さっきはひどい目にあった。フランお嬢様に驚かされてしまって倒れたのだ。気がつけばフランお嬢様のベッドで寝かされている始末で、非常な申し訳なさが半端じゃなかった。
まぁそんなこんなもあったが、現在私はレミリア様の部屋へ戻る途中だ。やっぱりレミリア様は紅魔館の主だけあって部屋もそれなりに上階にある。階段は端の方にあったりしてなかなかたどり着けない。実は階段を上るより探してる時間のほうが長いのは内緒だ。
そう考えてるあいだにレミリア様の部屋へ到着した。さっそくコンコンとノックして返事を待つ。短時間の間に何もかもが変わってしまった気がしたが、私は私の目的のためなら行動くらい一変させられる。もう音楽の奏でる役で染み付いた行動力は私のアイデンティティかもしれない。明るい曲から悲しい曲に行くのにもなんら違和感なんて思わないし、その逆もまた然りだ。
「入ってー」
さっきより陽気そうな声が響いて、「失礼します」と言って開けた。今回は一応中まで入ろう。
開けた先には前とあんまり変わらない体勢でレミリア様が座っていた。紅茶を片手にいつ離すんだ。って思ったが気にしない。とりあえずお仕事の報告と弾幕勝負について聞こう。
「レミリア様、お仕事終わらせてきました」
レミリア様は目線だけこちらに「わかったわ」と言ってくれた。子供っぽい体なのにその声と纏う雰囲気は何かそそられるものがある。あ、もしかしてこれがギャップというものか。
「パチュリー様から弾幕勝負について軽く教えてもらったのですが、もう少し詳しく知りたいのです。どうか教えていただけますか」
レミリア様は紅茶を置いて「わかったわ」と言った。
「コルノ、庭に出て・・・と言いたいけど残念なことに私は吸血鬼よ。日の下には出れないから夜でもいいかしら?」
灯りがないと私が見えなくなってしまうが、きっとなにか案でもあるのだろう夜になるまで待ってみてもいいか。それまで一人で情報収集してよう。
「わかりました。まだお仕事はありますか?」
「いいえ、お掃除係とかは確か足りているはずだから、フラン達の面倒を見てくれているだけでいいわ。何かあったらいつでも来なさい」
レミリア様は意外と相談にも乗ってくれる方だと思った。とりあえず仕事はないようだ。咲夜さんに仕事を聞きに行くのもいいが、フランお嬢様にまた来てと言われているので、先にそちらを優先しなくては・・・。
「わかりました。では、日が落ちましたらお庭に行きますね。失礼しました」
「ええ、待ってるわ」
扉を軽くお辞儀をしながら閉め、また図書館に足を向けた。そういえばお腹が空いた気がする。今何時だろう。
トコトコと歩く廊下の端には妖精さんが数人いる。皆仕事熱心なのか床磨きや窓磨きを良くしている。あれ、そういえばさっきもやっていたような気がする。もう終わってもいい気がするが、まぁいいか。
ーーーーー図書館へーーーーー
図書館に向かう途中、正確には図書館がある地下廊下に入ったときだ。金髪のポニーテールと赤と白とピンクっぽい色が目立つ服を着た少女とばったり出くわした。フランお嬢様だ。レミリア様ほどなにか感じるものがあるかと言われたら、まぁないのだが、別のものを感じる。もちろんさきほどフランお嬢様のお部屋で感じたアレなのだが、さっきよりも抑まって少ししか感じなかった。
「あ、コルノ!図書館行くんだね!」
元気らしい少女の声は中学生時の主人様を思い出す。初めて私を手にしたときからとっても元気で可愛らしく、いたずら好きな性格は子供そのもので、ご家族様がいつも笑顔で見ていたのを思い出す。
「はい、お仕事がなかったのでフランお嬢様と読書でもしようと思いまして・・・」
真っ赤な瞳はきらきらと輝き踊り出さんばかりだ。昔がやっぱり懐かしい。
「そうなんだ!じゃあ一緒に読も!」
さっそくとばかりに手を引っ張られて図書館へ駆け出してしまった。人の姿はやっぱり便利なものだ。こうやって人とふれあい会話し接することができる。楽器の時は私が一方的に話しても、相手には通じず、相手の言葉に私は返すことができなかった。だから今がちょっと楽しい。
図書館へ着くとパチュリー様が歩いてる姿が第一に目に入った。身長はさほど高くなかったのか。長い髪は左右にまとめているものの、後ろ髪までもしっかりある。切るという選択しはないのだろうか。いや、だが長い方が魔法使い的な雰囲気には合うか。
「あら、コルノ、また来たの?しかもフランまで連れて・・・よほど好かれたようね」
私は返す間もなくそのまま図書館の奥へ引っ張られて行ってしまった。後でちゃんと謝っておかなくては・・・。
ところでこの図書館の本棚は一体何個あるんだ・・・。巨大な本棚には所狭しと本が並び、それが先の見えないくらい奥にずっと続いている。人間じゃ一生かかっても読めないかもしれない。いや、そうだとしたら一体この本は誰が集めたのだろうか。
そんな考えを浮かべてるうちに一つの本棚の前で止まった。フランお嬢様の読みたい本棚でも近くにあるのだろうか。というより・・・ここの本ってどんな本なんだろう。物語を書いてるのかな。それか古文書かな。なんでもいいや読んでみるほうが早いだろう。
フランお嬢様をよそにさっそく一冊引っ張り出して開いてみた。
・・・
なんだこれ。書いてる字に見覚えがない。英語・・・にしては字の形が変だし。ギリシャ文字?知らん。フランお嬢様なら読めるのだろうか。
「あの、フランお嬢様、この本読めますか?」
フランお嬢様はまだ本が見つからないらしい。背伸びしたりして本棚を覗いていた。すっとこちらを振り向いて本を見てくれた。
「”魔法使いの魔道書学第一章魔力の法則”って書いてるよ。あら、コルノ意外とそちら側の妖怪さんなの?」
そんなことが書いてるのか。全く読めない。
「あのその、いえ・・・字が読めなくて・・・私は外の世界で楽器だったので、こちらの世界の字が読めないのです」
フランお嬢様は「そうなんだ」と言って言葉を続けてくれた。
「じゃあパチェに相談してみよ!きっと何かしてくれるはずだよ!」
パチュリー様は無知な者をいきなり有知にすることができるのだろうか。とりあえず相談してみるのがいいかもしれない。
「わかりました。行ってきます」
そう言って歩き出すとフランお嬢様までついてきてしまった。パチュリー様の言うとおりいろんな意味で好かれてしまったらしい。でも子供っぽい主人様と思うと別に嫌でもない。
パチュリー様は意外と定位置にいることのほうが多いらしい。扇形の机に普通に座っていた。もう少し明るくしてもいいんじゃないかって言う光加減で、小さいメガネをかけて小さい字を読んでいるみたいだった。
「パチュリー様、すみませんが字を教えてくれませんか?本の字が読めずに困ってしまいまして」
パチュリー様に言ってみると、本を置いてこちらを向いてくれた。
「そうね。外の世界から来たあなたじゃ読めないわね。う~ん・・・仕方ないわ。このメガネを使いなさい。あなたくらい妖力があるなら反応して使えるはずだわ」
そう言って机の引き出しから主人様のご家族様が使っていたようなお洒落なメガネが出てきた。黒いフレームに丸っぽいレンズが入っている。手渡されたメガネを見つめているとパチュリー様が使い方を教えてくれた。
「そのメガネはね。かなり前のときだけど、私が魔法を使った物を作ったときにできた副産物よ。顔にかけて魔道書やなんでもいいわ適当な書物の字をレンズ越しに写すだけで、頭に直接内容を流してくれる代物よ。ちなみに無意識に魔力とか妖力が流れて消費するから、1時間くらいで休憩をとりなさいね。そのうち文も無意識に読めるように知識として留めてくれるから、いつかいらなくなると思うわ。そうなったら返しに来てくれるといいわ」
これがあればどんな難解な言葉でも理解できるだろう。そんな代物が存在したとは思ってもいなかった。とりあえずこれで本が読める。危険な巫女さんに会って退治されでもしたら大変だ。今のうちに本からたくさん知識と強みになりそうな物をいただいておかないと・・・。
「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます」
パチュリー様は「ええ、頑張りなさい」と言ってくれた。どんな相談でも的確な答えを用意してくれそうな性格はとってもみんなの中で重要な役割になるだろう。
さっそくメガネ片手にフランお嬢様と元の位置に戻った。
「コルノ、よかったね!」
フランお嬢様はやっぱり笑顔で言ってくれる。
「はい、読めるようになってみせます」
そんなフランお嬢様に私も負けじと笑顔を作って返した。今気づいたが、レミリア様の同じ赤いリボン付きのナイトキャップを被ってない。頭の髪は綺麗な金髪で、レミリア様とは違う色だ。なんで姉妹でこう違うのか・・・。
「フランお嬢様、今気づいたのですが、お帽子はどこに・・・」
フランお嬢様は「あそこだよー」と指を差して言う。指の先には本棚の間に普通に落ちてる。さっきいたところだろうか。
「ほら、ここの図書館迷いやすいからね。一応目印をつけるためおいてきたんだよ!」
私の世界の子供なら単純なことを忘れやすいが、この世界の人は意外と細かいところほどぬかりがないらしい。確かにここの図書館の本棚の間に入ると今どこにいるかわからなくなる。
「これは失礼しました」
フランお嬢様に軽く謝ってとりあえず元の位置に戻ってきた。
さっそくさっきと同じ本を手にとって、メガネをかけて見てみた。すっと頭に違和感を覚えると同時に、本の内容が頭に入ってきた。タイトルを見れば”魔法使いの魔道書学第一章魔力の法則”という日本語が頭に浮かぶ。フランお嬢様が言っていたものそのままだ。やっぱり不思議な代物だ。
それからはフランお嬢様と仲良く背中を合わせて読書を楽しんだのだった。読書がなぜ楽しいのかって?きっと主人様の音楽書物のあさり具合が似たのだろう。物語より経済学史とか音楽学史とかのほうが私は好みなのだ。