案内ありがとうございました」
「いえいえ。では、私はこれにて」
会長さんは自分の仕事があるのか再びエレベーターに乗り、扉が閉まると降りていった。
会長さんを見送ってから言われた通り突き当たりの部屋まで行き、重厚な扉の前で数回ノックする。
『開いてるわよ』
綺羅の声が聞こえたので扉の重さを感じながら開ける。
「いらっしゃい。そろそろ来るんじゃないかってお湯沸かして待ってたわ」
「これ、お土産だ」
「もう少し時間掛かるから座ってて」
言われた通りソファーに座って来客用の背の低いテーブルの真ん中に箱に入った饅頭を置く。
手持ち無沙汰になってしまったのでその間に部屋を見渡してみる。
第1回大会の優勝旗とトロフィーのレプリカがショーケースに保管されていたが、第2回大会の最終予選の賞状は得点表と共にショーケースよりも目につきやすい場所に立て掛けるように置かれていた。
「はい、どうぞ」
湯呑みが置かれる音と綺羅の声で意識を目の前に座る少女へと引き戻される。
「あの時感じた悔しさを忘れないようにしてるのよ。でも、今はそんな話をしに来たんじゃないわよね?」
「……なんでこんな状況になったんだ?」
国民的アイドルグループを差し置いてμ'sのライブ映像がどこ見渡しても流れているのはハッキリ言って異常だ。
けれど、もしかしたら目の前にいる少女ならなにか知ってるかもしれない。
そう思ってここにやって来た。
すると彼女は手を組むように湯呑みを両手に持って話し始めた。
「話せば少し長くなるけど……」
黙って頷いて話の続きを促し、その様子を見てさらに話を進めてくれた。
要約すると最終予選直後はどちらかと言うとマイナスの方でもプラスの方でも盛り上がっていたが、本戦が近付くにつれてマイナスの方の声は少なくなっていったらしい。
そして迎えた本戦時にはA-RISEを破ったその実力を遺憾無く発揮したμ'sを否定的に見る人間はいなくなっていた。
次のライブはいつなのか心待ちにしていた矢先に今回のライブがあり、今現在に至るという。
オレたちが知らない間にそこまで盛り上がっていたのには気が付かなかったな……。
「そこで私が貴方に聞きたいことがあるの」
「オレに?」
「えぇ。今のあなたたちが考えなきゃいけない事よ」
今のオレたちが考えなきゃいけないこと……?
そう言われてもあまりピンと来ない。
「……分からない?こんなに人気が出ててしかも多くのファンの人たちに注目されているのよ?」
多くのファンに注目される程の人気があることを踏まえて考えなきゃいけないこと……?
もしかして……。
「次のライブ、か?」
「そうよ」
「ちょっ……ちょっと待ってくれ!」
制止の声を出し、話の流れを止めて考え込む。
絵里ちゃんたち3年生はあと十数日で音ノ木坂の生徒ではなくなる。
つまりスクールアイドルとしての活動は出来なくなるということだ。
それなのに次のライブの事を考える必要あるのか……?
そんな考えを見透かしていたかのように綺羅は首を横に振った。
「あなたたちが待ってくれと言っても世間は待ってはくれないわ」
「それって……?」
「嫌でも分かるわ。そうね……早ければ明日にでも分かるかもしれないわ」
明日はみんな1度学校に集まる事になっていて、オレもオレで陸上部の練習が入っているから遅れて合流することなっている。
まさか……いや、気にしすぎか?
次の日。
時差ボケから来る倦怠感と眠さと格闘しながら立華高校へと向かう。
校舎の中は期末テストを終え、すぐ近くまで迫ってきている春の大会に向けて練習する部活動やや春の甲子園に選ばれた野球部を応援すべくチアリーディングやブラスバンドなどでどこもかしこも賑やかだった。
「そう言えばお前μ'sのライブ映像見た?」
「見た見た!マジ鳥肌モンだったわ!!」
どこの部の人かは分からないが休憩中なのだろう。
ペットボトルのスポーツドリンク片手に歩く男子生徒とすれ違った。
「しかもあれアメリカでやったんだろ?」
「日本のスクールアイドルが全世界に広めるってすごいよな」
「ホントホント!それにしても
「その時は這ってでも見に行こうぜ!!」
その後その男子生徒の声は聞こえなくなったが、オレにとってとてつもない衝撃を残していった。
今ここでようやく理解することができた。
ファンのみんながどれだけ次のライブを待ち望んでいるか、を。
μ'sの活動は終わることになるけどそれだとファンの期待を裏切る事に……?
そんな考えが過ってからは陸上部の練習中でもその事が頭から離れる事はなかった。
立華高校での練習が終わり、音ノ木坂学院のアイドル研究部の部室に訪ねるとすでにメンバー全員が集合していたが、少し空気が重い。
何があったのか聞いてみると穂乃果がヒフミの3人に次のライブはいつやるのかをかなり問い詰められたらしい。
「みんな次のライブがあるんだって思ってるんだね……」
「これだけ人気があれば……」
「当然っちゃ当然かもな」
「μ’sは大会をもって活動を終わりにするとメンバー以外には言ってませんでしたね」
海未の言う通り確かにμ’sは3年生が卒業するに当たってアイドルグループとしての活動を終わりにしようと決めた。
だが、あくまでそれはグループ内での話。
ファンの人たちに向けては1度も公言していない。
「でも絵里ちゃんたちが3年生だってことはみんなは知ってるんだよね?だったら音ノ木坂を卒業したらスクールアイドルは無理だって分かるでしょ?」
「けど、ファンの人にとってスクールアイドルかそうじゃないかって事はあまり関係ない事なんだと思う」
「そんな……」
あくまでこれはオレの中での推論でしかないけどな。
しかし、穂乃果はその推論を聞いて信じられないという表情を見せて絶句する。
「実際にスクールアイドルを卒業してもアイドル活動をしている人はいます」
絶句した穂乃果を見かねた花陽ちゃんがスクールアイドルとしてのその後の例を出してくれた。
「それはどこかのプロダクションと契約して活動を続けてるってことでいいのか?」
「うん。スクールアイドルじゃないからラブライブには出場出来ないけれどライブをやったりシングルCDやアルバムCDを発表している例はたくさんあるよ?」
「では、どうすればいいのですか?」
海未を引き金にみんなでどうすればいいか考え込む。
そして、オレは1つの結論に辿り着いた。
「……ライブ、やればいいんじゃないか?」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
「『ステージに立たない身で何を言ってるんだ』って思うかもしれない。けど、大勢のファンの前でライブをやって今度こそはちゃんと終わることを伝えるべきなんじゃないかな、って。」
海外のライブが成功して注目されている今だからこそ。
みんなオレの考えに対して返事をすることに戸惑いを見せていたが、今まで何も言わなかった人物が口を開いた。
「ウチも壮くんと同じ事考えてた。ちょうどそれ相応の曲もあるし」
「なっ!?」
チラッと真姫を見ながら話し、何の事を言われてるのかを気付いたらしく止めさせようとする。
「ちょっと……!希!!」
「真姫ちゃん、いいやろ?」
「真姫。オレからも頼む」
「……っ!!」
オレとのんちゃんの訴えを聞き、しばらく葛藤していたが観念したのか溜め息を吐きながら制服のブレザーのポケットから何かを取り出して長机の上に置いた。
それは彼女のイメージカラーである赤……ワインレッドの携帯ミュージックプレーヤーだった。
「これは一体……?」
「実は作ってらしいんだ。新曲」
新曲を作っていた事に事実を知っていた3人以外は驚きを隠せずにいた。
「μ'sとしての活動は終わるのにどうして……?」
「大会で歌ったのが最後の曲かと思っていたけど、そのあと色々あったでしょ?だから自分の区切りとして一応、ね」
ライブで歌うとかそういうつもりじゃなかった、と付け加える。
「真姫ちゃんの新曲、聞いてみてもいい?」
「いいわよ」
穂乃果は許可を貰いミュージックプレーヤーに繋がっていたイヤホンを手に取った。
「私も聞いてみたい!」
「じゃあ、片耳ずつね」
ことりも気になっていたのか穂乃果にお願いして一緒に聞かせてもらうことに。
穂乃果は左耳の、ことりは右耳のイヤホンをそれぞれ耳に入れて再生ボタンを押して聞き始めた。
「……すっごくいい曲!」
「いいな〜!凛も聴きた~い!」
「私のソロもちゃんとあるわよね!?」
穂乃果の率直な感想に反応して凛ちゃんは聞くことを催促し、にこちゃんは自分のソロがあるかと迫っていた。
「聴いてみて!す~っごくいい曲だから!」
「凛も聴きたい!凛も〜!」
「はい、凛ちゃん!」
「ありがとうことりちゃん!にゃは~ん……」
イヤホンを入れられた凛は嬉しそうに聞き始め、口にはしないけど絵里ちゃんまでもがソワソワし始めていた。
「海未ちゃん!これで作詞出来る?」
「はい!実は私も少し書き溜めていたんです!」
海未も真姫と同じように歌詞に使えそうなフレーズのストック量を増やしていたようだった。
「やってみない?μ’sの最後を伝えるライブ」
「凛は大賛成にゃ〜!!」
再び聞いたのんちゃんの問い掛けに凛ちゃんは真っ先に肯定した。
「まぁ、私は別に構わないけど……?」
「そんなこと言って実は真姫ちゃんもライブが楽しみだったりして?」
「なぁっ…!そんなことないわよっ!」
にこちゃんにからかわれるように聞かれ、顔を真っ赤にしながら反論する真姫。
つまりやる気充分、ってところか?
みんなも表情を見るからにのんちゃんの意見に賛成のようだ。
「………ために」
「穂乃果?」
「えっ?あっ、ごめん……」
何かを呟いていた穂乃果を呼ぶとハッと意識をこちらに戻し、みんなに一度謝ってから声高らかに言う。
「こんなに素敵な曲があるんだったらやらないと勿体ないよね!やろうよ!みんなに私たちの最後を伝える……正真正銘のラストライブ!」
リーダーである穂乃果の言葉にみんなは頷く。
「練習キツくなるわよ!」
「ウチら3年生が音ノ木坂にいられるのは今月の終わりまで!!」
「それまでにやることは山積みよ!」
「よし!そうと決まれば明日から練習を始めよう!」
「そうね!時間は限られてくるから練習は明日から始めましょう!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
___ガチャッ!
みんなの士気が高まっていく最中突然部室のドアが開かれ、とある人物がドアから顔を出してやって来た。
「盛り上がっているところちょっといいかしら?」
「お母さん!?」
理事長だった。
「どうかしたんですか?」
「あなたたちに話したいことがあるの。出来るなら理事長室で話したいんだけど……」
「今から、ですか?」
「えぇ」
理事長は何とも言いがたい表情をしながら答え、穂乃果はそれを見て理事長のお願いを承諾した。
「分かりました。海未ちゃん、ことりちゃん、行こう」
「はい……」
「うん……」
「壮大くんも高坂さんたちとの話が終わったら理事長室へ来てくれるかしら?」
「………分かりました」
まずは現生徒会メンバーである2年生3人は理事長に付いて行った。
ちなみに壮大は理事長先生の事は状況に応じて呼び分けしてます。
次回もまたよろしくお願いします。