ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
「穂乃果ちゃんたち何の話をしてるのかにゃあ……」
凛ちゃんが座ってるイスで足をプラプラさせながら呟く。
穂乃果たちが部室から理事長室へ行ってからそれなりに経つが、一向に戻ってくる気配はない。
理事長との話でそんなに揉めているのか……?
__ガチャッ……
力無く開かれたドアから穂乃果たちがやって来た。
「そーくん。お母さんが理事長室に来て、って」
「……ん」
理事長からの伝言をことりから聞き、アイドル研究部の部室から理事長室へと向かう。
その際に穂乃果の顔をチラッと見てみたが、お世辞にもいい顔をしてるとは言えないような表情をしていた。
その段階でどんな話をしたかは……オレの中でだいたいの検討はついていた。
理事長室のドアの前に立ち、ノック数回。
『はい、どうぞ』
「失礼します」
返事が聞こえてきたのでドアを開けて理事長室へと入り、ドアを閉めてから理事長の前に立つ。
「理事長」
「……まずはことりの親として音ノ木坂の理事長として言わせてもらうわね。みんなを無事に戻して来てくれてありがとう」
「いえ。それも命じられた事の1つでしたから」
でも、こんな話をしたいのではないくらい分かっている。
「さて、ここからが本題ね。さっき高坂さんにも話をしたんだけど……」
「「μ'sを続けてほしい」」
さっき自分の中で検討をつけた事を理事長とシンクロさせるように言い切った。
理事長は少し驚いた表情を見せるが、すぐに元の表情に戻して話を続けた。
「高坂さんやことりから聞いたの?」
否定するように首を横に振る。
「戻ってきた際に穂乃果の表情を見て自分の中で推測しただけです」
大勢のファンに向けた正真正銘のラストライブへ向けて盛り上がっていた状態で退室し、戻ってきた時に表情が重かった。
そこから推測して最も可能性のある事を言っただけだったが、当たっていたようだ。
「A-RISEとμ's。ドーム開催を実現させるにはどうしてもあなたたちの力が必要だとみんなが思っているそうよ」
………だろうな。
二大スクールアイドルと言えば?と問われれば間違いなく『A-RISE』と『μ's』と返答してくるだろう。
ここまで人気が出てくるとドーム開催に向けて期待が大きくなるのも分からなくはない。
「とにかく今の熱を冷まさないためにもμ’sには続けてほしいと思っている。だから壮大くんからも何か言ってくれないかしら?」
「……理事長の仰ることは分かりました」
ですが、と一旦間を置いてから自分の意思を理事長に伝える。
__オレは彼女たちの意見を尊重したい。
部室へ戻るとみんなの姿や荷物は無く、不思議に思ったオレは何気無く生徒会室を覗いてみた。
すると穂乃果が頬杖をついてガラス越しに外を眺めていた。
「穂乃果」
「そーちゃん……」
「みんなは?」
「今日はもう解散。明後日にまた集まろうって話になったの」
ということは今回の話はみんなに伝わったってことか。
「なら、オレたちも帰ろう。な?」
「………うん」
小さく返事をしてから力無く立ち上がる。
音ノ木坂学院から出ても何を話すことも無くただただ歩き続ける。
………相当参ってるな。
終わりにする、と結論付けたのに出鼻を挫く様に今回の話が出て
きた。
ましてや穂乃果はグループのリーダーだ。
こうなるのも……無理はない。
「真姫ちゃんにね、言われたの」
「ん?」
「『続けるか終わりにするかのどちらかでしょ?ハッキリしなさい』って……」
「……そっか」
あの時……みんなで誰もいない海辺へ行った時に『μ'sは私たちだけのものにしたい』と語り、μ'sという存在を誰よりも大切にしてきた彼女らしい発言だ。
その後はまた沈黙を貫いている内にそれぞれの自宅に着いたので、今日はそこで別れた。
次の日。
今日は朝から雨が降っていた。
μ'sの練習は無くとも陸上部の練習はある。
だが、この日はイマイチ練習に集中出来ずにいた。
「うぉっ!?……がふっ!!」
体育館の周回走路を雑巾掛けするサーキットトレーニングの途中でバランスを崩して足を滑らせ、その勢いのまま背中から壁に激突してしまった。
「松宮さん!?大丈夫ッスか!?」
「あぁ……大丈夫だ。何ともない」
少し後ろで走っていた後輩が血相変えて駆け寄ってきたが、特にどこか痛めたわけでもないし足を捻った訳でもないので後輩を先に行かせて少しスピードを緩めて雑巾掛けを続ける。
その後もハードルジャンプでは何度も足を引っ掛け、階段ダッシュでは何度も階段の一番上の段で躓いた。
「………」
全体練習が終わり、個人練習のウェイトトレーニングをやっててもどこか気分に乗れないままだった。
……ダメだ、やっぱ集中出来ねぇ。
手に持っていたバーベルを床に落とし、天井を仰ぐ。
これ以上集中力が散漫していたら怪我しかねない。
そう判断したオレはバーベルと付けていたプレートを元の場所に戻してから制服に着替えるため部室へと戻った。
朝よりも強く降る雨の中、傘を指して歩く。
彼女たちは無事答えを見つけられたのだろうか……?
昨日から1人になればその事ばかり。
考えれば考えるほど坩堝に嵌まっていく。
気が付けばいつも帰ってる道ではなく、自分の家とは真逆の方向に歩みを進めていた。
「あれ?そーちゃん?」
「……穂乃果?」
何かの偶然かそこで穂乃果と出会った。
何故ここにいるのかを聞くと、穂乃果も気がつけばここにいたらしく何もこんなとこまで似なくてもと2人で笑い合ったがすぐにその笑顔は今の雨空と同じように曇ってしまった。
「ねぇ、そーちゃん」
「ん?」
「……やっぱり続けた方がいいのかな?」
オレは穂乃果の問いの答えに詰まった。
μ'sの活動を続行させる……それもまた1つの道かもしれない。
だが、それはある事にも繋がる。
それはあの時誓った約束を破ることになる。
あの時身を裂く思いで誓ったあの約束を。
「〜♪」
なんて返答しようか言葉を選んでいると、どこからともなく歌が聞こえてきた。
聞いた事があるような無いような……。
でも、優しさと暖かさが籠められた歌声だった。
「この声……まさか!?」
どうやら穂乃果には心当たりがあるらしく、すぐに手を掴まれグイグイ引っ張られていくうちに歌声の発生源に辿り着いた。
「また会えたわね!……そこのお兄さんも!!」
その人はアメリカで迷子の穂乃果を保護し、オレたちが宿泊していたホテルに送り届けてくれたあのお姉さんだった。
お姉さんが何故ここに……いや、何故日本にいるのだろう。
確かあのホテルの近くに住んでるって言ってたのに……。
「なんでここにいるんですか!?あの時も突然いなくなっちゃって……!って、あ~っ!?このマイクうちにもあります!ちゃんとお礼も言いたかったんですよ!」
「えっ?ごめん……なさい?」
お姉さんは穂乃果の勢いに押され、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら一歩後ろに下がりながら謝る。
そして穂乃果は何を思ったのか今度はお姉さんの手首を掴んだ。
「私の手を掴んでどうしたの?」
「私の家ここからすぐ近くのところにあるんです!」
「えっ!?」
「ウチでお茶だけでも飲んで行ってください!預かってるマイクも返したいですし!」
「えぇ〜っ!!?荷物そのままだしぃ~っ……」
そのまま高坂家に向かって走って連れて行ってしまい、オレとお姉さんが使ってたマイクとスタンドとスピーカーだけがその場に取り残された。
あっ……、これオレが片付けろってやつか?
「ここです!中へどうぞ!」
急いでマイクなどを片付け、穂乃果たちに合流した頃にはすでに高坂家のすぐ横まで来ていた。
「いいよ。ここで……」
「えっ!?」
「また今度ここに来るよ。お兄さんも私の荷物ありがとね」
「あっ、はい」
持っていたマイクケースとスピーカーをお姉さんに手渡す。
高坂家をチラッと見てからオレたちに背を向け来た方を向いて歩き出した……と思ったらまた立ち止まり、再びこちらを向いた。
「……答えは見つかった?」
「えっ?」
何の事を言っているのか分からないが、オレも聞かれた穂乃果も答えに詰まらせているとまたお姉さんが呟いた。
「目を閉じて。……お兄さんも一緒に」
突然の言葉に少し困惑し、オレたちは見合わせていたがお姉さんの指示に従って素直に目を閉じる。
「こう……」
「ですか?」
「うん、よく出来ました」
そして間髪入れずお姉さんはまた呟いた。
__飛べるよ、と。
何が?と聞こうとした刹那、正面から突風とも呼べる強風が吹き付けてきた。
「きゃあっ!?」
「なんだ!?何が起こってるんだ!?」
突風の強さに耐えられなくなり、持っていた傘が遠くへと吹き飛ばされる。
バチバチと顔に当たる雨粒を両腕でガードしながらただひたすらに突風が収まるのを待ち続け、やがて風は穏やかな物に変わっていった。
頃合いを見てガードを解くと信じられない光景が広がっていた。
「……ここは?」
隣にいる穂乃果も言葉にはしないが、同様の考えをしているのかただただ目を丸くさせているばかりだ。
太陽が燦々と輝き、様々な花が辺り一面に広がる光景。
穏やかに吹く風が花を揺らし、花弁を舞わせ幻想的な世界を構築させている。
オレたちの目の前には1本の道が緩やかな坂へと続き、その先にはあるのはどこまでも広がるとても大きな湖があった。
「飛べるよ!」
湖の畔にはお姉さんが立っていて、オレたちに何かを信じるようにお姉さんは声を張る。
「いつだって飛べる!あの時のように!」
「あの時?……あっ!!」
穂乃果は何かを思い出したかと思えば、オレを置いて下り坂を全力で駆けていく。
微笑むお姉さんの横を通り過ぎると文字通り思いっきり跳躍し、風に乗って湖の水平線の向こう側へと消えていった。
「無事に飛び越えたみたいだね。じゃあ、次はキミの番だね」
穂乃果を見送るとお姉さんはこちらに向かってクルリ、と向き直りオレがいるところまで近付いてきたところで質問をぶつけてみた。
「1つ……いいですか?」
「うん。1つと言わず何個でも」
今まで引っ掛かった事全て聞こう……としたけど、やっぱりやめておくことにした。
目の前にいるこの人の正体……なんとなくだけど分かった気がするから。
「……やっぱりいいです」
「そっか」
「じゃあそろそろオレも行きます」
もしかしたらオレが戻って来なくて心配してるかもしれないしな。
「うん。あの娘によろしくね」
「……またいつか会えるといいですねっ!!」
そう言ってからお姉さんが喋ろうとする前にオレは全速力で湖に向かって走り出す。
畔まで下りきると、そのスピードを跳躍力に変換してその身を空中へと投げ出した。
湖を飛び越え、着地してから後ろを振り返るともうお姉さんの姿は肉眼では捉えられない。
諦めて前を向いたと同時にさっきと同じように突風が吹き付けてきた。
その突風に混じってお姉さんの声が聞こえてきた。
__私はいつでも、キミたちの側にいるよ。
お姉さんこと女性シンガーの正体についていろんな考察が立てられてますが、今回はこんな感じにしました。