「コルノ、あなたは今日から紅魔館のメイドよ。あなたの望みが叶うまでここにいていいわ。人数は多い方が退屈はしないしね」
そう言って咲夜さんは私の肩に両手を置いてきた。目の前には姿見がある。そんな姿見に映る姿は、主人様そっくりな顔だ。形の整ったいつ見ても綺麗な可愛い顔に、肩にかかる程度の黒い髪、真っ黒だけど透き通るような瞳だ。そんな私の頭にはレミリア様のようなリボンがないナイトキャップが乗っていて、服は咲夜さんと微妙に違う青が目立つメイド服、詳しく言おうとすれば、紅魔館内にいる私よりも小さい妖精さんと同じメイド服を着ている。主人様そっくりだから主人様がそこにいると勘違いしてしまいそうだ。
「咲夜さん、それで私は何をすれば良いのでしょうか?」
白黒魔法使いという人はたまにしか来ないらしいから、働いて時間をつぶしとけって感じらしい。だったら、さっさと時間を潰して白黒魔法使いを待ちたい。
「そうね。さっきお嬢様がさっそくあなたを使いたいって言ってたわ。お嬢様の部屋にさっそく行ってあげて」
いきなりご主人様からの言いつけか。一発目のお仕事はハードかな。まぁ頑張ろう。
「わかりました。レミリア様のお部屋はどこでしょうか」
咲夜さんは「すぐわかるわ」と言って私から離れてしまった。
気がつけばさっきの姿見がドアになったかのように、ある一室の前にいた。同じような廊下に同じようなドアばっかり並ぶこの紅魔館の中じゃ迷ってしまいそうだ。
「じゃあ頑張ってね」
咲夜さんは一言言うとまたポンッと消えてしまった。
目の前の部屋がどうやらレミリア様の部屋らしい。気を引き締めてしっかり仕えなければ・・・せっかくここで時間を潰させてもらえる意味がない。
ドアをコンコンと二回叩き、返事を待った。
「入ってー」
とレミリア様の声が聞こえて、私はちゃんと聞こえる声で「失礼します」と言ってそのドアを開けた。
ガチャンと押し開いて見えた部屋は、四角い普通の部屋で、広すぎず狭すぎずと言った感じだ。隅っこには大きめのベッドがあって、結構なスペースをクローゼットが占めている。そんな部屋の真ん中にはテーブルがあって、高すぎない椅子の脚は意外とレミリア様に合わせて揃えられたものかと考えてしまう。レミリア様はその高くない椅子に座って紅茶をたしなんでいた。その姿は何か感じるものがある。
「レミリア様・・・私の最初のお仕事は何でしょうか」
レミリア様は真っ赤に染まった綺麗な目で私を見据えて言ってきた。
「あなた、元は楽器だったみたいだけど、何かできないの?妖力も感じるし、何か出来ると思うんだけど」
よくわからないお仕事だ。咲夜さんみたいに能力を使って何かに活用してみてほしいのかな。
「すみません・・・よくわからないです」
レミリア様はちょっと考える素振りを見せて、すぐ何かに行き着いたように、すぐにまた視線を向けてきた。
「なんでもいいわ。自分の特徴とか念じてみるだけでもいい」
そんなことでいいのか?なら少し考えみようか。
自分は元々楽器だから・・・音・・・音楽・・・曲・・・うん。曲を思い出してみよう。主人様と主人様の家族が一緒に考えた曲・・・確か・・・二本のホルンのための協奏曲~春の序章~・・・春になり始めた雪の景色を見て主人様達が書いた曲だ。静かな曲調に始まって、簡単な和音構成をわざと複雑に絡ませて成立した曲だ。聞いてるだけで心の内から暖かい和やかな感情が生まれる曲で、主人様が世間に知られる最初の曲だった。
頭の中で曲を再生する。やっぱりいつ想像しても良い曲調だ。楽器自身である私ですら虜になってしまったくらいで、その和やかさは本番中の私を酔わすのには十分だった。だから主人様が世間に知れたとき、”楽器ですら虜にする作曲者”として名前が通ったくらいだ。
「やればできるじゃない。それは何かしら、幽霊楽団に同じような色をした楽器を持ってるやつがいたけど同じものなのかな」
無意識に閉じた目を開けると、私の視界の端・・・右端に黄金色という表現が似合うホルンが浮いていた。姉さんと瓜二つな左右対称の姿は私の元の姿だ。綺麗な装飾とたくさん並んだ音程感は私と姉さんの二つだけしか存在しない。そんな特徴的なホルンという楽器は深みのある綺麗な音色と外れやすい音が特徴だ。
私が音を頭の中で想像するだけで、こんな状態が起こりうるとは思いもしなかった。それを確かめるように私は頭のなかの音楽を止めたりして、連動性を考えてみた。やはり、私の思考を止めれば音は止み、再生すればまた音は流れ始める。しかもとんでもないことに、ホルンは一つなのに二つ分の旋律が流れている。本当どうなってるんだこれ。
「なんか自分を見る感じって不思議ですね・・・。ところで幽霊楽団というのはなんでしょうか?」
レミリア様は軽く目をつぶりながら紅茶を片手に教えてくれた。
「幽霊楽団って言ってね。三人組の楽器を持って音楽を奏でる楽団よ。彼女達は騒霊らしくて彼女達単体で音を聞くのは危険らしいけど、楽団として音を聞くのはとってもおもしろいらしいわよ。咲夜が戦って直にしってるから聞いてみるといいわ」
戦って?やっぱりこの世界はズレているらしい。
「わかりました。また聞いてみます。ところで、私のお仕事ってこれだけですか?」
レミリア様は「いいえ」と言って言葉を続けた。
「あんたはまだ幻想郷について詳しくないからね。まずはこの紅魔館を知ることから初めてもらうわ。とりあえず紅魔館の主メンバーに挨拶して回って、私の元まで報告すること。これが最初のあなたの仕事よ。あ、紅魔館の中は妖精メイドに聞いてどうにかして回ってちょうだい。じゃ、がんばってね」
そう言ってレミリア様はまた紅茶を飲み始めてしまった。
仕方なく部屋を後にした。もちろん「失礼しました」も忘れずに言っておいた。
レミリア様の部屋のドアを後ろ手に閉め、さっそく目の前を通りがかった妖精さんに訪ねて、主メンバーの人数と大体の場所を聞くことにした。
「あの、妖精さん、紅魔館の主メンバーって何人いらっしゃるんですか」
「あ、あなたが新入りのコルノちゃんだね!えっとね。7人いますよ!美鈴さんとパチュリー様にコア様、コアア様に咲夜さん、レミリアお嬢様とフランお嬢様です!」
美鈴さんと咲夜さんとレミリア様にはすでに面識を持ったからいいとして、それ以外の人はまだ名前すら聞いていなかった。しかもフランお嬢様?なんで館にお嬢様が二人もいるんだ・・・。
「ありがとう妖精さん。パチュリー様はどこにいらっしゃるんですか?」
とりあえず一人目に当たって、またそれから次に聞けば良いだろう。
「パチュリー様はですね。紅魔館の地下の大図書館にいらっしゃいますよ。とっても広いので迷わないようにご注意ください。あと、パチュリー様は喘息をもっておられるので、できるだけお体に気をつけてあげてください。決して体を動かす運動は控えさせてくださいね」
妖精さんは可愛い笑顔で説明してくれた。一応名前だけ聞いて覚えておいてもいいかもしれない。咲夜さんは妖精さんは多いから名前なんて覚えてられないとかで、抜粋した妖精さんの名前しか覚えないらしい。
「ありがとうございます。妖精さんなんて名前なんですか?」
妖精さんはさっきの笑顔がさらに深まり「私はですね!」と言って教えてくれた。
「シャーリーといいます!コルノちゃんが分かりやすいように、私に目印を付けてくださっていいですよ!妖精メイドは皆外見が似ていますからわかりにくいのです」
確かにここまでに見てきた妖精メイドはみんな同じような顔立ちをしている気がする。わかりやすくするなら、やっぱり髪型か・・・リボンとかによる目印か・・・まぁリボンのほうが無難そうだし。さっき咲夜さんに連れられた自室から持ってきた黄色いリボンを結びつけておくといいかな。
「じゃあ、これを結んでいい?」
「はい!お願いします!」
シャーリーはそう言って私を受け入れる体制を作ってくれた。シャーリーの髪を一纏めにして黄色いリボンを結んだ。ポニーテールになったシャーリーは妖精の小柄な体が相まってとっても可愛く見える。これで間違えないだろう。
「じゃあこれからよろしくね。シャーリーちゃん」
「はい!よろしくです!コルノちゃん。じゃあ私はお掃除の仕事が残ってるので行くね。何かあったら何でも聞いてくださいね」
そう言ってシャーリーちゃんはせっせと急ぎ足に廊下をかけていってしまった。妖精さんはあんな子ばっかりなのだろうか。私もしっかり馴染めるようになれるといいな。
そんな思いを頭の隅に長い長い廊下を歩き出したのだった。