【休載】艦隊これくしょん―水無月に舞う龍―   作:帝都造営

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彩帆之章  サトウキビと艦娘③

 国連海軍――――深海棲艦に対抗すべく水上用自律駆動兵装を一括管理する巨大な軍事組織――――の基本戦略は、徹底した受身の姿勢にある。というよりかは、受身に回らざるを得ないというのが正確な表現だろうか。

 

 奴らの物量は圧倒的であり、基本的に攻勢に出る余裕はない。それどころか、国連海軍という組織が水上用自律駆動兵装の運用に慣れてきた今でさえ、北マリアナ防衛ラインを突破されることが希にあるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「草鹿大尉か・・・」

 

 機関――――つまり艦娘に必要不可欠な浮揚ユニット――――を痛めたというDD-MT12『夕月』の様子を確認しようと思って部屋に入った草鹿大尉を迎えたのは夕月ではなく彼女の姉妹艦。立ちふさがるように仁王立ちし、草鹿大尉の胸を見上げている。恐らく草鹿大尉の接近に気づいて立ち上がったのだろう。ベッドの傍には丸椅子が置かれていた。

 

「菊月か・・・哨戒任務ご苦労さま」

 

「なに、この程度、大したことではない・・・」

 

 大したことではない、と言いつつも誇らしげな様子で丸椅子に舞い戻る菊月。ベッドの上を見てみると、ふてくされた様子で頬を膨らませた夕月がいた。まあ確かに機関の調子が悪いだけで病人扱いされているのだ。納得いかないのも分かる。

 

 だが分類上艦娘(かのじょ)と艤装は一体となって水上用自律駆動兵装。艤装の不調は艦娘自身の不調である。従って検査入院扱いになるのは致し方のないことであった。

 

「夕月? そりゃなんだ?」

 

 草鹿大尉は夕月が抱えていたコップに気づく、コップには何か茶色いものが刺さっており、中身には同じ色をした液体が入っている。気づけば菊月の座っている椅子の横に置かれた小さなテーブルにも、全く同じコップが置かれていた。

 

「司令が買ってくれたのだ・・・」

 

 草鹿大尉の疑問に菊月が答える。司令、つまり片桐司令が買ってくれたということか。こんなの経費で落ちもしないのに。

 

「そうか、そりゃよかったな」

 

「あぁ・・・悪くはない」

 

 菊月はいつもと変わらぬぶっきらぼうな返事を返す。全くもって534航空戦隊付きの駆逐艦は変わり者ばかりだ。自分の確固たる世界観を持つ菊月に超マイペースの卯月。姉たちがそんなんだから睦月型では末っ子なはずの夕月が一番お姉さんっぽく見えてしまうのも仕方がない。

 

 そんな様子を見てやや草鹿大尉の口が綻んだとき、院内にブザーが鳴り響いた。それは空襲警報を思わせる禍々しい悪魔の叫び(サイレン)ではなく、単調な呼び出し音。草鹿大尉と菊月たちは、お互いに顔を見合わせた。

 

「呼び出し・・・ってことは、敵襲ではなさそうだな」

 

 草鹿大尉はブザーを発しているスピーカーを見遣りながらそういい、菊月はその小さな顎に小さな手を添えて考えるポーズを取る。

 

「また哨戒ラインに引っかかったのだろうか・・・? 今週で二度目だぞ・・・?」

 

「またか・・・ともかく、司令部に戻ろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元サイパン国際空港・・・現在は国連空軍サイパン航空隊の基地であり、ここに国連海軍534航空戦隊の司令部は併設されている。そんな1t爆弾の直撃にも耐えるように設計された司令部壕の中。暗がりをプロジェクターの光が裂いた。もともと貼られていた白い布に投写された映像は、中部太平洋の海図である。

 

 そんな画面の前に座っているのはCV-SR01『蒼龍』、DD-MT03『卯月』、DD-MT09『菊月』。それと草鹿大尉のみ、十数席用意された椅子をそれぞれ思い思いの場所に自由な姿勢で座り、画像を眺めている。自由に座れば座り方にも個性が出る。卯月なんてせわしなく席を取っ替えひっかえしているが・・・果たして楽しいのだろうか。

 そして、ここ534航空戦隊の司令官たる片桐大佐が片手に持ったレーザーポインターの電源を入れた。闇を貫く緑色の光線は、祖国より遥か遠く離れた太平洋の洋上に突き刺さる。

 

 

「只今より30分前、ウェークの551が敵空母打撃群の存在を確認した」

 

 

 国連海軍が保有する水上用自律駆動兵装。これらは深海棲艦の侵攻が予想される海域に数隻ずつのグループを一単位として配置されている。534航空戦隊はこの部隊編成の最小単位である戦隊に相当する。それらの上位組織が作戦群となり、その上に各海域の防衛を担当する艦隊司令部が存在する。

 

 ここ534航空戦隊の上位組織は中部太平洋艦隊第一作戦群。第一作戦群とは侵攻してきた深海棲艦を迎撃する部隊のことで、各海域防衛の中核となる部隊だ。ちなみに片桐大佐が口にした551は割り当てられた哨戒線(ピケットライン)を巡回し、敵を発見することを目的とした第二作戦群に所属している。

 

 

 そして・・・国連軍が策定している防衛計画に則り、大規模な敵艦隊を発見したウェークの551水雷戦隊は戦闘行為をなるべく避けつつそのまま退避、敵と同じように空母を保有する534航空戦隊に迎撃命令が下された、というわけだ。

 画像に敵艦隊の構成と進路が表示される。草鹿大尉と菊月のうめき声が微妙に重なる。

 

「ハワイ諸島方面より出現したと思われる空母打撃群の現在地点はウェークとサイパン(ここ)からちょうど同じくらいの距離、相変わらず唐突に出現してくれたが・・・規模は空母3、随伴として重巡が1確認されている。駆逐級はいつも通り多数」

 

 片桐大佐の声に合わせて表示される深海棲艦のデータ。通常個体だ、別にそこまでの脅威ではない・・・と言いたいところなのだが、話を聞いていた草鹿大尉は表情を歪めた。周りの艦娘たちも同じだ。

 

「この状況下で空母3・・・ですか、面倒ですね」

 

 不安げな草鹿大尉に片桐司令も頷く。

 

「ああ、確かに通常の534なら劣るのは水上打撃力だけ。十分に対処は可能だが・・・飛龍が内地に戻っている今我が隊の戦力は充足率で言うなら五割ほど・・・いや、それ以下か」

 

 

 空母一隻のいる、いないは戦局に大きな影響を及ぼす。もちろん単純に搭載数が一隻分減ることでも大きな影響を及ぼすが、そもそも空母は偵察や制空、先制攻撃など艦隊のすべき多くの仕事をこなすのである。一隻しか空母がいないということは、そちらに必然的に多くの戦力(航空機)を割かざるを得なくなり、攻撃は疎かになる。

 

 ただでさえ、水上打撃力では圧倒的に劣るというのに。

 

 

「531に増援を頼めないのですか?」

 

 そう進言したのは蒼龍だった。531戦隊は534航空戦隊と同じ中部太平洋第一作戦群に属する主力部隊。空母主体の534と異なり、伊勢型戦艦2隻で固めた水上打撃部隊である。

 

 空母相手には無力な戦艦だが、534が制空戦闘のみに特化すれば肉薄することも可能だろう。

 

 しかし片桐司令はかぶりを振った。

 

「いや、531は現在トラック方面に展開している。向こうはニューギニア開放作戦の真っ最中だからな・・・呼び戻すのは無理だろう」

 

 その言葉に場の空気はにわかに張り詰める。北マリアナ諸島周辺に展開する第一作戦群の部隊は531を除けばこの534と533のみ、533戦隊は重巡2隻の水上打撃部隊だが、数日前の戦闘で想定を上回る損傷を被り、動かせない状況となっていた。

 

 こちらは空母一隻と護衛のみ、どうやって空母3隻を相手にするというのか。

 

 しかし片桐司令はどうやらこの状況を打開する自信があるようで、僅かに声を大きくして話を続ける。

 

「だが心配には及ばない・・・今回、マリアナ周辺に展開している日本国自衛海軍のCV比叡が航空支援を申し出てくれた」

 

 CV比叡といえば榛名型3万トン航空母艦の二番艦である。艦齢40を超える超老朽艦であるが、深海棲艦が現れる以前からの武勲艦である。この戦争でも多くの作戦を支援している。

 武勲艦の唐突な登場に、場の空気が僅かに緩んだ。しかし安心、とまではいかないのが肝だ。

 

 

 所詮、通常兵器による支援などアテにならない。場合によっては邪魔になることもある。

 

 

「代わりに、534には『制空権の完全なる確保』をお願いしたい、とのことだ」

 

「つまり、蒼龍を制空戦闘機専用艦(ファイターキャリアー)にしろと?」

 

 素早く応じたのは草鹿だった。蒼龍の運用担当官である彼にとっては、自分の担当する艦の搭載機を戦闘機のみに絞るのは少なからず抵抗があるだろう。

 なにせ攻撃機を失った時点で蒼龍は一切の攻撃能力を失うのだから、当然だ。

 

 

「とは言え、CV比叡の航空隊に制空任務は不可能のだから仕方がない」

 

 敵は空母打撃群である。従って敵の戦闘機も飛来するだろう。その矛先は彼らの行く手を阻む全てのもの・・・すなわちCV比叡より向かってくる航空機にも向けられる。この時、CV比叡の航空機に対抗する術はない。何故か。いや答えるまでもない、子供でもわかる理論だ。

 

 ――――手のひらサイズの敵艦載機に、攻撃は当たらない。

 

 攻撃は効く、弾が当たればその弾が持つ運動エネルギーが敵艦載機を破砕するだろうし、ミサイルが命中すれば小さな艦載機など消えてなくなってしまう。

 

 だが、当たらない。いや、手のひらサイズでしかも時速数百キロで動く目標を、どうして補足せよというのか。不可能だ。

 

 従って、それらの敵艦載機に近接戦闘(ドッグファイト)を挑めるのは、同じく手のひらサイズである艦娘の操る航空機のみ、というわけだ。

 

 ・・・普通に考えれば、手のひらサイズに縮小した分速度も落ちて然るべきなのであるが・・・そこに関しては妖精技術のなせる技、としか言い様がない。

 要するに、よく分からない。

 

 

「・・・分かりました。私の艦載機は全て戦闘機で行きます」

 

 蒼龍が了承の意を示す。ちょっぴり寂しげな表情が見て取れたのは気のせいではあるまい。

 

「しかし司令官・・・蒼龍が攻撃機を積まねば我々は丸腰同然だぞ?」

 

 そう口を挟んできたのは菊月。蒼龍を戦力から外せば残るは駆逐艦が3・・・いや夕月が機関故障で出られないから2隻。敵に重巡がいる以上、やり合うのは不可能だ。

 

「そういう点では、完全にCV比叡頼みの戦術だ」

 

 片桐司令は菊月の質問をはっきり認める。他戦力に頼るのも情けない話ではあるが、戦力が少なすぎるのだ。

 

 そして続ける。

 

「幸いなことに、敵空母打撃群はサイパンにもウェークにも進路を向けていないし、CV比叡率いる日本艦隊にも気づいていない。我々は手出しをせずに西部太平洋艦隊に任せてしまうのもアリだとは思う」

 

 避けるべきは、無用な損害だからな。そう言う片桐司令。事実北マリアナ諸島以降に人が住んでいる海域は日本列島であり、そこを攻撃圏に収められる前に撃破してしまえば何の問題もない。日本列島を攻撃圏に収めるには後数日の猶予があるため、日本近海を守る西部太平洋艦隊でも対処は可能だろう。

 

 

 戦わないことも、立派な選択肢だ。

 

 

「やだなぁ司令、いつ私たちが『戦いたくない』って言いました?」

 

 蒼龍が前の座席に乗り出しながら挑戦的な笑みを浮かべる。暗い室内だからだろうか、その笑みには少女らしい可愛らしさと猛獣が持つはずの獰猛さが同居しているように見える。

 

「私だって駆逐艦の端くれだ・・・魚雷さえあれば倒せぬ相手などいない・・・たとえ、どんなに不利な状況であってもな」

 

「うーちゃんに任せるっぴょん!」

 

 蒼龍の言葉に菊月も応じる。卯月もやる気のようだ。片桐司令は確認するように蒼龍の運用担当官に顔を向けた。

 

「草鹿大尉、構わないな?」

 

「534は腰抜けと言われるわけにもいきませんしね、やってやろうじゃないですか」

 

 

 どうやら、満場一致のようだ。

 

 

 

 

 

 

 




艦娘たちの話し方ってこれでいいのかな・・・?
うちの鎮守府に夕月いないんでキャラ崩壊を防ぐべく入院して貰いました。ごめんね、夕月。

国連海軍の部隊編成のナンバリングはオーバードライヴ先生からお借りしていますが、所属艦娘など一部設定は先生の作品と異なりますのでご了承ください。それとTF534というのはあくまで俗称です。正式には「Carrier Squadron」となります。

【編成表っぽい何か】
国連海軍極東方面隊中部太平洋艦隊第一作戦群第534航空戦隊《TF534》
根拠地・旧北マリアナ共和国サイパン島

戦隊司令(二代目) 片桐大佐(日本国自衛海軍出身)

◆所属水上用自律駆動兵装◆
CV-HR01『飛龍』《専属運用担当官・片桐大佐》
CV-SR01『蒼龍』《専属運用担当官・草鹿大尉》
DD-MT03『卯月』
DD-MT09『菊月』
DD-MT12『夕月』


次回はまだ戦闘回ではありません。
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