東方音楽奏   作:煉音

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深い地下と妹様

 日が少し横に向き始めた頃、私は庭にいた。紅魔館の入口の前にある巨大な庭だ。色とりどりの花が何かの形式に従うように、分けられて植えられていて、左から白、緑、赤、青、紫、朱、黒?のような順番で並んでいる。とっても綺麗だ。まぁ、その中心におっきな円を描いた黄色いミステリーサークルがあることを除けばだが。これがかなり目立って花の綺麗さを邪魔してる気がするのだ。

 

 そんな庭を横目に紅魔館の入口・・・鉄格子で構成された門まで歩いた。その門の外側には現在もコクリコクリと頭を上下させている背の高い良い体つきをした女性・・・美鈴さんがいる。こんな体つきの女性はテレビと主人様のご友人の結婚式のときにしか見たことがない。あ、主人様のデビュー当時、挨拶に来たお偉いさんも確かこんな感じだった覚えがある。楽器だった私には人の体の嫉妬とか願望はよくわからない。

 

「美鈴さーん。起きてくださーい」

 

 門の内側から美鈴さんを呼んでみた。反応がない。ただの屍のようだ。いや、違う違う。とりあえず門を出てつついて起こすことにした。

 

 キーと金属の擦れる音とともに、門を開け美鈴さんの前に立つ。よく見れば柱に持たれてバランスをとってるわけでもなく、彼女は普通に立って寝ている。かなり器用だ。人間も極限状態の睡眠不足時はこんな状態になるとか、主人様がご家族様と話をしていた覚えがある。美鈴さんもかなり重労働をさせられているのかな。私が変わってあげてもいいかもしれない。白黒さんが来たらすぐわかるうえに美鈴さんは休めるという一石二鳥だ。

 

「美鈴さーん。起きてくださいよー」

 

 そんな考えをしながらも、早く仕事を終わらせてレミリア様から弾幕勝負について教えてもらいたい。とりあえず美鈴さんのお腹や脇をつついてみた。全くもってビクともしない。

 

「美鈴さーん。咲夜さん呼びますよー」

 

 咲夜さんを呼べば起こしてくれるかもしれない。だけど咲夜さんを呼んだら今度こそ、美鈴さんは至近距離でナイフを投げられ、今度こそ刺さるかもしれない。下手したらナイフを直接ブスリとやりかねない。だからきっとそれは美鈴さんも嫌なはず、名前を出せば反射的に起きる可能性がある。

 

 ・・・

 

 結果は起きない。本当に呼んだほうがいいか。少し悩んだがさすがにやっぱりひどいからやめた。かわりに主人様のしていた寝ている人を起こす方法を思い出す。

 

 確か・・・鼻をつまむか水をかけるかで大抵は起きたはずだ。やってみるか。

 

 ツムッと自分より高い身長の美鈴さんの鼻に手を伸ばしてつまんでみた。これで起きるだろうか。しばらくつまむと「んむ?」と変な声を漏らして、黒い瞳が瞼から見えた。起きてくれたようだ。

 

「ん?あれ、コルノさん。どうしましたか?」

 

 眠気を帯びたその目には極限状態の人のように目が赤いわけでもない。普通に寝ていただけか。

 

「フラン様に挨拶に行きたいのですが、パチュリー様が美鈴さんを連れて行きなさいとおっしゃるので、とりあえず来てみたのですが、お時間よろしいでしょうか」

 

 とりあえず美鈴さんにことのいきさつと望みを言った。

 

「ええ、いいですよ。コルノさん、フランお嬢様のことはご存知ですか?」

 

 そういえばフランお嬢様のことは知らない。シャーリーちゃんがお嬢様と呼ぶくらいだから、レミリア様となんらかの関係にある気はするが、どういうことだろうか。

 

「知らないです・・・。」

 

「そうですか。フランお嬢様は、レミリアお嬢様の妹です。名前はフランドール・スカーレットと言います。フランお嬢様はありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持っています。博麗の巫女と魔法使いが来るまでは、地下室に495年間レミリアお嬢様によって幽閉されていました。能力の影響が強すぎて、心が不安定でとても情緒不安定です。最近はパチュリー様達による教育環境も影響して、能力をだんだんマスターしてきていて不安定さも解消されましたが、まだ油断はできません。フランお嬢様から変な違和感を感じなさったときは、すぐに咲夜さんか誰でもいいです。呼んでください」

 

 とりあえず意味は分かった。強大な力ほど副作用があるということだろう。主人様がよくやっていたゲームでレベルが低いと、レベルの高い装備を装備してもうまく扱えないというものと同じで、きっとそれに見合う知識と能力と年齢を重ねるごとで、本質を扱えようになるのだろう。

 

「わかりました」

 

「では行きましょう」

 

 美鈴さんのあとに続いて、館へ再度戻ろうと歩き出したのだった。

 

「そういえば美鈴さん、あのミステリーサークルはなんですか?」

 

 館へ向かう道中、ここに来た時から気になっていた疑問を口にしてみた。

 

「あれですか?あれはですね。パチュリー様が気づいたら作っていたんですよ。本当に困ったものですよね。消してくれないんですよ」

 

「そうなんですか。それは困ったものですね。花の見栄えが少し悪くなっていて私も気になります」

 

 美鈴さんは肩ごしにこちらを見ながら、「でしょ」とか言ってるし、意外と話してみると愚痴をこぼしてくれたりするかもしれない。

 

 そんなことを言ってる間に館に到着して中に入った。

 

ーーーーーー数分後ーーーーーー

 

 もう何分歩いただろう。同じような道をずっと歩き続けてる気がする。さっき階段何階降りたのも覚えてない。かなり下にいることはわかる。少し肌寒い。

 

「美鈴さん、あとどのくらいですか」

 

 もう結構歩いた。そろそろ到着してもいいだろう。

 

「もう見えてますよ。すぐつきます」

 

 そう言う美鈴さんの横から顔を出して見てみれば、館の玄関ほどじゃないが大きめのドアが見えている。装飾も少し多く、明らかになにかがあるだろうという雰囲気をさらけ出している。妖精さんもさっきから6人ほどしか見ていない。

 

 そういえばフランお嬢様は巫女さんと白黒さんが来るまで幽閉されていたとか言ってたな。しかもその時からフランお嬢様も変わってしまったとか、美鈴さんがさっき教えてくれた。ということは巫女さんと白黒さんはそんなに悪い人じゃないのかな。まぁ、そんなのは白黒さんが来れば分かることか・・・。

 

「つきました。フランお嬢様のお部屋です。フランお嬢様は妖精メイドの顔を意外とほとんど覚えていますから、コルノさんにはとっても絡んでくると思いますよ。下手をすれば紅魔館で一番怖い能力を持っていますが、とっても子供らしい性格をしているので笑顔で接してあげてください」

 

「わかりました」

 

 そう言い終わると美鈴さんは、扉を数回ノックし、「フランお嬢様、失礼します」と言って開けてくれた。外から見た中はレミリア様の部屋を大きく拡張したくらいの大きさだ。とっても広い。ベッドも大きいし、たくさんの動物のぬいぐるみが置いてある。机にはクッキーと紅茶が置いてある。咲夜さんが持ってきたのか。しかしフランお嬢様らしき人物はいない。部屋も薄暗い。

 

「あれ、フランお嬢様ーどこですかー」

 

 美鈴さんが呼びかけるが誰も反応しない。部屋はしんと静まり返って静かな空気が流れている。

 

 とりあえず、私も一緒に中に入って探し回った。ベッド、ベッド下、クローゼットなどなどたくさん調べた。そういえばクローゼットの中に赤いドレスがたくさんあったな。能力に見合う服装でとっても似合っている人物なのかと思わせる。だけどフランお嬢様の能力と赤いドレスという組み合わせだと、血液の印象が頭に染み付いて恐怖さえ覚えた。

 

「いらっしゃらないようですね」

 

 美鈴さんにそう言うと、「しかたありません」と言ってくれた。

 

「とりあえず、図書館にいればそのうちお越しになります。それまで本でも読んで待ちましょう」

 

 意外と勉強熱心な人なのかと思わせる。

 

 そして美鈴さんを先頭に部屋を出ようとしたときだ。美鈴さんが部屋を出た瞬間、ドアが閉まり、私は閉じ込められてしまった。肌寒さを覚える薄暗い部屋に一人というのはとっても怖い。冬のハードケース内を思い出す。楽器だから体温は人間以上に鈍感だが、あれは少々こたえるものがある。

 

「あ、しまった!コルノさん!大丈夫ですか!」

 

 外からドンドンと叩く音と美鈴さんの声が聞こえる。とりあえず私は大丈夫だが、何があったのだろうか。

 

「大丈夫です!どうかしましたか?」

 

 そう返した瞬間私は背筋にヒヤリと何か冷たいものを感じた。レミリア様のときとは違う緊張じゃない。恐怖?わからん。

 

 そういえばフランお嬢様は情緒不安定な上にありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持っているとか言ってたっけ?でもそれはフランお嬢様の精神に影響するほどのものだったと聞いた。ただ単に物理的な物を破壊するだけなら、それほどの代償が必要だろうか?確かに限界は存在しても、そこまでフランお嬢様の心を蝕む能力だとすれば・・・ありとあらゆるものというのには物理意外にも非物理が存在してもいいはず、だとすると何がある?常識?関係?時間?それとも・・・心?だったらプラスとマイナスの関係にようやく均衡を宿すことができる。だったら、私なんていう元楽器など精神が存在しなかったも同然、彼女が私を睨むだけでこの心は消えてしまう・・・いや、壊されてしまうかもしれない。

 

 その考えに至った瞬間、冷たい何かは恐怖と切なさだということだとわかった。もしかしたらここで私は終わるかもしれない。無意識にギュッと握り締めた拳に汗がにじむ。肌寒いこの部屋で汗をかくとは思ってもいない。怖さのあまりにつぶった目から涙が溜まる。どうなるのだろうか。

 

 極限状態の人間は現実逃避のために、脳になんらかの物質が供給され幻覚などを見ることがあるようだが、私はもう精神的な限界が近づいて死にそうだ。いっそ倒れるかしたほうが楽そうだ。倒れたい。

 

 とりあえず行動しないことにはどうしようもない。どうせ消えるなら行動を起こして消えてやろう。つぶった目を開いて後ろを振り返った。

 

 ・・・

 

 もちろん誰もいるはずがない。あるのは椅子に座ったぬいぐるみとベッドの横で座る複数のぬいぐるみだけだ。

 

 あれ?椅子にぬいぐるみ?あったっけ?くまさんの目にバッテンがついたぬいぐるみだ。さっき動じないと決めた心がはやくも折れそうだ。主人様が怖がりだったのを思い出す。ご家族様と一緒にいるときはとっても強がるのに、一人のときは私を落としそうになるくらい怖がり。それに似たのか、私もぬいぐるみが視界に入った瞬間「う」とうなってしまった。

 

 調べて出る方法を探さないと・・・。ぬいぐるみに近付き触ってみる。普通にぬいぐるみのようで、柔らかい肌触りは普通のワタが入ってることを想像させる。

 

「ふぅ・・・」

 

 とぬいぐるみが動かなかったことにか、何もなかったことにかわからないが、変なため息?安堵の息?が漏れた。それが引き金だったかのように事は起きた。

 

  両肩に氷のようななにかに掴まれた。もちろん私は心臓を鷲掴みされて握られたような感覚を覚えて、声すら出せずにもう最悪の心持ちになってしまった。

 

「だ~れだ」

 

 そんな声はわざと高めて出しているような声で、遊んでいるという表現が正しいのか。私の心が開放された気がした。脚からは力がなくなり、肩と体からも力がフッと消えて、倒れてしまった。

 

ーーーーー数十分後ーーーーーーー

 

 気づくと灰色っぽい天井が目に入った。背中と頭に感じる柔らかい感触は、主人様の腕の中にいるときよりちょっと硬いけど、質としてはかなり柔らかい。

 

「あ、起きた!」

 

 視界の左側に金髪のレミリア様のようなリボン付きのナイトキャップを被ったどこかレミリア様に似た顔つきの少女が目に入った。私から見て右側の頭にポニーテールがあって、その可愛らしい口からは鋭い牙が二つ見え隠れしている。

 

「コルノさん、大丈夫ですか。フランお嬢様、ちょっとやりすぎですよ。もう何人目だと思ってるんですか」

 

 どうやら私の前の人にもビックリをしたことがあるらしい。しかもことごとく倒れてるのか。フランお嬢様とおぼしき人物は少し俯いて「ごめんなさい」って言ってる。

 

「コルノちゃん、ごめんね」

 

「お気になさらず、全然大丈夫ですよ」

 

 笑顔でそう返してあげると、パァーと暗くなった顔が明るくなった。

 

「私はフランドール・スカーレットだよ!ありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持っているんだよ!コルノちゃんよろしくね!」

 

 結構楽しそうに喋ってくれる。こっちまで少し笑顔になってしまいそうな性格だ。こんな性格を持ってるのに情緒不安定とは少し惜しいようなかわいそうな気がする。

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 フランお嬢様は、さっきより一層笑顔になって「遊ばない?」と言ってきた。

 

「お言葉ですが、私にはまだお仕事が・・・」

 

 フランお嬢様は少し考える素振りをしたが、「じゃあ後で!」と言って、顔を引っ込めてしまった。物分かりも良いのに幽閉されていたと聞いたら考えられない。それとも幽閉が終わってからここまで成長したのか?それだとしたらかなり勉学にも富んでいてかしこいお嬢様だ。

 

「はい、必ず遊びましょう」

 

 そう言って、美鈴さんに「もう少し横になります」と言って目をつぶったのだった。

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