決闘祭に斬撃皇帝が乱入したことで戦場の風向きは大幅に変わった。一年、二年、三年、それぞれの指揮官は彼の登場に驚き、それが真実なのかを確認しに急いで向かう。牢獄に収監されているはずの斬撃皇帝、その彼が何故に決闘祭に参戦したのか?ことの真実を確かめるべく、三つの勢力が彼のもとに集いつつあった。しかし、誰も知ることはない。斬撃皇帝が決闘祭に参加した理由が単なる暇潰しであるということに。舞台の表も裏もアド・エデムという名の人災に影響し、彼を中心にストーリーは廻り出す。
最強、最悪の騎士、斬撃皇帝と呼ばれしアド・エデム。さて、これから彼が決闘祭で何をやらかすのか?たった一人の騎士の行動、それはさながら蝶の羽ばたきが起こす嵐のごとき波瀾を喚ぶ。修羅神仏、天魔悪鬼であろうと、予測できない混沌が決闘祭に広がり始めていた。
騎士は刃を持った武装であるツルギ、もしくはそれ以外の形状のアームなどを生まれ持つ。双子が振るう鎖は後者のアームにカテゴリされ、マキナのロングソードは前者のツルギに当てはまる。アド・エデムの斬撃皇帝は通常は種子という異様な形状だが、最終的に剣のような形になるため、ツルギとして記録されているらしい。ここで疑問になるのが斬撃皇帝を使えないアドは強いのかと言うことだ、この問いに答えるのは非常に困難と言わざるをえない。彼は技術に特化しており、回避、逃走、受け流しは常人の常識に縛られないほど巧みなモノだ。それでも攻撃に関しては貧弱と断言出来る。つまり、アドが斬撃皇帝を使わない戦闘で選べる選択肢はたった一つだけ。それは逃亡、この一点に関してならアドは最高位の騎士だろうと上回れる。さて、逃走に尖った性能を持つアド・エデムを女性陣は捕まえられるのだろうか。ここにアドが決闘祭に来て最初の戦闘が開始する。
ズッン! バシッ!
ジェイルとチェーンの操る二本の鎖が空気を切り裂き、アドとマキナ、二つの標的を拘束しようと飛来する。マキナは己のツルギを使い、巧みに弾くことで難を逃れた。だが、アドの場合そうはいかない。彼の所有する斬撃皇帝はたった十秒の使用で大地を枯渇させてしまうことに加えて、単純に破壊力がありすぎる。つまり、騎士の所有する最大武装のツルギをアドは゛強力すぎる゛という本末転倒な理由で発動出来ない。そのため彼は手持ちのナイフを振るい、迫る鎖を捌き続ける。アド・エデムの卓越した技術は人理さえ超越し、絶対縛鎖の鎖すらモノともしない。この場にいるアドを除いた三人の乙女は、改めてアドの絶技に舌を巻く。ツルギではないナイフ一本で、このようなことが出来る騎士は世界に五人といないだろう。斬撃皇帝を使用しなくとも、彼はその技量だけでも充分に強いのだと再確認した乙女たちは、アドの美しさすら魅せる無駄の無い動きに魅了されかけた。だが、ジェイルとチェーンはアドを牢獄に連れ帰るために思考を切り替え、マキナも自身の主、リリーシャのもとにアドを連行すべく意識を集中して戦闘を続行。マキナにも鎖が襲いかかるが、ジェイルとチェーンの目的がアドであるためか、アドより鎖の襲撃は軽い。そこでマキナは隙を伺ってアドを捕まえようとするが、アドに近づこうとすると鎖による攻撃の質が急上昇してしまう。これでは迂闊に動けない。片や、ジェイルとチェーンはアドを速く捕まえるか、マキナを先に片付けるかで悩んでいた。すると、いきなりアドが女性陣に声をかける。
「ところでさ、決闘祭って今、どうなってるのかな?」
ジェイルとチェーン、マキナの三人は今までの緊迫していた状況を、一切気にしないアドの発言に毒気が抜かれてしまう。ジェイルとチェーンは鎖を手元に引き戻し、マキナもツルギを肩に乗せて戦闘を中断させた。そして、アドはこんな状況にも関わらず、とぼけた顔でナイフをペン回しよろしく器用に回転させている。
「まさかとは思いますが、アド。貴方は決闘祭を見物するためだけに脱走したと?………………マイペースと言うのにも限度があるでしょう。まったく、良くも悪くも昔と何も変わらないんだから……」
「なーんだ!じゃあ、アドは牢獄が嫌だから逃げ出したんじゃないんだね。それならそう言ってくれればよかったのにぃ」
「そうだよ~、それなら今から決闘祭を見に行こう!あ、でも、終わったら帰らなきゃダメだから。…………さてと、その前に……マキナさんはどうする?」
「行かせると?アドはリリーシャ様のもとに行ってもらいます。拒否、否定、逃亡の全てを許しませんので……悪しからず」
「俺としては一人で見物しに行きたいんだけど、………ダメ?」
「「「ダメ(です)」」」
「ですよねー」
アドの楽観的な声が響いた瞬間に、鎖が、斬撃が戦いを再開させた。しかし、このままでは先ほどの焼き回し。ゆえにジェイルとチェーンは最初にアドを捕まえようと全力を尽くす。二本の鎖はアドを完全に包囲し、捕獲しようと迫り来る。しかし、この窮地にすらアドは諦めを見せない。
「まだだ!まだ終わらんよ!」
己を奮起させる言葉を叫ぶと、彼は鎖から逃れるために空に向けて跳躍した。そして空中に跳んだアドは接近した鎖の上に゛立った゛のだ。まさしく、あらゆる騎士を驚愕させる凄まじい技術。ジェイル、チェーン、マキナたちが目を見張る超技量。その絶技を魅せきったアドは鎖の包囲から逃れ、この場から離れていった。その速度はまさしく、脱兎のごとし。とても潔い逃走に三人の乙女たちは、アドを追跡することを忘れかける。
「……まさか、ツルギを使わずにここまでとは……」
あまりの曲芸じみた動作にマキナは呆然としてしまう、そこにジェイルとチェーンがマキナの方へ近づく。唐突な接近にマキナはツルギを構えるが、ジェイルたちは鎖を構えておらず、どうやら攻撃する気はないらしい。
「ねぇねぇ、マキナさん。私たちアドを捕まえたいだけなの………でもね、アドは行っちゃったんだぁ………」
「うんうん、アドは行っちゃった。どうしてかなぁ?何でかなぁ?………私たちは、もっと、もーっと、アドを捕らえなきゃ…………そう、思わない?マキナさん……」
双子は呟くようにマキナに話しかけているが、二人の瞳はマキナに焦点を合わせていない。マキナはジェイルたちの瞳がまるで底なしの闇のように感じて、思わず一歩だけ後ろに下がる。
「………私としては、一刻も速くアドをリリーシャ様のところに連れていかねばならないのですよ……ところでアドを追いかけないのですか?てっきり、貴女たちならアドをすぐに追跡すると踏んでいたのですが」
「アドを追いかけたいのは山々なんだけどねー」
「今すぐにでも追っかけたいんだけど」
「アドが行っちゃったのは、私たちがマキナさんの相手もしていたから、だと思うんだ」
「アドを捕まえてあげられなかったのは、マキナさんがいたからって、わかったんだ」
「「だから」」
二人の声が合わさった。その瞬間、双子の鎖が空中に浮かんで、周囲のあらゆる物体に絡み付く。マキナはこれは不味いと直感するも、鎖によって蜘蛛の巣のような空間が瞬時に構成される。
「「゛退場゛してもらうね…マキナさん……」」
何やら『退場』の発音、語気がおかしかった気がする。この違和感について一瞬だけ思考し、マキナはそれがどういう意味なのかを理解した、してしまったのだ。おそらく、ジェイルとチェーンの言葉は決闘祭からの退場ともう一つの意味を含んでいるだろう。マキナは己のツルギを正眼に構え、双子と相対する。これは本気でかからなければ、
「丁重にお断りいたします」
人生から゛退場゛しかねない。
Side Out
Sideアド・エデム
さて、右手に見えるのはジェイルとチェーン。左手にはいらっしゃるのはマキナさん。つまり前門の美人双子の看守、後門の巨乳メイド。とりあえず、私、斬撃皇帝ことアド・エデムはただいま修羅場の真っ最中です。何とかポーカーフェイスを保ちながら、ジェイルとチェーンの放つ鎖、マキナ先輩の斬撃を必死で回避する。フハハハー、内心じゃガクブルだけどな!しかし、ジェイルたちはまだしも、マキナ先輩のツルギが能力を発動させれば、逃げる暇もあっという間に無くなるだろう。だって、あれはまさしく゛ご都合主義゛としか言い様のない代物。 であるならば、発動前に倒す?無理、無謀、不可能、愚の骨頂。最強の騎士、斬撃皇帝なんて周囲から言われても、発動させられない能力に意味なんてない。ならば、ここは潔く……………逃げよう。
「ところでさ、決闘祭って今、どうなってるのかな?」
会話をしているドサクサに紛れて、ソッコーで逃亡してみせる!どうにか、隙を見つけて………隙を……創って!…………………………隙がねぇぇぇ!!!
「まさかとは思いますが、アド。貴方は決闘祭を見物するためだけに脱走したと?………………マイペースと言うのにも限度があるでしょう。まったく、良くも悪くも昔と何も変わらないんだから……」
グフ………マキナ先輩の正論に心が痛い……ごめんなさい…………今も昔も迷惑ばかりかけて……申し訳ないと思ってはいるんですよ……………嗚呼、先輩の呆れた視線がグサグサくる。もう、ヤメテ、俺のライフは既にゼロだよ~。
「なーんだ!じゃあ、アドは牢獄が嫌だから逃げ出したんじゃないんだね。それならそう言ってくれればよかったのにぃ」
「そうだよ~、それなら今から決闘祭を見に行こう!あ、それでも、終わったら帰らなきゃダメだから。…………さてと、その前に……マキナさんはどうする?」
「行かせると?アドはリリーシャ様のもとに行ってもらいます。拒否、否定、逃亡の全てを許しませんので……悪しからず」
あれ、ジェイルとチェーンは意外と許してくれたっぽいな。あ、それでも、やっぱり牢獄にはリターンは確定か。…………うん、一応…俺の意見を伝えてみようか……
「俺としては一人で見物しに行きたいんだけど、………ダメ?」
「「「ダメ(です)」」」
「ですよねー」
三人が即答の上にハモってまで却下されるとか、もはや、渇いた笑いしか出来ない。こうして笑ってる間にも鎖が、斬撃が俺を仕留めようと襲来する。俺は普通の騎士に比べれば、゛素の身体能力゛が劣っている。出来ることなんて小細工だけ。スペックは斬撃皇帝を使わない限り、底辺の底辺。……というか、三人とも?俺を生かして捕らえる気ある?生死を問わないとか言われたら笑えんよ。女性陣のおっかない攻撃をなんとか避け続けていると諦めに思考が傾き始めてきた。……………うん、もうゴールしてもいいよね?………そんな時だ、夢、幻覚なのか?俺の視界に、ある男の後ろ姿が投影された。
その男とは……………《赤い彗星》と呼ばれたジオン軍の猛者。その名をシャア・アズナブル。彼はやけに良い笑顔でサムズアップしながら俺にある真理を告げた。
『モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやれ』
なるほど………そうだな。…………………モビルスーツは今、まったく関係ないけど。とにかく伝えたいことは理解した。要するにスペックが勝敗を決めるんじゃない、つまり俺の技術で………………って、おい!ジェイルとチェーンの鎖、何だかスゴい危険なオーラを感じるんだけど!
次の瞬間に、動きを完全に禁じる双つの鎖はアドを目掛けて振るわれた。まさに絶妙としか思えないようなタイミングで鎖は迫る。そんなピンチで、アドはテンションを無理矢理上げるためネタに走った台詞を自棄っぱちに叫ぶ。
「まだだ!まだ終わらんよ!」
ズドン!
明らかに鎖では出せないような音を発して、双子の(ある意味で)純粋な思いの籠った一撃が撃たれる。アドはそれを跳躍によって回避して、いや、回避を越え、その先へ。跳躍し宙に浮かんだ刹那、思考が高速化されたアド・エデムはスローモーションになる世界の中で鎖の上に足を乗せる。ありえない奇跡、起こりえないミラクル。それをアド・エデムは何とか手繰り寄せたのだ。そして鎖と足が触れた瞬間、スローモーションの世界は崩れ、通常速度の世界へと帰還。これが最後で最高のチャンス。アドは鎖に乗っかった足に持てる全ての力を充填した、そして力が充ち満ちた時、アドはこの修羅場から逃亡するため思いきり跳ね飛んだ。飛び上がりアドは先程の戦場から離れた場所に着地すると、一目散に逃走したのだった。
こうして、アド・エデム。なんやかんやで戦線離脱。
Side Out
Side アリスタ・システム・キュア
一年校舎を出て、二年校舎へ続く道を三人の少女たちが疾走する。若葉を芽吹かせる街路樹の道に三つの風が疾った。この場にいるのは三人の少女だけ、他に護衛となる一年生は連れていない。一年生の将であるアリスタの敗北は一年生全員の敗北を意味する。だというのに護衛の一人も連れてきていないということは、どういうことなのか?これは単純に、アリスタたちの戦闘の邪魔になることが理由として挙げられる。この三人のチームワークは、歴戦の騎士のそれに等しいほど。もしも、下手に他の者が混じれば、三人の足を引っ張りかねない。だから彼女たちは他の者を連れていないのである。……………まぁ、単純にアド・エデムに会いに行くのに、他の者を連れていきたくないというのも理由の一つなのだが。
「この先にアドにぃが?」
「たぶん、…………でも、戦闘のノイズで声が聞き取りずらい……」
「うちの耳でも聞きとれへんなぁ、せやけど、三人くらいで戦っとると違う?それ以上はわからへんがな」
キュアとアリスタはアドがいるのか、不安を感じており、システムの獣人特有の聴覚をもってしても戦闘の詳しい状況は読みきれない。それでも彼女らはただ真っ直ぐに走る。
「ふーむ、アリスタ?別動隊の連中ら、上手くことを運べるやろか?平民、貴族、獣人、魔人の区別なく、ごちゃ混ぜなチームで協力とか………ちょっと無茶やで……」
「うん、僕としても心配かな。二年校舎に侵入するスニーキングアタックって、成功する、しないより仲間割れの方が心配だよ……」
「仲がわるいのは諦めてる、互いを利用する最低限の協力が出来れば、それでいいし、それ以上は望まない」
表情を変えることなく、たんたんと冷めたように喋るアリスタ。その態度は同じ一年生の配慮をまったく感じさせない。そんなアリスタの態度に二人の友人は、仕方ないなぁと言わんばかりに笑いあう。そんな二人の様子に非常に口数の少ないアリスタが珍しく二人へ問いかけた。
「どうしたの?…………にやにやして…」
「うんにゃ、別に何でもあらへんよー」
「うん、僕も同じく」
「………二人とも………面白がってる………はぁ………もう、いい………………はやく、アドのところに行く」
システムとキュアの二人が冗談まじりに誤魔化し、その対応にアリスタがジト眼になり拗ねている。しかし、三者ともに不快感をまったく見せていない。これも彼女らなりのコミュニケーションなのだろう。そんな微笑ましい掛け合いをしていると、前方に二年生と思わしき 男の三人組が確認できる。おそらく、二年校舎周辺の警備をしている者たちだ。彼らはアリスタたちの存在に気づいていない。
そこでアリスタは並走する二人に目配せをする、システムもそれに応じるように頭の狸耳をピクリとさせ、キュアも同様に目尻を少し上げた。経験、地力などで相手を上回っていないアリスタたちが勝利する方法はたった一つだけ。要するに、狙うは初撃決着・超短期戦。相手が気づいていない不意を奇襲して速効で戦闘を終わらせる。これがアリスタたちが一瞬で選んだ対処法だった。
まず最初に、アリスタは自分のツルギを足元に突き立て膝をつく。次にシステムがアリスタ、キュアを追い越して加速。二人を追い抜き眼にも止まらぬ速度で駆け出した。最後にキュアはアリスタの後方に立ち、己のツルギである深紅の旗を具現化する。
最初にシステムが地面に顔が触れんばかりの前傾姿勢で駆け出した。道の端に生えた木々を巧みに使って、高速かつ無音で敵の背後に忍び寄る。まるで野生の獣のごとき速度、巣を張る蜘蛛のような動作。そこからシステムは流れるような動きで敵の一人を昏倒させた。次いでキュアの旗による攻撃が二人目の不意を突く。そして最後の一人、彼は油断しきっていた先程の敵とは違い、完全な戦闘体勢で三人の乙女たちにツルギを向ける。システムは己のツルギである鉈を構え、キュアも深紅の旗を槍のように前方に構えた。一番後ろのアリスタは目を閉じることで己の意識を集中させて次の一手に備える。そして、システムがほんの僅かに動く、男はその動きを一つも見逃しまいと凝視する。だが、なんと凝視していたはずのシステム、それに隣にいたキュアが突然、姿を消してしまった。男は唐突なことに驚きながらも、警戒のためツルギを構えて腰を落とす姿勢に。男は唯一姿を消さないアリスタをにらみつける……………そして彼が息を吐こうとした瞬間、警戒の甲斐無く、男は一瞬で意識を失うと共に決闘祭から脱落したのだった。
「よっしゃ、これで一丁上がりっと。にしてもアリスタのツルギって、ごっつ便利やなぁ。刺したとこの周辺に転移できるって、攻撃力が無いってとこ差っ引いても余りある能力やないか」
「そうでもない…………私のツルギは転移を承諾した人しか跳ばせないから……………敵を移動させられない」
「それでも空間操作系のツルギを使いこなせるんだ。僕はスゴいと思うけど」
「……………ありがとう………そういえば、シス。さっきの動きって何?」
「あ、それ、僕も気になった!シス、さっきのあれって何なの?何か初速から全速力と変わらない速さだったけど……もしかして、獣人に伝わる特殊な技術とか?!」
「あー、ちゃうちゃう。あれな、教えてもろたんよ」
システムはカラカラと笑いながら、己のツルギである鉈を肩に乗せて歩き出す。アリスタとキュアはシステムのあとを追いながら問いかける。
「教えてもらった?……………あの技を?」
「えっと、それって僕らの知っている人?」
「知っとるはずやでぇ、なんせウチらが助けてもろた人やからな」
「それって」 「もしかして…」
イタズラ混じりに言ったシステムの一言で謎が全て解け、二人はなるほど、と言わんばかりに納得した。そして、システムは先程の体術を教授した師が誰であるかという問いの答え合わせを行う。そう、あの無音の高速移動術をシステムに教えた者、その正体とは
「うちにあの技を教えてくれたんはアド・エデム。ウチらのあんちゃんや」
「アドにぃが?!…む~……………それって僕たち教わってないんだけど」
「…………同じく」
「そりゃ、うちだけが教わった技やからなぁ。技の名前がえーと、゛センソー、スイゲツ゛とか言うたわ」
「…………後で教えて」 「僕もだからね!」
「わーった、わーった。うちもそこまでケチな女やない。教えたるよ、あんちゃんの教えてくれた技をな………」
「へぇ、興味深い話をしてますね。俺も混ぜてもらえませんか」
背後から聞こえた声に反応し少女たちはツルギを構えて、バッと振りかえる。振り向いた先で不敵な笑みを溢し立っていた人物とは、一年校舎で撃退した二年生の指揮官、エゼル・ウォール・ゴヒュルであった。
所かわって三年校舎と二年校舎を繋ぐ吊り橋上での戦闘。現時点で戦闘を続行しているのは二人。片方は二年主将であるミコトに仕える侍女のクリア。もう一方は三年主将である連合国の王族、カイル。…この吊り橋上の戦闘は終始一貫してカイルの優勢で進んでいた。機械仕掛けのように正確なカイルの剣技にクリアを防戦一方。どうにか、直撃を回避するも攻撃に移ることが出来ない。クリアは周囲に浮遊する水塊をカイルに発射した、ただの水と侮るなかれ。これは騎士のツルギによる人智を越えた力。カイルは高速で迫る水撃にステップを踏んで対処、クリアに接近してツルギを振るう。クリアは己の薙刀状のツルギ゛深海の純水゛(アビス・クリア)で受け止めた。カイルのツルギは片刃のロングソード型、薙刀とロングソードが鍔迫り合う。
「はぁぁぁぁぁ!!」
カイルの列迫の掛け声に鍔迫り合いが崩れ、クリアが吹き飛ばされる。
「くっ!まだまだぁぁ!!」
クリアは吹き飛ばされるも、宙返りをして猫のように着地。そして、カイルに斬りかかろうと足に力を籠めようとした時、クリアの首筋に悪寒が蠢いた。中断、逃ゲロ、逃げろ。ある意味では馴染みの恐怖。そうクリアは主との鍛練でこの悪寒を味わってきた。そう、ミコトは瞬間的な破壊力だけで言えば、規格外クラスのS評価。
彼女のツルギの放つ炎は、正面から受けてしまえば灰すら残らぬ灼光の焔。ミコトと普段から戦闘訓練を共にしてきたという経験が奇跡的にクリアを救う。クリアは前方へと向けていた脚の運動エネルギーを無理に後方へ変換。その反動か代償として、脚がメキメキと嫌な音を立てる。だが、そのおかげで吊り橋から離れた道路へ移動。吊り橋上のカイルは突然後ろに退がったクリアを追いかけようと一歩踏み出そうと動く。だが、一歩の踏み込みと同時に大爆音が轟き、灼熱の業火球がカイルを包んだ。
ズドガーン!!!
この結果はカイルという格上を相手に持ちこたえたクリア、遠距離の狙撃を成功させたミコトたち二人が起こした大判狂わせ。そして吊り橋は熱により焼滅し欠片もない、加えて吊り橋下の川の水が水蒸気を発生させてカイルの姿が見当たらぬ状況。五体満足で生きているのだろうか?
「やりましたか!?」
クリアが僅かに疑問を載せた声色で周囲を観測する。おおよそで十秒、水蒸気が晴れてくるとカイルの姿はどこにもない。緊張が解けたクリアは、援護してくれた主の方に振り向いた、その瞬間
「やっていない、まぁ、惜しかったな」
「なっ!…ガッ!?」
油断を晒してしまったクリア、その隙を突いてカイルは彼女を気絶させる。これにて、吊り橋上の戦闘は終了。勝者であるカイルは悠然と先に進み、敗者であるクリアは地面へと沈められた。だが、ここで疑問が出てくる。何故、カイルはあの炎の弾丸を受けて無事なのか?
それは非常に簡単な答え。焔の弾はカイルに゛直撃゛していなかったのだ。カイルのツルギには特別な能力がない、可能なことと言えば、近未来を予測するだけ。つまり、信じられないだろうが、彼は戦闘が始まってから決着まで、先程のシーンも含めた数パターンの可能性を予測していたのである。どんなことでも、予測して先に知っていれば、その困難に対処するのは不可能ではない。カイルがどのように焔の弾丸を避けたのか、簡易だが説明しよう。
まず、クリアが回避行動に移った瞬間、危険を予測したカイルは上空に跳躍。吊り橋に炎が着弾した時の爆風で空高く吹き飛ばされ、クリアとミコトの視界から姿を消す。そしてカイルは落下するも音を立てないで着地。水蒸気の煙幕に乗じてクリアを昏倒させたのだ。
遠目からクリアの敗北を見届けたミコトは、忠実なメイドに感謝を心中で唱え、ゆっくりと迫るカイルを見下ろす。吊り橋は突破された、一年を仕留めにいった別動隊は戻ってこない。ジェイル、チェーンなどは撃破されておらず、何よりアド・エデムがいるかもしれないというカオスな状況。ミコトは息を吐いて屋上から地上へ、トンっと飛び降りる。華麗に着地したミコトは己のツルギを腰に佩いて歩き出した。そう、ミコトはカイルを短期決戦で倒し、アドがいるやもしれない場所へ向かうつもりなのだ。先程までは狙撃に徹していたミコトだが、彼女が本来、もっとも得意とするのは゛近接戦闘゛。今、この瞬間、ミコトはカイルを倒すため、心身ともに研ぎ澄まされた刃となった。ミコトはカイルのいる方へ歩む、ただその先にいるであろうアドのことだけを想い…………………。
さぁ、二年と三年の頂上対決。謀らずしも、二年と三年の最強のカードがここに構築されることとなるのだった。
ツルギ図鑑
条理に基づく予言者(シビュラ)
所有者 カイル・レギラ・レギオン
形状 片刃のロングソード
備考
攻撃能力を持たぬ補助型のツルギ。所有者の見た、聴いた、感じたことに基づいて近未来を予測する。周囲のとりまきは完全な未来予知とまで誇張するが、実際は予知ではなく、自分の想像に基因した予測に過ぎない。攻撃能力が皆無だけれど、所有者であるカイルの実力から非常に高い勝率を実現する。カイルの主観による想像を基板とした予測である以上、未来の予測には僅かな誤差が出てしまう。的中率は三、四割程度だが、その予測を利用した戦略は圧巻の一言。カイルを倒すには、カイルの予測を超越するか、 予測できても、どうしようもない一撃を喰らわせる。等が挙げられる。