決闘祭は学生たちを主役とした行事でこそあれ、
その舞台裏では各国の貴族や騎士団、王族が学園を眺めていた。
どうやって学園を眺めているのかというと決闘祭の舞台となっている学園内には、学生たちの戦闘が危険と判断した時に強制的に戦闘を中断させるために、選りすぐりの騎士が学園で待機している。
その騎士らは剣結晶と呼ばれる特殊な結晶体を持っている、剣結晶とはブレイドを撃破した際に入手できる物質で、剣結晶は鍛治場や厨房、船に飛行船などを動かすための燃料として活用されている。さらには遠くに映像を受信することもできて現代社会の基盤となっている物質だ。余談だが、剣結晶はブレイドをツルギ、アームで倒した時に出現するが、もしツルギやアームが剣結晶と接触した場合、剣結晶は融解して武装の内部に溶け込みツルギ、アームを強化すると言われている。
しかしリスクは存在して、騎士がその強化に耐えきれなかった場合、騎士は必ず絶命すると言われている。強化に成功して生き残った人間は人類史を紐解いても6、7人くらいしか存在しない。 ちなみに弱いブレイド、A級以下のブレイドからは剣結晶が出ることがないため非常に高価なモノとして高値で取引が行われている。学生行事にも惜しげもなく剣結晶を使えるのも、アルマニアが強国である証拠に他ならない。
重鎮、貴族、商人、王族に割り振られた部屋の中央には、大きな剣結晶のモニターが置かれていた。モニターでは学生たちが戦闘を行っている場面が所々に見えていて、観客たちは画面に張り付いてでもいるかのように、凝視している。例えるならばワールドカップのサッカー試合でも見ているような光景とでも言えるだろうか。これは各国の威信を賭けた代理戦争でもあり、ここで活躍した者は後に外交上のカードにすらなり得るのだ。
そしてこのアルマニア国の王族用の部屋では王女と一人の侍女が決闘祭を真剣に見据えていた。かつては彼女たちも、学園の生徒であり決闘祭では多大な活躍をしていたモノだ。一人は煌めく黄金色の髪、蒼く清みきった空のような瞳、体は起伏に富んだ流線型で、その胸は男女・性別を問わず目を惹くだろう。まぁいうなれば絶世の美女と呼んでも差し支えない。だが同時に童女のような清らかさを感じさせている。彼女こそがアルマニア現女王リリーシャ・アルマニア・ブリエスタである。
リリーシャはアルマニア国立学園を首席で合格した才媛だ。
その一歩隣にいるのは次席卒業を果たし、王宮で王女付きの侍女兼護衛騎士として活躍する少女、メイド喫茶のなんちゃってメイド服などではなく正統派のロングスカートのメイド服に森林の大樹の緑のような色の髪、エメラルドの輝きを持つ瞳の彼女の名はマキナ・ジーン・デウスエクス。
そんな彼女らは今、決闘祭の舞台となっている学園の映像を見ていた。
彼女たちはある理由から一年生に勝利してもらわなくてはならない。
「どうかしら、マキナ?一年生たちに勝ち目はあると思う?」
「客観的に言わせてもらえば、不可能に等しいでしょう」
「まぁ、そうよね。三年、二年生には戦闘専門の騎士ばかり、
比べて一年は特殊な能力のツルギ、アームはいるけど、
経験不足だから戦闘能力は全体的に低い」
「付け加えるなら三年には連合の王子カイル殿に、
ジェイル、チェーンの二人がいますし、
二年はミコト嬢を筆頭に粒ぞろいといった様子です」
「決闘祭の報奨は王家の威信と同じ、
だが、二年、三年生が勝ってしまえば、
十中八九アド・エデムの身柄を要求されてしまう」
「だから、一年生に勝ってもらわねばいけないのですが、
真っ向からの戦闘では勝ち目が欠片もございません。
アリスタ様を疑う訳ではありませんが、勝利できるのでしょうか?」
「マキナのいう通り真っ向からじゃ勝ち目はないけど、
アリスタの策略がうまく嵌まれば勝ちに手が届くかも」
「…………結局、私たちは勝利を祈るしかないのですね」
「ええ、アリスタを信じるしか、今は…………………」
国を思う少女たちはただ、モニターの向こうの戦闘を観る。
アルマニアの王宮派閥にとってはアド・エデムは、
ジョーカーのような立ち位置で重要なファクターである。
そんな彼が連合、もしくは貴族派閥に奪われれば、
現時点の国力のバランスが崩れ、冗談抜きで国が傾きかねない。
もしも、アド・エデムが奪われてしまえば、
彼が幽閉されることを懇願した意味が年月が無駄になってしまう。
彼は強すぎる力の持ち主、己を犠牲にすることによって、
国の明日を、未来を、希望を繋げたのだ。
彼の想いに応えるためにも、国のためにもアドは渡せない。
そんなことを考えていると、彼に最後に会話した時を思い出す。
彼が自ら幽閉を願い出たあの時のことを、
ーーー回想ーーー
SSS級のブレイドの討伐を終えて国が安寧を取り戻した頃、
城下町では連日お祭り騒ぎになっていた時、
王宮の王族用のテラスで休憩をしていた私の元にアドはやってきた。
「やぁ、リリーシャ先輩、マキナ先輩。久しぶりです」
「リリーシャ様、英雄さんの登場です」
「あ、アド。……あなた、連絡してから来なさいっていったでしょ。
いくら英雄さんだからって私は一国の王女なのよ。
その辺りはしっかりしてもらわないと」
「ああ、ごめんなさい。そこまで考えてなかった」
「アド・エデム、いきなり現れるとは無礼な、
あなたも貴族ならば、王宮における最低限のマナーを覚えなさい。
まったく、あなたが救国の英雄とは、
世も末といったところかしら。
それとリリーシャ様は王族であることを肝に命じなさい。
下手をすれば無礼討ちすらありえますよ」
「はぁ、それでどうしたの?ここまで来たんだから、
急ぎの用事ってわけなんでしょう。いったいどうしたの?」
すると彼は沈痛そうに、痛ましげにこちらを見ていた。
まるで死の宣告をされた病人の如く、悲しげに口を開いた。
「誰にも会わずに、隔離された場所はないかな?」
「…………どういうこと?」
「そのままの意味だよ。
俺がしばらく静かに籠っていられる場所はない?」
彼が何故にそんなことを言ったのかと頭が真っ白になる。
時間にしておよそ1~2秒、
その僅かな時間で彼が言ったことの意味を理解する。
「アド、それでいいの?あなたは英雄になったのよ。
もう監獄に囚われることなく、自由に外を歩くこともできるのに、
それに学園の後輩も同級生も先輩も先生も見返せる、
英雄として生きられるのに、本当にいいの?」
「うん、迷わない。だって、もうとっくに決めたから」
アドの眼は私を真っ直ぐに貫いた。
覚悟を決めた男の瞳に私は僅かな怒りを覚えた。
アドは誰にも相談せず勝手に決めたのだろう。
たったそれだけのことに腹の底から怒りが込み上げてきた。
しかし、アドの提案は正鵠を射ている。
SSS級を撃滅した騎士など国に様々な混乱を起こしかねないのだ、
彼のアイデア以上に良い案が思い付かない自分が情けない。
女としての私はこの提案に納得がいかない。
だが、王女としての私はこの提案を呑めと心で叫ぶ。
悩んだ時間は数秒、私はアドを再度幽閉することを決定した。
「わかった、以後のことは追って連絡するわ。
ご家族のことも心配しないで王家で責任を持って保護するわ」
「え?……………あ、ありがとう。リリーシャ先輩」
「……ちょっと、アド、何よ。
その反応はあなたの家族のことを何もフォローしないほど、
私が冷酷非道に見えていたの?」
予想外とでもいった反応の彼をからかう。
すると彼の顔が申し訳なさそうになる、
その顔が気に入って学園時代は彼をからかっていたっけ。
「アド、大丈夫。いつかきっと、あなたを救ってみせる」
そう私が呟いたのが聞こえたのか、
曇っていた彼の顔が笑顔に変わった。
その信じるような笑顔を私は決して忘れない、
学園時代とは何もかもが、変わってしまった。
それでも私の生涯の中で最も輝いていた時間を、
それを私にくれた彼を必ず助けてみせる。
「マキナ、私がアリスタと戦略ボードゲームで、
勝ったことってあったかしら?」
「失礼ながら゛一度゛もございません」
「私って、これでも騎士団の指揮を執ったりするから、
自分を優れてる、何て言うわけではないけど弱くはないつもりよ」
「…………アリスタ様には戦闘能力はございませんが、
それを補って余りある戦略眼を持っていると?」
「ええ、アリスタの戦略と一年生を信じて待っているしかないわね」
「わかりました、では紅茶をお淹れします」
「ありがとう、マキナ」
アルマニア王族の舞台裏では、
未来がどのようになるか、それを見据えて決闘祭を俯瞰する、
彼女らの目には校舎から撤退する数人の一年を映していた。
別の一室では黒く染められた聖職者のような服装の集団、
服の胸にあたる部分には剣と刀の重ねられたエンブレムが、
そして彼ら、彼女らが共通して放つ常人離れした雰囲気、
戦闘を経験した様な独特の眼光、
間違いなく、この聖職者の様な集団は全員が騎士に違いない。
そして、その中央で背筋を伸ばし椅子に座っているのは、
神聖で侵しがたい圧力を持っている年端もいかない青年。
藍色の髪の毛、瞳は知性的な猫のような金色だ。
そう、彼こそが騎士で信仰する者が最も多い宗教団体の長。
剣神教の教祖、ソードス・レイピア・エイルである。
「教祖様、めぼしい者はおりましたか?」
「いいえ、非常に腕のたつ者がいても、
それは貴族位、王族といった方々で剣神教には納刀しないでしょう」
「やはり、平民や商人の子供で才ある者は中々いませんか」
剣神教はこうしたツルギ、騎士関係の行事には、
率先して参加を申し込んでいる。
それは優れた騎士の発掘やスカウトなど後々の利益を考えたモノ。
スカウトできないにしてもコネクションを作るのも理由の一つだ。
だが、彼らはアームがらみの行事には参加しない。
そういったモノは大地母神教の管轄であるが、
剣神教はツルギを持つ騎士を重要視していて、
剣とは異なる形状のアームを使う者を毛嫌いしているのだ。
「それにしても一年生の騎士は逃げてばかりで、
戦う気はないのでしょうか?教祖様」
「ああ、そうでしょうね。単純に戦力の差がありすぎて、
逃げて時間を稼ぐ算段でしょう」
「ああ、一年には第二王女がいますからね。
攻撃力のない無価値なツルギを持った出来損ないが」
周囲の取り巻きがクスクスと嘲りの笑いを静かに溢す、それを教祖のソードスがたしなめた。
「言葉を慎みなさい、ここは王族の管理する場所。
どこに目や耳があるか、わかりませんよ」
「あ、申し訳ありません!」
「いいえ、あなたの気持ちもわからない訳ではありませんから、
王族という民を導く者でありながら、
あのようなツルギを発現したとは、非常に許しがたい。
それにもかかわらずリリーシャ殿下は第二王女を放逐しない。
まったく、理解に苦しみます」
「そうですね、………ところで教祖様はどの学年が勝利するとお考えで?」
「順当にいって三年生でしょう。
ですが、勝ってほしいのは一年ですかね」
「え!一年?何故に一年の勝利を求めているのですか?」
「三年生の代表は連合の王子です。
連合は斬撃皇帝を欲してアルマニアに打診を続けています。
ならば彼が望むモノは自然と絞れてくる。
九割は斬撃皇帝の身柄を要求するでしょう」
「なんと!」 「まさか!」 「連合に斬撃皇帝を?」
どよめき、騒ぐ彼らを手を僅かに挙げて静める。
教祖は獲物を狙う鷹のような目で決闘祭を見ている。
呟いた言葉は神官が神へと祈るように、
賭博師が天に流れを任せるかのようだった。
「最低でも二年に勝利して欲しいのですが、
さて、どのようになるのやら?」
さて、そういった舞台裏の思惑など関係ない舞台上に話を移そう。
その頃、一年校舎では二年生が一年を追いかけていた。
一年は遠距離攻撃のできる者以外は戦闘に加わっていない。
そして二年が近づこうとすれば、一瞬で撤退に移行する。
どうやらまともに戦う気はないのだろう、
逃げる後輩を追いかける二年の中でリーダーとも言える男。
エゼルは漠然とした違和感を感じていた。
(逃げてばかりで正面から戦わないのか?)
古今東西戦略において逃げるということは、
戦場を変えるか、負けた時、もしくは罠を張るときだ。
そしてどういった可能性か判別しにくい。
「えーっと、皆、相手には気をつけてください。
相手が何も考えてないってことは無さそうですから」
「一年ボウズたちに警戒なんていらんでしょ。
心配しすぎですよ、エゼルさん」
「そーゆう油断が、ってもういいか。とりあえず気をつけるように」
逃げの一手しか打っていない一年を追いかけて、
とうとう、校舎の行き止まりに追い込んだ。
前後左右に逃げ場のない一年を倒そうとしたら、
突然、一年が姿を霞のように消してしまったのだ。
「……………いったい、どういうことなのやら?」
袋小路に入ると姿を消した一年たち。
理解の及ばない状況にこれは何者かのツルギによるモノと判断する。
エゼルは誰より早く冷静になるが、
周りの者はしばらく茫然としている。
するといきなり背後に現れたのは、
三年生に追われてこちらに向かってくる一年たちだった。
しかも不可解なことにその一年生たちは自分らが追いかけていた一年生だ。彼らは三年生と共にこっちに突進ともいうべき速度で進んでいる。こちらがツルギを構えていると一年生は姿をまた消した。
あとに残っているのは獲物を見失った三年生。
現状に測りかねている二年生とエゼル。
そして、ここに決闘祭最初の本格的な遭遇戦が開始するのだった。
「アリスタ、三年と二年を鉢合わせるんに成功したで」
「こちらに損耗はないようだ」
「そう、最初の遭遇戦を演出することはできたみたい」
「ああ、しばらくは静観の方向でいくんだったね。
でも、隙があれば漁夫の利を狙ってみるんだっけ?」
「ここでどんだけ削れるやろかね」
「慎重に攻めていく、少なくともここで絶対に損耗は出さない」
「「了解(や)」」
さて、決闘祭の最初の戦闘は一年校舎で始まった。
策略の一手目が後々にどのような影響を及ぼすのか。
一方で次なる戦場は二年校舎と三年校舎を繋ぐ吊り橋。
そこに陣取っているのはミコトに忠義を尽くす少女、クリア。
周りは学生服を着ているのに一人だけメイド服を着ている。
そして隣であくび混じりに立っているのは、
連合の第二王子デクリトルがそこにいた。
そこにやってくるのは鏡で映したようにそっくりな二人。
彼女らは重力を無視して鎖を自身の周囲に浮かばせている。
鎖は意志があるかのように二人の周りを滞空していた。
鎖は蛇が大地を這いまわるかのごとく空中で動いている。
彼女ら、三年生に対して口火を切ったのは、
素直な喜びを表現したデクリトルだった。
「よう、去年ぶりかね。
こうして戦場でそのツラを拝むのはよぉ。
予定じゃ、兄貴を仕留めてからあんたらってつもりだったんだが、
決闘祭最初の相手は、お前ら鎖のアーム使いか、まぁいいっか。
どちらにしろ。去年の雪辱を晴らしたくって仕方がねぇんだよ!」
「デクリトル様!その二人は………って話を聞いてください!」
「どうする、ジェイル?」 「どうしよう、チェーン?」
「「……………さっさと終わらせよっか」」
デクリトルは、かつて味わった屈辱を拭うべく双子に真っ向から挑む。
クリアはそんな彼を止めることに失敗して、
一方のジェイルとチェーンの双子は、
決闘祭を手早く終わらせようと二年生たちとの戦闘を開始する。
ここに吊り橋上の混戦開始。
さて、最後に栄光を手にする者は誰なのか。
決闘祭という名の舞台は序幕が開いたばかり、
そしてこの舞台は生きた舞台。
何が起こるのかは予測のできない代物。
さぁ、騎士たちよ。
己の目的、願いのために動き続けるがいい。
時を同じくして王宮内の立ち入りを禁じられた区画。
その奥の奥の奥、誰もが名を口にするのすら憚る場所。
永劫縛鎖の禁断牢獄内部にて。
「ふぬぬぬ、ぎぎぎぎぎぎぎぃぃ」
鎖の拘束から逃れるのを断念して、
必死で暴れまわり鎖に隙間を作ろうとする。
ここでアド・エデムは朝から休まずに暴れ続けているモノの、
鎖はうんともすんとも、びくとも言わない。
これは鎖が強いのか、鎖に込められた想いが強いのか、
はたまた両方なのか、悩んでしまうのだが。
そんなことはどうでもいい。
とりあえず動き続けて僅かな隙間さえできれば脱出できる。
そう自分を信じて単純作業を継続させる。
そうやって体を揺さぶって荒ぶり暴れているうちに、
なんで自分がここにいるのか考えてしまう。
なんでリリーシャ先輩は俺をここに戻したのやら。
いや、本当に訳わからん。
ちなみに読者の皆様は今話の始めの方で、
アドとリリーシャの会話を見ているが、それはリリーシャの視点だ。
それだけでは内容を理解しきれないため、
アドの視点でリリーシャとの会話を見直してみよう。
ーーアド視点ーー
SSS級のブレイドを倒して数日がたった頃だ。
街はお祭りムード一色で騒がしいこと、この上ない。
いや、別にこういうお祭りが嫌いなんて訳ではない。
むしろこういったお祭りは大好きな人間にカウントできる。
それでも俺のテンションが上がらないのには理由、原因がある。
それもこれも街のあちこちに斬撃皇帝と書かれた旗や壁があるのだ。
想像してくれ、自分の持ち物の名前が街の至るところにあるのを、
ぶっちゃけ俺は耐えきることができなんだ。
幽閉から解放されて久し振りのシャバの空気を楽しんでいたら、
こんな強制羞恥プレイを体験するなんて予想できるはずもない。
それに斬撃皇帝とだけ書かれているだけなら、
今はマシだが、もし俺が斬撃皇帝と知られればどうなることか。
アド・エデムと名前が町中に書かれる。
そんなことにでもなってしまえば、
俺はこの国で生きることが、いや社会的に抹殺される。
どうすればいいのかと頭をひねっていると、
目に入ったのは悠然とそびえ立つ王宮だ。
そうリリーシャ先輩に頼み込んでみよう。
こんな言い方はずるいのだろうが、先輩と後輩の仲だ。
なんとかほとぼりが冷めるまで安全な場所を紹介してもらおう。
罪悪感が胸をチクチクとうずかせるが、
この生き地獄から脱するため背に腹は代えられない。
なんとか王宮のリリーシャ先輩がよくいるテラスに到着する。
挨拶は大事な要素のひとつだ。
というわけで、まずは爽やかに挨拶をしてみる。
「やぁ、リリーシャ先輩、マキナ先輩。久しぶりです」
「リリーシャ様、英雄さんの登場です」
「あ、アド。……あなた、連絡してから来なさいっていったでしょ。
いくら英雄さんだからって私は一国の王女なのよ。
その辺りはしっかりしてもらわないと」
ごめんなさい、普通にダメ出しされてしまいました。
でも諦めてたまるかぁ!
……………………でも、謝っとかないと
「ああ、ごめんなさい。そこまで考えてなかった」
「アド・エデム、いきなり現れるとは無礼な、
あなたも貴族ならば、宮廷における最低限のマナーを覚えなさい。
まったく、あなたが救国の英雄とは、
世も末といったところかしら。
それとリリーシャ様は王族であることを肝に命じなさい。
下手をすれば無礼討ちすらありえますよ」
「はぁ、それでどうしたの?ここまで来たんだから、
急ぎの用事ってわけなんでしょう。いったいどうしたの?」
言いにくいんだよなぁ、だってようするに今回のお願いって、
ヒキコモリ、ニート、またはヒモにしてくださいって、
頼み込むようなもんだからなぁ。
ああ、言い出しにくいよーーーー。
ふぅ、男は度胸だーー!!
「誰にも会わずに、隔離された場所はないかな?」
「…………どういうこと?」
「そのままの意味だよ。
俺がしばらく静かに籠っていられる場所はない?」
心なしかリリーシャ先輩もマキナ先輩も顔色が変わった気がする。
…………………………………やっぱり、ダメですかね。
いや、せめてこのお祭り騒ぎのほとぼりが冷ますために、
どこかに隠れる場所を恵んでください!
いやもう、本当にお願いしますよ~切実に、
だって俺が斬撃皇帝って、
剣神教の教祖さんは知ってるじゃないですかーー。
あの人やけに俺を勧誘してくるけど、
元日本人からすれば宗教ってどれも胡散臭いんだよなぁ。
ってか、あの教祖さん。冗談かもしれないけど、
SSS級討伐の記念に俺の像を作るっていってたけど、まさか本気じゃないよね。 …………………このままじゃマジでヤバイ、それに他にも名前がバレて、プライベートが暴露なんてことにもなりかねなさそうなんだけど。
事は一刻を争うのですよ!だからお願いします!
「アド、それでいいの?あなたは英雄になったのよ。
もう監獄に囚われることなく、自由に外を歩くこともできるのに、
それに学園の後輩も同級生も先輩も先生も見返せる、
英雄として生きられるのに、本当にいいの?」
…………………え?マジで?この流れはオッケーってこと?
それなら迷いなんかない!
よっしゃぁぁ、夢のグータラ生活が俺を待ってるぜ!!
「うん、迷わない。だって、もうとっくに決めたから」
「わかった、以後のことは追って連絡するわ。
ご家族のことも心配しないで王家で責任を持って保護するわ」
ん?家族も?家族と一緒にどこかに行くのかな?
まぁお礼はきちんとしておかないと。
「え?……………あ、ありがとう。リリーシャ先輩」
「……ちょっと、アド、何よ。
その反応はあなたの家族のことを何もフォローしないほど、
私が冷酷非道に見えていたの?」
いやいや、そんなことはありませんって。
むしろあなたの背中から後光が見えるくらいです。
いや、本当にリリーシャ先輩。マジ女神!
ありがたや~ありがたや~。
「アド、大丈夫。いつかきっと、あなたを救ってみせる」
へっ?いやいや、リリーシャ先輩にはもう救われてますって、
その言葉に違和感を覚えていたのに聞き返さなかったのを、
今の俺はものすご~く後悔している。
まさか牢獄に突っ込んで真人間にしようなんて、
まぁ、自分の国の王族に『ニートになりたい』なんて言えば、
普通は一蹴されるか、不敬罪で処刑されるだろう。
むしろ首を物理的に斬られなくてよかったと思うべきだ。
そうして俺は牢獄で生活する運びとなった。
まぁ牢獄生活に不満はない、
環境は眉をしかめる所もあるが、美人の双子に、
可愛い後輩の一人が遊びに来てくれる。
でも娯楽がないのは、いただけない。
それだから決闘祭を観に行きたくなってしまったのだ。
だから、俺は悪くな~い。…………よし!理論武装完了!
このペースなら後少しで鎖に隙間を作れる。
そうすれば脱出可能。よーし、頑張るぞーーー!!
「ん、だらぁぁぁぁぁ!」
王宮に響く悲しみを帯びた叫び。(本質はただの掛け声)
この近くの区画で働く騎士たちはここらに集まり、
侍女たちはこれを井戸端会議の肴とする。
ちなみにこの時の絶叫が、のちの王宮で怪談話になってしまうことを、
彼は知るよしもない。というか知れるわけもない。
騎士記録
リリーシャ・アルマニア・ブリエスタ
破壊力 A
防御力 S
機動力 S
技術値 S
特殊性 A
アルマニア王国の現女王でアド・エデムに恋心を持っている。
学園時代にアドのおかげでアリスタとの仲を改善している。
騎士のスペックはどれもとても高い平均で、
対人戦闘に経験が偏っているが、かなりの手練れだ。
そして戦闘では不可視の攻撃を行い、相手を圧倒する。
生半可な実力のモノでは彼女の前に立つことすらできない。
マキナ・ジーン・デウスエクス
破壊力 C~S
防御力 C~S
機動力 C~S
技術値 A
特殊性 S
リリーシャの側付きの侍女であり、
現在は《王宮で最強のメイド》と呼ばれている。
そして彼女のツルギは能力を切り替えることが可能という、
非常に珍しいツルギである。
その能力は必殺攻撃、完全防御、絶対回避を発現するというモノ。
しかし、一回にどれか一つしか使うことしかできず、
同時に能力を使うことができない。
それでも対人、対ブレイドの戦闘経験を重ねた女傑である。