不知火 灯の野望~姫武将に恋と遊戯を与えます~   作:騎士見習い

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さらば甲斐

「来るもの拒まず。去るものは人によっては拒む!それが武田の流儀だッ!」

軍配を突きつけながら悪い笑みを浮かべる信玄ちゃん。

お別れを言いに来たら最後の最後でとてもめんどくさいことになりつつあ〜る。俺と同じことを思ったらしく蔵人ちゃんの顔はげっそりしていた。

 

 

「勝千代ちゃん酷いよ!ここは気持ちよく送り出してよ!」

 

「灯様の言う通りですよ!勝千代様」

 

 

「ッッ〜!!お、お前ら勝千代って呼ぶな!!」

 

 

顔を赤くしプルプルと震えている激カワ信玄ちゃん。

 

「あぁ〜〜!!もういい!骨の一本や二本は覚悟しろよ!」

 

 

突如バトルモードに入ってしまい、視線を上に向ければ嵐のような周りを巻き込む勢いで軍配が振り落とされてくる。

 

「灯様ッ!!」

 

 

必死な蔵人ちゃんの声を支えにし右拳で軍配を殴る。接触した瞬間木の板でできた床はひび割れ襖は吹き飛ばされる。手甲をしているにも関わらず骨の髄まで痛みが響く。

 

 

「こんなの喰らったら死んじゃうよ信玄ちゃん!?」

 

「なぁに受け止めたんだ。気にすることはない」

 

 

極端すぎる結果論に苦笑しながら左拳を打ち上げるように軍配を突く。軍配が信玄ちゃんの手から離れ浮き上がる。一息つきたいと思った瞬間に左から首を狩るように刃が不気味な光沢を放ちながら向かってきていた。

先程まで何もなかった空間から短く切られた茶色の髪が現れたと同時に佐助が現れた。

 

 

「油断禁物だよ」

 

 

今まさに死にかけているが心の中は焦っていなかった。刃が届こうとした時にガキン、と鉄同士がぶつかり合う鈍い音が響く。

 

 

「佐助どの髪型変えました?とてもお似合いですよ」

 

 

間一髪のところで頼れる相棒!!

 

 

「どうも、ありがとっ!」

 

 

佐助は勢い良く後ろに飛び置き土産と言わんばかりに手裏剣を投げてくる。蔵人ちゃんの襟元を掴み手裏剣の軌道から外れるように移動させ、的が消えた手裏剣は床に突き刺さった。

 

 

「あたしを忘れるなよ」

 

 

信玄ちゃんの手には軍配ではなく刀が握られ、先程と同じように切り裂くように上段からの一撃がくる。手甲で受け止められるわけが無く万事休すかと思う一面。だが、違う。

 

 

「んな!?」

 

 

本来なら俺を真っ二つにしている筈の刀が寸前のところで何かに阻まれたかのように止まる。

 

 

「段蔵姉さんから教わっといてよかったよ」

 

 

信玄ちゃんの刀の刃は蜘蛛の糸のように張り巡らせられた何本もの糸が絡まっていた。気にせず押し込もうとするが壁に阻まれているかのように動かせずにいた。

 

 

「ふ〜ん、私の前で段蔵の技を使うなんてさぁ〜。殺される度胸があるってことだよね?」

 

 

さすが犬猿の仲だけあって技を見ただけで佐助らしからぬ凄まじい殺気を放つ。

さすがに馬鹿正直に相手をするのは骨が折れると思い、

 

 

「修行の成果を見せる時だよ!蔵人ちゃん!」

 

 

「がってん!」

 

 

蔵人ちゃんの両手にはいくつもの煙玉が握られ一斉に部屋一面を白く染めた。

 

 

「そんな子供騙しが効くと思っているのか?」

 

「もちろんそんなの百も承知だよ」

 

 

これだけ部屋に粉が舞っている状況ならやることは一つしかないでしょ!懐から火打石を取り出し後先考えずに発火する。

城全体が震えるような爆音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

城下町の家々の屋根を足場にぴょんぴょんと飛んで移動する。

 

「いやぁ〜成功したねぇ」

 

 

「あれだけの実験の成果が出てきて良かったですね」

 

 

暇つぶしの一環として粉塵爆発の絶妙な威力を検証に検証を重ねた結果、死なずかつ逃げることのできる身体の状態を保つ爆発を生み出した。だが、欠点が一つだけある……めちゃくちゃ痛い!二度としたくないね!

 

 

「めんどくさいのも終わったわけですし、ちゃちゃっと甲斐から去りましょ」

 

 

蔵人ちゃんの言葉を肯定してあげたいところだが、そうは問屋が卸さない。待っていたと言わんばかりに目の前に立ちはだかる四人組がいる。

 

 

「遅かったわね」

 

「ここからさきはぁ〜」

 

「通しませんわよ!」

 

「……え?、内藤修理には台詞はないんですか!?」

 

 

ふ、不便すぎるよ修理ちゃん……。目からこぼれ落ちそうな涙を我慢する。

 

 

「お見送りってわけじゃなさそうだね」

 

「もちろんですわ。無駄なお喋りをして頭を叩き割れないように注意しなさいな」

 

 

意味ありげな言葉を言い放つや、ほんの少し視界が暗くなり、目の前にいたはずの一人がいないことに気づく。ゴンっ、と鈍い音がしたと同時に頭に信じられないほどの激痛が走る。視界はチカチカと真っ白く覆われ糸が切れた糸人形のように力なく倒れる。

 

 

「灯様!灯様!しっかりしてください!」

 

 

元気に返事をしてあげたいところだけど脳震盪を起こしてるらしく体に思うように力が入らない。どれだけ修業を積んでも万能になれるわけではない。

 

う〜ん数分は復帰できないかなぁ〜。ごめんね蔵人ちゃん。

 

 

 

 

女性に対しては注意力がお粗末になるのがこんなところで仇になるなんて……。

一秒でも早く復活するように額に薬草を塗る。先程よりも表情が少しだけ穏やかになったように感じ一安心する。灯様だから数分で動けるようになる。その間に……

 

 

「殺す」

 

 

血が冷たく感じる。五感が研ぎ澄まされる。標的は四人。右手にクナイを持ち臨戦態勢をとる。

 

 

「あちゃ〜遅かったかぁ〜」

 

 

聞き覚えのある声が聞こえる。爆発に巻き込まれたはずの佐助どのが焦げ臭さを残しながら現れた。

 

 

「まさかこんな短時間で追いつかれるとは思いもしませんでしたよ」

 

 

「ふふん。真田忍軍を舐めてもらちゃあ〜困るよ〜。そこで伸びてるのと違って油断はしないからね」

 

 

きっと今頃灯様はぐうの音も出ないで反省してると思う。そんなことを思っていても今の状況か絶望的なのは変わらない。

 

 

「信玄様は後のことは任せると私に一任してくださった。さて、蔵人ちゃん。5対1だよ?大人しく投降してくれると助かるんだよねえ」

 

 

「そうですね。そうした方が互いに良い結果になるでしょうね」

 

 

「うんうんそうそう。話が早くて助かるよ。私でも蔵人ちゃん相手だと手加減できずに殺しちゃうかもしれないから」

 

 

「でも……今は違います。灯様の影響で私も底意地の悪さが染み付いちゃいましたよ。万に一つの可能性があるのなら私は死なない程度に頑張るんです!」

 

再び構え直し数分間の時間稼ぎをするために全神経を研ぎ澄ませる。

 

 

「そっかあ〜。それなら……死なないように気をつけてね」

 

 

前から四人。後ろから一人。腕の一本を覚悟し受け止めることに全てを注ぐことを意識する。

技量と速さから佐助どのの攻撃が先に来ると予測したが私の考えを読んだように武田四天王の時間差攻撃に合わせるようにクナイと手裏剣を放ってくる。

 

全てを避けることはできない。佐助どのの攻撃だけを受けることだけは気持ちが許さない。だから心の中で灯様に謝りながら向かってくるクナイと手裏剣を撃ち落とすのと同時に受けるはずだった攻撃箇所から鈍器と金属がぶつかる音が二箇所から聞こえた。

 

 

「未来の夫の野望には彼女が必要不可欠なのよ。それに……」

 

「ここで見捨てたら彼女の初々しい恋の先行きが気になって夜も寝れませんわ」

 

 

昌信さんの短刀が木槌を止め、昌景さんの鉄扇が石つぶてをはじき返す。今の光景に危機が去ったのか安堵していいか分からない。

 

 

「あれれぇ?これはどういうことかなぁお二人さん?」

 

「どうもこうも、さっき言った通りよ」

 

 

私の初々しい恋? ち、ちがっ、!?言葉の意味を理解した瞬間、頭が沸騰しそうになる。

 

 

「いやぁ〜まいったまいった。でも、これで五分五分といったところかな」

 

 

「ふんっ。相変わらず思ってないことを言うわね。佐助の相手、任せてもいい?蔵人ちゃん」

 

 

「もちろんです!」

 

 

互いに敵対する者と向き合う。一瞬でも目を逸らしたら確実に殺られると長年の経験が警告を出す。灯様が言ってた通り、殺意を感じないのが不気味でしょうがない。次の瞬間、目を離していないにも関わらず目の前から佐助どのが消える。

 

 

「はっ!」

 

 

振り返りながら何も無い空間を斬りつけると確かな手応えを証明するように甲高い金属音が響く。そして姿を現す。

 

 

「あれれ?どうして分かったのかな?」

 

 

「簡単な話ですよ。今この場には戦意、警戒心などなど多くの気配がビンビン伝わってるんですよ。そんな場所に突然、気配がない異物が紛れ込めば一瞬で分かりますよ」

 

 

半分ぐらいは死を覚悟してたけど、ものは試しようってことですね。

 

 

「だてに奥州の黒脛巾の組頭をやってるだけあって一筋縄にいかないねえ。……うん、楽しくなってきたねぇ」

 

 

どこにいるかが分かっても、どこから刃が向かってくるかは読めない。さっきのは運が良かっただけで次はどうなるか分からない。

 

 

「そ〜ろそろ灯が復活するだろうけど、灯と協力して私を倒しちゃうのかな?」

 

 

灯様となら倒せる可能性が高い。自ら殺されるような馬鹿な手段をとるような私じゃない。でも、

 

 

「勝算がなくても全力が出せる今の機会を逃したくない」

 

 

 

 

「よしっ!なら蔵人ちゃんに任せちゃうかな」

 

 

なんだか懐かしい気がする。そう思えるほど、ずっと一緒にいたからなんだろうか。それでも、彼の言葉は熱を帯びていて、私の心を暖める。

 

 

 

 

 

 

 

「んんっ〜〜復活じゃ〜!!」

 

 

 

 

額からは血が垂れているがスゴく痛い。周りに誰もいなかったら悶えてるがカッコ悪いところは見せられないので我慢。

 

 

「それじゃあ蔵人ちゃん。佐助をよろしく!」

 

 

「いやぁ〜やっぱり一緒にどうです……か?」

 

 

先程までの威勢はどこへやら。

 

「お断りしますぅ〜。それに、どうやら俺を待ってる人がいるらしいし、ね」

 

 

視線を佐助に向けるとニヤリと俺の予想を肯定するように笑みを浮かべる。

 

「今のあの娘は以前よりも格段に強いから気をつけるんだよぉ〜灯。さてさて蔵人ちゃん、互いに殺しの限りを尽くすぞぉ〜。おぉ〜!」

 

 

「嫌です!お断りです!帰ります!」

 

 

真反対の心境の二人を放っていくのが少しばかり心配だが行くしかない。

 

 

「んじゃ、がんばって蔵人ちゃん」

 

 

怨嗟のような恨み言が聞こえてきたが無視して走り出す。

 

「昌信ちゃん、昌景ちゃん。本当にありがとう」

 

 

通り過ぎざまに一言、感謝の念を伝える。それだけで二人には全てが伝わったのか分からないがそれでも、鼓舞するかのように金属音を響き渡らせた。

 

 

 

 

 

 

最初に通った竹林には十文字槍を携え今までとは違う覚悟を持った黒髪ポニーテールの幸村ちゃんが待ち構えていた。

 

 

 

「素直に通してはくれなさそうだね。幸村ちゃん」

 

 

「当たり前です灯兄さん。ここを通りたかったら私を倒してください!」

 

 

未熟な者が成長していくのを見るほど楽しいことはない、と師匠たちが言っていた。こうして実際に自分の目で時が刻むごとに成長する彼女の姿を見ると師匠たちの気持ちがよく分かった。

 

今まさに、未熟な火は炎となり、いつの日か炎焔へと成長するだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「灯様がいるってことは勝ったんですよね?」

 

 

甲斐から離れ、尾張へ向かう道中に無事にボロボロになった蔵人ちゃんが座り込んでいた。

 

 

「ん〜それはどうかな?」

 

 

「なんですかその曖昧な答えは……。ま、まさか逃げてきたんじゃ!?」

 

 

「大丈夫!大丈夫!それはないから!!試合に勝って勝負に負けた、かな。ま、まぁ!蔵人ちゃんは無事に勝ったんでしょ?」

 

 

半ば強引に話題を逸らしながらも気になる蔵人ちゃんのことを聞く。

 

 

「最後の最後に情けをかけてもらいましたが。勝ちは勝ちです」

 

 

想像を絶する戦いがあったんだろうと脳内で補足する。

 

 

「灯様ぁ〜疲れたからおんぶしてください」

 

 

普段なら断るところだけど今日ぐらいはワガママの一つぐらい聞いてあげることにしよう。急ぐ旅でもないわけだし。

 

 

「ほれ、どうぞ蔵人ちゃん」

 

 

本当にしてくれるとは思っていなかったらしく、きょとん、と目を丸くしていた。自分から言っときながら恥ずかしがってる蔵人ちゃんだが、素直におんぶされてくれた。

ほのかな暖かさを背中で感じながらゆっくりと歩き出す。

 

 

「それじゃあ行こっか。いざ!尾張へ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『また挑みに来て欲しい。それまで決着はお預けかな』

 

 

『絶対に挑みます!そ、それで灯兄さんを倒したら……しし、しししゅ、祝言を行います!!ま、負けたら、お嫁さんになります!!』

 

 

 

思い返すだけで大胆なことを言ったと思う。目標であり愛する人でもある彼にいつか追いつける日を夢に見る。

 

 

──共に人生を歩ませてください

 

 

 

 

 




甲斐編が終了しました!後半はやや駆け足でしたが灯と蔵人ちゃんがどんな闘いをしたのかは想像で楽しんでください。け、決して書くのが疲れたなんてありませんから!!

さて、ついに物語は尾張!乞うご期待!!


では、あらためまして読んでくださってありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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