第1種接近遭遇・映・特製クッキー。ガンパレ好きでこの単語にみゅんと来た人向けの話。尚、Sランクエンドその他もろもろネタバレ有り。<自HP、Arcadiaにも掲載してました>

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めでたしめでたしの始まり

 

 

 

 最初にプレハブ小屋への通路で出会い、クッキーを貰い。

 二度目は僅かな雑談の中で彼女の想いを知り。

 三度目、胸に付けた戦車章とひそかな勇気を聞く。

 

 そして、四度目。

 知り合いとおぼしき女生徒から、たった一週間前に照れた顔して走り去った彼女の最後を知る。

 

 

「映? ああ、あの娘ね。…死んじゃったよ。ミノタウロスに戦車ごと潰されてね。…死体収容するのに苦労したわ。元々、整備員がパイロットの真似なんかするから…」

 

 

 

 日常のふとした合間に知り合い、この世界の厳しいリアルを示す舞台装置のごとく、あっけなく殺された彼女。

 やがて幾つもの時を超え、物語は竜と成ったクラスメートの開放により、ハッピーエンドを迎える。

 

 幻獣は消え去り、世界は救われた。

 誰もが笑顔で迎えるハッピーエンド。

 喜びと希望に満ち溢れたエンドロール。

 

 けれど、彼女の終わりは変わらない。

 五十年の歳月、絶滅寸前まで追いつめられた人類の犠牲も覆らない。

 

 

 それは本当に、めでたしめでたし、なのだろうか?

 

 

 

 

―0―

 

 

「私とあなたが出会うのは、はじめてではありませんね。…どうも、世界と時間がループしているようです。つまり、我々は何度もこの世界をプレイしている可能性があるということですよ。いや、実際そうなっているのでしょう。私は近い世界から介入しているせいで分かりませんが、あなたは、どうですか?」

 

 

  ループしている←

  ???

  

 

「…この連続してループする世界が存在する原因は、おそらく最強の幻獣、竜でしょう。竜がなんらかの理由で時間が流れることを拒否しています。だから時間をループさせている。逆説的には竜が居なくならないかぎりループは続きます。ゲームと物語は終わらないわけですね」

 

「フフフ、…さすが青が躍起になって追うわけだ。しかし、参りましたね。このままでは我々に未来はない。いや、正確には、この世界に未来はない。永遠に戦争が続いてしまう。…むう。いつまでものぞみさんが成長しないのは、かなしいことですね」

 

「ふむ。…どうですか。同じプレイヤー同士、手を組みませんか。私はのぞき専門のハッカーで世界をいじるのは好きではありませんが、この世界、それなりに気にいっています。未来がないのは悲しい。どちらかというとあなたは介入専門のようだ。手を組んでループを終わらせませんか」

 

 

  はい←

  いいえ

 

 

「では、よろしく。冬休みが終りそうなので、私はしばらくの間、このキャラから離れていますが、また、日曜に…この世界じゃなくてね…になったら、介入します。それまでにちょっと介入してみて下さいよ。じゃ、頼み…まし…【ピーガガ、ガ、ガ、ピピー】フフフ、……イワタ、イワタ、イワタ、イワタマーン誕生!はっ、私はどこ? ここは誰?」

 

 

 

―1―

 

 

 

 電車で通える戦場。

 学校でいろんな説明を受けて、今日になって又同じような説明を受けて、やっとたどり着いたのは、数年前、お父さんやお母さんと一緒にご飯を食べたでっかいデパートのある街だった。

 

 

「さっきから、随分きょろきょろしてるけど。ここ来たことあるの? 映」

 

「うん。全然変わっちゃってるけど、少しだけ面影わかるかも」

 

「でも、あんまりそうしてると殴られちゃうよ。痛いのやだし、早くいこ?」

 

「ごめんごめん、戦車の中入っちゃうと見れないから、つい。もうOKだよ。準備万端!」

 

 

 右腕をぐっと折り曲げ、力こぶを見せながら笑いかける。

 

 

「結構、筋肉ついたでしょ?」

 

「けんすいに腕立て、ずっと頑張ってきたもんね」

 

 

 あたり一面焼け野原。とはいかず、瓦礫、残骸が山ほど散らばる街を背にして戦車に乗り込む。

 緊張を紛らわすため会話に付き合ってくれていた彼女とは、一旦ここでお別れ。

 戦車章を手に入れて、階級的には一緒となったけれど、私は今日が初陣で、彼女はこれが五度目の大ベテラン。

 ほとんど見学みたいな援護射撃を任された新米と仕事場が違うのはしょうがないよね。

 勉強始めた時期は一緒だったのに、一人だけずんずん先行していっちゃった裏切り者だけど。

 

 ぶー、やっぱり悔しい。

 

 今度、じゃがいも投げつけてやろうかな?

 だめだめ、大事な食料をそんな風に使ったらいけないよね。いくら、炊き出しばっかりで味気ないのに飽きてるからって。

 

 人型戦車と違ってウォードレスを着込む必要がないので、ボクシングでつけるみたいなヘッドセットを被ったら、あとはコックピットにポツンと座るだけ。

 エンジンをかける。途端、ドルルルルって音がして、よくわかんない機械たちがパチパチピコピコ動き出す。

 オペレーターの指示に従って、そのまま前進。

 ガッタン、バッキン、ドッコン、ズットン。平坦な道路を少し進んだだけで凄い振動。

 戦場についたら、右へ左へ、上へ下へと動き回るのだから、もうこのぐらいは慣れたもの。

 一時間くらいの走行じゃ、びくともしないよ! 

 

 ……ちょっと、嘘ついた。

 

 ほんとは十分もしないうちに、もうフラフラ。

 これは乗り物じゃなくて、兵器なんだから仕方ないってわかっているけど、やっぱりもっと快適に運転できるようにして欲しい。

 中は臭いし、狭いし暗いし、あと寂しい。

 お気に入りの猫キーホルダー、もってきておくべきだったかな。

 うん、次回は忘れず持ってこよう。

 

 

『第67戦地区に伝令。小型幻獣19、内訳不明、ヒトウバン及びゴブリン多数。中型幻獣6、内訳、ゴルゴーン2、ナーガ3、キメラ1。繰り返す、第67戦地区に伝令……』

 

 

 大きな道路を外れ、戦車一台が何とか進んでいける狭い道を指示に沿ってうろうろさせ、ようやく持ち場に到着、というところで聞きなれない硬い声がヘッドセットを突き抜けた。

 

 

「状況は聞こえた通りです。各員、持ち場への到着は完了していますね。只今より、敵襲撃ポイントへ向け攻撃を開始します。一号機は先行して威嚇射撃の後、陽動。二号機はその撤退を待って、後方より砲撃。三号機はそれら二機の援護に回ってもらう。支持があるまでその場で待機」

 

「一号機、了解」

 

「二号機、了解」

 

「さ、三号機、YES! じゃない。はい、了解です!」

 

 

 緊張が津波のように襲ってくる。

 既にいくつかの部隊は戦闘を始めていて、此処までの道のりにも嫌な色の液体を吐き出す味方が散乱していた。

 いよいよ、戦争をするんだ。

 殺し合いをするんだ。

 そういう気持ちが胸の奥から溢れ出してくる。

 

 

「怖い、怖い、こわい、こわいよ」

 

 

 ピーピーピー。

 突然、オペレーターからでない無線がランプとブザーを響かせる。

 慌ててトグルスイッチを上にあげ、耳をすます。

 

 

「映、どうせあんたのことだから、ブルってるだろうけど。こんなの顔をしっかりあげとけば良いんだよ。

 撃てって言われたら撃つ! 逃げろって言われたら逃げる!

 あとは、適当に機銃だけ切らさないようにしとけば、早々死なないから!」

 

「あ、……うん」

 

「以上、大先輩からの忠告。じゃっ、お漏らしだけはするなよ、ベイベー」

 

「えっ!? そ、そんなの絶対しないよっ!!」

 

「くくく、初めては誰でもそう言うんだ」

 

 

 ――プツンッ。

 ムカっとしてこみ上げた言葉を出す前に無線が切れる。

 

 

「うー、悔しいなぁ。絶対、終わった後で文句言ってやる」

 

 

 でも、ありがと。

 緊張ちょっとだけ、どっかに飛んでいったよ。

 

 

 

 

 

 モニターに映る粒みたいな敵に、ロックオンもせず機銃を掃射。

 いざ、実戦になって初めて気がつく。もうこれ、何がなんだか全然判らないってコト。

 戦況は順調に進んでいるらしい。時折、通信の入るオペレーターの声が、敵の撃破を次々と教えてくれる。

 ゴブリン撃破、ヒトウバン撃破、ナーガ被弾、ナーガ撃破。

 こっちは瓦礫をキャタピラが乗り越えていく振動やら、機銃の発射で生じる断続的な反動やらで、いっぱいいっぱい。

 唯一、気をつけていることは、味方の方へ銃身を向けないようにすることぐらい。

 

 じゃんじゃん、ばりばり。

 じゃんじゃん、ばりばり。

 

 

「三号機、ゴルゴーンを撃破」

 

「えっ! あ、はい」

 

 遠くの方で動く何かへ適当に撃ち続けていたら、そんな報告が聞こえてきた。

 レーダーの詮索機能と自動演算装置による照準補正は、こんな新人にも凶悪で恐ろしい中型幻獣を容易に倒させてくれる。

 

 

「へへっ、覚悟しなさい化け物ども。この私が来たからには、直ぐに根絶やしにしてやるんだから」

 

 

 戦争がそんな甘っちょろいものだなんて、もちろん思わないけれど。こんな自分でも、誰かを守る戦いが出来ている実感が、いつの間にか心を強くさせる。

 

 お父さんは徴兵先で死んだ。

 お母さんは電車に突っ込んできた小型幻獣の所為で大怪我を負った。

 

 別にうちだけが特別って訳じゃない。

 昔よく遊んだ従兄弟や親戚も、ずっと仲良しだった友達も、みんなみんな戦争と戦争による日常で死んでいった。

 数少ない、なけなしのお金。

 私が出来るだけ平和に生きていけるようにって整備科へ入れてくれたお母さんは、入院した病院が無くなっちゃうから、もうすぐ治療が不可能になるらしい。

 もう駄目だって判っているから、食事も満足に貰えなくなったみたい。

 

 

「全部、お前達みたいなのがいるから」

 

 

 握ったグリップに力が入る。

 弾幕を作ることで、敵の行動範囲を阻害するのが私の仕事。

 

 

「一、二号機へ伝令、地下遊歩道より未確認の幻獣を確認。直ちに――」

 

 

 突然、酷く中途半端に無線が途切れた。

 あれ、どうしたんだろ。また、通信機がラグっちゃってるのかなぁ。

 ポンポンポン、後付で載せられた黒い箱を叩く。

 練習中に、なんども故障してくれた無線機械。

 流石に実戦の最中、こうなっちゃまずいから修理に出したって聞いてたけど、やっぱりもう寿命なのかなぁ。

 

 

『第67戦地区に伝令。第5014小隊指揮車の大破を確認、混乱を防ぐため直ちに一時撤退を命ず。繰り返し、第67戦地区に伝令。第5014小隊指揮車の大破を確認、混乱を防ぐため直ちに一時撤退を命ず』

 

「え、…これ、」

 

 

 第5014小隊って私達のことだよね。

 変だよ。だって、ついさっきまできちんとオペレーターさん指示くれてたよ?

 それに大破っていうのは、重大な故障による壊滅的な損害か、もしくは――。

 

 

「…きら!! あきらーっ!! 早く返事しなさい。聞こえてるんでしょう? あきらーっ!!」

 

「ふぇ、……?」

 

 

 緊急無線がいつの間にか繋がり、親友の怒鳴り声がコックピットにこだまする。

 

 

「はやく、はやくっ!! 撤退を開始しなさい! 撤退戦に関する注意事項、忘れたの?」

 

 

 

 

 思い出すのは、いつもサングラスをかけていたおじさん。坂口教官が厳しい顔して話してくれた授業。

 

 自分は好きなことをして、相手に好きなことをさせなければ、それは戦闘にとって有利となります。

 これが主導権、すなわちイニシアチブを取ることであり、戦術においての基本です。

 

 ここで必要なのは常時変わっていく状況の中、相手の位置を的確に把握し、最適なポイントへと移動し続けることになるでしょう。

 さて、ここで何よりも理解して欲しいのは、各戦線の状況によってこの主導権という戦術有利が流動していることです。

 一般に、陸戦における敗北のラインは5%と言われています。

 大体、二十人のうち一人が死んだらその戦闘では負けと思って間違いありません。

 これが10%を超えると大敗北、14%を超えれば記録的な惨敗として扱われます。

 

 簡単に表せば、5対5での勝負の最中、一人が死ねばどうなるでしょう?

 

 有利にたった側が、誰かに加勢し、どこかの局面で1対2の状況が出来てしまった次点で勝ち目が無い。

 この倍の違いが連鎖し、たった20%と思われる数字は貴方たちの想像を遥か凌駕して勝者を決めてしまいます。

 戦争中、もっとも損害を生み出すのがこれを活かした追い討ちの戦闘。

 すなわち、味方の有利による掃討戦、敵側の有利による撤退戦という状況です。

 早く退かなければ被害が広がる。

 かといって相手に背を向けるのですから、そう簡単には逃れられない。

 

 つまり、どちらにとっても行動に移るまでのスピードが何より重要になるといって良いでしょう。

 

 

 

 

「あ、…ぁ」

 

 

 部隊において指揮車とは、それに乗る士官やオペレーターというのは、人体にとっての心臓といって差し支えない重要な機関だ。

 腕や手にあたる兵が死んでも隊は怪我を負うだけだが、士官が死ねば皆が死ぬことになる。

 指揮がない、戦術が無いというのは、それほどの不利を一瞬にして生みだす。

 

 足元のペダルを滅茶苦茶に踏み込む。

 

 グリップを握り締める力を強め、真っ白に染まっていく指に構わず、機関砲を打ち続ける。

 逃げなきゃ、はやく逃げないと大変なことになる。ぞくぞくとした震えが、早々痙攣に変わって全身を覆っていく。

 比較的、敵の中心から離れた場所に位置していたこともあり、運よく敵との遭遇を免れていく。

 とにかく早く、速く、はやく!!

 焦る気持ちから噛み締めていた唇から、血が滴る。

 

 痛みを振り切るため、更に強くグリップを握ったところで、視界の前方に破壊された指揮車が見えてきた。

 あぁ、あれが。

 段々と近づくそれに意識を向けていると、その後方に恐ろしく大きな肉塊が現れ、周りに小型幻獣の群れる姿が見えた。

 

 戦車すら一撃で破壊する、ミノタウロス。

 群を成して人を襲う、ヒトウバン。

 

 視線を凝らせば、ミノタウロスの仕業であろう大穴が指揮車に空き、そこからヒトウバンが続々と這い出てくる。

 幻獣の前面には人の顔が切り取って張り付けられ、そこに見慣れた上司と知り合いを見つけた彼女は、ところ構わず、コックピットに反吐を撒き散らした。

 

 

「いや、いや、……」

 

 

 駄目だと判っているのに、力の抜け切った手足は勝手に、戦車の操縦を止めてしまう。

 

 

「違うの、わたし、こんなつもりじゃ……」

 

 

 訓練したの。沢山したの。

 自分の代わりに誰かが死んじゃうことが嫌だから。

 周りのみんながもう苦しむところを見たくなかったから。

 

 その中には、あのぽややんとした男の子も含まれていて

 

 あんな優しそうな人が、ある日突然戦争で死んでしまうことが怖くなったから、……わたしは。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

「映って男の子みたいな名前でしょ? 私の親、私が来るまで男の子だってずっと思ってたの」

 

 

 表情をうかがうようにして、暫く眺める。

 

 

「合格。笑わないなんてYES。友達になろ?」

 

 

 不思議そうに目を瞬かせる彼、そんな様子が面白くて思わず笑う。

 女の子みたいに綺麗な顔をした彼も、つられてぽややんと微笑む。

 

 

「私、いま整備の仕事をしているんだけど。そっちの戦車って人型だよね。どう? やっぱり手間がかかる?」

 

 

 頷く表情には、ちょっと困った色。

 本当は全部知っていて質問した。

 自分を鍛えることの他に、いつも夜遅くまで機体整備している彼らを見ていたから。

 

 

「ふぅん。…えっと。でもやっぱり、整備より戦車兵をしたいよね」

 

 

 なんで、苦労を思い起こすだけのそんな質問してしまったのか自分でもよく判らない。

 最近の私はちょっとおかしい、彼のことを考えると直ぐに心がぐるぐるしていく。

 初めて味わう感覚。

 誤魔化すように笑みを浮かべて、そして視線を窓の外へと逃がした。

 

 

「誰かに守られるのって好きじゃないし」

 

 

 なんだか心がとても熱くて、不意に発していた呟き。

 あっ、と気がついたときにはもう後の祭り。

 ずっと思ってきた私の本心。誰にも内緒にしてた私の気持ち。

 それが、思いがけず口から飛び出していた。

 

 

「あははは。なんてね。…何を会ったばかりの君に言ってるんだろう。そうだ、ひょっとして君、魔法使いでしょ。私に変な魔法をかけた?」

 

 

 だってこんなの変だもん。

 胸が熱くて、どきどきして、くらくらする。

 

 最初の出会いもそう。

 実習で作ったクッキー、本当はお母さんに渡したかったクッキー。

 手持ち無沙汰となっていたそれを持って歩いていると、青い髪の見慣れぬ男の子が廊下の向こう側から歩いてきた。

 授業中、ふとしたとき目に止まったプレハブ小屋の彼ら。

 いつか校庭で料理を作っていたところを窓越しに眺めたことがある。

 

 臨時で出来た小隊ってそんなに貧しいんだ、可哀想。

 

 まず思ったのはそういう感情。

 それが失礼なことだってわかっていたけど、思ってしまったのだからしょうがない。

 こんなご時勢だから誰だって戦争をしながら生きている。

 でも、そこには確かに、平等じゃない個人ごとの差があって。

 だから上から目線の施しや自分自身の偽善を満たす行為と思われるかもしれないって考えながら、でもどうしても渡さずにはいられなくなった。

 

 だけど、彼はそんな思惑ぜんぶ吹き飛ばしてしまった。

 たった一つの笑顔で、そんなことを出来る人間がいるだなんて知らなかった。

 

 

 

 

 胸につけた徴章、を誇らしげに見せる。

 誰よりも始めに見せたくて、ずっとこの機会を窺っていた。

 

 

「これでもう、ね、自分が守られているとか、自分の代わりにだれかが死んでいくってことから逃げられるの。食事の時ごとに押しつぶされることもないの。この勲章ってちっぽけなやつだけど、そう考えると、価値、あるよね」

 

 

 彼はうなずいた。

 向けられる顔には、欲しかった笑顔があった。

 

 

「…あ、その態度、YESじゃないっ」

 

 

 思わず頬が赤らむ。

 嬉しくて、嬉しくて、長かった苦労が一気に報われていくようで心が跳ねた。

 

 

「嘘、ちょっとYES。君って本当に魔法使いだね。今度はゆっくり見せてあげる」

 

 

 言葉を続けるうち、急に恥ずかしくなって、その場から逃げ出す。

 

 

「もう行かなきゃ。訓練するの。…じゃねっ」

 

 

 死んじゃったお父さんのこと、未だ惚気るお母さんの気持ち。

 少しだけわかった気がした。

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 そっか、私、好きだったんだ。

 どうして今になって気がつくんだろう。もう絶対無理なのに。

 ほら、もう目の前まで幻獣が迫ってきて――

 

 

「あきらーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 建物の隙間から飛び出してきた一台の戦車。

 横合いから、油断しきっていた幻獣達を駆逐していく。

 

 

「ど、…して」

 

「そんなの決まってるでしょ、くだらないこと言ってる暇があったら早くペダル踏み込みなさい!」

 

 

 驚きと、それを超える確かな安堵感。

 一瞬で感情が爆発する。涙と嗚咽がとめどなく溢れてくる。

 

 

「あ、ぅぁ、……あ、りが、…」

 

「だからいいって言ってるの! もう」

 

 

 彼女の戦車は、囲まれた自分の三号機よりも遥かにボロボロだった。

 それを見ただけで、これが如何に無茶で馬鹿な想いで成り立つ行動かが判ってしまった。

 

 

「いい? あたしはこっちを撃つ! あんたはあっちを撃つ! 一気に抜けるわよ」

 

「うん! うんっ!」

 

 

 故障によって砲塔は四十度しか旋回せず、走行時速は最大時の三分の一も出せていない。

 そんなオンボロ戦車をくるくると器用に動かしながら、彼女達は進む。

 味方はもう、とっくに後方へと避難を終えた頃だろう。

 援軍は期待できない。代わりに敵側の増援は、次々と湯水のように現れる。

 だけどそれでも、助かると思えた。

 事実、たった一体を残し、幻獣達は完全に道を明け渡していた。

 

 

「くそっ、ここまで来たってのに。くそっ」

 

 

 たった一体の絶望。

 ミノタウロスは、放たれる機関砲の掃射を受け止めながら、その場にじっと押し留まり続けていた。

 本来なら、こうして弾幕を張れているうちに避けて通ってしまいたい。

 だけど、前後四つある可動式車輪のうち二つが破損してしまった一号機が足枷となってそれも行えない。

 ジリ貧だ。弾も燃料もあとわずか。

 補給車など、最初からこんな市街地内部まで進んできていないから付近にある訳が無い。

 

 撃つ、撃つ、撃つ。周囲いっぱいを気にしながら、見上げるほど巨大な化け物に。

 撃つ、撃つ、撃つ。これで消えてくれと、叶わない願いを指先にこめて。

 

 そして、撤退の命令を受けてから早六分、そろそろだと気を回していた矢先、それが起こった。

 急激に回っていた残弾数のカウントが底を告げる。

 彼女ともが二人、次々と溢れ出てくる幻獣達を相手するのに機関砲を全開で撃ち続けていた。

 三百六十度、常に気にしていなければならなかった為だ。

 

 

「…っく……ぅ、ごめん、…わたし、……ごめっ、ん」

 

「違うよ。あたしが好きにしたんだ」

 

 

 通信を切り、二人同時にハッチを開けた。

 戦車と一緒にひしゃげられるなら、目の前の親友を眺めて死にたかった。

 例え、ヒトウバンに切り刻まれようとも、最後は誰かと一緒に死にたかった。

 

 

「助け、て……だれか、お願いだから」

 

 

 どうして、世の中はこんなに嫌なことばかりなんだろう。

 そういうものから他者を救う決意をした自分は、結局なにも出来ずにここで死ぬ。

 こうして親友だった彼女までを巻き込み、化け物たちに殺されていく。

 

 怖くて悲しくて、親友の元へと走りよった。

 まるでそれを待っていたみたいに動き出す、巨大な化け物。

 

 手をつなぎ、震えながら最後を待つ彼女達の覚悟を受け取った訳ではないだろうが、ヒトウバンを掻き分けて、ミノタウロスだけが近づいてくる。

 大きく隆起した鋼のような腕がゆっくり持ちあがった。

 息を止め、走馬灯も流れない真っ暗な気持ちを抱え、目を閉じる。

 

 

 魔法使いさん。

 わたし、……

 

 

 

 

―2―

 

 

 

 

 ――ガシャン。

 

 酷く重たい音が響いた。金属が潰され、引き千切られてしまうような鈍い音。

 そんな音を聞いてから不思議に思った。

 どうして茹でたジャガイモみたいにして潰される私達から、そんな音がするんだろう?

 あぁ、そっか。そういえば戦車が足元にあるんだった。

 あれ? でも、やっぱりおかしいよ。

 だってまだ私、立っている。壊れたはずの戦車の上に立っている。

 

 

「間に合ってよかった。安心してください、この世界は救われます」

 

 

 小さな声が肩から聞こえ、目をあけた。

 それに深々と一度おじぎをした小神族が、映と親友にそっと笑いかける。

 

「火の国の宝剣に仕える巫女神のイトリです。もっとも新しき伝説。心優しく、勇気を知る方達より強運を預かって参りました。世界全てに先駆け、まず貴女を救えとの命を受けています」

 

 

 とても綺麗な顔立ちの小人。

 全然似ていないのに、どうしてか彼の笑顔と重なった。

 

 

「え、え!? なに、なんなの、これ」

 

「わぁ、…綺麗」

 

 

 数十層によるリューンの防壁に守られ、見渡す周囲には、いつの間に集まったのか動物達の姿が数え切れないほど存在している。

 猫、ペンギン、オラウータン、象、キリン、ウサギ、その他もろもろ多種多様。

 特に猫は驚くほど多い。

 黒いのと白いの、母猫と子猫、それらを中心にして皆が歌い始める。

 初めにミノタウロスを、それに続いて消え去っていく小型の幻獣達。

 

 遥か過去、よき神々が謳った本物の絶技。

 

 もう、此処が戦地のど真ん中だとか。

 自分達が、おぞましいほどの幻獣に囲まれていただとかの事実が、いっぺんに消えていく。

 

 

「やっぱり、そうだったんだ」

 

 

 あのとき唐突に思い浮かんだ、魔法使いという単語。

 

 

「本当に、ほんとに、そうだったんだ」

 

 

 涙があふれた。

 嬉しさで出てくる涙は、暖かくて何だか気持ちいい。

 

 

「ね、小人さん。あの、彼は此処にいないんですか?」

 

「彼? あぁ、青き巫女のことですね。彼らなら五十年前に向かいました」

 

「み、巫女? それに五十年前って」

 

 

 イトリは小さな胸を大きくそらした。

 彼を語るとき、あまりにも誇らしくてとってしまう、最近の彼女の悪癖だった。

 

 

「黒い月を出現と同時に叩くのです。めっためたに壊してやるのです」

 

 

 胸をそらし過ぎて、肩から転がり落ちそうになるイトリ。

 さっぱりよく判らない展開に着いていけず、置いてきぼりとなっていた彼女の親友が、そっと手を伸ばして支えてやる。

 それに小さく会釈をとり、イトリはまた仰け反った。

 

 

「全てを救うのがあの方の望みです。そしてようやく、今日このときに辿り着きました」

 

 

 よくわからないけれど、なんだか凄く誇らしげな小人の様子に、少しだけ笑う。

 そうしているうち、嬉しさがまた込み上げてきて、彼女は思わず空を見つめた。

 

 

「まほーつかいさーーーーーん! ありがとーーーーーっ!!!!」

 

 

 そのまま、何も無い空の彼方に叫ぶ。

 

 

「だいすきだよーーーーーーっ!!!」

 

 

 湧き上がってくる膨大な気持ちを我慢することが出来ず。彼女は、自分の持てる全てを声にして叫んだ。

 不思議と、それは絶対に届いてくれている確信があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―蛇足―

 

 

 

「さて、速水。私のカダヤであるお前だが、あれは何だ」

 

「え、…えっえっ」

 

 

 ギュイーンと気まずい音楽。

 ライバルが不在に関わらず、争奪戦の音楽が場に響く。

 

 

「おぉ~、なっちゃん凄いで見てみい、本場もんの修羅場やわ~」

 

「こりゃあ、面白か展開ばいね」

 

「愛こそ全て、愛こそ幸せ。ラブがあれば、きっと生きられるさ速水。アーメン」

 

「姉さんに手を出さなければ、なんでもいいけどね。僕は」

 

「うちの女どもは、変な…いや、癖の強い女が多すぎる。健全な男子としては、もっとこう、なんだかな。可憐な人が欲しいんだが。…やっぱり、原さんだろうか」

 

「おぉっ、ありゃあ本物のアイアンクローだな。俺もタイマンはってた頃に使ったことあるが、あそこまで見事に決まると骨が砕けるぞ」

 

 

 崩れ落ちる速水。

 怒り収まらぬ舞。

 臆せず近づいていく幼女と、胸の中の大猫。

 

 

 ばんぶつのせーれーがどうとか、しらない。

 うんめーがどうだかわかんない。

 ぶとうがどうとかきいてないっ!

 でもあっちゃんは、たちあがるのよ。のぞみがそうきめたから。

 それがせかいのせんたくなのよ。

 のぞみがきめたの。

 せかいは、よくなるのよ。ぜったいに。

 

 

「たちなさい!」

 

 

 血を吐きながら腕を動かす

 だめだといって首を振る←

 

 

「たちなさい!」

 

 

 歯を食いしばって足を動かす

 だめだよといって目をつぶる←

 

 のぞみは大きく息を吸い込んだ。

 

 

「たちなさい!」

 

 

 血を吐きながら準備オッケー

 くそったれ、どうせ死んでやる←

 

 

「ニャー! ニャー!」

 

 1耐久力だけ、回復します。

 

「この古い血に残る最後の力を…未来に!」

 

 さらに1耐久力だけ、回復します。

 

「…俺も賭けよう。まだ勝負は終ってない」

 

 さらに1耐久力だけ、回復します。

 

 

 

 

 舞は笑った。

 

  

「ほぅ、耐久力僅か3で私に歯向かうか」

 

 

 速水は答えられない。

 たった3では、呼吸すら満足に行えなかった。

 

 

「お、おい、誰か芝村とめてやれって。今回で何回目だよ、あれ。流石に可哀想じゃないか?」

 

「懐かしい光景よね。そこの眼鏡」

 

「さて、なんのことやら」

 

「あ、あの、先輩、本当に放っておいて良いんですか?」

 

「…女難の相が…出て…いるわ…」

 

「布団でも干せば、心もすっきり乾くと思いますがね」

 

「歴史変ワル時、転換点にあなたのヨウなひと出るデス」

 

「フフフ、ギャグですね。ギャグは良い。彼はほんとにすばらしいぃ、すばらしぃぃぃ!あぁ、フンフン、フンフーン! おっと、宇宙からの信号がまた【ピーガガ、ガ、ガ、ピピー】…ループが解けましたね。どうも私が勘違いしていたようです。竜がループさせていたのではなく、あなたがループさせていたわけだ、世界を救うために。それにしても、ふふっ、のぞみさんに介入とは考えたものです。幼女には誰も逆らえない。…さて、私の方は先ほど任務終了の命令が来ましたよ。これでこの身体ともお別れです。ありがとう、完全なる青が許せばまた共に戦いましょう。では」

 

 

 

 

 

 

 歴史的補講

 第5世界における五十年戦争。

 それについては多くを語る資料がある。

 戦争は長く永く続き。

 ある時、ついに始まらず終わった。

 沢山の者が歴史の表舞台に出た。

 だが、その終わりの文章は、常に、判を押したかのように一つである。

 つまり、めでたしめでたしと。

 これを歴史と呼ぶか否かは、専門家の間で意見が分かれるが、ここは素直に定説に従うものとする。

 つまり、――

 

 

 めでたし、めでたし、と。

 

 

 

 




ずいぶん昔に書いたSSの手直しです。
それにしても、こんなん今更UPして内容わかる人どれだけいるか……。
ともあれ、読了ありがとうございました。

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