5月27日、今日はかつての海軍記念日。遂にこの二次創作を投稿することになりました。
艦これにおける空母は運用が特殊です。搭載機数ではっきりと優劣が分かってしまいますからね。艦これにおいて、唯一『絶対値として反映される格差』かもしれません。
・・・実際、2015春イベのE6甲で制空担当を飛龍改二から加賀改に変えた途端にサクサク攻略できたのは頭に来ました(何故か加賀風)。
・・・そんなことは置いといて、諸注意をば。
この作品は作者の多分な解釈と独自設定を含みます。読まれる方によっては不快に思うこともあるかもしれません。ご了承ください。
「潜望鏡深度です」
「よし、潜望鏡上げ」
間延びした復唱が狭い司令室に響く。それと同時に天井から僅かに降りてくる覗き窓。この場で最高位の肩章をつけた士官作業服が帽子のつばを後ろに回し、覗き込んだ。潜望鏡に取り付けられた逆探が作動を開始。敵のレーダー波を感知する逆探知装置なんて時代遅れも甚だしいが、ひっくり返ってしまった世界の常識の中では意外と使えるものなのだ。
そのまま潜望鏡を覗いた男――――蒼龍型潜水艦『瑞龍』、その艦長である――――はあたり360度を潜望鏡にて見回し、周囲に一切の敵影がないことを確認して号令をかける。
「よし、浮上!」
満天の星空の元、先程まで平穏を保っていた界面が急に泡立ち始める。次の瞬間には大きく隆起し、その白いヴェールを脱ぐように潜水艦『瑞龍』が浮上した。彼女の姿を照らすのは祖国でみるそれとは少し異なる形状の天の川。本当ならば視認されにくい曇り空が良かったのだが・・・下手をすれば敵の探照灯に照らされるところだったのだから贅沢も言っていられない。
と、前部ハッチが開かれた。葉巻型潜水艦である蒼龍型のハッチは突き出た司令塔と葉巻の前方部分にある。どちらからでも同じように艦内に入ることができるが、特殊な運用・・・例えば洋上でほかの船に乗り移るためゴムボートを使う時や、特殊部隊を発進させる時などは基本的に前部ハッチが使用される。
そして、そんな前部ハッチからいかにも『場違いな』人影が現れる。
「ふぅ・・・穏やかな海ね」
優しく吹く風に人影の一部が揺れる。髪だろうか、もしそうならあの髪はツインテール。ツインテールとしては主張が小さいような気がしなくもないが・・・いや問題はそこじゃないだろう。どうして潜水艦から女が出てくるというのだろうか。それも軍人らしくない服装で、だ。しかし世界がひっくり返った今、それに疑問を抱く者はもういない。
もう一人、ハッチから人影が出てきた。体格は先ほどの少女と同じぐらいだろうか。暗い中での服装は判別がつきにくいが、どうやら纏っている衣服の形状も酷似している。遠目で分かる違いは髪型ぐらいだろうか。
「蒼龍、どう?蒼龍型から発艦する気分は?」
「やだやだ、飛龍絶対それ言うと思ったよぉ・・・」
二人の掛け合いはこの海のように穏やかで、見る限り仲良し女学生の様にも見える。
しかし呼び合う名前は物騒そのもの。飛龍? 蒼龍? 共に蒼龍型潜水艦の艦名であることは間違いないが、まさかこんな少女が数百メートルの海底へ潜行出来るとは思えない。最近流行りの
彼女らに続いてまた人影がハッチから顔を出す。やはりそれも軍人の姿ではなく、むしろ既に艦上に立っている二人の少女よりもさらに幼く見えた。
その姿を確認し、先ほど「飛龍」と呼ばれた彼女が姿勢を正した。
「よしっ、全員出てきたね、天候は晴れ、雲量3。今入った情報が正しいなら今日の中部太平洋の天候は概ね晴れ。作戦決行条件を満たしました!」
タメ語が混ざる彼女はいつもの調子ではっきり声を出す。続いて作戦の最終確認を大きな声で行い、そんな中遅れて出てきた作業服姿の軍人たちが彼女たちに何やら重そうな装備品を取り付けてゆく。それを自然な様子で装着しつつ、飛龍は声を出し続けた。
「何度も言ったように、今回の作戦は本土から遠く離れた上に敵陣のド真ん中。奇襲が成功すれば活路が見いだせるかもしれないけど、失敗すれば待っているのは死だけ、分かってるね?」
すぐに返される返答。これ以上何も言う必要はないだろう。空母は空母の、護衛は護衛としての役割を果たす。そんなことは確認するまでもない。
「よしっ、総員、艤装との接続を確認」
作業服たちがその場にいた自分含め四人の艦娘に艤装を装着させたことを確認した飛龍は、艤装との接続を各員に命じる。それと同時に自分も艤装と自身の拡張神経を接続、僅かなタイムラグ――――人間の神経より、機械を流れる信号速度の方が速いために生まれるものだ――――によりいつもと同じように一瞬痛みが走るが、なに、背骨を針で突かれたように感じるだけだ。大して痛くはない。そのタイムラグも艤装の方が通信の速度を調整してくれるので痛みはすぐなくなる。
そして視界の端に現れる艤装管制システムの制御モニタ、流行りの網膜投影というやつで、目の中に直接映像を映し出すスグレモノだ。英語でごちゃごちゃと書かれた起動画面の後に、現在の自分の状態を示す画面へと移り変わる。心拍数や血糖値まで測定してくれているんだからなかなかの装置である。もちろん操作すれば薬剤の投与、あまり量は持っていないが輸血も可能だ。
とはいえ、まだ艤装を起動しただけの段階。確認はまだまだ続く。
「補助電算装置起動・・・航法システム、火器管制システム確認・・・続いて蒼龍と私は航空管制システム、確認・・・短距離データリンク開始」
飛龍は艤装を操る上で必要な各システムを全員が起動させたことを確認し、指向性レーザーで行う短距離通信の開始を命じた。視界に僚艦たちの状態、位置を示す画面が表示され、それらの表示に異常がないことを確認する。
本来ならここで敵味方識別装置の起動や衛星戦術データリンクも行うのだが、今回の作戦行動はとにかく隠密性が肝心だ。短距離通信以外は一切行わない。
最終チェックも一通り終了し、飛龍は懐中時計を取り出した。やけに古ぼけたそれはまだ幼い顔つきを残す彼女たちには不釣り合いなものであったはずだが、どうしてだろう、それを眺める彼女の横顔が違和感をなくす。
時間は間もなく午後十一時。日本ではそろそろ今日が終わる時間だ。しかしここは祖国より遥か東の海なので、時差の関係で現地時間の今日は始まったばかり。とはいえ、時間は味方との連携に用いるだけで、彼女たちにとっては陽が出ているかいないか、雨が降っているかいないか、そういった天候だけが重要だった。
「・・・もう赤城先輩たちは海の上を走ってる頃だね」
やけに低い声で小さく言う蒼龍。気持ちを抑えるような調子のそれは、先程までリラックスしたつもりでいた飛龍の心拍数を僅かに早まらせた。
でも、ここでそれを皆に察させるわけにはいかない。自分がこの艦隊の旗艦なのだ。
そう思った矢先、飛龍の片手に柔らかく、でもしっかりと握られる感触。
「蒼龍・・・」
そうだよね、蒼龍がついてくれるもの、何も案ずることはない。
「SS瑞龍より発光信号」
2隻連れている随伴の駆逐艦、その片方の事務的な報告。普段なら自分たちの護衛は睦月型駆逐艦なのだが、今回の任務では長大な航続距離が必要だったり、他にもいろいろ事情があって最新鋭の駆逐艦が臨時編成として配置されていた。
ちなみに、瑞龍の頭にあえてSSとつけたのは艦娘と通常艦艇を区別するためだ。DD金剛と金剛なら、前者がイージス駆逐艦の『金剛』。後者が艦娘の『金剛』となる。
大戦初期は通常兵器と艦娘戦力が同時投入されることがよくあったために生まれた呼び分けの習慣だが、今でもこういう時には役に立つ。
「キ・カ・ン・タ・イ・ノ・ブ・ウ・ン・ヲ・イ・ノ・ル――――貴艦隊の武運を祈る、です」
「返信、キ・カ・ン・ノ・ブ・ジ・ヲ・イ・ノ・ル」
貴艦の無事を祈る。飛龍はSS瑞龍から送られた信号にそう返信する。潜水艦が「艦隊」と交信するというのもおかしな話だが、少女たちの集まりが「艦隊」と呼ばれていることの方がおかしい。
しかし今の時代ではこれが常識。艦娘によって構成された部隊は文字通りの「艦隊」として運用されるのだ。
艦娘、これは軍内部もしくは国民からの愛称であり、正式名称は『水上用自律駆動兵装』。
「現在時刻、日本時間でフタサンマルマル。作戦行動開始時刻です」
飛龍が放ったその言葉を合図に四人の少女たちはSS瑞龍から軽く跳躍。海へ飛び降り、直ちに靴型の推進ユニットを起動。海面に『降り立った』彼女たちは、さらに東を目指す。
「二航戦、出撃します!」
星たちが、彼女たちの行く末を見守っていた。
蒼龍型潜水艦・・・言うまでもなくそうりゅう型潜水艦のことです。そうりゅう型姉妹に「ひりゆう」という名の潜水艦は存在しませんが、勝手に作らさせていただきました。
本作での艦名は現代艦艇の方も漢字になっておりますが、艦娘と通常艦艇を同時運用するなら平仮名でも頭に区別のための記号が必要ですよね。無線では平仮名と漢字の見分けはつかない訳ですし・・・というわけでSS瑞龍と呼ばせてみました。
それでは、こんなテイストですが楽しんでいただけると幸いです。
なお、目次にも記載されていますが、本作品はこのサイトで掲載中のオーバードライヴ先生作『艦隊これくしょんー啓開の鏑矢ー』より一部設定をお借りしています。
自分も本作を執筆する上で大きな影響を受けた作品です。ぜひご一読を! →http://novel.syosetu.org/27457/