バイトや様々な行事があったモノですから、本当にお待たせしました。
それでは、ようやく幽閉系主人公から脱走系主人公が本格的に書けそうです。 これからもこの小説をよろしくお願いいたします。
誤字や文に違和感があるようなら、感想に。
面白い等の感想も、ドシドシお願いします。
決闘祭、それはアルマニア王国が誇る超巨大学問機関、国立アルマニア学園で一年に一度行われる一大イベントの名称。各国の留学生を広く受け入れるというアルマニア学園の構造上、この決闘祭の最終結果は国交、国益に大きな影響をもたらす。いわば、各国の面子争い、いや小規模な国家間の闘争と呼べる。何故、アルマニアがこのようなイベントを自国で行うのか?自国の学生が勝利すれば、(その学生の所属する派閥によるが)国にとって大した被害はない。それでも他国の学生が大きな結果を残した場合、そのリスクは計り知れない。だというのに、何故アルマニアは決闘祭を廃止にしないのか?そこには、アルマニアという国がどのような立場にあるのか?それが重要な鍵となってくる。
アルマニアはこの危険な時代において、永い間、その国力を保ち続けてきた。現にブレイドと呼ばれる人類の天敵を自国の戦力のみで払い続けた能力は見事と各国も認めている。国内の強力な騎士、獣人やエルフ、ドワーフ、魔族、大きな宗教組織など様々な勢力を国内で巧みにコントロールできたからこその、奇跡的な繁栄。だが、それは裏を返せば国内の多くの勢力のバランスが崩れた時、栄華を輝かせてきたアルマニアは必ず終わるということを示唆する。先代の王は娘であるリリーシャに王位を譲って戦場で果てた。まだまだ、不安定なアルマニアは諸外国の干渉をシャットアウトするため、国の力、能力、ポテンシャルがまだまだあるのだと証明し続けなければならない。もっとも効率がよく、国に負担がかかりにくい宣伝は何か?過去の王はアルマニア学園の定期行事である決闘祭に目をつけた。アルマニア学園での高度な実戦演習、決闘祭は国の若者たちに宿る真価を魅せるという点で非常に素晴らしい効果を発揮している。しかし、そこには逆に他国が強いということを示すリスクもあった。そのリスクを視野に入れても決闘祭を廃止することは出来ない。決闘祭は各国に対する自国の戦力提示という面もあるが、国内の宗教組織、国内の様々な勢力の牽制という意図も込められているのだから。
決闘祭は出目の大きなサイコロ、当たればデカイが、外せばリターンと同じだけのリスクを支払わねばならない。
決闘祭はアルマニアという国のいわゆるターニングポイント。決闘祭での結果は国の明日に影響してくる。そして今年の決闘祭では、昨年とまでと大きく違う所があった。それは規格外にして常識はずれの騎士、アド・エデムだ。尋常ならざるツルギの使い手がアルマニアに出現したことで、連合国や様々な勢力、各国などが暗躍している。そんな今年の決闘祭は近年まれに見る激戦の体を為していた。連合国の王族や、アルマニア貴族派閥でも屈指の実力者、アルマニア王族、獣人、魔族の姫たち。何十、何百年に一人、二人の猛者、智恵者の集まった今年。平和な学園は人という常識の壁を越えた騎士たちの戦場となった。そんな生き物の限界を凌駕した戦いの巻き起こる学園に向かうのは、決闘祭の中心にいる斬撃皇帝。牢獄から抜け出し、城内を突破したアド・エデム。さて、決闘祭はどのような結末を迎えるのか?
ただ一つ、確定していることがある。それは、どのような終幕になろうとも斬撃皇帝を中心にした物語である以上、決闘祭を巡る騒動は結局、英雄譚ではない。他者から見れば荘厳な寓話も、斬撃皇帝から見ると勘違いとすれ違いに気づかぬ喜劇に他ならないのだ。
Sideジェイル&チェーン
生まれた時から一緒だった。どうして自分達が双子で生まれたのか、その理由はとんとわからない。それでも゛私゛は双つに分かたれて、この世に生を受けた。言葉もわからないような子供の時から、私たちはずっと一緒に居た。母も、父も゛私゛がどちらの名前を使う゛私゛か判別出来なかった。顔ぶれはそっくり、髪型も好んで一緒にして、好きなぬいぐるみも、大好きなお菓子も、嫌いな野菜も、苦手な習い事も同じだったのだ、見分けろなんて難しいに決まっている。無理をして互いを似せているわけではない。自然と一致してしまうのだ。言葉が話せるようになると、母や父、友人たちにわかりやすくするため、仕方なく口調を意図して変えてみたりした。まぁ、たまに口調を入れ換えてみたりするのだが。とりあえず、大体は私たちがジェイル、チェーンだと区別は出来るみたいになったので目標は達成できた。まぁ、こうやって、私たちは大きな不幸もなく、至って平々凡々な生活を六歳まで過ごした。
そんな知識も経験もない幼い頃からわかっていること、確信していることがたった一つだけある。
それは゛私゛は、私たちはいつか誰かを好きになるってこと…………そしてその好きになる人は同じなんだと。
自分達は剣型の、ツルギと呼ばれる異能ではなく、剣以外の形状をした鎖のアームの使い手だと判明した。何でもシルドヴァの家系は代々、牢獄で囚人を捕縛するお役目を賜ってきたらしい。ただの一般人の罪人を捕縛する看守ではなく、ジェイルとチェーンは騎士を封じる牢獄の看守だという。そんな牢獄の仕事は七歳の時から始めた、捕まってくるのは大抵身分が凄く高い人ばかり。自分を解放しろ、自由にしろ、何でも欲しいモノをくれてやる、そんなことを言う人ばかりを相手にしていたら、いつの間にか、私たちは他の人の言葉が聞こえづらくなっていた。まるで遠くから声が聞こえるような感覚。物理的には距離がないはずなのに、まるで遠い彼方にいるみたい。最初は生活に支障が出ていたが、読唇術を自然と修得し困らない程度には日々を過ごせるように進歩した。それに母や父の声はちゃんと聞こえていて゛私゛は、特に問題視していなかった。
そうやって、ゆっくりと確実に私たちの世界は狭く、小さく縮んでいく。学園にいても、それは何一つ変わらない。変わらない日常、変わらない周囲、不変に思われた学園生活。そんな折、学園におかしな後輩が現れた。それが後に斬撃皇帝と呼ばれる青年、アド・エデムである。
アームもツルギも大抵は武器か、それに準じた形状になる。なのに彼は種子という武器にならない形の能力の持ち主。いつも戦闘で、もっぱら使うのは何でもないただのナイフ。おかしな後輩だと思っていたが、積極的に関わろうとする気はない……………つもりだった。二年生になった時の決闘祭で彼は何の能力も使わず、ただの技術で私たちの鎖を抜け出した。それは屈辱だと思うはずが、実際に感じたのは彼という人間への興味だった。そんな興味は彼の斬撃皇帝によって、恋心として完成した。
SSS級ブレイドという世界の破滅そのモノをたった一発で倒し滅ぼしたツルギ《斬撃皇帝》。さて、ここで話を変えるが゛私゛のアーム《律法の拘束者》(ロウ・バインダー)は、対象の力に応じて強度を上げて相手を絶対に逃がさないという強化型のチカラだ。これは、大地の全てを枯らして、どこまでも強くなる超強化型の斬撃皇帝との強烈なシンパシーを感じた。゛私゛が恋に落ちるというのも当然の帰結。私たちが願ったのは恋心に忠実すぎる欲望。すなわち、アド・エデム《斬撃皇帝》を永遠に捕らえていたい、永劫の時を彼と一緒に、という独占欲に似たナニカ。
彼の封印が出来るのは゛私゛(ジェイル、チェーン)しかいない。斬撃皇帝は凄まじい戦力を示した。その結果、彼の力に恐怖したアルマニア国の貴族、王族が彼を牢獄に幽閉することを決定。アド・エデムを縛る役目は、私たちが承るということで落ち着く。その時、私たちは狂喜に踊った、恋い焦がれ、その生涯を自分達の手で封印したいと願ったアド・エデムを縛する機会がやってきたのだ。アド・エデム封印凍結の王命を歓び、悦び、喜んで受諾した。そうして、彼といた時間は今までの人生で得た全てに匹敵して、言葉にすると無粋、単純になるが、簡単に言えば幸せと断言しよう。歪んだ幸せ、間違った幸福観、万人の否定は免れず、認めてもらえないなど私たちですら理解している。それを承知で゛私゛は彼と永久にいたいと願い続ける。そして彼が私たちの縛鎖を破った時、即座に戦線から離脱し、王宮の方に向かうことを決断したのだった。
彼女たちはアド・エデムが初恋の相手、果たしてこの初恋は実を結ぶのか?…彼女らはこう願っていた。……………恋が成就しなくてもいい、ただ願うのは斬撃皇帝と死すまで添い遂げたい。願いと言う願いは、それだけのようだ。
「えいっ!」
「よっと!」
双子の鎖は学園の手すり、街路樹、校舎の凹凸に絡まり高速で風を掻き分け、先へ先へ向かう。この高速移動はスピード特化の騎士と比べても決して見劣りするものではない。むしろ立体的に動くため、ただ速く動ける者よりも姿の捕捉が困難になっている。まるで翼があるかのごとく、重力という自然の絶対的な摂理を超越し宙を自由自在に舞う二人の騎士。
双子の鎖使いは戦場を翔ぶ。鎖を校舎の隙間、突起に絡ませ、高速で三次元的な移動を行う身のこなしは蜘蛛のごとく。戦場を風よりも疾く飛翔する姿は隼のようだ。学園から王宮に行く最短ルートは二年校舎先の門を通る他ない。ゆえに二年校舎にいるミコトとは戦闘になるだろうが、双子が今、考えているのはアド・エデムが脱走したことに対する危機感のみ。永久に拘束していたいという願いのため、ジェイル、チェーンの二人は一瞬でもアドが縛られていない状況に恐怖すら抱いている。二人は鎖と同色の鋼色の銀髪を靡かせて、二年校舎に急速に近づきつつあった。すると二人の頭上におそらく、ミコトが放ったであろう巨大な紅蓮が迫る。ジェイルは鎖を別の所に巻き付け、引っ張ることで進みながら回避した。一方のチェーンは腰を捻らせて、掴んでいた鎖を頭上の紅蓮に目掛け、ぶん投げる。双子の持つ鎖のアームは攻撃値が一般的なツルギに比べ、非常に低い。ならば鎖を何故、紅蓮に投げたのか?鎖が生物のようにしなって紅蓮に真っ向から挑む。万物を焼き尽くさんとする紅蓮、対するは封印の鎖。普通なら攻撃値のより高い紅蓮が勝利するだろう。だが、ここで番狂わせが起きる。恐ろしい程の巨大な熱量を放出する紅蓮が鎖で覆われていくではないか。まるで蛇が獲物を己の身で包み絞め殺すように紅蓮を鎖が呑み込む。常識ではありえない瞬きの攻防、しかし、そんな凄まじい絶技を誇る様子もなく、双子は真っ直ぐに躊躇なく突き進む。二年校舎前を通りすぎる時、二年生の数人がツルギやアームを多彩に使って二人を攻撃するが、ミコトの攻撃すら避けた双子に彼らの攻撃は掠る道理はない。そしてジェイルとチェーンは、二年校舎を何もせずに通りぬけていく。ミコト含む、二年生一同は呆然と彼女らを見送るだけしか出来なかった。
肩を揃え、双子が共に目指すは二年校舎後方にある王宮方面の門。ジェイルもチェーンも無言、無表情で門に向かい駆けているが、内心ではパニックに成りかけていた。自分達が行ったアド・エデムのための鎖、いわば彼女たちとアド・エデムを繋ぐ(物理的)絆を破られたのだ。恋に心を奪われた二人が恐慌し、決闘祭の何もかもを放り投げるのは火を見るより明らか。警備員の役割をしている騎士は上司か、誰かから事の成り行きを聞いたのか、双子を引き止めず敬礼をして見送る。
「ジェイル!」 「チェーン!」
双騎士は到着した門を開ける手間すら我慢出来なかった。一瞬、眼差しの交錯。ジェイルとチェーンはお互いに声をかけた。鎖を門の上部に引っ掻けて、門を飛び越えようとする。その時だった、門を越えんとする丁度のタイミング。そこで起こったことは単なる偶然、運命でも必然でもない予期できぬイレギュラー。それでも、ジェイル、チェーンたちには運命的なことに思えただろう。
「「……………………アド?」」
「……えっと?………………………………俺、参上!……………なんつって?」
なんと、驚くことに突如として開かれた門の向こうには、ジェイルとチェーンの狂おしいまでに恋する青年の姿。万人に畏怖されし世界最強にして最恐の騎士アド・エデムがいたのだ。
Sideアド・エデム
王宮を脱走してから、ゆっくりと一息つく余裕が出来た。城内の騎士、メイドの人らは外に出るのに七面倒な手続きをしなければ外出が出来ないのだ。その手続きをしている間に俺は余裕で学園に到着できる。後は学園に向かうだけの道を真っ直ぐに進むだけ。よし、学園まで急いでいくかね。
「ふっ!」
全体的に通常スペックが低いアド・エデムだが、それでも人類を超越した騎士の一人。その身体能力は恐るべきモノ、このペースなら軽く四、五分で学園へ到着可能。数キロ離れた学園を人類では不可能な速度で走破するアド・エデム、その疾走は疾く駆ける野生の狼のよう。一般的な騎士に比べ基礎能力に劣るアドは、研鑽に練達を重ねた技術をもって己より格上の騎士にようやく相対出来るのだ。とっておき、切り札、反則技とも呼べる斬撃皇帝は、滅多なことでは使用しない。というか本人いわく斬撃皇帝を使うのは、ノリとテンションで決めるらしい。発動して十秒足らずで半径百キロを不毛の地に変える破滅の能力、この力で枯れた大地は大地母神教の神官がお手上げだと匙を投げるほど。逆に十秒以内であれば百キロも被害は及ばない事実を示している。
………ただし、それでも半径何キロかは確実に不毛の荒野に変貌するが。
駆ける先には決闘祭の舞台となるアルマニア学園。アドはようやく、その舞台の前、二年校舎裏の門にたどり着いた。門を開けるのはさほど苦労しない、苦労するのは決闘祭の監視員をしている騎士たち。学生よりも遥かに経験と実力を備えた騎士を相手にするのはアドでも至難。ゆえに彼らの目を欺きつつ、決闘祭を見物しようと門に手を押す。軽く数トンはあろう重鈍な門扉が今、開かれる。開かれた先にいたのは、長い監獄生活の癒しにして自分を縛っていた少女。ジェイルとチェーンの双子だった。
「「…………アド?」」
………俺の決闘祭、最初からクライマックスだZE!双子ちゃんの鎖から脱走した負い目から多少の気まずさと、どうしようもなさが漂う。半ば自棄っぱちになって、前世の記憶にあるライダーの決め台詞を思いっきり口走った。
「……えっと?………………………俺、参上!……………なんつって?」
………うん、どうしようか?この状況と気まずい空気、例えるなら、自分の墓穴を墓標つきで作った感。なんて無駄な考えをしていたらジェイルとチェーンが現状を理解したらしい。無表情というか真顔だった彼女たちは一転して笑顔に。
「フフフ、アド。ここでどうしたの?」
「そうだよ~私たちとの約束を破ってまで何してるの~」
あれ、怒っていない?………これは……事情を二人に教えれば、何とかなるのでは?他の騎士に見つかるより、ここでジェイルたちに会えてラッキーだったのか。よし、事情を説明して決闘祭の見学にでも行こう。
「まったく、アドったら」
「そうそう、アドってば」
え、え?……………………よくよく、二人を観察すると何やら様子がおかしい。おかしいと言うより、うん、うまく言葉に出来ないが仮に表現するなら、めちゃヤバい。眼の虹彩に光がなく、足どりは幽鬼みたくフラフラとして、俺の本能が『逃げちゃえよ、ベイビー!』ってシャウトしている。
「大丈夫だよ。アド、これからずーっと一緒だからね」
「うんうん、ずーっと一緒にいようね」
まずい、何がまずいのか明確にわかるわけではないが、確実にまずいことだけは察せる。二人はハイライトの消えた瞳を持ってゆっくりとだが、着実に俺に近づく。あ、これ詰んだかも。
「……………ふぅ、丁度のタイミングで来れたようですね」
絶体絶命の窮地に陥るアド・エデム。だが、そこでジェイルとチェーンの背後から、ロングスカートを翻し、清楚なメイド服を纏う新たな役者が舞台に現れる。彼女こそリリーシャ女王の第一の側近にして、斬撃皇帝アド・エデムの学園時代の先輩であるマキナ・ジーン・デウスエクス、その人だった。(巨乳)
Sideマキナ
アド・エデム。それは学生時代の私が一目おいていた後輩の名前。彼と出会ったのは、彼が入学した一ヶ月後のとある事件だ。学園で起きた連続強盗事件、手練れの騎士が夜中に出歩いていると手荷物を奪われるという事件で、それを解決したのがアド・エデムと私だったのだ。学園でも非常に評判の悪い後輩が見事、事件に決着をつけた。それも考える限り最善の決着を。誰にも知られることのなかった真実の終幕。この事件によって、リリーシャ様はアリスタ様と本当の意味で姉妹となることが出来た。リリーシャ様、アリスタ様はそうしてアド・エデムに恋心を抱いたのだろう。王族ゆえにお二人の恋は果たされるのは難しい、叶うならどうか我が主たちの恋が叶うことを願おう。
それと私にとってのアド・エデムは、言葉にするなら弟というべきだろうか?そんな彼が国のためとはいえ収監されるなんて理不尽、認めたくなかった。だが結局、何の行動も出来ずじまい、今も昔も、そんな自分の不甲斐なさに憤ってばかり。アドはアルマニアのため、牢獄への幽閉を受け入れたバカみたいな優しさを持つ青年。そんな彼が脱獄したのだ、きっと何か理由があるに違いない。アドの真意を聞くため急ぎ王宮に通ずる門を目指す。観覧席から二年校舎裏を通って門方面に移動していると、ジェイルとチェーンの二人が目にも止まらぬ速度で、文字通り飛んでいく。自分も負けじと加速して追いかけて、ジェイル、チェーンたちに遅れながらも門が見える位置にまで近づく。すると、どうしたことか、ジェイルとチェーンが突如開かれた門のところで止まったではないか。門の先に視線を動かそうとすると、堂々とした声がこの周辺に響き渡る。
「……えっと?………………………俺、参上!……………なんつって?」
冗談を言うように笑いながら彼はそこにいた、『自分はここにいるぞ』と宣言する言葉を響かせ、ただ威風堂々と立っていた。自分の意思を飾らず偽らず曲げない誇り高い魂の言葉。その言葉を聞いた途端に安堵の感情が押し寄せてきた。アドは何一つ変わっていないのだと確認できて、張りつめた緊張が消えた。ゆっくりとアドの近くに歩く。
…………ジェイルとチェーンが何やら物騒なことを言っている気がするが、ここはあえて触れないでおこう。まったく、拘束の技術はあの二人が専門ゆえに仕方ないが、アドに対する感情に危険なモノがあるような気がするのは、自分の考えすぎなのか?
「…ふぅ、丁度のタイミングで来れたようですね」
この場でアドを見つけられたのは本当に幸運だった。彼がここに来たということはもしや、決闘祭に何か不穏な陰謀があるのでは?なんて馬鹿げた考えを浮かべてしまう。実際、アドが外に出ていったのはSSS級のブレイド襲来といった恐ろしい事件。警戒しておかねばならないのは必須条件。アドが何故に脱走したのか、理由を問いただすため、早急にリリーシャ様の前に連れていく。幸いジェイル、チェーンのペアがいる以上逃がすなんてことはあり得なかろう。
「アド・エデム、何故あなたが禁断牢獄を脱獄したのか知りませんが、リリーシャ様のおわす所に行って説明をお願いしますね。ジェイル、チェーン、アドを拘束してください」
とりあえず、これで一件落着と思いきや話はそう簡単に終わらない。むしろ、更なる面倒事が上乗せされた。
「ダ~メ、アドはすぐに牢獄に戻るの。もうアドを離さないんだから」
「そうだよ、幾らリリーシャ様が呼んでいるからって、絶対や~だ。アドとは、これ以上、離れないんだから」
「なっ?!」
王家に仕えし牢獄の一族の現当主であるジェイル、チェーンはアルマニアの王であるリリーシャの命を完全完璧に私事ではね除けたのだ。これは不敬罪に問われる問題。想定外の事態を打破すべく、双子の説得に挑戦しようとすると、まばたきを終えた瞬間の眼前に鎖が飛んできた。
「!?」
意識の盲点を突いた一撃、チェーンの鎖のアームがマキナの首を絡み取らんと迫ってくる。それを上体を限りなく反らすことでなんとか回避を成功させたマキナ。突然の奇襲にすぐさま対応し、自身のツルギを顕現させて静かに構えた。その姿は常に油断を怠らない野生の獣を幻視させる。
マキナのツルギの形は遊びのない武骨なロングソード、鍔には飾りの一つも無い。それは所有者の実直な精神を反映したもの故か?刀身は鈍く重苦しい光を放つ。鎖の初撃を避けたマキナは味方と思っていた二人を見返す。
「ジェイル、チェーン。何ゆえ、このような蛮行に及んだのか説明いただきましょう」
「だって~、アドとこれ以上離れるのは、我慢できないんだもん」
「そうよ、そうよ。アドは寄り道せず、牢獄に帰るの!」
「えっと、因みに俺の意見はどこに行ったのかな?」
アドがジェイルとチェーンたちの会話に疑問を放ると、ジェイル、チェーンはアドにゆっくりと視線を固定する。二人の表情は笑顔のはずなのに、直接向けられていない私ですら、寒気が骨髄を貫いていく。直接視線を合わせているアドの顔なんて、もう真っ青。
「「アドは嫌?」」
眩しく、純粋で膨大な想いの籠った微笑みにアドは苦笑いを返している。…………仕方ない、ジェイルたちにアドを捕らえさせてリリーシャ様の所に連れていくはずだったが、作戦変更。チェーンたち二人をここで沈める。アドはその後で連れていこう。
「シッ!」
マキナはロングソードを腕力だけではなく、体の駆動部、重心、体幹の全てを巧みに操りジェイル、チェーンを目掛け一閃。それを双子は鎖で受け止める。この場は、まさしく騎士という生物の超越種が鎬を削る限界戦線。
「むー、危ないなぁ」
「怪我したらどうするの~」
「あなた方がそのセリフを言いますか、あなた方が」
互いの武器を交わらせながらも、このように気軽な軽口を叩く三人の女騎士。緊迫した状況で蚊帳の外にされたアド・エデム。斬撃皇帝を取り巻く事態は混沌と相成っていた。
SideOut
Side Another
時をしばし戻しアド・エデムが門を開いた時。別の場所で、彼を想う少女たちが斬撃皇帝の出現を察知していた。
「…そんな!まさか…………」
「…………え?」 「なんやて!?」 「…うそ…………」
二年校舎屋上
ジェイル、チェーンの二人を逃がしたミコトは、吊り橋上の援護射撃をしている中、背後の門の方から聞こえる声に驚愕と疑問をそっと口にした。
「……まさか…………おまえ、なのか?」
聞き覚えのある声に、ミコトは驚きを隠せなかった。クリアの戦闘をサポートしなければならない状況。しかし、背後にはアド・エデムと思われる声。ミコトはツルギの熱量を更に増やし、爆発的に上昇させる。後のことなど微塵も考えない。この場を速攻で決着させ、アドのいるであろう方向に向かうと判断を下す。
「………………まったく、この戦いはお前を助けるモノだというのに、ここで出てくるとは。少しは空気を読め、バカモノが。まぁいい、待っていろ。…………次で終わらせる……」
ミコトの言葉が切れた時、屋上の空気が急に冷えてくる。相対的に真紅に燃える刀身へ、熱が閉じ込められてきた。ミコトの《次で終わらせる》という宣言、これよりミコトの打ち出す一撃は、騎士にとっても常識の埒外。敵であり、的であるカイルを狙い澄ます。
最高にして、自身の持つ最強の一撃を放つ前、ミコトはポツリと呟く。それは祈りを込めた一言で、愛の込められた一言だった。
「………………アド………」
一年校舎前
一年校舎前に立つ三人の乙女。彼女らも無敵の騎士の出現とその名乗りを感じとって、喜ぶより先に困惑を顕にしていた。
「二人とも、聞こえた?」
「ああ、当然やろ。あの声を、魂を、うちらが間違えるはずがないやん」
「でも、どうして?なんで決闘祭に?」
「………………聞くしかない」
「……負けてまうかもしれんで」
「辿り着くことすら出来ないかもしれないよ」
二人の友が語る可能性と危険性の提示にアリスタは一瞬、眼を閉じた。そして、すぐさま見開く。その開かれた瞳には明確な答えが輝いていた。
「それでも……それでも、行く………お願い……一緒に来て……」
友にして恋のライバルでもあるアリスタの声に、獣人のシステムと魔族のキュアは同時に笑って応じる。その答えは聞くまでもないとばかりに、散歩にでも行くかのごとく、当たり前のように気軽さがあった。
「「当然!」」
「行こう」 「せやな」 「もちろん」
奇しくも別の場所でも同じ言の葉を呟いた者がいると、少女たちは気づかぬまま物語は先に、先へ進みゆく。
「「「アド(にぃ)(あんちゃん)」」」
全ての騎士は尋常ではない感覚器官を有しており、聴覚、視覚などを代表する五感は常人とは、比較にすらならない。しかし、騎士は優れた感覚を持つゆえに、本能的に必要ないと判断した情報は自動的にカットしている。だが、必要と判断している内容なら、話は別だ。一年生、二年生筆頭の少女たちはアド・エデムの声が聞こえていた。このことは決闘祭をどのように導くのか。そして斬撃皇帝の行く先は?
ツルギ図鑑
灼熱焔刃 (ホムラ)
所有者 ミコト・ブレイズ・ヴォルカニア
形状 紅い刀身の刀
備考
周囲の者はミコトの能力を炎を撃ちだすだけの能力と思っているが、実際の本質は熱量の操作。炎弾はその副産物にすぎない。熱量自体を操作する能力は高い汎用性を持つ。剣術の腕も非常に高いため、接近戦も上手くこなすことが可能。遠距離、近距離でも強力な攻撃手段が存在する。しかし、もっとも注目するのは瞬間的な攻撃力だ。一瞬ならば、その攻撃力は天災クラスのS級に匹敵する。炎の温度は弾丸として放った後でも変更が効き、自分以外の(自然界の)炎でも温度操作が可能。同じ炎使いと対峙する場合、どちらの炎の操作技術が上手いのかで勝負が決まる。
深海の純水 (アビス・クリア)
所有者 クリア・ランス・アグアリア
形状 龍の彫り物がある薙刀
備考
珍しい能力だが、そこまで稀少というわけでもなく、特別強力というわけでもない。能力内容は物体の操作。だが、操作の出来るモノは水に限定される。水を生み出し操作する能力ではないため、水がない状況、場所では何の能力も使用出来ない。操作能力自体は珍しくないが、水に限定されているというのは非常に珍しいケースだ。操作の出来るモノが水に限定されている分、操作範囲、操作可能量は通常の何十倍にもなっている。水を使用して攻撃を受け流し、隙を創り、隙を突く戦法を好む。水の量によって戦闘方法、勝率が大きく異なってくる。