今話は、これまでに書いた文量の中で最長となっております。二話に分割しようとも思いましたが、決闘祭編を終了させるので一話に纏めてみました。
感想を頂ければこれからの励みになりますので、お時間があれば感想をよろしくお願いします。
後世、斬撃皇帝を語る文献にはアド・エデムの学生時代は、ほぼ存在しなかったとされている。事実、アド・エデムは一部の例外となる者たちを除いて、私的な交友関係は皆無。二年の初め頃に王宮内にある永劫縛鎖の禁断牢獄に収監されることになったため学園を卒業していない。
彼、もとい斬撃皇帝アド・エデムは、アルマニア王国の要人、危険騎士を幽閉する脱走不可能とされた永劫牢獄を二度だけ脱獄した。一度目はSSS級ブレイドの討伐へ行くために、そして二度目はアルマニア国立学園で行われた決闘祭への乱入だ。この二つは後世の学者たちが議論や分析を盛んに行う話で、様々な説がささやかれている。学者たちは決闘祭に乱入したという記録は偽りで極秘にSSS級ブレイドの討伐に向かわせたとも、実は愛する女性に会うため、牢獄を脱獄したという与太話が冗談交じりに議論されている。その頃の学園に在学中だった第二王女のアリスタ、獣人国の姫君システム、回復能力を持つツルギの使い手キュア、牢獄の番人ジェイル、チェーン。など斬撃皇帝と関わりのある女性がいたことから、この与太話にもある程度の信憑性が発生しているようだ。そう、最強災厄の騎士として名高い斬撃皇帝。彼の逸話や、発言は大半がお伽話や民謡として語り継がれており、情報に事欠くことはまったくない。しかし、その多すぎる情報のせいで真偽が把握しきれず、考証や考察に多大な労力を強いられているという始末。他にも、斬撃皇帝とは個人を指すのではなく、アルマニアで組織された騎士団の名称ではないかという無茶苦茶な議題まで展開されて収拾がつかない状況にまで陥った。そして、当時のことを知る長寿のエルフたちは、頑なに斬撃皇帝についての話題に触れようとしない。アルマニア王家も斬撃皇帝の情報は部外秘としていて、噂では斬撃皇帝と懇意にしていた女王リリーシャの手帳に斬撃皇帝の情報が記されているらしいのだ。最も、その手帳の閲覧が許される者は王家の騎士以外存在しないのだが。
後世では斬撃皇帝は災厄をもたらす騎士とも、世界を喰い滅ぼし人を救う救世の騎士とも謳われている。英雄であると同時に大地を枯らす災い。だが、忘れるなかれ、斬撃皇帝アド・エデムは英雄、災厄などと呼ばれるような大物ではない。決闘祭に来た理由もテンション上げた勢いのまま特攻かましただけであって、舞台裏を知っていると事実と外からの認識がどれほどに食い違っているかが、よくわかる。それでは、決闘祭の最後の幕を開こう。騎士たちの戦いは終わりに向けて流れ行く。誰にも止められない速度と熱を持って…………
Sideアド・エデム
「邪魔しに参った」
ヤベっ、反射的に取り返しのつかないこと言ってしまった。よし、システムちゃんをいったん、下ろしてっと。……まずいなー、誰かはわかんないけど、二年生ってことは同級生じゃんかー。ってギャッー!!何あれ、壁が、壁が飛んできたんだけど。あれか、もしかして俺の立場って二年生の裏切り者!?まずい、二年を裏切って一年の味方をしたということが、ミコトちゃんにバレたら…………おぅ、想像したくない。ええい、こうなれば彼を倒してこの場で起きたことを隠蔽するっきゃない。いくぞ、壁の隙間を縫って彼を倒す!
ズガガガガーン!!!
……無理無理無理無理!!!!壁の量多すぎ、何これ弾幕、ルナティック?たーすーけーてー。……ってアリスタちゃんたちが、超キラキラした目で見てるんだけど。これはそういうことですか?この大量に飛んでくる壁を、突破して彼を倒せって?ーーーーーやったろーじゃんか!!!
意を決して、幾つもの壁の隙間合間をくぐり抜ける。少なくとも被弾イコール即戦闘不能。走れ、走ろう、走らなければ。一瞬でも立ち止まれば、そこで敗北。負けるのはいい、これは絶対に勝たなければならない勝負ではないのだから。しかし、後輩らの前で負けるのはダメだ。………………だって、彼女らに呆れられてしまえば、俺は本当にボッチになってしまう!!!
いや、同級生たちと交友皆無で、後輩の女子三人としか交友がないんだから既にボッチ扱いもしゃーないか。でも、だからこそ可愛い後輩の前でくらいはカッコつけないと。
某社長よろしく"全速前進DA!"
真っ直ぐ、真っ直ぐ。立ち塞がる壁を越える、一歩一歩に全てを注ぎ込む。予測、予測、次の刹那を見切れ。見切り、予測した脅威に対処しろ。避けきれない壁を全霊の跳躍によって回避、跳躍した先の足場に他の壁を利用。地面に着地と同時に疾走する。ゼロコンマの停滞もせず流れるような動作。流動する川のごとき挙動。それがどれほどの技術を用いてなされたかを、理解した目の前の青年は壁を発生させる事を一瞬だが忘却した。
おっ、勝機!これなら、懐に潜り込める。ナイフを片手に前進あるのみ。はっきり言えば俺の誇れるモンなんて小賢しい小手先と使い所の限定された必殺のツルギだけ。この機を逃せば、敗北&先輩としてのなけなしの威厳がパーになる。負けられない、主に俺の尊厳のために!!
だが、懐に潜り込もうとする直前、あと一歩半の距離でそれは起きてしまった。アドが急接近した瞬間、まさしくギリギリのタイミング。それはエゼルにとってもギリギリだっただろう。だが、彼はこの状況を好機とし、笑みを深める。そして距離を詰めたアドに向けて、己持つ唯一のツルギ(能力)である防壁の創造。壁の攻撃応用。至近距離に立ち入ったアドに壁が放たれた、接近しすぎたために回避は出来ず、命中するには一拍もかからない。回避不可の敗北が確定した瞬間、負けを覚悟したアドは申し訳ないという気持ちを込めて後輩の少女たちを静かに見つめるのだった。
Sideキュア
迅く、早く、速く。風よりも速い領域で二人の騎士は熾烈な戦闘に興じていく。疾駆するアドにぃを潰さんと、エゼルが放つ群の壁。一片の隙間を見つけることすら困苦を極める窮地を、僕たちが恋い焦がれた英雄(アド)はまるで人波をすり抜けるがごとく突破する。迫る壁を回避し尽くし、勝利を手にしようと足掻く姿は英雄そのもの。しかし、戦況はある意味決まりきった状況に陥っていた。すなわち、アドの劣勢に。ただのナイフしか持ち合わせていない騎士が、ツルギを用いた騎士に勝てる道理など存在するはずもなし。エゼルが連射する壁に、アドはなんとか食いつけている。それでも、このままでは圧倒的な物量の前にアドにぃは敗北してしまうだろう。マズイと歯嚙みしか出来ない自分が恨めしい、あの戦いに介入出来ない自分の弱さが疎ましい。
「なぁ、これって、まずいやないか」
先ほどまでアドにぃに姫抱きされていたシスは戦闘前に下ろされ、こちらに無事戻ってきてくれた。シスのツルギの最凶能力"直死の魔眼"は精神的な負荷が恐ろしくかかる諸刃の剣。疲れ果てたシスの肉体と消耗しきった精神を僕のツルギ"聖女の輝き(ラ・ピュセル)"で治療を施す。赤の旗が振るわれシスの求めた治癒の力が彼女に注がれる。ようやく、話せる程度に回復したシスは現状を正確に把握していた。
「うん、勝負の流れはエゼルにある。僕たちが加勢することはできないかな?」
「無理とは言わないけど、非常に困難。悔しいけどアドとエゼルの攻防を目で追いかけるのがやっと。私たちじゃあ、加勢すれば即退場すると思う」
アリスタは苦い顔でアドとエゼルの瞬迅の戦闘を見つめ、ツルギを地面に突き立てる。"遊戯盤の駒(チェスボード)"の効果は突き立てた範囲から十キロ以内の空間転移。いざとなれば、シスや僕がアドにぃの援護が出来るように準備だけはしたのだろう。だが、おそらく僕たちの出る幕などない、足を引っ張るのが関の山。
「ただ、見ていることしか出来ないなんて、ウチらに出来ることはあらへんのか!」
シスは自身の無力さを悔しがりながらも、アドの戦闘から目を離さない。目を反らしてはいけない、見届けろ。彼が勝つと最後まで信じて。
そして、事態は動く。回避ばかりだったアド・エデムが攻めに転じた。連射された壁を抜き去り、エゼルとの距離を縮める。三人の少女たちの表情が憂いから喜びに。ようやく捉えた勝機、アド・エデムはナイフを逆手に持ちエゼルへ勝利の一撃を見舞いせんと振りかぶった。勝った!アリスタ、システム、キュアの心が同調する。踏み込んで一歩半、それでアド・エデムは勝利出来ただろう。しかし、エゼルはアド・エデムの全霊の一手を上回った。アド・エデムとエゼルを分かつ半透明な障壁、ダメだ、あれでは届かない。届かせられない。
その時、迫る脅威に目もくれず敵から視線を外すという致命的な行為をアド・エデムが行った。いったい、何が、疑問を口にするより先に彼の瞳には三人の少女たちを映りこむ。錯覚かもしれない、私たち(僕たち)の妄想かも知れない、けれど、その視線には、まるで共に戦おうと、信じている、とでも言いたげな輝きが込められていた。ならば、応えよう。システムとキュアはアリスタの肩に手を載せて、彼女への信頼を無言で示し、次の一手にかかるプレッシャーを和らげる。この一手で賭けるのは自分たちではなく、自分たちが恋した青年。ここで、アリスタの心中に不安が頭を覗かせていた。アリスタのツルギは転移させる対象の許可がなければ発動することはない。アドがアリスタを受け入れてくれるか?そんな不安からくる足踏み、しかし、友たちの手の感触に励まされアリスタは己のツルギの能力を発揮した。
「アド!!」
アリスタは自分たちの信頼と恋慕の全てを賭けて、アドへの援護の一手を打つ。完璧にエゼルの不意を突いた攻め、実はアドの不意も突いていたということにアリスタたちは気付くこともない。
ーーーーーSide.Otherーーーーー
これは語られることなき戦闘。本筋に比べれば実にちっぽけな話。それでも、これは決闘祭の勝敗を左右するほどの戦闘。二年校舎に残った二年生たちと、残った一年生総員。実のところ、三年生たちは二年校舎とそこに通ずる吊り橋上で大半が退場。二年も自分たちの校舎内と付近の警備をする者たちを除き、一年校舎へ出向いた者たちは全員が撃退された。故にここがとっておきの正念場。
「行くっぞぉぉぉ!!!!!」
「「「「「応!!!!!」」」」」
一年生は二年校舎へ侵入後、各自一人一人が二年へ奇襲する。二年生も奇襲に早い対応で負けじと一年生を倒さんとツルギを振るう。だが、一年生より戦力的に強い二年生が次々と撃破され続けていく。そう、一年生はまったく怯まない、恐れない、止まらない。魔族も獣人も貴族も平民も各々が、信じられないことに"協力"して二年生を連携で翻弄している。この協力関係は信頼や友情により成立させているわけではない。ただ、二年生との歴然とした力量を認めたゆえ。一年生たちは、一人一人では勝ち目はゼロ、敗北は必至。だが、互いが互いを利用すれば話は別。歪と言いきれる協力態勢、それでも連携を取れない二年生を効率よく各個撃破する。破竹の勢い、対する一年生も二年生と同等の損害を出していく。最後の二年生が崩れ落ちた時、意識を保っている一年生はいない。まさしく、刺し違えたというところだろうか。倒れた一年生たちはボロボロで見栄えがいいとは言えない、それでも彼らたちの顔には全力を出し切った満足感が浮かべられていた。その場にいた監視係の騎士が、無言で一年生たちに賞賛を込めた拍手を贈り健闘を讃えるのであった。
ーーーーーSide.Outーーーーー
Sideミコト
カイルとの戦闘、それはミコトの今までに経験した戦闘の全てを掛け合わせても足りないほどの密度を感じさせる攻防。撃ち出す焔弾、灼熱を込めた刃、攻め手の悉くがカイルの剣技に迎撃され、カウンターを受けかける。これが連合国の第一王子、カイル・レギラ・レギオン。彼のツルギ(能力)は未来予知。存在しない未来を超越するには、対処不可能の一撃をカイルに叩き込むしかない。ミコトのツルギは担い手の感情の猛りと共に熱量を急上昇させカイルを討とうと炎上する。
ーー
余談ではあるが、カイルのツルギの能力は未来"予測"であり、予知ではない。あくまでも、予測は予測。敵の一手先二手先を読んでも、誤差は必ず生じる。その誤差を埋めるはカイル自身の技、未来を予め知るのではなく予め測り対応するのみ。カイルのツルギは補助に限定されていて戦闘向きとは言えない。なのにカイルの高い勝率、そして強さの理由は単純な話、本人が強いからだろう。
ーー
紅蓮の軌跡を描いてミコトの斬撃がカイルのツルギと衝突する。ミコトのツルギから発した熱波は大気の水分を薙ぎはらった。更に渇ききった空間で赫と銀の剣戟が反響、ツルギ同士のぶつかり合いが周囲を揺らし破壊し尽くす。一歩も退かない二人、その戦いは白熱し互いに全力と言える位階の激突に到達する。背後の二年校舎からとんでもない騒音が轟いているが、勝負に集中しているのか完全に耳に入っていない。
「ぜァァァァァ!!!!」
「ダァァァァァァァ!!!」
カイルとミコトが裂帛の意気を込め、ツルギを交差させた。刹那の停滞すら存在しない超高速戦闘。カイルはミコトの太刀筋を見極め、ツルギを受け止める。ミコトは止まることなき連撃でカイルを攻め立てた。膠着した状況にミコトは攻撃を中断し警戒怠らずカイルへ話しかける。
「一つ聞いておきたい、カイル。貴方は決闘祭へ勝利した暁には何を求めるのだ」
「ふむ…………話したところで支障はないか。決闘の合間の話として楽しむのもやぶさかではない。目的となる対象は二つほどだ。一つはある騎士を連れ戻すということ、これは第二目標であってそちらに説明することもなかろう。そちらが興味のあるのはもう一つの方だろう?」
「やはりか、連合国は斬撃皇帝を狙っているという情報があったが……」
「是なり、此度の決闘祭における真の目的、最優先目標。斬撃皇帝と呼ばれし騎士の身柄だ。我々連合国では、斬撃皇帝の名前は広まっていてもその騎士が誰かまでは判明していない。尚且つ斬撃皇帝はアルマニア国に拘束されている。交渉したが答えは否。かといって強引な手に訴えるのはこちらとしても望まず。ならばこそ、この決闘祭にて斬撃皇帝の身柄を要求するのみ」
「待て、連合国はあいつの名前を知らんのか!?」
「ああ、ん?あいつ……斬撃皇帝が拘束されてから学園内で貴様の婚約者を見なくなった。………なるほどな、話は全て繋がったぞ」
得心したとカイルはミコトを見据え犬歯を露わにした笑みを見せる。斬撃皇帝という存在は大衆から貴族、各国の重鎮たちに広まっていた。しかし、それが誰なのかまでは掴めていなかったのだ。しかし、カイルはミコトの零した一つ一つの証言から斬撃皇帝の正体に行き着いた。
「あいつを、アドを渡せ、と?」
「そうだ、アルマニア国の権威、国力は確かに連合と引けをとらん。されど、規模が大きく異なる。アルマニア国よりも連合国の版図は非常に広い。つまり、それだけ守らねばならん国土が多いということ。強大な力を持つ騎士を活用せず縛り付けておくだけならば、斬撃皇帝はこちらがより効率的に活用しよう!」
カイルの言葉は己の国のためなら、アド・エデムを道具にするという主張。あまりに身勝手、なんと傲慢。ミコトは怒りに身を任せカイルを罵しろうとする。だが、そこで彼女はあることに気づいてしまった。カイルは自身の鏡に他ならないと。自分たちの主義主張には一切、アドの意思が考慮されていない。カイルを身勝手だと、どの口が言える。自分に彼を責める資格は存在しない……………けど、それが止まる理由にもならない。
「そうか、カイル。お前はあいつを何一つ理解していないのだなl」
「ん?何を言うかと思えば。理解する必要がどこにある。騎士とは力、権力の象徴。情報として知っておくことはあっても、理解するなど"時間"の無駄だ」
「……ああ、だったら、貴様と私は違う。………それでも、そちらがアドを理解し救うというなら、話は違っただろうな。…………………行くぞ、カイル。次で終わりだ。連合国の思惑にも、貴様との勝負にも!!」
ミコトはようやく、自分の答えを見出した。すなわち、アド・エデムともう一度再会を果たしという願い。謝罪も赦免も全て後回しだ。ごちゃごちゃと損得勘定で迷うのはお終い。貴族として生まれた自分が"馬鹿なことを"と絶句している。それでも、理屈で動くよりも感情の赴くままに行動しようと己の意思で決めた。思考放棄、まさしくそうだ。下策、言われるまでもない。愚行、自分が一番よくわかっている。だけど、この選択は自分が決めたことだ、この選択に生じる失敗も成功も失墜も栄光も全て、我が身が抱える、そう決めた。
「何を!!??」
カイルはミコトの宣言の後、カイルは己の予測を越える事態が起こると直感した。周囲から熱が消失しミコトを基点に収束する。熱を支配するミコトのツルギ "灼熱焔刃(ホムラ)"このツルギには隠されたもう一つの力があった。そう、極限状況。自己という最も重い存在を崩しかねない葛藤を越えたことによる覚醒。それがミコトを更なる騎士の高みへと押し上げた。隠された能力、その正体とは、"自分を炎という現象に変換する"というモノ。生物という軛を破砕し、炎という生物を超越した自然現象への昇位。名付けるならば、この能力の名は、"気炎万丈"。
「何だと、ミコト。貴様、それほどの力を温存して!」
「温存していたわけではない、これは私だけでは届かなかった力だ。これまでの人生で積み重ねた研鑽、私を支えてくれたクリア、そして最高の難敵として立ち塞がったカイル、お前たちがいたから私はこの領域まで来れた。だからこそ、絶対に勝つんだァァァァァ!!!!」
「(効果範囲は……推定威力は?まさか、予測しきれんだと!!!)」
ミコトの咆哮が炎の津波を召喚する、この攻撃を回避しきれないカイルは一か八か全力で背後に跳躍しようとする。その回避行動を無駄だとあざ笑うように荒れ狂う焔の奔流がカイルを炎獄の真っ只中に包み込んだ。ーーー炎は全て、消え去り周囲は静寂に。炎から元の実体に戻ったミコトはガクリと倒れ落ちる。同時に具現化されていた"灼熱焔刃"も主人と同じように薄れさっていく。しばらくして、カイルとミコトは監視員の騎士たちに医務室へ緊急搬送されることとなり、こうして二年主将、三年主将の決闘は相討ちで決着と相成ったのである。
Side Out
Sideアド・エデム
俺、オワタ。……………って、ファァァーーー!!いつの間にか敵の背後にいるんだけど訳わからん、どーいうこと!?ん、もしかして、アリスタちゃんのツルギのおかげか!ナイスアシストだけど、せめて一言声かけてから能力使っておくれYO!いや、それよりも最高のチャンスを上回る大チャンス。死角からナイフの柄を使って敵の後頭部、延髄へ向かって、強烈な一撃。ゴズッ、鈍い打撲音が手の平の中でエコーする。糸の切れた人形のように敵の青年は膝から大地に倒れ落ちた。
「…………」
やったね、後輩の手助けで勝ったようなモンだけど、最低限の威厳は守りきれたぜ。なんとか、綱渡りの戦闘を勝利で収めた達成感を、無言で右手をぐっと空に上げガッツポーズで示す。いやもう、本当によかった。っと、アリスタちゃんたちにも感謝をしなければ。後輩たちに親指を立てての勝利報告。おっと、少しニヤけてしまった。ポーカーフェイス、ポーカーフェイス。って、わぁ!後輩たちが感極まったように抱きついてきた。ダメだよ〜、三人一緒に抱きついてくるなんて〜、三人の柔らかな体が密着して匂いやら何やらで邪念が。邪念が〜。
「……勝つこと、信じてた……」
「ウチもや、あんちゃん。信じとったで」
「僕もだ、アドにぃ。勝ってくれるってわかってた」
「ありがとう、みんな」
ダメだ、気の利いたセリフでも言おうと思ったけど、特に考えつかなかった。まぁ、今は気持ちを言葉にするより、無言でいた方がいいのかも。下手に喋ってボロが出たら俺としても困っちゃうし。
「それよりアド、どうしてここに?」
「そやな、確かあんちゃんって、あの永劫牢獄に収監されとるっちゅう話だったはず。なのに、どないしてここにおるん?」
「あっ、それ、僕もそれ気になる!!」
え、え、いや、そんなキラキラした眼で見られても大した理由じゃないZE!!実は"暇だったから、監獄抜け出して決闘祭を観戦しよっかなぁ"ってだけ……………うん、死んでも言えない。せっかく守った先輩の威厳が粉砕・デストロイされる。どうにか、話を誤魔化して〜。あっ、こりゃダメだ。完全に聞く体勢だもん!
何か、何かないのか、この空気をまるごと消し飛ばすようなスーパーハプニング!!
「まだだァァァァァ!!!!」
…………え、マジかよ、ナイスタイミング!?奇跡は起きた、あんた神か!!クリーンヒットしたってのにまだ動けるなんて、敵ながら天晴れ。って、ヤバイ。彼は、おそらく残った全ての力を後先考えずに発動させてる。俺の嫌な予感は見事に的中、馬鹿馬鹿しいほどに巨大な壁が天に覆い被さる。避けられない、いや俺一人なら避け切れるけど、後輩たち全員を逃せない。運の悪いことに、アリスタちゃんはツルギの顕現を解除した後だし。…………………しゃーなしだな。緊急事態ってことで"使うか"。リリーシャ先輩とかマキナ先輩、ジェイル、チェーンとかに大目玉喰らいそうだけど仕方ない。
右手を大きく開いて、己の深奥に埋もれたツルギを引き抜く。手の平に出現したのは、拳より少し小さな種子。これが武器だということは、百人が百人あり得ないと言うに違いない。されど、これこそが星喰らいの魔剣。大地の恵みを糧に万象一切を斬滅する破壊のツルギ。使えるリミットは十秒未満、躊躇いは一瞬、背に庇った後輩たちを守るため、俺は右手で種子を握り潰した……
Side Out
ーーーーー
アドが己のツルギを発動させた同時刻、世界中の強者、隠れていた実力者たちに、名状しがたい感情が疾った。遥か遠方から感じられる異質な気配。ツルギという物理法則から外れた能力を持つ騎士ですら、戦慄を隠せぬ巨大な力の波動。その気配が生じたのは、おそらく十秒未満。歴戦の騎士たちは、朧げではあれど、これが一体何なのかを自らの魂で理解していた。そう、これは"単純な力"だ。理屈では説明の仕様がない。"あれ"はあらゆる存在の規格に収まらぬナニカ。騎士やブレイド、世界を敵に回しても、その全てを呆気なく蹂躙し尽くせるほどの莫大な力。これを感じた騎士たちの反応は実に多様、ある者は自身より強い強者の気配に笑みを浮かべ、またある者はこの力の持ち主は世界の脅威となると確信し、他の者は嫉妬や尊敬、様々な感情を発露する。斬撃皇帝の気配の片鱗に反応した多くの騎士たち、彼らは知らない。実は、この力の持ち主がとんでもない稀代の大バカ者であるということに。
ーーーーー
天を貫かんばかりに、高く高く伸びた刃。地面に柄の延長線が刺さり、大地の恵みを刀身の餌とする。周囲の土地が一瞬で干上がる、いや、それは表現が正しくない。"干上がる"のではなく"朽ち果てていく"。土は枯れて砂漠の砂のように粉塵のように変容を遂げた。少なくとも、この土地は数百年そこらは草木の生えぬ不毛の土地と成り果てるだろう。それに伴って地盤が急速に脆く崩れやすくなる。次に学園の校舎が地盤の突然の緩みにより、地面に"沈んで"いく。地盤沈下、脆くなった地盤の上の建築物が地に沈んでいく現象。沈んだ校舎はバキゴシャと轟音をたてて崩壊していく。たった数秒、それだけで甚大な被害が発生し始めた。けれど、破壊はこれだけでは留まらず現在進行形で広がっていく。これは攻撃で生じた損壊ですらない、ツルギの発動による被害のみ。
ゴゴゴォォォォォォ
宙を切り裂きかねないほどに天高く伸びた巨剣、このツルギの名こそ、"魔剣・斬撃皇帝"。未来に語り継がれる厄災、星喰らう魔剣。アド・エデムを最強の騎士として歴史に刻み込んだツルギ。そのツルギがエゼルの最後の一撃を迎え討つ。それは正しく一振り。剣術、剣技の一切ない、ただの振り下ろし。それは、轟風と破壊の波動を学園から国内に放射し山を、川を、天を"両断"した。空に亀裂が刻まれ、蜃気楼のような歪みが見て取れる。膨大過ぎる物理的な力が、空間に軋みを創り出したのだ。エゼルの攻撃は余波の余波で粉微塵に吹き飛ばされ、エゼル本人は斬撃皇帝の振るわれた瞬間、大地にしがみつき何とかその場に留まれた。けれど、既にその身は満身創痍、立つことすら出来ず地面に這いつくばったまま、アド・エデムを睨みつける。
「これほどの、力を…………もしや、貴様がアルマニアの斬撃、皇帝?」
「……うん……まぁ、正直な話、俺はそこまで大層な騎士じゃないんだけどさ」
倒れ伏したエゼルは、アド・エデムの言葉に苦笑する。己を負かした騎士の謙遜とも皮肉とも取れる発言に悔しさではなく、『これが自分を倒した男か』と妙な納得を味わう。
「確か、あんたは投獄されているという話だったが?」
「脱獄した。まぁ、うん、色々あってね」
「へぇ、一体何があんたをそこまでさせたのか興味がある、けど俺は敗者だ。詮索は止めとく」
「そうしてくれると、ありがたいよ」
心底ほっとした面持ちのアドに、エゼルは一つだけ最も疑問に感じたことを問う。最後の一撃、巨大な壁をアドは回避しようと思えば出来たはずだ。なのに、それをしなかった、背後の後輩たちを庇って………
「最後の一撃、後ろの後輩たちを庇ったんだろう?あんたっていう騎士がわかってきたぜ。てめぇのことなんか、おかまいなしに戦って自分が一番ワリを食う。あんたほどの騎士が投獄されているのは、国のためか誰かのためか。どっちでもいい、聞きたいことはこれだけだ。自分のためではなく誰かのために戦い続ける、んなことをいつまで続けられるつもりだ……?」
愚か者と蔑むように、罵るようにエゼルはアド・エデムへ問いかける。力強い視線は、アドの眼を貫き反らすことを許さない。これは問いかけるというよりも問い詰めると言ったほうが正確か。それに対するアド・エデムの答えとは…………
「無論、死ぬまで…………」
アド・エデムは微塵も迷わなかった。誰かのために戦う、そして、それを死ぬまで貫き通すという言葉。問いをしたエゼルも、背後にいた三人の少女たちも圧倒する覚悟の返答。少女たちは、気高く立つ青年の背中をただ見つめていた。不退転、退かぬという覚悟を生涯貫かんとする強烈な自我。そう、斬撃皇帝という規格外のツルギが彼の強さの根幹には存在しない。ただ、誰かのために力を使う尊く誇り高い、その魂。安い自己犠牲では断じてない、"死ぬまで"という言葉は己も他者も救おうとする断固たる意志。アリスタ、システム、キュアはアドを強く抱きしめる。恋する乙女たちは焦がれ恋した青年に触れていたかったのだろう。されど、現実は残酷にも彼女らとアドを引き離す。無音かつ瞬時に飛んできた鎖があっという間にアドの首に絡みつき、釣りの要領で釣り上げられた。アドから引き剥がされた少女たちは鎖が引かれた方に向き直る。そこには、腕組みをしたメイドのマキナと、牢の番人であるジェイル、チェーンの双子姉妹、最後にアルマニア国の女王リリーシャがいたのだ。
Side マキナ、ジェイル・チェーン、リリーシャ
ここで少し、時計の針を戻してみることにしよう。時はアド・エデムが斬撃皇帝を使う直前、ジェイル、チェーンとマキナの戦いが熾烈さを増した頃のこと。
マキナはツルギに意識を向け、刃を人差し指で即座になぞる。すると、ツルギの形状が変形していく。直剣型のツルギが、小型のナイフいやクナイに形を変える。サイズが小さくなり、こういうのも何だが、ちっぽけな武器となってしまった。しかし、ジェイル、チェーンの双子は欠片ほどの油断も見せてはいない。空中に構成された鎖の足場をサーカスの空中ブランコのように飛び回る。相手の本気を感じたジェイルとチェーンはほぼ同時にマキナの頭部に鎖を放つ。腕のしなり、腰の回転、騎士という常人を越えた腕力から撃たれた鎖、そんな脅威を前にマキナは即座に姿を消失させる。残像すら残さぬ目視不能の俊足、片手に構えたクナイを手に、マキナはジェイルの背後に出現する。空間転移とさえ思いかねない超速歩法。クナイを振りかぶるマキナに対応するため、ジェイルとチェーンは鎖を引き絞って鎖の監獄を狭める。極限の害意が激突する戦場、もはや彼女たちは止まらないだろう。もし、彼女らを止めることが出来るとすれば、この争いの原因でもある斬撃皇帝アド・エデムか……
「それまで!!」
このアルマニア国の女王、リリーシャ・アルマニア・ブリエスタしかありえない。
途端、ジェイル、チェーン、マキナたち全員の感覚器官に狂いが生じる。視覚に歪み、聴覚に異音、嗅覚の鈍化、触覚の異常、平衡感覚の揺らぎ、様々な感覚機能の狂いに三人は静かに跪く。マキナがツルギの顕現を解くと、ジェイル、チェーンの両名も鎖の顕現を解除する。戦闘は終わり、そこに威厳を以て登場したのは彼女たちの王であるリリーシャだった。
「双方、今がどういう状況か、知った上での愚行かしら?揃いも揃って、何をしているの。マキナ、チェーン、ジェイル。アドを放って戦闘をしている場合ではないでしょうに」
「申し訳ございません、リリーシャ様。今回の処分は如何様にも」
「「ごめんなさい、リリーシャ様」」
マキナは跪いたまま、リリーシャに頭を下げる。チェーン、ジェイルたち双子も揃って謝罪をした。リリーシャとしては、マキナの行動、ジェイルたち双子の王命無視など詰問したいことが山ほどあったが、野放しで彷徨いている事態を解決すべく三人を連れてアドを捕獲しに行こうとした、その瞬間…………
大地が朽ちた、時間の流れを一気に浴びたかのように若草、芝生や雑草ですら枯れ堕ちていく。柔らかな大地から養分が根こそぎ収獲された、いや収獲という表現では少し手ぬるい。
これはもはや、簒奪だ。圧倒的上位者からの無慈悲な搾取。暴君が民草に強いる法外な重税。土から栄養が消え、土は砂漠の砂粒ほどになってしまった。同時に不安定になった砂の上にある校舎や建物が砂礫に沈んでいく。枯れた大地が人の建てたモノを呑み込んでいく様は見ている者に根源的な本能的な恐怖を与えた。異常現象は数秒程度で終了するのだが、この現象が起きたと同時にこの場の全員は一斉に駆ける。この現象を彼女らは知っている、誰が起こしたのかも知っている。
けれど、何故にこの現象を起こしたのかがわからない。思考を続けるも答えは出ないまま。天高く伸びた魔剣がこの事態の犯人を明確に示している。その巨剣は空に向かって振るわれた、暴風が発生し、竜巻が弊害として顕れて建物を校舎を付近の街に襲来する。斬撃皇帝が振るわれた、この事態を止めるために、四人の女性たちは土の荒廃具合がより酷い方向へ進みアドを発見した。三人の一年少女たちが抱きついているようだが……それどころではない。
「ジェイル、チェーン!アドを捕獲なさい!!」
「「うん!!」」
双子の鎖がアドを捕らえようと宙を舞った。銀色の光の軌跡がアドの首に絡みつく。後はそのまま、一本釣り。捕獲されたアドはリリーシャたちの中央に座らせられる。
「……お姉……さま」
「ええ、アリスタ。よくぞ、ここまで……と言っておきましょうか。二年、三年を倒してこの場に辿りついた、とても誇らしい。だけど、この事態はどういうこと?」
「それは、」
「この話は後で纏めることにしましょう、先にすべきことを済ませるわ。此度の決闘祭の勝利学年は、一年。貴方たちの率いる学年の勝利よ」
「「ええええ!!」」
「なんやこの急展開!あんちゃんが助けてくれた思たら、とっ捕まっておるし。いつの間にやら、うちらが勝ってるってわけわからーん!」
「これって実は全部が夢、なんてことはないよね?僕らの目が覚めれば決闘祭がまだ始まる前ってことは……」
突然の勝利宣言を聞いて、動転する一年少女たち。その中でも一人冷静なアリスタはリリーシャから目をそらさない。黙してリリーシャを見つめ続けた。
「先ほど、二年の大将であるミコト、三年の大将カイルが相討ったと報告がありました。二年はこれで全滅、三年はチェーンとジェイルが残っているけど、アドの護送で王宮に行くから三年で戦闘可能な生徒はゼロ。一年で最後に残ったのは貴方たちよ。ゆえに決闘祭の優勝学年は一年生、貴方たちの勝ちよ。後日、王宮に来なさい、相応であれば一年生全体の要求と、貴方たちの求む一つの願いに応えましょう」
「……それより、なんでアドが連れて行かれるの?……アドの収監はアドの意思によるモノで、アドが出ることを望めば、出ることは許されるはず…………」
普段は喋ることすら珍しいアリスタが、持てる全ての言葉を使ってリリーシャにアドを連行する理由を聞く。自分の妹の必死の問いかけにリリーシャは感情を抑え冷静を装ってアリスタへ答えを返した。
「今回の決闘祭でアドが牢獄から出ることだけなら問題はないわ、けれど無断となれば話は違う。許可を得た上で牢獄から出るなら釈放となるけど無断なら脱走としかなりません。前回のSSS級ブレイドの討伐には恩赦が出せたけど、今回はどうにもならない。そして、斬撃皇帝の使用。これが一番の罪状です!学園を中心に都心の大地や草木が枯れている、畜産や農業にとっては甚大な痛手よ。だから、アド・エデムの収監申請による一時拘留を破却し、アドを正式に永劫牢獄への終身禁固刑とします!」
「そんな!」
アリスタたちは一斉にアドへ近づこうと足を一歩踏み出し、すぐさま凍りついた。チェーンとジェイルの禍々しい殺気、マキナの鬼気迫る闘気、リリーシャの有無を言わせぬ王としてのオーラ。それが三人の少女たちの足を封じる。彼女たちは再度、アド・エデムを救うことに手が届かなかった。リリーシャたちが去って、取り残された少女たちは大粒の涙を流し、敗北の苦味を噛み締める。枯れた大地に悲しみの雫が染み込み、涙が枯れた後に少女たちはもう一度立ち上がった。
"もう、繰り返してたまるものか"
二回、アド・エデムが連れて行かれる場面を、指をくわえて見ることしか出来なかった。弱い己たちと無情な世界への涙は流し終わった。アリスタ、システム、キュアの三人は後日アド・エデムとの面会許可をリリーシャに望む。こうして、三人は決闘祭で彼女たちは今の自分に出来ること出来ないこと、自己の限界を見極めた。自分たちが恋する青年の安らぎのため、少女らは互いに切磋琢磨しまた一歩、強き騎士への道程を進みゆくのであった。
Sideチェーン、ジェイル
捕獲したアドについた首の鎖がギシギシと絞まる。アドは苦笑した様に微笑み、首元の鎖にタップするが、鎖が緩む様子は一切ない。では、チェーンとジェイルは怒っているのかと言えば、嬉しげにニコニコと笑い上機嫌そうに足取りも軽そうだ。首に巻きついた鎖を見て、さらに笑みを深めている。双子たちは脱獄したことには不満げだったが、アドが終身刑となったことによる歓喜に不満が塗りつぶされ、喜びに打ち震えていたのだ。リリーシャとマキナは決闘祭の終了を告げ、諸々の後片付けをするために一旦別れ、ジェイルたちはアドを牢獄に連行していた。永久にアドを縛り続けていられる、そう考えると鎖の締め付けが強くなり、口角が緩んでしまう。アドの顔色もそれに応じて悪くなる一方。三途の川、一歩手前というところか。
「「アド。もう大丈夫、絶対に離れないからね……ずっとずぅーっと一緒だから。一生逃がさないから、アナタが死ぬまで死んでも死んだ後もその先、生まれ変わったのだとしても"私"が捕らえ続けるから。……大好きだよ、"アド・エデム"」」
首に絡みつく鎖をジェイルとチェーンの手がゆっくりと穏やかに撫でる。その仕草は獲物を捕らえた狩人の様にも、恋人と手を繋いだ女性の様にも見えた。なんにしろ、首に鎖がついたアドの右手にはジェイル、左手にはチェーンが抱きつきながら、満面の笑みで牢獄に向かう。それにしても、鎖が無ければ恋人に見えると思うのは野暮なのだろうか?
Side Out
ーーーーー
ついでに、斬撃皇帝の影響でアルマニア国の首都アルマニアは、土壌に深刻なダメージを受け、農業、畜産といった産業が軒並み崩れることになった。だが、土地から恵みが出ないのであれば、土地を使わない産業へと改革を行えばよいと、リリーシャ女王は決断。ツルギの研究や剣結晶の調査。科学技術への挑戦。機械工学に国家を挙げて熱心に取り組んだ。当時、アリスタ第二王女の親友でもあったシステム殿の科学技術もあってか、アルマニア国は科学、機械工学の分野で世界を席巻するほどの技術大国として大きく成長を遂げる。斬撃皇帝の影響で失業した人々もその多くが救済され、リリーシャ女王は賢王として後世に永く永く語り継がれた。
ーーーーー
Sideアド・エデム
「無論、死ぬまで」
………………うん、感無量っす。人生で一度は言ってみたい台詞が言えたんだ。決闘祭に来てホントによかったーー!!まぁ、思ったより地面がエライことになってるけど、気にしない方向で。大丈夫、大丈夫。こんなファンタジーな世界なんだから、地面を元に戻すくらいなんとかなるでしょ。それより、後輩たちの抱きしめを一瞬でも長く楽しまなければ。えへへ、みんな柔らかい〜。いいのかなぁ、こんなにも幸せで、そのうちにしわ寄せでトンデモない不幸が来ないよねぇ?考えすぎかな、アッハハハハ、グエッ!!
突然、視界がブラックアウト。首に急激な負荷がかかったと感じた瞬間、フワッと体が宙へ放り出された。うん、首からゴキっとか嫌な音がしたのだが、気のせい気のせい。そして、意識を取り戻したと思ったら、ジェイル、チェーンにマキナ先輩、リリーシャ先輩が俺の周りに集合していました。これはもしや夢オチか?欲求不満すぎた俺の頭が見せる幻なのかな。いや、首を現在進行形で締めている鎖の冷たさが『これは現実だ』とシャウトしている。なんだか、リリーシャ先輩とアリスタちゃんが話をしているっぽいけど、酸欠のせいか。会話が頭に入ってこない。ジェイル、チェーン、少しでいいから鎖緩めて〜。と考えている間に話が終わって、リリーシャ先輩とマキナ先輩、ジェイルたちは王宮に向かう。途中、リリーシャ先輩たちは別れ、ジェイルとチェーンたちだけになる。首の鎖に締め付けが秒ごとに増し増しで強くなるので意識が消えそう、鎖をタップしてギブアップを示せどジェイルたちは気がついていないようだ。もう、ダメ……。とにかく、意識が消える前に、脱獄は頼まれても二度としないと誓いました、マル。
Side Out
Other Story 大地母神教
アルマニア国に住まう大地母神教の教徒が、記した書状は大地母神教を大きく動かした。大地の恵みを幸福の源とし、神の祝福とする大地母神教は、ツルギよりもアームの持ち主を重要視していた。アームの能力は、総じて土地を耕したり土壌の回復。他にも汚れや汚染の浄化、怪我の治療など、牧歌的で生活の中で有用なモノが多い。平和な時代ならこの力は喜ばれたろうが、現代はブレイドという怪物との戦乱に明け暮れていた。ゆえにアームというモノは、ツルギよりも存在を軽視されてきた。騎士の中でアームを使う者は基本的に非常に少ないという現状。そうした意識の改善、戦闘を避け穏やかに生活をするという教義に基づき、大地母神教は成立している。いちおう、アームにも攻撃に転用出来る能力は存在するのだが、大地母神教は専守防衛、積極的な戦闘は行わない宗教だった。今までは。決闘祭が終わって一週間後。アルマニア国に大地母神教から、直訴状が送られた。その内容とは、『斬撃皇帝アド・エデムの危険性を再認識した。エルフの住まう大森林にて行われる裁判に参られよ』とのことだった。直訴状には、大地母神教を国教とするリーフ連邦の国璽が押されていたのである。これを聞きつけた連合国はリーフ連邦に行われる裁判に参加する意を表明、同様に剣神教も参加することを宣言した。
これより、起こるは斬撃皇帝の罪を裁くという名目の元に行われる醜悪にして無様な権力争い。熾烈な頭脳戦、錯綜する思惑、裏切り。想像を越える裁判の末、最後に笑うのは、アルマニアか、連合国か、リーフ連邦の大地母神教か、それとも剣神教か。
Next Story < 宗教争乱 >
ツルギ図鑑
阿頼耶識(アラヤシキ)
所有者 リリーシャ・アルマニア・ブリエスタ
形状 白く美しい刀身のロングソード
備考
武器形状はシンプルそのもの、白銀の刀身は優美と謳われる。ツルギとしての能力は、他者の感覚の支配。五感はもちろんのこと、痛覚、平衡感覚、距離感などの全てに干渉可能。他者を支配する王としての知識を生き方が影響し発現したツルギ。その気になれば、幻痛だけで敵を殺傷することも出来るが、実力が伯仲している敵には効果が薄い。ゆえにリリーシャの戦闘スタイルは、敵を欺きつつ己の攻撃で相手を倒すことが主体。
機鋼仕掛けの全能者 (デウス・エクス・マキナ)
所有者 マキナ・ジーン・デウスエクス
形状 通常時は両刃の長剣、事態に応じて形状を変える三段階可変式
備考
世界でも数人しか存在を確認されない可変式のツルギの所有者。攻撃、速度、防御に特化した三つの変化形態を持ち、戦況に応じてツルギの形状を変える戦闘スタイル。速度特化の場合はツルギの形状はクナイに変わる。欠点を挙げるとすれば、同時に三つの力を発揮することが出来ないことくらいだろう。もっとも、所有者であるマキナは、この欠点をカバーし得る実力を有するため、デメリットというほどのモノではない。