転生して普通に生活したら斬撃皇帝ってマジで?!   作:悪事

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宗教争乱
かくて賽は投げられた


法律とは、社会に敷かれたルールであり、それから逸脱した者は裁かれ罰せられる。古今東西、法律には人、権力、社会の意思が介入してきた。もちろん、全てが、そのようなわけではない。正義に従って法律による裁きが執行されたものもあるが、そういった事例は100%ではない。権力や利益が絡めば、司法、正義は容易く歪められてしまう。正義とは定義不可能な存在、個々人の価値観が違うのだから正義という価値観に同一のものがないというのは至極当然な話。だが、それを踏まえた上で法律とは、実体なき正義の指標となるもののことなのだ。

 

 

 

 

法律が正義なのではない、正義とは人を救うということだ。そして、正しさだけが人を救うわけではない。時として正しさは、力なき者を傷つけ搾取することにもなるだろう。正義と正しさはイコールではないのだということを多くの人々は知らない。悪の反対は正義だと誰かが言った、ならば正義の反対は?この疑問に対する答えを人類は未来永劫、出すことはないだろう。それでも、敢えて言葉にするならば、正義の反対は別の正義なのではないか……

 

 

 

 

一つ一つは正しいことであろうと、それが重なり組み合わさってしまえば誤りが生じる。正義という概念は、人類には速過ぎた理想なのかもしれない。具体例として引き合いに出すのは、宗教についてだ。宗教とは、苦しむ人々の救済のために生み出された考え。しかし、歴史を紐解いていくと宗教が引き金となり、大きな争いや戦いが勃発したケースが後を絶たない。価値観の相違、正しさは自分たちにある、だから相手は正しくない。支離滅裂な思考、正しさを正義を求めたことによって出てきた間違い。果たして、最も罪深いのは何なのか?

 

 

 

 

これより語られる物語は、正義という幻想に酔った者たちの茶番劇。正義、政治、権力、罪、罰、リーフ連邦と呼ばれる大森林の中にある国を舞台に行われる斬撃皇帝の裁判、今、多くの要素が絡み合う究極の三文芝居が始まる。幕が上がる前に、これだけは肝に命じていただきたい。何度も言うようだが、斬撃皇帝の物語は英雄譚ではない。結局、これは単なる喜劇に過ぎないのだ。

 

 

 

宗教争乱編・開幕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Sideアルマニア王国

 

 

決闘祭が終わってから、数日が経過した。学園付近にある市中の混乱は日に日に増す一方、アルマニア王国、首都アルマニアの一角で突然起きた地盤沈下、壊滅的な土壌枯渇。アド・エデムが発動させた斬撃皇帝の代償として土地が枯れ、市街地は混乱に包まれた。王宮内の文官(政治家)、近衞騎士たちは、この災害に等しい被害の処理や復興計画の作業に追われていた。街の住民たちに死傷者はいないかを、戸籍を確認する作業や、瓦礫の山となった住居などの片付け。各国から山ほど送られてきた、こちらの被害や現状を探ろうとする書状の数々。土に関係する職業は軒並み、大きな被害を受けている。斬撃皇帝の発動によって、アルマニア王国は甚大な被害を被ってしまう。けれど、斬撃皇帝の発動時間が僅かだったことが幸いしたのか、被害は学園から半径5キロ弱くらいに及んでおり、首都のアルマニア全体にまでは広がっていない。それに王宮の迅速な対処や被害を受けた人々に対する支援のおかげで、首都アルマニアは復興を始めようとしていた。

 

 

 

 

ーーー王宮内、リリーシャの執務室ーーー

 

 

カリカリ、ポン。カリカリカリカリ、ポンポン。

 

 

この執務室の主人、リリーシャは机に向かって座り、山積みされた書類をひたすら書き上げ捺印し続ける。ここ数日間、満足に寝ていないため、リリーシャは眼を閉じたり開いたりを繰り返しながら、重要書類を書き綴っていた。アド・エデムの斬撃皇帝発動で一番ワリを食った人物は、リリーシャを置いて他にはいないだろう。復興事業の検討、支援状況の確認、各国への通達、リリーシャにしか出来ない特別な仕事のせいで、彼女は疲れ気味だった。人理を越えた騎士に多大な疲労を与えたのだ、その作業の量はあり得ない数であると認識してもらいたい。

 

 

「私、今まで政務はある程度こなしてきたけど、ここまで忙しくなったのって初めてよ。やっぱり、政務や書類仕事が容量よくできる人材を育てていかないと………マキナ〜、紅茶をちょうだい」

 

 

「はい、温度は熱め、砂糖二つでよろしいですか?」

 

 

「ええ、お願い」

 

 

リリーシャの側に侍っていたマキナが濃い目に入れた紅茶を、音をたてずにソーサーと共に置く。置かれた紅茶を流麗な所作で口にした。マキナは、ほっと一息ついたリリーシャの机に容赦なく追加の書類の山をポンっと乗せる。置かれた山積みの書類を目にしたリリーシャは、観念したように紅茶を端に置いて本来の仕事に戻った。決闘祭の最後に突然、登場し場を荒らすだけ荒らして捕獲されたアド・エデム。彼が斬撃皇帝を発動させたことで、大地が極端に脆弱化。斬撃皇帝発動の中心であるアルマニア国立学園は、学園を再建設するためしばらく休校となってしまった。学園付近の城下町、学園から大して離れていない王宮も相応の被害を出し、騎士団とギルドのメンバーたちが協力して街の再建に力を入れている。そうした中で、アルマニア王国の女王であるリリーシャは首都の荒廃した大地をどうするかで頭を悩ませていた。

 

 

「アドの斬撃皇帝を発動させた大地は確か戻ることはないのよね。ねぇ、マキナ。いっそ、どこかから土や土砂を大量に運んでくるというのは、どうかしら?」

 

 

「運ぶ際の費用が掛かりすぎることに眼を瞑れば、実行可能ですね。大地母神教の神官いわく彼らが百年間、祈祷やアームを発動させ続ければ、大地は元に戻るかもしれないと言っていました。彼らに任せるというのは、如何でしょう?」

 

 

マキナは主人をからかうようにクスクスと笑いながら、冷めた紅茶を下げて新しく入れ直した。

 

 

「冗談でも面白くないわよ、マキナ。大地母神教の信者とツルギを使う騎士の確執はわかっているでしょう?相手が敵愾心を燃やしているから、こちらも敵意を持ってしまう。負の連鎖は留まるところを知らないわ。………面倒ね、我が国は宗教の自由を標榜している。だから、大地母神教が国内で布教活動をすることに口出しできない。しかし、彼らは信者たちを通して政治にちょっかいを入れてくる。うちみたいな多国籍国家は、多くの異なる人種、種族、文化が入り乱れているから、他国の影響を受けやすい。リーフ連邦の裁判の件、どうなっているの?」

 

 

「ご覧になられますか?リーフ連邦から連日、アド・エデムを裁判に召喚するという旨の文書が送りつけられています。大地母神教を信仰する国民たちが、国に対し反感を持ち始めていると方々に散らした密偵から連絡されました。更に街では、以前まで英雄扱いされていた斬撃皇帝が、悪逆非道の魔王へ早変わりです。周辺諸国からの圧力も、無視できないほどに………」

 

 

「わかったわ。マキナ、リーフ連邦、周辺諸国へ通達を出してちょうだい。"現在、わが国では斬撃皇帝が出した被害の処理で忙しい。ゆえに一週間の時間を頂く。一週間後、リーフ連邦の裁判へ斬撃皇帝アド・エデムを出頭させる"とね」

 

 

「一週間ですか、街や王宮の機能を修復させるのであれば、一月程度は時間を要求できませんか?」

 

 

「リーフ連邦だけならね。周辺諸国が絡んでくると一週間が精々ってとこね。斬撃皇帝の発動時間が短かったおかげで、被害は5キロ程度にしか及んでいない。被害のなかった場所へ仮設住居を作り、家を無くした者たちへ貸し出すわ。後は街の再建作業に関連した仕事を供給すれば良し」

 

 

「承知しました、その内容の書類を作成して来ますので、目を通して細かな修正と承認印をお願いいたします」

 

 

「お願いね〜、そういえば、アリスタはどうしているかしら?」

 

 

「リリーシャ様が渡した一週間分の書類を終わらせ、アドのところに行きました」

 

 

リリーシャは口に含んでいた紅茶が気管に入り、むせてしまう。ゴホッゴホッと咳をして、ようやく落ち着いたのかリリーシャはマキナに話を聞こうと詰め寄った。

 

 

「え、嘘!あれほどの量の書類をもう済ませちゃったの!?」

 

 

「ええ、渡した当日の夕刻にきっちりと終わらせたご様子です。それと、こちらの書類をどうぞ。アリスタ様の友人が作る剣結晶を用いた工業品を被害地の新たな産業にしてはどうかと意見を頂きました」

 

 

「工業か……今まで農業をやっていた市民がいきなり、工業をしたがるかしら?まぁ、その辺はゆっくり考えていきましょう。アリスタは今、どこにいるの?」

 

 

「永劫牢獄でアド・エデムに面会しておられます。ご友人方と一緒に」

 

 

「……アドのところ?…………ズルいズルい!私だってアドに会いたいのに〜 、最近ずっと会ってないのよ。今すぐ私も行く!」

 

 

「この山積みの書類を片付けてからにしてください!」

 

 

部屋の出入り口前を陣取ったマキナ、それを突破しようと試みるリリーシャ。この二人の壮絶?な戦いは引き分けとなり、互いに疲労を深めるだけに終止したらしい。ちなみに仲裁に入ろうとして、コテンパンに打ちのめされた近衛騎士たちは『やはり…………天才か……』とボロボロの体でマキナとリリーシャを称賛したという。

 

 

 

 

 

ーーー永劫縛鎖の禁断牢獄ーーー

 

 

斬撃皇帝アド・エデムを収監している牢獄内。首都アルマニアが混乱に陥っている中で、アド・エデムの生活に変化が訪れたかと言えば、まったく変化は無い。以前と同様に牢獄内で、幽閉されて日々を送っている。変わったことといえば、彼の処罰が終身刑になったことと面会にくる人が増えたことくらいだ。……さらっと、流せるような内容では無いのだが、終身刑についてアド・エデムは気にはしていないらしい。日がな一日ぐーたらすることを至上とする彼(バカ)は現在、裁判に呼び出されているという事実を知らない。リリーシャがアドの面会及び説教をしに来た時、リーフ連邦から召喚申請が来ていると説明していたのだが、説教で疲労困憊していたアドは、その話を聞き逃してしまったのだ。結果、アドは自分が宗教と国家、様々な思惑が交わった裁判の中心にいると認識していないのである。こうして、事態は本人(アド・エデム)が認知せぬまま、着実に進行し続ける。

 

 

 

「ヤッホー!!おじゃまするでー」

 

 

「ちょっと、シス。もう少し静かにしたほうがいいよ、僕たちこれでも面会をしにきてるんだから。すみません、ジェイルさん、チェーンさん」

 

 

「……………」

 

 

 

「「いらっしゃーい」」

 

 

 

薄暗いジメジメとした監獄の空気を吹き飛ばすような明るい声で来訪を知らせたシステム、そして後からシステムを嗜めるキュア、無言で牢獄内に入ったアリスタ。この三人を笑顔で歓迎するジェイルと、チェーン。牢獄内は以前と比べて、少し賑やかになったようだ。……………王家の関係者以外の面会を禁じている永劫牢獄に、何故システムとキュアが入れるようになったのか。決闘祭の顛末を知っている方ならわかると思うが、一年の大将であるアリスタは、一年の勝利した際の褒賞として永劫牢獄の面会権を姉リリーシャに求めたのだ。いくら、アリスタの友人とはいえ他国の者に王家の権利の一つを預けることに、リリーシャは良い顔をしなかった。けれど、妹の初めてとも言える我が儘、リリーシャはアド・エデムの面会のみに権利を限定することでシステムとキュアの、永劫牢獄での面会権利を許可したのである。

 

 

 

「システムちゃんと、キュアちゃんが来るようになって、ここも大分賑やかになったね〜」

 

 

「ほんとにね〜。皆、来てくれてありがと〜」

 

 

 

ジェイルと、チェーンはシステムとキュアを気に入ったのか、にこやかな態度で新たな面会者を迎え入れる。そして、ジェイルたち二人の鎖で縛られたアドも、システム、キュアを歓迎しているようだ。そんな中、この牢獄の収監者アド・エデムも通常運転で少女たちと談笑していた。

 

 

 

「まさか、決闘祭で優勝して要求したのが、俺の面会権って。本当に良かったの?もっと、良いものが頼めたんじゃないかな?」

 

 

「…………」

 

 

アリスタがアドの意見に対し首を横に振って否定を示す。アリスタの心情に共感したのか、キュアとシステムも首を横に振った。彼女たちは自分の恩人にして特別な感情を持っている青年(アド)に会えるようになったのだ。彼女たちは後悔などしていないが、アドはそれに気がついていないみたいだ。

 

 

「うちらはあんちゃんに会いたくて来たんやで、せっかく来てくれた後輩ほっといて何縛られとんねん。何かこう、歓迎してくれへんの?」

 

 

「鎖で縛られてる先輩、前にして中々無茶振りするね。システムちゃん」

 

 

「へへへ、ダメだよ〜。アドがもう二度と逃げないように封じておくのが、私たちのお仕事だから。アドってば、牢獄から勝手に脱走しちゃうんだから〜」

 

 

「ジェイルの言う通りだよ〜。まったく、落ち着きがないんだから〜〜」

 

 

 

「ねぇ、アリスタ。脱走って、落ち着きがないの一言で済ませていいものなのかなぁ?」

 

 

「……たぶん違うと思う」

 

 

「あ、やっぱり」

 

 

 

アリスタとキュアは、ジェイルとチェーンの何処かズレた思考に戸惑いつつも、とりあえずスルーしておくことに決めておいた。迂闊に突けば、面倒な事件になると直感したのかスルー決め込むことにしたらしい。ほっこりとする空気の中で楽しそうに話している女性陣たち、彼女らの会話に時折参加するアド・エデム。薄暗い牢獄の中は、何処か優しく暖かい雰囲気に包まれていた。

 

 

「そんでな、今は壊れてもーた学園の復旧が済むまでは休校っちゅうことになっとんで。まぁ、専門の騎士が取り組めば、二、三ヶ月くらいで元通りやろ」

 

 

「なるほど………ん?そういえば、俺が壊した校舎を直す費用って、どうなってるの?」

 

 

「そうだね、決闘祭で損壊した校舎とかって壊した人が支払うってことになってるけど、アドにぃは牢獄の中で払おうにも払えないし。……アリスタ、校舎の復旧費はどうしているの?」

 

 

「………その費用なら、私の個人資産から出した」

 

 

 

え? アドの顔が凍りついたように固まる。思考回路が軒並み停止し、今までのアットホームで明るい空気が、氷河期並みに冷え込んでいく気がした。それもそのはず、自分がノリで発動させた斬撃皇帝の被害の修理費を可愛い後輩に払わせていたのである。後輩たちに格好つけるために発動させた斬撃皇帝が、自分の威厳を木っ端微塵にしたと気づいて、魂が抜けたように落ち込んだ。そんな、落ち込むアドに気づかず、女性陣たちの会話は更に盛り上がっていた。

 

 

「あー、なるほど。そういや、アリスタは王族の執務を結構やってたからな。あれくらいなら、余裕で払えても、おかしないか。…………って、何か一言言ってくれや!!一言言ってくれれば、ウチだって、なんぼでも金を出すんに!」

 

 

「そうだよ、一人だけ抜け駆けして。僕らだって、アドにぃのために何かしたかったのに。……そういえば、学園近くにある街の一角も被害出てたよね。……アリスタってば、もしかしてそれも?」

 

 

「うん、それも」

 

 

 

アリスタのあっさりとした回答を聞いて、システム、キュアがムッとする。二人は、互いの顔を見合ってニッコリと微笑んだ。その時、アリスタは嫌な予感を察知した。システムのしなやかな手が小柄なアリスタの身長に見合わない大きさの胸へ音も無く動く。同時にキュアも、アリスタの細い腰に抱きつこうと忍び寄る。二人の不埒者から、身を守るべくアリスタは後ろに退がった。無表情であるから判断しにくいが、好意を持っている男性の前で、同性の親友たちとはいえイタズラされることを疎んじたのだろう。こうして、少女たちの半分お遊び半分本気のじゃれあいが火蓋を切った。

 

 

 

 

 

 

Sideアド・エデム

 

 

おらぁ、アド・エデムである。ただいま、収監中である。ついこの間までは監獄に拘留されているだけだったが、今や無期懲役の実刑判決。これで、ワンアウト。ノリで斬撃皇帝を発動させたばっかりに学園や街をぶっ壊してしまい、修理費などで借金まみれになったと思っていた。ツーアウト。ところが、その借金は無くなっていたのだ。心優しい後輩が代わりに払ってくれたおかげで………スリーアウト。チェンジ。俺、アド・エデムは幽閉されている男から、年下少女のヒモにジョブチェンジしました。

 

 

なんてこった……………………

 

 

 

何やら、アリスタちゃん、システムちゃん、キュアちゃんたちが百合百合しいことをやっているが、ショックが強すぎて、それどころではない。嘘だろ?これまで相談事や困ったことがあれば、頼れる先輩をやっていたのに、いつの間にかヒモだよ、ヒモ。落差ぱねぇ……切実にタイムマシーンが欲しい。

 

 

 

「ずるい〜、アリスタ様ってば、アドのお世話しちゃうなんて〜。私たちだって、アドのためなら、いくらでもお金出すのに〜」

 

 

「私も私も〜。だって、私たちお金ほとんど使わないもの。お金くらいでアドのお世話が出来るなら、すぐにでも出すのに〜」

 

 

「そうそう、それだけじゃなくてもっともっと、色々な面倒を見てあげるの。ごはん、お着替え、眠るのだって、どこかに行くのも、何かを見るのも、息をするのだって………全部ぜーんぶ面倒見てあげるの」

 

 

「チェーンと同感〜。アドの全てのお世話をしてあげたいね。アドの生きることの全てを私たちが面倒見てあげる。私たちがいなくちゃ生きていけないほどに。ずっと、ずっとずっと。考えただけでも、楽しくなるね。チェーン?」

 

 

「うん、すごい楽しみだね。お姉ちゃん」

 

 

少し現実逃避をしようとしている間に、後輩少女たちの中へジェイルと、チェーンも混ざっていった。まずい、このまま話が進行し続ければトンデモないところに着地してしまう。

 

 

 

「みんな、話がおかしくなり始めてるよ。俺も、自分の面倒は自分でみれるからさ、この話はここでおしまい。あと、アリスタちゃん。お金は後で絶対に返すから命に代えても返すから」

 

 

「………別にいい。どうせ、余ってるから。それより、アドは自分を大事にして」

 

 

 

ポツリポツリと話すことが苦手なアリスタちゃんが、自分の意見をはっきり言っていることには感動しちゃう。それも、俺を案じてくれる言葉だ。一、二もなく、頷いてしまいたいが、ここは引けない、引いちゃいけない。なんせ、俺がクズ男になるかの瀬戸際だからね。

 

 

「それでも、きっちりお金は返すから。アリスタちゃん、先輩の言うことはちゃんと聞きなさい」

 

 

「…………」

 

 

「なーんか、あんちゃん。ごっつ必死やなぁ。ウチらはあんちゃんに恩が溜まっとるんや。これくらいでも、まだ足りひんわ」

 

 

「そうだよ、僕らがここに居られるのはアドにぃのおかげ。ちゃんと恩を返したいんだ」

 

 

 

おう、俺の後輩たちマジ天使。いや、恩って言っても、そこまで大層なことしてないはずなんだけど。うーん、やっぱり後輩からお金を借りっぱなしってのも格好がつかないしなぁ。ここはビシッと

 

 

「「三人とも〜、面会時間終わりだよ〜」」

 

 

「…………」

 

コクリ

 

 

アリスタちゃんが静かに頷いたのを見たシステムちゃん、キュアちゃんは、これ以上この場にいられないと察したようだ。

 

 

「え!?もうかいな。思てたより、ずっと短かったわ。しゃーなし、あんちゃん。また来るから、楽しみにしててや」

 

 

「アドにぃ、また来るから、その時こうやって話をしようね」

 

 

「うん、みんなと話が出来てよかったよ。また、来てね」

 

 

 

バイバ〜イ、名残り惜しげな顔の後輩たちを静かに見送る。……………やべっ……ビシッと言うタイミング逃したーーー!?!?やってしまった…………仕方ない。次回にみんなと会う時に言うことにしよう。いや、今でしょ!と行きたいところだが、今度脱走したら俺のクビがフライ・アウェイしかねない。

 

 

 

「アド、楽しかった?」

 

 

「アド、嬉しかった?」

 

 

「ん?ああ、それはもちろん。こんなに後輩たちに慕われているってことは喜ばしいかな。うん、今度面会に来てもらった時にはちゃんとお金を返すって言っておこう…………」

 

 

最後に小さく付け足した言葉は、ジェイルやチェーンでも、アリスタたちにでもない自分自身に向けて呟かれたものだ。鎖に縛られている男がヒモって、洒落にしても笑えないし。

 

 

「そっか、それならよかった〜。アドが望むならなんでも用意してあげるね。…………それが、どんな物でもどんな者でも」

 

 

「欲しい物、欲しい者。何でもあげる、アドが願うなら何でも叶えるから。だから、ねぇ、アド」

 

 

 

ジェイルとチェーンは一拍置いて、斬撃皇帝の担い手たる青年に宣言する。

 

 

「「大好きだよ」」

 

 

見惚れてしまいそうな麗しい笑顔と焦点の合っていない暗い深淵の瞳が青年に向けられる。ジェイルとチェーンの言葉を聞いて、アドはとりあえず笑っておくことにした。アドは、ここで下手な言葉を返すと、バッドエンド直行になるということを本能的に感じ取ったのだろうか。無意識的な、条件反射の行動。ひょっとすると思考が一切関係していない、これらの行動は、実は生物の本能が刹那に選択する最善手なのかもしれない。

 

 

 

Side Out

 

 

 

 

 

 

 

 

Side 剣神教

 

 

斬撃皇帝こと、アド・エデムがリーフ連邦の裁判に召喚されたという情報を入手した剣神教の幹部たちは、その裁判に参加する意思を表明していた。大地母神教を国教とするリーフ連邦。そこで開かれるアド・エデムを裁く裁判。アド・エデムの身柄もとい斬撃皇帝という規格外のツルギを狙っていた剣神教にとって、これほどに好都合な展開が訪れるなど予想だにしなかったろう。しかし、剣神教と大地母神教は不倶戴天の宗教。互いに互いの価値観を受け止められず、両方が相手を敵視していた。つまり、リーフ連邦の裁判に参加するということは、敵地に乗り込むのと同義。ゆえに剣神教では強力なツルギを持つ騎士たちを厳選して裁判に赴くことを決定した。裁判に向かう騎士たちが決まった今、彼らは出発前最後の会合を開いている。

 

 

 

「それでは、この会合の進行を務める剣神教、教祖ソードス・レイピア・エイルの名の下に、最終決定を宣言いたします。リーフ連邦で行われる裁判に我らは赴き、最強のツルギ、"斬撃皇帝"を奪還するのです!!リーフ連邦は、長年剣神教徒を敵視する大地母神教の本拠地。連れていく数人の幹部と戦闘力の高い騎士の皆さんは、妙日中にリーフ連邦へ行くための準備を整え私と共に、アルマニアから出立します」

 

 

 

長いテーブルの上座には一人の青年が座ったまま、落ち着いた声で下座に座る自分より年が上の男女たちへ通達する。剣神教の教祖であるソードスより年が上な面々は、他にもいる。しかし、剣神教では年功序列は存在しない。ツルギの強さこそ、神が与えた祝福の寡多。ゆえに剣神教は、個人の性質や嗜好よりツルギの強力さをこそ尊ぶ。ツルギこそ、神が与えた至高の輝き。そのように信じて憚らないからこそ、アームに重きを置く大地母神教の教義を断固として認めないのだ。ソードスが話を終えた時、一人の女性の細い腕が高く上げられる。

 

 

「……………サリーさん。何か発言したいことでも?」

 

 

ソードスは整った面貌を僅かに歪め、手を挙げたサリーと言う女性に発言を促した。

 

 

「なんじゃ、ソードス。そのような苦虫をたらふく食したような顔しおって。仮にも自分の"乳母"であった乙女にする態度ではなかろう。ちっとは愛想よくせんか」

 

 

 

手を挙げた女性は幼かった。身長や体つきなどそこらの幼児とまったく変わらないだろうし、雰囲気や顔からは女性らしさより幼いという印象を強く持たせる。しかし、この会合に参加していた者たちは知っていた。この場にいる誰よりも、この小柄な女性が年長者だと言うことに。

 

 

「ご自身の年齢を鑑みて発言してください。この中にいる全員で貴方が最年長者ではありませんか。それを乙女などと、ご自重ください」

 

 

「女性に年齢の話をするなど、ぬしもいい性格するようになったではないか。おぬしもいい年齢じゃ、小姑みたくグチグチ言いたくはないが、その性格直さんとモテんぞ」

 

 

「モテる、モテないの話は関係ないでしょう。まだまだ私は未熟の身、女性と関係を持つのは、剣神教が落ち着いてからにしますよ」

 

 

「知っとるか。女より仕事を優先する男は"早い"らしいぞ」

 

 

「早い……?それは……あぁ。まったく、貴方という人は……そんな下世話な話をする人が乙女を自称するなんて世も末ですね。貴方が乳母をやっていたということが、我が生涯の唯一の汚点です」

 

 

「汚点じゃと、おぬしの最大の欠点と汚点は、腹の黒さだろうに。何でこんな子に育ってしまったんじゃろうか」

 

 

「乳母の教育の賜物でしょう」

 

 

 

サリーの悪態に、すぐ皮肉を返したソードス。周囲は二人の口喧嘩を止める様子もなく、黙って諍いが終わるのを待つ。二人の頭が冷えたところで、口喧嘩は終了しソードスは周囲の教徒たちに会合の終わりを告げた。リーフ連邦へ行くための準備をする者、ソードスたちがいなくなった後の職務を代行しようとする者。ソードスとサリー以外の全員は会合に使われた部屋から慌ただしく出て行った。残された二人は、対面する形で座り直す。

 

 

 

 

「ソードス、おぬし先ほど世も末とか言っとたの」

 

 

「えぇ。それが何か?」

 

 

「なに、おぬしも鋭いところを突くな、と思っただけじゃ。世も末?まさしく、そうであろう。ブレイドという人類いや生命の天敵がのさばっておる世界で、我々は何とか生存しておる。しかし、それが綱渡りであるということはおぬしも重々承知のはず。我々は早急に強力なツルギを持つ騎士を集めねばならん。ブレイドが存在するせいで、人類の生存圏は大きく狭まったまま。ブレイドも年々強さを増していっておる。このままじゃと、人類はいずれ滅びを迎えるであろう。それが百年後か十年後か、わからんがのう」

 

 

「わかっていますよ、そのために我々剣神教は強力なツルギを持つ騎士を人類救済のため手にしなければならない。アド・エデム。彼のツルギはデメリットに目を瞑れば、間違いなく最強と断言できます」

 

 

「ならば、確実に騎士アド・エデムを我ら剣神教に納刀させねばならん。…………任せたぞ、我らが教祖どの」

 

 

「承りました、それにしても何時もこんな具合で話をしていただければ、貴方は素直に尊敬に値する人物なのですが」

 

 

ソードスは額に手を当て嘆息した。

 

 

「やかましいわい!………………そういえば女剣派の騎士たちはどうなっておるんじゃ?」

 

 

ソードスの言葉に条件反射で反発したサリー。彼女はソードスに向かって声を荒げたが、彼が特に反応しないところをみると、仕方ないと言いたそうに口をつぐみ別の話へ移行する。

 

 

 

「女剣派?あぁ、そういえば、彼女らも裁判に参加するのでしたっけ。問題ありませんよ、女性優位の思想を取り除けば、彼女らと我々は同じ教義を掲げています。女剣派も大地母神教とは折が悪い。味方ではないですが、敵になることもないでしょう」

 

 

 

そういうもんかのぅ?とサリーは首をかしげていたが、ソードスが部屋から出ていくと、リーフ連邦へ行く旅支度をするのと、もしもの時に備え鍛錬をするためにサリーも部屋から出て自分の部屋に戻っていった。

 

 

 

 

こうして剣神教は救済を願い、アド・エデムを手にするために動き出す。その願いが、信仰が正しいのだと、ひたすらに信じて。

独善に満ちた聖職者たちは自分たちが信じる救済を夢見て歩み続ける。

 

 

 

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