雲ひとつない澄みきった青い空、そんな空から日光が、
美しい街並みを照らしている。
ここはアルマニア国の首都、アルマニア。
総人口はおよそ三百万人という大きな都市で、商人の店やギルド会館に剣神教、大地母神教の教会などがある区画に、小さな学校や学生寮の密集した区画などがある、そして多種多様な種族が住んでいるゆえに、いろいろな文化交流のできる街。その繁栄は多くの国家に注目されており、特に技術方面での発達は目を見張るものがある。アルマニアは円形の都市であり、周りは国民の生活圏である外円部、その中央の中心部には貴族、王族の住むエリアが存在している。その近くにはアルマニア国立学園という騎士や、それをサポートする従者と呼ばれる者を育成する大陸でも類を見ない巨大な学校が威風堂々とそびえたっていた。
アルマニア国立学園、学問の盛んなアルマニア随一の学校。
多くは貴族の子供が騎士の才能に目覚め入学する学園。
他国の留学生も多く、最新鋭の技術を学びに来たりする。
それは王族でも例外なく、
自国の王族や他国の王族がアルマニア国立学園の門を叩く。
学園内では他国の力を見せる代理戦争のような状態が頻発していて、
ただの口論なら可愛いものだが、
時にはツルギを出した決闘騒ぎが起こり、
身分の高すぎる王族がそれに参戦すると、ことはややこしいことになる。
ケガをしても困るし、闘いを退いてくれとは、
相手のメンツのために言葉にできない。
しかも王族は大抵が強力なツルギを所有する事例が多い。
またサポート型のツルギを持つ王族の場合は、
より厄介なチームを作った決闘が行われる。
それに庶民学生を貴族の学生は馬鹿にすることが多い。
他国の学生ならそれはより顕著になる。
「あら、庶民のような汚らわしい者を学園に入れて、
この国の未来は大丈夫なのかしら」
なんてシラフでいえるような人間が集まっているのだ。
今回はその学園を見てみるとしよう。
「ブレイドの生態調査は依然として進展はなく、
ブレイドを倒せるツルギ使いはそのチカラを正しいことに」
キンコーン、カンコーン
「本日はここまで」教師である初老の男性が教室から出ると、
教室は緊張が抜ける、緊張が抜けるといっても隙を見せないように、
彼らはある意味国の代表であって隙、無様を見せるのは、
国益の悪化に直結する。
しかし古今東西、あらゆる場合に例外というには
いつ、どのような場所でも存在する。
「ふぅー授業が終わったー」
「おい、貴族たるものもっと優雅にできないのか」
「んな堅いこと言いっこなしだぜ、エゼル」
「王族たるものがこんな調子でどうするシャキッとしろ!」
ここで口論しているには連合国の王族である
デクリトル・レギラ・レギオン第二王子である。
そこで口を酸っぱくたしなめるにはお付きの騎士の、
エゼル・ウォール・ゴヒュル。
なぜこのような態度が周りの者に文句を言われないのか?
それは至極単純で彼の実力が確かだからだ。
自国にいたころAA級のブレイドを単身で撃退したなどの逸話が、
まことしやかに語られるくらいで、その実力は折り紙つきだ。
ちなみにこの世界の王族は政治的な面でも重要だが、
誰より強いツルギを持ち戦力の面で重要視されるのだ。
「ちゃんとした所ならシャキッともジャキっともするさ」
「はあ、こんな男が王族だとは嘆かわしい」
「なあ、もう今日は寮に帰って寝てもいいの?」
「おい、今日は決闘祭の打ち合わせがあるのを忘れたか」
「決闘祭?ああ、んなめんどうなのあったっけ」
「そうだ、思い出したならさっさと行くぞ、デル」
「あいよ、わかったから引っ張んなって」
この教室は連合国の民や貴族が集中しており、男女混合のクラスである。
そして平民だろうと国の代理戦争の参加者であって、
実力は種類があるにせよ、確かな者ばかりだ。
連合国は王族が他にも二人ほど在学していて、
この学園でも自国のチカラを主張している。
一方、アルマニアのクラスでは学年別の決闘祭の対策を練るため、
他のクラスと会議の場を作っていた。
アルマニアクラスの代表は、
国の大貴族にして学園でも屈指の実力者。
学園の第二年生、その名をミコト・ブレイズ・ヴォルカニア。
焔の大剣と呼ばれる女生徒だ。
「それでは決闘祭の対策で何かあるものは挙手してくれ」
「じゃあ、会議は終わりにしてみんなで眠るってのは?」
「ふざけているのか?」 「マジメなハナシさ」
「なお悪い!王族としての誇りはないのか!」
「おいおい、ひでーな
こっちは王族の責務でブレイドを狩ってきたいわゆる先輩だぜ」
「グッ!」そうアルマニアの貴族騎士は基本的に国どうしの戦いに、
参戦することが多く強力なブレイドとの戦いを経験していないのだ。
ブレイドとの実戦を多く経験していること、
それは学園内では一種のステータスである。
「まあ、安心しろって俺も負けんのは、嫌だしさ」
「…………上級生にはあなたの兄上がいるのだ、
本気で闘うと確約できるのか?」
「ああ、兄さんは俺も気に入らんし
ぶっ倒せる機会は学園の決闘祭しかねーしな」
「………わかった、この闘いではあなたを信じるとしよう」
「…でも作戦っていっても特にねーさ
俺もあんたらに合わせることなんざできねーし
あんたらだってそうだろう?」
「……………それもそうだな。」
「だろっ! じゃあうちはもう帰るからっと。」
「ん、仕方ない。それでも最低限協力してもらうぞ」
「はいはい、ミコト殿
………そういやあんたのあのずるっこい婚約者どうしたんだ」
「………あいつは今、休学中で決闘祭には参加できない」
「ふーん、あいつ逃げたり引き分けんのだけはうまかったから、
決闘祭では活躍できるかもって言うつもりだったんだけど」
「あいつは弱くない、ただ誰も理解していないのだ」
「はっ?」教室中がシンと凍ったように静かになる。
「どうしたんだよ、婚約者に一番文句を言ってたのは
あんただったのにさ」
「…………………私もあいつのことを知らなかったのさ
……………それ以上詮索しないでくれ」
「まあ、いっか 、 あんたらが仲良しだろうと
そうでなかろうと俺は関係ねーし」
微妙な雰囲気の中で本日の会合は終わりとなった。
しかし参加者の多くはミコト嬢の反応が気になっていたのだった。
ミコトは基本的で模範的なツルギ使い、騎士である。
だからか、ツルギで剣の形状でないアームを軽視することがあった。
そして自分の婚約者が剣の形状ではなく、
武器ですらない種子のようなツルギを発現してると、
知った時に彼女は彼を極端に馬鹿にするようになった。
しかもなまじ逃げたり、引き分けたりと駆け引きの才能があったことで、
アド・エデムを嫌悪するようになってしまったのである。
そうした中で彼女の今日の態度は以前のそれと明確に異なっていた。
これには娯楽に飢えた貴族たちを盛り上げるには、効果覿面だったのだ。
しかし真相を知るのは彼女のメイド、
主の赤い目、髪とは正反対の青目、青い髪の少女。
クリア・ランス・アグアリアだけだった。
そして二人、ミコトとクリアが居るのは、
水のせせらぎが心地よい学園の中庭でめったに人の来ない場所である。
これはアドがよく来ていた場所でもあった。
なぜアド・エデムが来る場所を彼女たちが知っているのかと言うと、
訓練と称して彼とツルギを使った戦闘をしていて、
アド・エデムはそれから逃げたりしていて、
彼女たちはそれを追いかけることをしていたことがあったのだ。
つまり彼女たちは彼が逃げる場所をいくつか知っているということだ。
(まあそれでも全てではないのだが)
「ここに来ると思いだすよ、アドが訓練を逃げて眠りこけていたのを」
「アド・エデムは逃げる、引き分けるのがうまかったですから」
「ああ、しかしアイツをただの軟弱者と見下していた過去の自分を、
今となっては戒めたいよ、アイツは腰抜け、臆病者ではなかった。
自分のツルギが相手を滅しかねないことを、
誰より理解していたんだ、………もう一度アイツに会いたい。
アイツに今までの無礼を謝罪したい。
ただアイツともう一度、婚約者になりたいんだ。
ムシのいい話かもしれないがね」
いつも腑抜けたような雰囲気の持ち主で、
緊張感なんてものは母の腹に忘れてきたような男だった。
ぼんやりとして、とにかく周りに合わせない、そんな男。
そんなアイツが嫌いだったのは、
何よりも自分が嫌いだったからではないのか。
家の命じるままに婚約者をあてがわれ、
家の意向で学園に入学したという自分と、何もかも自分の意志や、思考で行動するアイツに憧れて、嫌いになって、
そんなことをしてる間にアイツは封印凍結されてしまった。
アイツがいない学園は日が落ちたような感覚だった。
アイツはブレイドから私達を助けた、
しかしそのせいでヤツのツルギが危険だと、
剣神教、大地母神教が認定して、王族がヤツを封印するときも、
私はその流れに乗ってアイツの封印凍結に賛成をした。
そんな自分の愚かさを過ぎてしまった、いまではどうすることもできない。
「……お嬢さま………」 「ところでクリア、アリスタさまにお手紙を持っていってくれたかい?」
「はい、滞りなく万全です」
「そうか、ではアリスタさまにアドのことを頼んでみるとしよう。
あの方はアドに助けられていた、おそらく、アリスタさまはアドの幽閉の事実を知らないだろう、王族だがアリスタさまは妾の子だ。アドの情報を何一つ知らされていない、アドに恩がある彼女ならアドの解放に尽力してくれる。
そうすればアドと私は婚約者に戻れるんだ」
「アリスタさまで大丈夫なのでしょうか?」
「心配は要らない、
妾の子といえど王族の一員。その一声は強力で、
彼女が味方になれば、ことはすぐに済むだろう」
「…………しかし、王宮に何度もアド・エデムの解放とお嬢さまの婚約を嘆願書として出しているのに、なぜ返答書類がこないのでしょうか?」
「王族派閥の者はアドを貴族派閥に渡したくないんだろう、
アイツはそんな俗な者ではないというに、
父上もアドを『必ずや手に入れろ』と言って、滑稽なハナシだ。
アドはそんなことしなくても私の味方だと言うのに」
「はい、アド・エデムはお嬢さまの好意を持ち続けておいでです。
お嬢さまのお命を助けたことからして、彼はお嬢さまを愛しているのでしょう。
そんな愛する二人を離すことが王族であろうと、
できるわけがありません」
ここでアド・エデムが彼女たちを助けたという話だが、
単純な話、助けられるから助けただけであって、
特別な感情はそこに含まれていない。
その時に斬撃皇帝を使って幽閉されることになるのだが、
彼女が自分の幽閉に賛成したことを、彼はどうでもいいと思っている。
婚約者など元現代日本人の彼からすればおかしな話で、
自分にあまり好意を抱いていないことに、彼女が王宮に婚約破棄を要求していることを知って彼女に、あまり関わる気が無くなっているのだ。
(ちなみに貴族間の婚約者は親が決める場合と、王族が決める場合の二通りが存在する、前者は身分が低い貴族が、後者は身分が高い貴族に多い)
「ああ、だが封印凍結は貴族では手も足もでない。
もしかするとアドは王族派閥に私の手紙がきていないともしくは私が別の婚約者といるなどと根も葉もない嘘で騙されているかもしれない」
「………お嬢さま、疑問に思ったのですが、なぜアド・エデムは牢獄から出ようとしないのですか?看守の双子が所有する鎖のアームは非常に強力ですが、アド・エデムの斬撃皇帝ならば一蹴できるのでは?」
「当然だ、アド・エデムの斬撃皇帝ならば双子の鎖、程度の拘束など気にしないさ。あの永劫縛鎖の禁断牢獄ですらアドの障害にはならんだろう」
「では、何故に?」
「奴らは王家直轄の騎士だ。奴らの拘束から逃れることは国の反逆者になることなのだ。そうでもなければ、アドが獄卒ふぜいの拘束に大人しくしているわけがない」
ミコトたちは勘違いしているが、アド・エデムはそんなアクティブな人ではない。その本質は何でも受容するがゆえ、懐が広そうに見える引きこもり。結果として異端も、異常も、特殊も、特別も受け入れる大物に見えるのだ。そんな男が牢獄であろうと、美人のいる牢獄から脱獄するはずもない。それを知らない彼女らは勘違いをますます深めていくのだった。
「なるほど、つまり本日のアリスタさまを説得することが、
アド・エデムの解放への鍵になるのですね」
「ああ、そろそろ彼女の授業の終わる時間だ。
お茶を用意しておいてくれ」
「はい、お嬢さま」
コポコポ、小さな音を立てティーポットからカップに紅茶が注がれる。
その紅茶は香りからして高級な物とわかるほどの代物。
しかし紅茶をうまく淹れる技術も、そこにはあるとわかる者なら理解することができる。メイドの少女もなかなかにハイレベルなようだ。
しばらくして、この誰も気づかなくなった学園の中庭で一人の少女が現れた。
そう現れた少女こそこの国の第二王女のアリスタである。
しかし、その表情は普段の感情の乏しい彼女には珍しく、怒りという感情を見てとることが容易くできた。
ミコトは彼女がなぜ怒りに震えているかわからなかったが、
とりあえず挨拶から会話に入ることにした。
「アリスタさま、ご足労願い実に申し訳ない」
「うっとうしい挨拶などする気はない。
さっさと本題に入って、でないと帰る」
「……………それはまた、お茶を頂くことくらい良いでしょう」
「いいから話、あとここはアドのお気に入りの場所、
なんで、あなたがこの場所を知っているの」
「私とアイツは婚約者です、これくらいのことはわかりますので」
その言葉に反応するように、アリスタさまの眉が危険な角度になり始めた。
ミコトはアリスタにお茶をしながら会話中に、アド・エデムのことを切り出していくつもりだったが、アリスタさまが機嫌が悪いことからこれ以上無駄な話をすれば彼女が帰ると直感的に理解した。
「それでは本題を、本日アリスタさまをお呼びしたのは
騎士アド・エデムのことです。失礼ながらアリスタさまはSSS級ブレイド撃破後のアドのことをご存知ですか?」
そう彼女の予想ではアリスタ王女は妾の子であって、こういった重要な情報は知らないということが前提条件なのだ。
ミコトはそう思っていたしそれは学園の生徒全員がそう思っていた。
「ええ、知っている………」 「知らないのも無理は……って………え!」
だからか、彼女がこう言うのは予想外だった。
ミコトは彼女がアド・エデムのことを知らないということで、
話を進めようとしていたが、その出鼻をくじかれた。
しかし、それで動揺していては貴族というのは務まらない。
気を取り直して、話を進めようとする。
「………そうですか、なら話を進めやすい。
話とは騎士アド・エデムの解放と私との婚約をアリスタさまから、
リリーシャ陛下にお話し頂きたいのです。
お願いできますか?」
「……………」
アリスタは語らない、無言でしばらくミコトを見つめる。
その静寂はミコトに不安を見せた。
「アリスタさま、どうかなさいましたか?」
「どうかなさいましたか、じゃない。
あなたはそれを本気で言ってるの?」
「本気とは?彼が幽閉されているのなら、
助けたいというには、当然ではないですか?」
「当然?あなたは彼が幽閉されるときに幽閉に賛同した。
それなのに、今さら彼の解放?婚約?………ふざけるな」
それを別に声を張り上げた訳ではない、
しかしその声には恐ろしい迫力が込められていた。
学園でも三指に入る実力者のミコトが口ごもる程に、
その言葉には憤怒と憎悪が刻まれていた。
「そもそも、あなたに力を貸す気なんてない。
学園の誰にも貸す気はない、教師も他の生徒も私を馬鹿にした。
でもアドだけは私を助けてくれた、
そんなアドを裏切ったあなたを許すつもりはない」
「っ!そうです、私はアイツを裏切った!
だけど今度こそアイツと寄り添いたいのです。
アリスタさま!お力添えをお願いします!」
「………知ったことか」 アリスタはそう呟き、踵を返す。
普段、寡黙で様々な世間話、流言に興味を示さないアリスタさまが、
人形姫が、ここまで声を荒げるとは。
この主従はそれを黙って見ることしか出来なかった。
「…………大事な物は失ってからでないと気づかないのだな
だが、私とアド・エデムの何を理解しているつもりなんだ。
アリスタさまは!」
メイドのクリアは主であるミコトを気づかうように声をかける。
しかし、それは貴族派閥から王宮派閥への反感を込めたモノだった。
「…………確かに、これは婚約者同士の問題であって、
王族といえど余計なお世話というモノ、
しかも妾の子の分際で上級貴族のお嬢さまに、
あのような言い方、不愉快です」
メイドの発言によって熱されていた頭が冷える。
冷えるとこの会話を続けて、誰かに聞かれる不利益を考えて、
メイドを静かにたしなめる。
「……………クリア、私を思っての発言はありがたいが
そういった事は気づかれないようにしてくれ」
「あっ!申し訳ございません!
…………それでお嬢さま、アリスタさまの協力を得られなかった以上、
アド・エデムの件はどうするのですか?」
「…………………決闘祭………あれに勝つことが出来れば、
王女陛下に謁見し、望みの褒美を求めることができる。
狙うならばそこしかない。
勝つぞ、絶対に!……………クリア、君の力を貸してもらう」
「承りました、お嬢さまの仰せのままに。」
今、ここで、この主従は決闘祭の必勝を決意された。
連合国のクラスとの連携をしないチームワークに、疑問ありだが、
第二学年の筆頭、ミコト・ブレイズ・ヴォルカニアは決闘祭に挑む。
その時、アリスタ・アルマニア・ブリエスタは
先程の会話に激怒していた。
アド・エデムを裏切ったミコトがいけしゃあしゃあと、
あつかましくも、王宮にアド・エデム解放、婚約を願い出ていることに怒りを感じていたのに、今日の発言でそれは頂点に達した。
自分を妾の子供として、情報がおりてこないと思っていたことに対してもそうだが、何よりアドのお気に入りの場所をあの女が使うことに頭が沸騰した。
その感情に利益はない、むしろ怒りから冷静さを失って妙な言質を取られれば、
王宮派閥、いや姉の脚を引っ張りかねない。
頭を冷やす、考えるのは決闘祭のこと、
決闘祭は学年別に別れて学園を戦場とする大規模戦闘訓練であり、
それに勝利した学年の代表は王宮から、
叶えるのが可能な(よっぽどな願いでなければ)願いは聞き届けてもらえるのだ。
おそらく、いや必ずミコトはそこで要求してくる気だ。
この願いはアドのツルギのことを考慮すれば、
ハードルは高いが、叶えられないという訳でもない。
この願いを軽々しく却下すれば、王宮派閥の威厳、メンツに関わる。
となれば自分が勝利する他ない、アドの解放を要求したいところではあるが
アドはそれを望んでいない。自分なりに考えぬいた結果、アドはそれをすればアルマニア国の派閥争いが激化すると予測しているのだろう。
彼の自己犠牲によって国は助かっているのだ。
そうなると彼を解放は出来ない、
出来ないが環境の改善くらいならできなくもない。
アルマニア最凶の騎士専用牢獄である永劫縛鎖の禁断牢獄、
そこからだして別のところにして移すだけでもアドの助けになることだ。
しかし、何はともあれ決闘祭に勝利しないことには、
取らぬ皮算用というやつだ、自分は王族という立場から第一学年筆頭に選ばれた。
筆頭を倒せばその学年は敗退する当然、筆頭に立候補するのは、実力が確かな者、指揮能力に長ける者、その役目を押し付けられた者などだ。
自分は三番目、第一学年はツルギを実戦で扱った者の少ない学年だ。経験値の少なさはぬぐいようのないハンデとなる。
自分のツルギはお世辞にも戦闘向けとはいえない。
だが、指揮に戦略面で言えばこのツルギ(能力)は多大な力を発揮する。
しかし、打てる手は全て打っておきたい。
自分は学園のとある部屋に向かう、着いたそこはがらくたの積もりに積もったごみ捨て場のような部屋、いや汚部屋?
「シス?いるの?」王族が入るには相応しからぬ部屋だが、
アリスタは顔をしかめることなく部屋に突入する。
「あいな~そん声はアリスタちゃんやな
いったいどないしたん~あてに用事でもあるん?」
「シス、あなた、また何も食べない、眠りもしてないの?」
「しゃーないやろ、ちょっと研究しててな。
メシやら、眠るやらしてる暇なんてなかったんよ」
この霧のようにとらえどころのないグレーの髪に、
猫のような叡智の光を宿す金色の虹彩。
優しげな顔立ち、狸の耳という人間らしからぬ特徴。
そして白衣に学生服を着ている少女こそ、
アリスタの親友、第一学年一番の変人学者、獣人の国のお姫様。
その名前をシステム・テクノ・ロッジという。
「色々と言いたいこともあるけど、今日はお願いで来た」
言葉の端から感じたものから、
それが重要なものであると理解し、
システムは眠たげな顔を知性あふれる顔に表情を替える。
「ほーーまたそれは?話からしてメンドーな要件なんやろ。
よっしゃ、それ話してくれや」
アリスタはそれに珍しく驚きという感情をあらわにする。
「いいの?まだ内容すら言っ「言ってないのは問題やあらへん、むしろ頼らん方が問題や、あてはアリスタの親友や頼ってなんぼやろ」
獣人の国の姫であるシステムは、
表だっては差別をしないこの国に留学してきた。
しかし獣人の差別には根強いものがある、裏では獣人でありながらすさまじい結果を出す彼女を学園生徒は陰口を叩いてきた。
アルマニア以外の国から来た留学生にいたっては、
陰口を隠そうともしなかった。
アリスタは王族でありながら、妾の子供として侮蔑を受けてきた。
システムは獣人の国の代表である姫で差別を受けた。
そして二人はアドによって助けられて、引き合わせられた。
二人はこうして親友となった。
アリスタは親友の心遣いに感謝し本題に入る。
「今度の決闘祭に勝利したい」
「へぇ、それはまた随分な難題やな」
「うん、うちの学年は戦闘経験が乏しい、何よりも一騎当千の実力者が少ない」
「戦力で今、実力者って、胸はって言えるんは他学年に二、三人や
三年にゃ、連合の王子さん、それに王宮勤めの牢獄番のジェイル、チェーンはんがおるさかい、あと二年はAA級ブレイド最年少討伐実績(レコード)を持つ連合の第二王子と炎熱系統最強の一族ヴォルカニアの姫さんが、んでうちら一年にはアリスタにうちと、回復系統の名家のお嬢様、キュアがおるだけや」
「戦闘能力者の実力が平均として低い」
「せや、先輩たちにゃ逆立ちしても現状勝てん。
ただ現状は、や。
確率が、のーなった訳でもなし」
「勝てる方法思いついたの?」
「ああ、とりあえずな。
でもそれには一年生全クラスの協力をもらわなあかん。
まあそれはなんとでもなるやろ。
ところでいっちゃん大切なこと聞いておらんかったな。
勝って名声がほしいんでもなく、まわりの連中見返したい訳もなし。
アリスタ、あんた何で勝ちたいん?」
長い沈黙の果てにアリスタは真相を語る。
「………………………アドのため」
「あんちゃんの!!………アリスタがやる気だすんは、
それが理由か、なるほどわかったわ」
「うん、今まで言えなくてごめんなさい。
でもこの決闘祭は勝たないといけないの。
私たちが勝てなくても最低、二年を勝たせてはいけない」
「ああ、ミコトはんか。学園でも噂なっとるアドのあんちゃんを
裏切ったくせして、図々しく婚約者気取りってな。
あても気に入らんかったとこや」
「この戦いに負けはあってはならない」
「あいな、あんちゃんのために勝ったろうやないの」
ここで少女たちは決闘祭に向けて作戦を練り始めた。
この少女たちはダークホースとなるのか?
それは神のみぞ知り得る真実である。
Sideアド・エデム
「はい、アド~………あ~ん」 「あ~ん」
時間がわからない、閉ざされた監獄の中で、
時間の感覚というやつが役に立たなくなってしまった。
だが夜の食事の時間ということから、
今の時間は夜だと予測する、時間を騙しても意味ないだろうし。
それよりこの状況を一瞬でも楽しめ。
「アド、美味しい?今日は私が作ったんだ」
「うん、ジェイルのゴハン美味しいね」
「お姉ちゃん、ずるい~」
美少女の手ずからのあ~んを喜ばない男がいないわけない、
違うとすればそいつは男じゃない。
「チェーンのゴハンも食べたいな~《その後に死にかけるけど》」
「ん、わかったよ アドのために腕によりをかけて、
ゴハンを作ってあげるね」
チェーンにフォローをしたのだが、
それをきっかけに自分の逝去の瞬間に一直線。
料理の下手な人間が腕によりをかけると言うのは、
死への片道切符に近い。
「………ねぇ、アド、チェーンのゴハン食べて大丈夫?」
「大丈夫、たぶんね?」
そんなわけでゴハンを食べさせてもらうという俺の癒しの時間は過ぎていったのだった、食事が終わると双子の二人に最近の面白いことはないか、疑問をすると二人は決闘祭のことを引き合いにだしてきた。
ああ、そういえばもうそんな時期なのか。
決闘祭それは王族のご褒美で生徒たちのやる気を出させる、
いわゆる学校内部で行う疑似戦争である。
そんな決闘祭で去年、一昨年の俺は逃げ回ってだけなんだけど、周りは何だかすごいとか言っていた。
学園で他に感慨深いことといえば、後輩でアリスタちゃんの他にシスちゃんという狸耳の獣人美少女、キュアちゃんという吸血美少女に大層懐いてもらったくらい。
うん、考え出したら久しぶりに会いたくなってしまった。
………………そういえばチェーンとジェイルに遭遇した(出会った)のも、決闘祭だったっけ。
Sideジェイル&チェーン
私たちがアドに出会ったのは、決闘祭の二日目のことだ。
最初は逃げ回っていて、捕縛、拘束を得意とする家系の私たちだ、学生といえ一度捕まったら逃げるなどできるはずないと思っていた。
しかし、捕まえたはずのアドは何事もなかったかのように、
スルリと束縛から抜けた。
「うわっと、あぶない」
「………おわー、ねえ、君、今どうやって拘束から逃げたの?」
「そうだよ、私たちのツルギから抜けるなんて」
単純に何か逃亡系統のツルギを持っているのかと思っていた。
しかし、彼はそんなことをしなかった。
「う~ん、簡単な話でツルギの弱いところを、
なんとかナイフで広げてそこから抜けたんだよ」
「は?ツルギを使ってない?」「ただのナイフで?」
二人は知らないだろうが、この時のアドの斬撃皇帝は、
種子形態のもので、武器に使うのは出来なかったのだ。
ツルギを使わないで技術だけで自分たちの拘束を破った、
そんな少年、普段からボーッとしてる彼に気づけば、
私たちはアド・エデムに惹かれていったんだ。
この優しすぎる少年が大罪を背負っている。
私たちは彼を自由にしてあげたい、
だが同時に彼を私たち二人で永久、永劫、永遠に
閉じ込め、縛っていたいという相反する感情を抱きながらも、
私たちは束縛を行う、それがいつか終わるものということに、
目を背けて、私たちはアドの両隣に寄り添う。
これにアド・エデムが気づけば、NiceBoat《ヤンデレ》とでも言うだろうが、そんなことを露も知らない彼は呑気に食事を食べさせてもらっていた。
斬撃皇帝アド・エデムは今日も外、周りの勘違いに気づかず、
幽閉され続ける、一方で周りは変わり続ける。
決闘祭とよばれる新たな舞台で騎士たちは踊る。
その果てに斬撃皇帝は何を見るのか。
騎士記録
ミコト・ブレイズ・ヴォルカニア
破壊力 AA
防御力 B
機動力 A
技術値 B
特殊性 C
アルマニア国、貴族派閥の上位の家のお嬢様。
火を自在に撃ち出すツルギの持ち主、形状は刀のようで、
まだ荒削りなとこがあるが、学園の上位実力者。
自身の父は紅蓮と呼ばれミコトの尊敬する騎士。
良い意味でも悪い意味でも典型的な貴族である。
そしてアド・エデムとは婚約者であり、まだ婚約は破棄されていない。
なぜ婚約者になったのかは彼と彼女の両親に関係がある。
クリア・ランス・アグアリア
通常状態
破壊力 C
防御力 B
機動力 A
技術値 A
特殊性 B
水場がある状態
破壊力 B
防御力 A
機動力 A
技術値 A
特殊性 B
ミコトの侍従であり、警護を任された少女。
ミコトには家族を救われた過去を持ち、ミコトを崇拝する。
そのツルギは薙刀のようで、手首の回転から攻撃に転じる戦闘スタイル。
ツルギの能力は珍しい物で、水を放出するのではなく水を操る能力で、
メイド服のスカートには大量の水が入った瓶を持つ。
近場に水場があれば、その強さはミコトに並ぶ。