Angel Beats!―The repeated heaven― 作:いさか
》対天使用作戦本部(校長室)
「――集まった?」
午後六時を指す、少し前。
他のメンバーたちと同様、SSSの制服に身を包んだ俺は、主要メンバーたちと共に作戦本部へと集合していた。朝は姿の見えなかった岩沢も、エレキを背負って顔を出していた。
部屋の中は暗い。窓のカーテンが閉められているためだ。投影機からは、学園大食堂周辺の地図が、スクリーンへと映し出されている。
ベレー帽を深くかぶったゆりが、元は校長のものだと思われる椅子に腰かけて、良く通る声で宣言した。
「只今より、作戦名『オペレーション・トルネード』を遂行する!」
おお、と周囲から声が漏れた。
「こいつはでかいのが来たな」
松下五段が呟く。そういや、前回も結局、俺は一度きりしかあの作戦に参加していない。
「音無くんは、この作戦もやったことがあるのよね?」
「ああ」
「それじゃあ、詳しく説明する必要はないわね。これ、受け取って」
言うや否や、ゆりはハンドガンを寄越してきた。突然のことに落としそうになりながら、何とかそれを腕で受け止める。
「音無くんは、第二連絡橋での監視をお願いするわ。もし天使が現れたら、とりあえず足でも撃っておきなさい」
確か、そうすれば追って来なくなる……とかだったような。
「皆はどう? 準備は?」
「聞かれる前から万端だぜ、ゆりっぺ!」
メンバーたちは既に、各々の武器を携帯していた。ここでいう武器は、銃器が大多数だ。野田ですら、物騒なマシンガンをその手に抱えている。
「なら大丈夫ね。……岩沢さん、今晩もよろしく」
「ああ、任しとけ」
頼りがいのある言葉だ。ガルデモの陽動は、前回の時も効果を最大限に発揮していた。彼女の瞳からは、その自信が溢れんばかりのように見える。
「作戦開始時刻は18:30。オペレーション、スタート‼」
***
私はカレンダーを確認して、はあ、とため息をついた。
何回、こうして確認したんだろう……。
結局私がイレギュラーな行為に出たとしても、全ての結果――それは何一つ、変わらない。
変わらなければ、私はまたこうやって、カレンダーの日付を確認することになる。
「今日、ね……」
憂鬱な気分のまま、私は自室のPCに電源を入れた。
そしてわたしは、あるソフトを起動させる。
ソフトが起動すると、私はただの機械のように、カタカタとキーボードを叩く。
本当は嫌なのに。
やりたくない。だけど、このままにさせておく訳にも……いかない。
それは私にとって苦渋の選択で、それでいてエンターキーを押すのに一秒と躊躇わないような、矛盾したことではあるけれど。
「……ガードスキル:
刹那、私の隣に、一体の分身が現れた。
その容姿は限りなく私に近い。けれど、その瞳は透き通る赤みを帯びている。
アグレッシブな性格――特に
彼女は真っ白な後ろ髪を自由に揺らして、私の部屋を去って行った。
「…………結弦」
無意識のうちに、呟いてしまった。
「……ごめんなさい」
***
》第二連絡橋
学園大食堂から、アップテンポなメロディーとNPCたちの大歓声がこちらまで流れてきていた。
俺は学園内を繋ぐ通路の端――連絡橋の隅で、ハンドガンを片手にぼんやりと突っ立っていた。
正直な所、こんな銃は必要ない。俺は奏の状況を知っている。俺なら、奏に適切に接触できるという絶対的な自信があった。
「そうだ、使いどころなんかねえよ、こんなもん……」
…………足音。
橋の向こう側からだ。――間違いなく、奏だろう。
足音が近づくにつれ、徐々にシルエットが露わになる。小柄な体躯に、ストレートのロング。NPCと同じ制服を着て、こちらにやってくる。
だが。
街灯にその顔が照らされた時、俺は言葉を失った。
「…………嘘、だろ?」
そこにいたのは間違いなく――天使だった。
奏じゃない、天使だ。そう断言できるのは、彼女にある「特徴」があるからだ。
「赤い瞳……お前は確か、分身した時の――」
「アタックスキル:
「な――」
手の内にあったはずのハンドガンが、天使の手から放出された空気の刃で、木端微塵となって霧散する。その破片は俺の腕に、まんべんなく襲った。
「いってええええええ⁉」
細かな金属片が、いくつも突き刺さっている。血が、見る間に溢れ出してきた。
……ヤバい。逃げろ。
俺は本能的にそう悟って、天使へ背中を向けて、メンバーたちがいる学園大食堂を目がけ、走り出した。
振り返る。天使は歩いて追ってくる。
駄目だ。あいつは……奏じゃない。つうか何なんだよ、アタックスキルって。
「ガードスキルじゃなかったのかよ……っ!」
本能的な恐怖を感じた。燃えるように熱い右腕を押さえながら、やっとのことで学園大食堂の入り口付近に到達する。
「大丈夫か、新入り!」
藤巻が真っ先に俺を見つけ、残りのメンバーたちも俺の元へと駆け寄ってくる。
「どうしたんだ、この傷は? 天使にやられたか?」
ランチャーを担いだ松下五段が訊く。
「ああ……注意しろ、奴は普段の天使じゃねえ」
「何寝ぼけてるのか知らねえが、引っ込んでろ新入り。後は俺たちがやる」
「任せとけ、音無!」
「please leave us」
メンバーたちは横一列に、俺の壁になるようにして前へと進み出た。
大食堂玄関部分から観察していた大山が叫ぶ。
「天使はまだ何も発動させていないよ! 狙うなら今だ!」
日向が号令をかけた。
「撃てっ‼」
度重なる銃声。銃口から放たれる弾の行く先は、天使の身体、ただそれの一点のみだ。
一斉に行われる過重攻撃。だがそれも――
「何故当たらない⁉ 奴はまだ何も発動させてないんじゃなかったのか⁉」
「いや、何かスキルを使っているようだ。彼女の前方、さっきから空を切る音がしきりに聞こえる」
俺はその様子を見て気付く。さっきのスキルを未だに使っている……確か、エアソニックとか言ったか。
「気を付けろ! そいつは攻撃型のスキルを使う天使だ! 空気で物を切り裂くスキルで、俺のハンドガンを破壊したんだ!」
「何⁉ 空気だと?」
「待って、天使が何か発動させようとしてるよ!」
大山が叫んだ。
「アタックスキル:
瞬時に天使の姿が消える。
「おい、消えたぞ――」
誰かがそう叫んだ瞬間。
俺の前にあった、戦線メンバーの壁が跡形もなくなった。
「――は」
最後に見えたのは。
「アタックスキル:
「ぶはっ――――」
大量の血液が、口の中から飛び出した。
「あ……」
俺の身体の四方八方から、剣先が飛び出し、べっとりとした血で染め上がっているのを目視した。
激痛と、煮えたぎるような熱さを全身に感じて――俺の意識は、消え入るようにしてなくなっていった。