ラブライブ!~Miracle and Track~ 作:K-Matsu
みんながそれぞれのグループに分かれ、都内各地に散らばっている頃オレは理事長室へと赴いていた。
「というわけで、μ'sの活動は今年度末までとなりました」
理由は勿論μ'sの存続について、だ。
「ですが、彼女たちはドーム開催について諦めたわけではありません。むしろ今からドーム開催に向けて最大のアピールをすべく動き出したところです」
「そう……」
理事長は神妙な顔付きでμ's全員で出した意見を聞いていた。
「彼女たちがそう答えたのなら仕方無いわ。……今はそのアピールが上手く行くことを祈るしかないわね」
「大丈夫ですよ。彼女たちは様々な困難を乗り越えてきましたから」
「妙に説得力あるわね」
「目の前で見てきましたから」
目の前で数多くの困難を、幾重に立ちはだかる壁を壊してきたのを目撃してきたから分かる。
理事長もきっとこう思っているだろう。
ドーム開催に向けて彼女たちなら最大限のアピールをしてくれるであろう、と。
「壮大くん。最後まであの子たちをよろしくお願いね」
「はい!」
翌日。
練習を終えて午後からアイドル研究部の部室へ行くと、パソコンに向かってマウスを操作している花陽ちゃんとスケッチブックに向かってペンを走らせてることりがいた。
「ことり、花陽ちゃん。やっほ」
「そーくんおはよ~」
「壮大くん。練習お疲れ様」
「ん、ありがと。それはそうと花陽ちゃん。今どんな感じ?」
「昨日みんなで都内各地に行ったおかげでこんなにもメールが届いたんです!!」
興奮気味に話しながらパソコンの前を譲ってくれたので、マウスを操作して下へスクロールさせながら受信メール覧をザッと目を通していく。
結果は上々と言った感じだが、まだまだ参加するグループは増えると考えられる。
いや、絶対に増えるはずだ。
「対応しきれなくなったら遠慮なく頼るんだぞ?」
「うん。でも、出来る限り頑張ってみるね」
花陽ちゃんはニコッと笑ってそのままメール対応の作業の続きを再開させた。
「衣装のデザインは?」
「うん!ある程度のデザインは決まってるんだ!」
ことりはそう言いながら、衣装のデザインが描かれたスケッチブックのページを見せてくれた。
赤を基調とした衣装と黄色を基調とした衣装の2種類がスケッチブックに描かれており、ところどころにハート、ダイヤ、クローバー、スペードの4つのマークが散りばめられていた。
「これはトランプの……?」
「おぉ~。そこに気付くなんてさすがそーくんだねぇ」
「ふむ、いいデザインだな。衣装で使う生地はどうなってるんだ?」
「生地はいーっぱい貰ってあるから後は作るだけだよっ。あとそーくん用に衣装……とまではいかないけどネクタイをデザインしてたとこなの」
そう説明しながら衣装が描かれたページを捲り、ネクタイのデザイン案を見せてくれた。
紺色の無地を基調とし、実際にネクタイを締めた際に心臓部分に当たるであろう場所の向かって右側にはオレンジ、水色、青、白、赤、黄色、紫、若草色、ピンクの音符が記されていた。
向かって左側には右側とは逆の順番ではあるが、やはり9つの色で描かれた音符があった。
そして大剣には時計回り順でスペード、ダイヤ、クローバー、ハートの順でマークが並んでいた。
「どう……かな?」
「うん、気に入った。いいデザインだ」
「やった♪」
ことりはキュッとしながら喜んでいた。
何はともあれ衣装については何も言うことはない。
手伝いたいのは山々だが、生憎裁縫は得意じゃないのでここは素直に衣装班に任せることにしよう。
「それじゃ衣装は任せたぞ」
「うんっ!」
続いて隣の部屋にて活動しているはずである海未の作詞をしているところに顔を出した。
「海未。捗ってるか?」
「あぁ……壮大ですか」
彼女は小さく笑ってここに来たことを迎えてくれたが、表情だけで作詞作業が進んでいない事は容易に想像つく。
……ホントに大丈夫か?
「どんなもん?」
「今回はスクールアイドルみんなで歌うので、そのスクールアイドルの魅力を最大限に伝えられるような歌を作りたいです。ですが……」
「……ですが?」
何か問題でも抱えているのだろうか……。
「今書いているのとは別にもう1曲あるのは知ってますよね?」
「あぁ」
アメリカ遠征で見た譜面が書かれていたノートを取り出し、机の上に置いた。
「情けない話ですが……こちらの方まで手をつけていると時間がいくらあっても足りないんです。そこで真姫と相談して決めたんですがこちらの作詞は壮大に任せたいんです」
「……オレに!?」
ちょっと待ってくれよ……。
オレに作詞なんて出来やしないって前に言っただろ!?
そんな不安を見透かすように片手で口を隠すように小さく笑い、立ち上がってノートを差し出してきた。
「はい!壮大ならきっといい詞を書けるはずですからっ!」
……マジかよ。
一度天井を見上げ、溜め息をつきながらリノリウムの床を見つめる。
「やれるだけやってみるけど……お前みたいに上手い詞書けないぞ」
「大丈夫ですよ。私たちの事を誰よりも知っている壮大だからこそ書ける詞もあるはずですから」
海未の瞳を覗き込むと期待の眼差しが向けられていた。
こんな瞳で見つめられると……やらないなんて男が廃る。
「分かった。……必ず完成させてやる」
「……!ありがとうございますっ!!」
海未はとても嬉しそうな笑顔でお礼をしてきた。
責任は重大かもしれないけど、それと同時にやってやろうという気持ちも沸いてきた。
「んじゃ、ちょっと生徒会室借りるわ」
「はい。では生徒会室のカギです」
「ん。さんきゅ」
海未から生徒会室のカギを借りてからアイドル研究部の部室を退出し、もう1つの楽曲の作詞作業に入った。
「…………」
生徒会室にて作業が進めていた時、突如ノックが聞こえてきた。
「はーい」
メンバーのうちの誰かだろう、と思い気の抜けた返事をする。
すると現れたのはメンバーではなく、予想もしなかった者が現れた。
「ふふっ、ハロー」
「……優木さん!?」
「手伝いに来たわ!」
そこに現れたのはA-RISEのメンバーである優木あんじゅだった。
でも、来たのは優木さんだけじゃない。
「こんにちは。松宮くん」
「これ、お土産だ」
「綺羅!?統堂さんも!?」
「私もいますよっ」
「UTXの生徒会長さんまで!?」
まさかまさかのA-RISEの3人に加え、UTXの生徒会長さんまでもがやって来た。
「え?え!?」
A-RISEファンなら卒倒しかねないこの状況に頭が追い付かない。
すると、UTXの生徒会長さんが説明してくれた。
「実は昨日高坂さんがウチに来て今回のプロジェクトを説明してくれて、A-RISEも参加させてもらうことになったんです」
またあのバカは……。
そんな報告聞いてねぇぞ。
「それでさっき南さんや園田さんたちがいた部室に行ったら生徒会室へ行けって言われてきたって訳なの」
「そうだったのか……」
とりあえず事後報告も無かった穂乃果にささやかな制裁を加えるとして、わざわざ来てくれたのに帰らせるわけにも行かない。
「分かった。なら普段グループ内でやってる担当のところに行ってくれ」
「は~い。じゃあ私はまた部室の方に行くね~」
「じゃあ私もあんじゅと一緒に園田海未がいた部室の部屋に行くとしようか」
「私も事務作業やってる方がいらしたのでそちらに行きますね」
優木さんと統堂さんと生徒会室さんは再度部室へと向かい、綺羅だけが生徒会室に残った。
「ところで松宮くんはここで何をしてたの?」
「今回使う曲とは別の曲の作詞。けど、世間に発表するつもりはない」
「ふ~ん……」
「……何もしなくていいのか?」
「私はダンス担当だけど、振り付けは彼女たちに任せようと思ってるの」
「ふ~ん……」
特に会話するネタが無くても会話するような仲でも無いので、会話が途切れると綺羅はイスを窓際へ運び、生徒会室からの景色をアンニュイな表情で眺める。
……やっぱコイツ何をやらせても絵になるな。
一瞥してからまた作詞作業を再開させる。
しばらく経って作業が少し詰まったのを見計らったかのタイミングで、綺羅が景色を眺めたまま唐突に尋ねられた。
「μ’sは終わりにしてよかった?」
「……」
きっとμ's活動終了についての心境を聞きたかったんだろう。
「よかったさ。けど、あんたは少なくともオレと同じくは思ってなさそうだな」
「……そうね。そうかもしれないわね」
接してきた回数は少ない中で初めて弱音を見せた。
μ’sという最高のライバルであると同時に最高の仲間がいなくなることが寂しいのだろうか。
……寂しくないならこんなアンニュイな表情はしない、か。
「なら、お前らがやってみせろよ」
「え?」
けど、あんたにはそんな表情は似合わない。
「A-RISEが数多くのアイドルグループのトップに立って、『あの時活動終了なんてしなければよかった』って後悔させてみせろよ。あんたなら出来るだろ?」
「フフッ……フフフッ……アハハハハッ!!!」
始めは口と目を見開き唖然としていたが灯火のように小さく、そしてだんだんと笑いが堪えきれなくなったのか最後には生徒会室に響くくらい大きな声で笑い出した。
「そうね。なんで今の今までそんな簡単な事思い付かなかったのかしら」
笑いすぎて目尻に光るものが出ていたが、すぐに指で拭いてすぐにいつもの不敵な笑みを浮かべる彼女になった。
「決めた。私たちはμ’sよりも輝くアイドルになっていつかあなたたちが復帰したくなるような活躍をしてみせるわ!」
そう宣言し、その顔は自信に満ち溢れた顔付きだ。
「だったらいつまでもここにいるべきじゃないだろ?」
「えぇ!私も振り付けの作業の手伝いに行ってくるわ!」
バタン!と力強くドアが閉められ廊下を駆ける足跡が遠くなっていく。
やがて生徒会室はまた静かな空間が戻り、屋上から楽しそうな話し声や笑い声がかすかに聞こえるようになった。
まったく……ウチの誰に似たんだか。
でも……。
「やっぱりあんたはアンニュイな表情してるよりも楽しそうな表情してる方が何倍も似合ってるよ」
きっと今ごろ屋上にいるメンバーと一緒に振り付けを決めていく作業をしているであろう小柄ながら圧倒的なカリスマ性を持つ少女に向けて一人言のように呟いた。
エクストラエピソードも終盤。
あと2、3話で終われればいいなぁ……。