ーーSideアド・エデムーー
地の底、ひび割れた壁の隙間から僅かな光が射し込む牢獄の中。そこにいた黒髪の青年はもがくことをやめる。朝からの数時間に及ぶ抵抗によって双子の強い想いの込められた鎖は僅かに緩んだ、その緩みは常人には何の意味を持たないだろう。だが、それが常人ではないのなら?それは不可能を破りさる突破口になる。黒髪の青年は今まで何人もの抵抗を無に帰した拘束という特性を持つ鎖から、何の能力も使わずに逃れるという偉業を成し遂げたのだ。
「ふぅ……………ようやく鎖が外れた。それじゃあ、飛び入り参加と洒落こもうかな」
牢獄から、外へと続く階段を上る。束縛されて鈍った体を馴らしながら、体のエンジンに火を灯す。自由の喜びを叫ぶように体内からパキパキと、軽やかな音が出る。そうしてゆっくりと階段を登っていく。およそ五分程度で牢獄から、王宮の一角に通じる扉に達する。首をコキコキと鳴らし、両手を握ったり開いたりして準備は出来たとばかりに笑みを浮かべる。同時に頭の中で、このまま城の壁を越えて学園の外れに乗り込もうと簡易な計画を立て終わった。牢獄周辺は普段から警備が薄い、なおかつ今日は決闘祭というイベントがある。王女の護衛のため城内の人は少なくなっているだろう。簡単に脱獄後の計画を立て、狭く暗い監獄から外へ。
「……それじゃっ、行ってきまーす!」
牢獄に別れを告げる言葉と共に、扉を両手で押して外の世界に踏み出した。……そうして外へ飛び出た彼を最初に歓迎したのは、自由な世界の全てだった。太陽の体の内部に溜まるような日の光、頬を撫でる優しい風、密閉された牢獄とは違うなんか…………体育会系の部室のような匂い、…最後にこちらに向かって多種多様なツルギを構え悪鬼の相貌でこちらを睨む歴戦の騎士(ガチムチ)集団だった。………………扉を閉めてUターンしたくなる心を理性と意思で抑え、己の魂から絞り出すように言葉を発した。
「チェンジで」
ーーSideジェイル、チェーンーー
最初に気づいたのは、いやわかったのはこの双子だった。自分たち二人の力と想いを籠めた鎖は通常のそれとは一線を画するはずのモノだった。例え自分たちが近くにいなくとも、対象を完璧に封じることが可能だと確信していた。だというのに、自分たちの鎖から標的から逃れる感触を感じた。そうこの瞬間に至上最強のツルギの担い手たる斬撃皇帝、アド・エデムが解き放たれたことを誰よりも先に双子は理解したのだ。
「そんなっ!」
「うそっ!」
眼前に敵がいることなど忘れてジェイルとチェーンの二人は、牢獄がある方向に体ごと目を向ける。そんな中、ジェイルとチェーンと戦っているクリアとデクリトルは双子が作ったあからさまな隙を突くか迷っていた。クリアは主であるミコトの射線に入らないよう水の弾丸を生成して待機する。デクリトルは先程自分が鎖に囚われた事実に怒りを覚える、同時に取り乱したような二人を怪訝な眼差しで見ていた。
「へいへい、あいつらどうしたんかね?クリアちゃんよう」
「さぁ、油断か慢心か、はたまた罠の類いなのやら。どうとでもとれますね。それより現状ここで足止めして、お嬢さまの狙撃を命中させなければ」
「あいよって………おい、あの双子なんか様子がおかしくねぇか?」
「んっ?ああ、確かに様子が変ですね。ですがここで獄卒の双子を倒さねば決闘祭の大局は予測しきれなくなります。ここで決着といきましょう!」
クリアとデクリトルはここでジェイルとチェーンたちを仕留めんと意気を充填させて、ツルギを構える。そうしたクリアたちの行動にジェイルたちは何とも思っていない。双子は鎖を伸ばして、大きくしならせる。その目的は学園の外へ行って、牢獄でアドを拘束することにあった。双子の束縛の鎖を逃れうる者などアド・エデムをおいて他にいない。しかし、アド・エデムが脱獄するなど、よっぽどのことがない限りありえない。そして今回はそのよっぽどが起きたのかと心配になるのも無理はないだろう、あとはアド・エデムに対する執着によるものが大きい。
「ねぇ、ジェイル。こんなとこにいる暇なんてないよね」
「そうだね、チェーン。時間がもったいないよ」
「「舐めるな!!」」
自分たちを侮る発言に否を一喝するクリアたち。と同時に焔の砲弾が吊り橋に落下した。狙いは外すことなく双子に直撃した……ように見えた。彼女たちは鎖を回転させることによって焔の砲弾を消しはらった。端から見れば鎖の速度が先程よりも、さらに加速しているのがわかる。振るわれた速度により発生した余波にすぎない衝撃波がもはや攻撃と呼べる脅威へと変貌する。
「まさか、まだ底を見せていないというのですか?」
「…………クリアちゃん。あいつらは俺が倒すぜ」
クリアはジェイルとチェーンの底知れぬ力を畏れ、デクリトルはそんな双子に対して恐怖を噛みしめながらも、強がりとわかる壮絶な笑みを浮かべてツルギを構え直す。そうしなければ心が折れてしまうと本能で理解しているのだ。そんな二人(障害)をジェイルとチェーンは面倒くさそうに眺める。
「退いてくれないかなぁ、今、あなたたちにかまっている暇はないんだ」
「……ねぇ、ジェイル。こんなことよりアドはだいじょうぶかな?」
「大丈夫だよ、アドはきっと無事だと思う。それでも何でアドが逃げたのかな?まずはアドのところに行って、話を聞きに行こう。話を聞いたらアドをいっぱい叱らないとね」
「そうだね、大人しくって約束を勝手に破ったアドにお説教しなきゃ」
「うん、いっぱい、いーっぱい怒ってさ。たくさん、たくさーん封じてあげようね。……………一生逃げるなんて考えないように」
「そうそう、絶対、絶対に逃がさないんだから」
「……なぁーに、無視してんだ。こらぁぁ!!」
デクリトルは雷速で二人に接敵する。50メートルの距離を一秒と待たず突破しようとする。それは一瞬の出来事、接近した瞬きの時間に雷速を越える視認できないほどの速度で鎖が、デクリトルをがんじがらめにする。まるで先程の攻防はお遊びと言わんばかりに、あっさりとデクリトルの身体を縛った。この場合デクリトルが弱かったのではなく、鎖のアームが強すぎたのだ。この場合、強すぎるというのは、攻撃力を指しているのではない。ジェイルとチェーンのアームは攻撃力が平均より低い、だが、それを補って余りある一点特化の特殊能力を保有するのだ。彼女たちは代々、王宮の内部に存在する牢獄の守り手という役職を継いできた。王宮内部の牢獄は王族に関係し王家に不利な事態を起こす者を隠しておくための場所にして、国家に危険を及ぼしかねないツルギ(能力)の騎士を封印する役目を持っている。ジェイルとチェーンは歴代最年少で、その役目を許可された天才だ。そんな彼女らの鎖はどんな騎士であろうと拘束する絶対縛鎖の具現。捕まれば脱走不可能の怪物染みた鎖。
「ガァっ…………ってえぇ。ってめぇら………手ぇ抜いて…やがった……のか」
鎖が全身を軋ませ体を潰さんばかりに、ミシリミシリとデクリトルを縛る。拘束する力が強いのか体を潰し、肺を膨らませることが出来ないため、呼吸すらまともに取ることを許さない。意識を保とうと努力することすら出来なくなる。デクリトルが最後に見たのは、自分など目もくれず歯牙にもかけない無表情な二人の少女たちだった。
「デクリトルさま!」
ジェイルはデクリトルを掴んでいた鎖でデクリトルを適当に放り投げた。クリアは限界まで心身を緊張させた状態で、吊り橋の下の川に落とされたデクリトルに大声で呼び掛ける。助けようとするも、さっきのデクリトルを軽くあしらった場面を見て、双子から一瞬たりとも目を背けることが出来ない。そんな絶体絶命の窮地でクリアのもとに更なるピンチがやって来る。
「あれはまがいなりにも我が愚弟なのだ。多少は加減してくれまいか、縛鎖の双蛇よ」
「その名前で呼ばないで、次に言ったら………怒るよ」
三年のリーダーであるカイルの発言にジェイルが不満をにじませ一言もの申す。周りの取り巻きたちがジェイルの不遜な物言いに文句を吐こうとする。しかし、ジェイルの発言の最後の一言はトーンが下がっていて、数々の命の危険を味わってきたカイル程の実力者をして背筋を凍らせるほどの威圧を感じさせた、そんな威圧に大した実力を持たない有象無象が意識を保てる道理はない。取り巻きの者たちは活躍と呼べる活躍をしないまま、決闘祭から退場した。カイルはそんな取り巻きたちを呆れ、疲れてしまい放置する。ちなみにジェイルとチェーンはその話をした時、眼に光を映していなかった。(ハイライトを無くしていた)
「あと、ちゃんと殺さないように加減したよ、というか、急ぎの用事が出来たんだ。ここ、任せたから。……ジェイル、行こう」
吊り橋を抜けて目指すのは二年校舎、その目的はミコトでも決闘祭における栄光でもない。現地点でもっとも近い学園の出口が二年校舎の向こうにあるからだ。ジェイル、チェーンは吊り橋から近くの外灯を鎖で掴んで蜘蛛のような移動法で高速で移動していく。彼女らはただ、アドを拘束するため決闘祭のことごとくを無視して王宮方面に向かう。そして彼女らは知らない、双子の目的であるアド・エデムが決闘祭の会場である学園に来ようとしていることを。
ーーSideカイルーー
「ふぅ、まさかまだ手加減していたとは底知れぬ二人だ。ますます、我が国に欲しい人材だ。どうだ、ジェイル、チェーン殿、望むモノを何でも用意しよう。我が国でその鎖をふるっ………」
カイルの言葉に耳を傾けることなく、ジェイルとチェーンはさっさと吊り橋を通過しようとした。それを大人しくクリアが逃すはずはない。足止めをしようと、挑発的に双子を引き留めようとする。
「待ちなさい。私がそれを見逃すと?…………………っ!」
クリアはジェイルとチェーンを阻もうとするが、双子の苛立ちの篭った眼の奥を見た瞬間、言葉が出てこなくなる。のどが干上がり、恐怖で体が痙攣を起こす。一方、カイルは無視されたことにも、双子のもはや殺意と言っても信じられるレベルの覇気にも大した感慨も持たず、メイドのクリアと対峙する。
「それではメイドよ、俺もそこの道を通りたいが大人しく道を開けてくれるか?さすればお互い余計な時間を使わずに済む。それに今のお前は恐怖に呑まれている、それでは我と勝負にすらならん」
「…………それでも、退けない理由があるのです」
「成る程、先の双子の眼光で逃げても誰も責めはしないというのに、逃げなかったのは主への忠のためか?」
「……そうです、この忠誠こそ私の唯一の誇り。これだけは譲れないのです!」
「見事、見事とだけ言っておこう。それ以外の言葉は無粋である」
「ここで倒れてもらいます。カイル殿!」
「ああ、来るが……むっ!」
戦う前に多少、会話をしているとカイル目掛けて焔が発射された。カイルは周囲に転がっている取り巻きたちを庇うため、焔はツルギを使って空中に受け流す。焔の砲弾の軌道、熱の効果範囲、どの方向に受け流せば損傷せずに済むかを、カイルはコンマ数秒の時間で正確に計算しきった、それはもはや未来予知の領域に踏み込んだと断言できる。炎の砲弾が高質量とはいえ、実体が存在しない現象をツルギで受け流すということが、どれほどの絶技を用いたのかを理解したクリアは戦慄した。そしてカイルは遠距離から炎を放った者がミコトであることを理解すると笑みを深め、味方である取り巻きたちを巻き込まないため、邪魔なため下の川に突き落とし漸く戦闘体勢に入る。結局のところ彼らが戦うのは、たった一つの譲れないシンプルな理由のため。クリア、ミコトのタッグとカイルの戦闘が幕を開けた。
ーーSideミコトーー
「っち!双子には抜けられたか」
あわよくばカイル共々、吊り橋上で仕留めるつもりだったが計画通りに、ことが進まないのは戦場の常。二年校舎に向かって来る双子と吊り橋上のカイル。どちらを倒すべきか脳内の天秤がリスクとリターンを秤にかける。
「いや、ここで勝負を決める」
クリアの援護をしてカイルを仕留めることを決定したミコト。凄まじい熱量を秘めたツルギを構え、眼下のカイルに狙いを定める。焔を一発放てば次の発射まで十五秒のチャージ(充填)を余儀なくされる。しかし、それは威力重視の一発である場合、量を重視して一発一発の威力を下げる代わりにマシンガンのような連続射撃でカイルを押し切ることを決めたミコト。そんな覚悟を決めた彼女の耳に雑音が入る。なんと、それは普段は静寂な雰囲気を持つ王宮からだった。
ズドーン、ガガガガガ、キーン、シャシャシャ、様々で猥雑な音が王宮から学園に聞こえてくる。騎士であるミコトは、すぐにこの乱雑な音響が騎士のツルギによるものだと察知する。
「学園で行っている決闘祭にあてられて、訓練に熱が入っているのか?まったくやかましい、もう少し品よくできないものか?」
ミコトは王宮で行われている騎士たちの戦闘を訓練と勘違いして嘆息する。実際は逃走中のアドを捕まえようとしているのだが、彼女もまさかアド・エデムが脱走したなど知れるはずもない。アドのことに気づかぬまま戦闘に集中し、カイルに焔の照準を合わせた。ジェイルとチェーンたちは接近してから仕留めることにし、ミコトはツルギから焔の弾丸を吊り橋目掛け、ばらまいてカイルを吊り橋で打ち倒さんとツルギから焔を射つ。………………アドが自由の身になったことには欠片も気づかぬまま。
ーーSideリリーシャーー
現在、リリーシャとマキナの二人が観覧しているのは一年校舎の戦闘。最初は逃げてばかりだった一年生だが、二年と三年を鉢合わせることで上級生をあらかた仕留めたのだ。まさか全体的に能力、経験で劣る一年がここまで大判狂わせをするとは、決闘祭を俯瞰している観客の誰も想像できなかっただろう。リリーシャはまさかの戦功を挙げた一年たちを見て美しい相貌を緩ませる。それとは反対に傍にいる侍女のマキナは、この結果に不服があるのか厳しい面持ちになっている。それに気づいたリリーシャはマキナに対し、何が不安なのかと問いかける。
「そんな暗い顔でどうしたの?…………もしかして一年が心配なの?」
「はい、失礼ながら一年生は早々に退場する可能性が出てきました。残念ですが………アリスタさまの策が外れてしまったのかと」
「ああ、まさかあそこで戦闘継続するほど、相手が無能とは思わなかったでしょう。確かにアリスタはこっそりと裏から操るって方針だったんだろうけど、これじゃあ警戒されてしまうのは確定ね」
「はい、…………そこまでわかっていて、何故にリリーシャさまは落ち着いていられるのですか?」
「今の二年と三年を見てみなさい。二年のトップのミコトは三年トップのカイルに手一杯で、一年のことを考えてないでしょう。アリスタたちはエゼルが率いる二年の残党を倒しに向かっている。あとはスピードが勝負、エゼルたちを速く撃破して二年、三年の漁夫の利を得ること。これが一年が唯一勝利できる方法よ」
「間に合うでしょうか?」
「…間に合わせるでしょう、アリスタはそのために行動している。あと必要なのは、計画を遂げるための運じゃないかしら?」
「…………最後は運ですか」
「万難万事で最後の決め手になるのは運でしょ」
侍女のマキナが疲れたように肩を落とす。それを主であるリリーシャは面白がっているのが、一目でわかるほどの笑顔で椅子に座する。するとそんな主従の歓談を阻むように部屋の隅っこに置いてあった水晶がピカピカと点滅する。これは遠距離に音声を伝える剣結晶で世界中の主な通信手段として扱われている。その通信機である結晶が点滅したということは王宮から連絡があることを示している。決闘祭の最中に王女であるリリーシャへ連絡をしてくるということが、どれほど緊急事態を示すのか理解したマキナは結晶に手を当てる。すると結晶の点滅が終わり透明な結晶が蒼く染まる。
「何事ですか?……はっ?!……まさか…あり得ません。……それが本当なら………はい……私も急ぎ、そちらに合流します」
「何があったの?」
「………………アド・エデムが脱走しました」
「……え!?……何でアドが脱走するの!」
「現状では不明です。何でも朝から永劫牢獄で叫び声が聞こえて、城内警備をしていた騎士たちが牢獄の前で警戒をしていたら、アドが脱走したとのことです。現在アドは城内を逃げ回っています」
「………アドが牢獄を出るなんて、とりあえず大至急アドを確保して!………それとジェイルとチェーンたちを急ぎ呼んで来て」
「ジェイルとチェーンは既に王宮方面に向かっています。そもそも、アドに掛けた鎖は彼女らのモノ、最初に気づくのは当然というところですね。それで私たちはどうしましょうか?」
「…………絶対に、アドの脱走のことは隠しておいて。剣神教や貴族の奴らに知られると厄介なことになる、急ぎアドを捕獲して何故に脱走を図ったのか聞かないと。……………まったく…アドってば、いつだって自分一人で抱え込むんだから」
「城内ではアドを捕獲しようと本日、城の警備をしていた者たちが追いかけています。私も大至急、アドを追いかけている騎士たちに合流するので、リリーシャさまはここでお待ちを」
勘違いしているようだが、アド・エデムは決闘祭の野次馬をするために脱獄したにすぎない。リリーシャ、マキナが思うような国の一大事に関わろうなんて考えは一切なく、今回の脱獄はアド・エデムの単なるバカらしい思いつきだ。リリーシャとマキナに城内の騎士たちが、そんなバカらしい思いつきに振り回された事実を知るのは、決闘祭を終えてアドを捕まえた後の話。
ーーSideアド・エデムーー
「「「「「「「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」」」」
「ぜったいに、いやだぁぁぁぁぁ!!」
豪華絢爛な城内を駆けずり回るアド・エデムと騎士(マッスル)の集団。せっかくの芸術的で華麗な城の雰囲気も暑苦しい男たちのせいで、地獄絵図に早変わり。彼らはアド・エデムを捕らえようとしているだけなのだろうが、本人からすれば捕獲されたらムキムキにウホッなことをされるのではと強迫観念に襲われる。普通に女性が好きなアド・エデムは筋肉の集団から逃げの一手を打つ。
アドは死にものぐるいで城内を逃げ続ける。無論、騎士(マッチョ)たちもツルギを使って炎、氷、風、岩石など多種多様な攻撃を放つが、尋常ならざる技術を扱えるアドは一発、一発を予測しきり回避に成功。逆に攻撃の余波を用いて自分の加速に利用する。………ついでにこの攻撃の流れ弾によって損壊した城の品々は騎士団の給与、30パーセントカットという悲劇をもって、あがなわれることになるのを彼らは後々痛感することとなる。
「くっそ!一発も当たりゃしねぇ!」
「なら、逃げ場を作らずに囲め、囲め!」
「おい、城に置いてある壺とか保証効くよなぁ!」
「あいつを捕まえなきゃ、話にならん!絶対に捕獲しろぉぉぉ」
脱走者(バカ)を捕まえようとする漢たち。アドは何故、彼らが牢獄前にいたのか、疑問に思っていた。当人は、牢獄内で力んで叫んだことが直接の原因だとわかっていないようだ。牢獄から外に聞こえるほどの声、警戒して当然といったところ。アドは騎士たちから逃げ続ける。すると前方にメイドの集団が現れる、アドはほおをひきつらせて静かに笑った。それはなんでか?普段の彼だったら、眼福と喜んで観賞するはず。それをしない理由はたった一つ、メイドが持っているものは後方の騎士たち同様、騎士の象徴である異能を発現するための媒介、つまるところツルギを手にしていたからに他ならない。前門の虎、後門の蛇?いや、前門の華、後門の漢と表現すべきだ。
「これはまずいねぇ」
苦笑いをしてアドは立ち止まった。同時に騎士とメイドの塊も停止する。騎士たちはアドが自身のツルギである斬撃皇帝を発動させないように隙を伺って一瞬で仕留めようとする。メイドたちも男の動きに合わせようと試みる。現時点でアドが所有するのは自分の服と、牢獄に入る前から使っていた愛用のナイフのみ。(没収されたナイフにアドの私物は牢獄内部に保管されていた)
膠着状態の緊張に耐えきれなくなった騎士の一人が油断したように見えるアドの懐へ一瞬で潜り込む。(アド・エデムは普段から脱力しきっているので、常時油断しているように見える)他者から見れば油断した敵の虚を突いたように見える行動。しかし、それはこの場においては下策だった。接近した騎士の運動エネルギーを、アドは利用する。地力では、この城内の騎士とメイドの集団一人、一人が上回っているだろう。そんな彼ら、彼女らから逃げるなど、並みの騎士では不可能。だが、斬撃皇帝の担い手アド・エデムならば、不可能ではない。彼の技術のレベルはS評価(最上級)だ。小手先の技と工夫を使って、この状況を打破するなど造作もない。突っ込んでくる騎士の肩に手をのせて、そこを起点にして跳躍。人間を越える身体能力を有する騎士の動体視力すら惑わして、刹那の間に追跡者を振り切る。跳躍したアドが着地したのは、学園に近い城壁の上。壁を降りて城から脱出したアドは、学園内部に侵入するため学園の方向に向かった。こうして斬撃皇帝アド・エデム、脱獄成功、牢獄から出ていった彼が進むのは決闘祭の行われているアルマニア国立学園。
アド・エデムが決闘祭に参戦することによって、舞台はどのような模様となるのか?決闘祭は中盤戦に突入し始めた。
ツルギ図鑑
律法の拘束者(ロウ・バインダー)
所有者 ジェイル・ロック・シルドヴァ
チェーン・ロック・シルドヴァ
形状 鎖
備考
通常、個々人で異なる異能力、アームが双子とはいえ、同一の形状になるという奇跡的なアーム。稀少性から見ても非常に凄いが、その能力である対象の拘束は鎖の恐ろしいまでの強度から成り立つ。一度でも拘束すれば、対象の力を計り対象を完全に行動不能にするまで、鎖の強度を上げていく。
自己強化型のアームで斬撃皇帝と似通った部分がある。
対象の基礎能力が強ければ強いほど、脱出は困難になる。
逆に対象の基礎能力値が低ければ、脱出の可能性は多少出てくる。
拘束という能力上、攻撃値が低いが捕縛されれば、
強力な締め付けで意識を持っていかれる。
その姿からジェイルとチェーンは縛鎖の双蛇と呼ばれる。
本人たちはまったく気に入っていないようだ。
斬撃皇帝の担い手アド・エデムに対して並々ならぬ執着を持つため、アド・エデム拘束時には通常より強固になる。
鎖の強度は拘束対象に対して、思い入れの大小で明確に異なる。