東方音楽奏   作:煉音

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お茶会は吸血鬼と

 私は咲夜さんというメイドさんに湖の端で会った。その湖は霧の湖という幻想郷と言われる世界の地名らしい。この幻想郷から元の世界に帰るには、咲夜さん曰く危険な巫女さんに話を聞く必要があるらしい。そして咲夜さんの住む館にはその親友がたまに遊びに来るという理由で、私は今湖の上を咲夜さんに掴まれて移動している。彼女はやっぱり普通の人ではないのか。

 

「もうすぐですわ」

 

 唐突に言われて「わかりました」と反応できたのは主人様に似てしまったからかもしれない。霧もさっきよりだいぶ薄くなった気がする。しかし先はまだ見えない。館とはどのくらいの大きさのものなのだろうか。アメリカのホワイトハウスが頭に浮かぶ。

 

 数秒無言が続き、霧があけた。目の前に浮かぶ光景に「うわぁ・・・」とよくわからない感嘆?の声が漏れた。

 

 目の前に広がった光景は、明治時代の日本絵とかにありそうなレンガ作りの巨大な館で、さっきの私の予想を裏切るには十分だ。しかもなんともシュールな佇まい・・・湖と緑しか見えない大地にポツンと立っている。そのレンガも真っ赤で、いつぞやに主人様と見た真っ赤な満月を思い出す。

 

 私はもう目の前の館に見とれて言葉も出なくなってしまった。それだけすごいのだ。咲夜さんはそんな私の顔を上から覗き込んできていた。

 

「口が開きっぱなしですわ。あなたの期待を裏切る大きさでしたでしょうか?」

 

 全くもってそのとおりだ。なんとかガチガチになった思考を動かし言葉を紡ぐ。

 

「はい、裏切るどころか相手にされてなかったみたいな状態ですね」

 

 咲夜さんは軽く微笑みながら「そう」と言って前を向き直した。しかし私の一番の気になる点は経済状況に出てくる。こんな何もない辺境の地にポツンと立っている館はどうやってその生涯を刻んでいるのか。とても気になる。

 

「咲夜さん、そういえばメイドさんでしたね。主様ってどんなお方なんですか?」

 

 もちろん、こんな場所でメイドさんを雇うくらいの経済活動を行えてる館だ。主様はかなり優秀な方だろう。それなら主人様の元に帰る前にしっかり知識を持って帰って、これからの生活の楽しみ方の一つとして生涯を歩みたいものだ。

 

「吸血鬼のレミリア・スカーレット様よ。お嬢様は強い人が大好きですから、きっとあなたのような妖力の高いモノならお気に入りなさられるはずよ」

 

 予想外だ。吸血鬼?お嬢様?しかも外国人の名前!?咲夜さん日本人名なのに・・・どうなってるんだこの世界は・・・?色々とおかしすぎる。とりあえずツッコミはいれないでおこう。

 

「そ、そうなんですか」

 

 そんな会話をしてる間に館の前についてしまった。やっぱり近くで見ると迫力がある。赤さと言い、大きさと言い、規模と言い、ホワイトハウス以上かもしれない。

 

 そんな館の前にはやっぱり似合うくらいの大きさの門がある。その門の前、正確に言うと門の柱の前に緑色の目立つチャイナ服を着たお姉さんが立っている。頭に乗っかっているベレー帽的な”龍”の施しが入った帽子が特徴的だ。そんなお姉さんは立ちながら下を向いている。その頭は時折上を向きかけてまた下に落ちる動作を繰り返しているからおそらく寝てる。

 

 結構器用だなーと思っていると、咲夜さんはそんなお姉さんを見てか、どこから取り出したのか果物ナイフよりも細いどちらかというと短剣を一本、刃の部分を持って構えた。

 

 まさかと思ったが、そのまさかだ。投げた。

 

「へ?」

 

 私の声も微かにしか出ない。ビックリしたからだろう。投げられたナイフは正確にチャイナ服のお姉さんの頭の方に飛んでいった。意外と遠いのにそんなナイフの軌道を正確に私は捉えていた。

 

 お姉さんはうとうとした状態で手が慣れてるように動いて、ナイフをギリギリで歯を掴んで止めた。そんなお姉さんはいまだにウトウトしている。なんだあの人・・・。

 

「あの・・・大丈夫なんですか?」

 

 もう少し言うことがあるだろって話だが、今の私にはこんなことをいうのがやっとだ。咲夜さんは真顔で「大丈夫よ」とか言ってるし、本当にどうなってるのやら。

 

 歩いて門の前まで来た。お姉さんは眠り続けたままだ。しかし・・・チャイナ服の胴体がかなり膨れている。バストの大きさは咲夜さんとは全然違うようだ。

 

「咲夜さん・・・この人・・・」

 

「ああ、うちの門番の紅美鈴よ。最近居眠りの時間が増えて全然仕事しないの。しかも起こすためにナイフを投げてもキャッチしちゃってね。居眠りレベルが上がって困りものなのよ。あ、ちなみに美鈴は気を使う程度の能力を持っている妖怪ですわ」

 

 へ?妖怪?もうなんだこの世界、吸血鬼と言い妖怪と言い、咲夜さんみたいな空飛ぶ人間と言い、歴史上忘れられた者ばっかりいるじゃないか。しかも吸血鬼の館で妖怪が奉仕中ってどんな状況!?日本の妖怪が外国の吸血鬼の下に仕えるってかなりシュールだ。

 

「は、はぁ・・・そうなんですか」

 

「あれ、咲夜さん。お帰りですか」

 

 美鈴さんが起きてしまった。眠そうな目に涙を少し溜めてこちらを見ている。

 

「美鈴!ちゃんと仕事しなさい!次からはお嬢様に言いつけますからね」

 

 咲夜さんは意外と奉仕者の取り締まりもしているのか。

 

「咲夜さん、そちらのお方は?」

 

 美鈴さんは私のことを不思議なものを見るような目で見てきて言った。

 

「ああ、名前はコルノって言うらしいわよ。幻想入りしたての子なんだけど、前は楽器だったんだって、外の世界に帰りたいらしくて白黒が来るまで、うちで働いてもらおうかなって、ほら、白黒なら紅白の巫女と仲いいでしょ?」

 

 咲夜さんは美鈴さんに私の紹介をしてくれた。働くことは聞かされてなかったけど、元の世界に帰るためならなんだってしてもいい。咲夜さんの説明に合わせて軽く頭だけ下げておいた。

 

「あ、そうなんですか。コルノさん私は紅美鈴、この紅魔館の門番をしています。何かご不満やわからないことがあれば何でも聞いてくださいね」

 

「ご丁寧にどうも。よろしくお願いします」

 

 美鈴さんはとっても優しそうな人だ。きっと仲良くなれるだろう。

 

 そんな私と美鈴さんの話を切るように、咲夜さんは門を開けて中に入るように促してくれた。

 

「では、美鈴、ちゃんと仕事しなさい。私はコルノをお嬢様に会わせてきます」

 

 そう言って、私は美鈴さんに手を振りながらその場を咲夜さんと後にした。

 

 門の中に入るとやっぱり中は巨大だ。門から屋敷までかなり広さがある。主人様の知り合いですらこんな庭を持っているお方はいなかった。

 

 そんな庭はとっても整えられていて、たくさんお花が植えられている。ただ円の中に?を書いたようなミステリーサークルがあったのは、場違いな気がして変なものだった。それを横目に咲夜さんの後についていく。

 

 もう館は目と鼻の先だ。館のドアは大きく3mはあるだろう豪華な装飾がたくさんついている。そんなドアには咲夜さんが到着するなり、慣れた手つきで押し開けてくれた。

 

 中が見えた瞬間私は目を疑った。中と外の空間と形状が違うのだ。外から見ても十分な大きさだが、中はもっと広い。

 

「さ、咲夜さん・・・中と外の大きさが違う気がするんですが、一体全体どういうことでしょう」

 

 咲夜さんは肩ごしに「あ、これね」と言って言葉を続けてくれた。

 

「これは私の能力で空間を拡張してるのですわ。私はこういうことをするのが得意で好きだから気にしないでどうぞ」

 

 咲夜さんやっぱり只者じゃないらしい。空間を拡張ってかなりすごい。

 

「く、空間を拡張?咲夜さんはどのような能力を持っているのですか?」

 

 もちろん気になる。だから聞いてみた。

 

「私は時を操る程度の能力を持っていますわ。時間を止めたり、加速させたり、減速させたり色々できるわ。だからこんな感じに」

 

 一瞬のうちに背景がパッと変わって、四角い部屋の真ん中にいた。窓もあっていたって普通の部屋だが、椅子と机が何個かある。どうやら客室らしい。やっぱり咲夜さんはすごい人みたいだ。きっと時間を止めて私を移動させてくれたのかな。

 

 とりあえず周りには誰もいる気配がしないので、椅子に座って咲夜さんが戻ってくるのを待つことにした。自分一人だけという感覚はもう慣れた。主人様は私の事をその手に抱えてくれるまで、私は真っ暗な箱の中で寝て過ごしていた。

 

 主人様はとっても私を大切に使ってくれた唯一の人だ。休日は主人様とずっと一緒にいられる日で、私の双子の姉とも一緒にいられる日だ。だけど姉の主人様は体を壊しやすくて、よく私と主人様だけで練習をしていたものだ。

 

 また主人様の手の中で自分の音を出して音楽を紡ぐ日は来れるだろうか。いや、絶対もう一度取り戻したい。

 

 不意にドアをコンコンと叩かれた。

 

「は、はい?」

 

 不意だっため声が変に高くなった。

 

「失礼します」

 

 声はさっき聞いていた声と同じ、咲夜さんの声だ。

 

 ガチャッと開けられたドアの向こう側、咲夜さんの隣にはピンクと赤色が目立つ、咲夜さんより20cmくらい身長の低い少女がいた。冷徹な目は子供のそれとは違うし、背中からチラチラと見える黒く大きな翼は蝙蝠のそれだとわからしめる。彼女がレミリア・スカーレット、この館の主様だろう。

 

 冷徹な目が私を捉えた瞬間、背中を下から上に一気に冷たい物が走った。体は一瞬のうちに緊張して、無意識にガタッと音をたてて椅子から立ち上がって固まってしまった。

 

 咲夜さんとレミリア様が、部屋に入ってきて、レミリア様は私の向かい側に座った。青っぽいような銀色っぽいような、セミロングの髪にお嬢様風といえば変かもしれないが、リボンを巻いたナイトキャップを被っている。傍から見れば可愛いと思うが、その目つきは私の体を凍らせるには十分すぎる。睨み殺されるかもしれないとさえ思ってしまう。

 

「えっと?咲夜、この子が新しいメイド?それにしては妖力を感じるんだけど大丈夫なの?」

 

 レミリア様が話始めた途端の私の緊張はマックスだ。いっそ倒れてしまったほうが楽かもしれない。楽器だった私は緊張の場など演奏会にしかなく、主人様のわずかな震えと鼓動の速さを体に伝わらされながら一緒に頑張ったものだ。

 

 そんな私が自ら緊張して自らこれを体験している。主人様もこんな感覚だったのか。

 

「はい、さっき湖の端で倒れていたので、事情を聞いたうえで連れてきました」

 

「そう、じゃあ面接みたいなものだけど、あなたをメイドとして雇う前に話をしておこうかしら、咲夜、紅茶と最近出してくれるクッキーとか出して」

 

 レミリア様は咲夜に言いつけ、また私を見据えきた。ずっと立ったままだった私に、表情を崩さないまま座るよう促し、テーブルに肘をつき、手を組み合わせ何か商談をするような姿勢で、口を開き始めた。

 

「私はレミリア・スカーレット、この紅魔館の主で吸血鬼よ。見た目はこんなだけど500年以上生きてるわ。あと私の能力は運命を操る程度の能力だ。私の自己紹介はこれでいいかしら?じゃああなたの自己紹介をしてくれるかしら?」

 

 う、運命を操る能力?・・・それって私の運命までも見れるということか。恐ろしすぎる。とりあえず刺激しないように、言われたことだけに答えなければ・・・。

 

「わ、私はコルノです。目が覚めた時から記憶が曖昧で、咲夜さんが言うに外の世界に住んでいて、その世界で楽器として生きていたということしか覚えてないです・・・」

 

 レミリア様は「そう」と言って、さっきよりも表情を緩めてくれた。

 

 いつからそこにあったのか気づけば、目の前に色とりどりのクッキーと主人様が好きだったダージリンの香りがする紅茶が置いてあった。主人様はダージリンの紅茶が大好きで、高校生の時は身につけるもののほとんどはダージリンの香りがするように施しをしていたくらいだ。

 

「コルノ、あなたは外の世界に住んでいたみたいだけど、どんな暮らしをしていたのかしら、紅茶に視線が行ったときちょっと反応したけど、意外と同じようなものを外で見ていたということかしら」

 

 かなり鋭い、私の目線もわずかな顔の筋肉の動きですら見ているらしい。目の前の驚異的存在に圧倒的な力差のカリスマ性を感じ始めてしまった。

 

「あ、はい。私の主人様がこの香りの紅茶やクッキーが大好きで、いつも身につける衣服とかに香りをつけて生活していたので、とても懐かしいと思いまして・・・」

 

 冷徹で恐怖を覚えていたレミリア様の目が一瞬で崩れた。恐怖から一瞬で愛想が感じ取れて安心が心のうちに広がる。

 

「ふふ、あなたは主人愛の溢れる子なのね。とても興味深いわ。もう少し話をしましょう?咲夜、ごめんだけどしばらく席を外してくれるかしら。コルノの話をもっと聞いてみたくなったわ」

 

 レミリア様は視線だけ咲夜さんに送って指示をだす。咲夜さんは「かしこまりました。どうぞごゆっくり」と言ってパッとその場から消えてしまった。

 

 それから私はレミリア様と、私の主人様の話や外の世界の生活環境、幻想郷の特徴や幻想郷に住まう民の情報、紅魔館でのメイドとして仕事、給与、など色々と楽しい会話を弾ませたのだった。

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