Angel Beats!―The repeated heaven― 作:いさか
》医局(閉鎖中)
「……ん……」
視界に入ってきたのは、俺にとっては既に見慣れている天井――そして俺はすぐに、自分が今居るここは、保健室のベッドの上であることを悟った。
「あ、起きた?」
聞きなれた声が耳に届く。ゆりが、俺のベッドの傍らまで歩み寄ってきた。どうやらゆりは、他の気絶しているメンバーたちの様子を見るため、保健室で過ごしているらしかった。
「ゆり……? どうして、ここに?」
「どうしてって、怪我した貴方たちが心配だからよ。ほっとけば元通りなのは百も承知だけど――今回はやられ方も悲惨だったし。音無くん、貴方自分がどうなってたか覚えてる?」
「いや……とにかく痛かったことぐらいしか……」
ゆりは、それも仕方ないかとため息をついてから言った。
「天使に八つ裂きにされたわよ。私は直接見ていないんだけど、凄いアグレッシブだったって言うじゃない? ……普通だったら有り得ないことよ。それが、今日に限って……」
ゆりの言葉から、やはり俺の推測は間違っていななかったことを再確認する。この世界のゆりたちにとっても、あの赤目の天使はイレギュラー的存在であり、対応することができなかったと。
俺が学園大食堂の玄関付近に逃れてきた時も、銃を持ったメンバーたちが、いまいち俺の話を信用しようとしなかったことからも、俺は――この可能性が高いと思っていたのだ。
「お前らにとっての『天使』は、本来あいつじゃないってことだな?」
「――気になる言い方ね。じゃあ音無くんにとってはどうなの?」
「勿論、あれは本来の天使じゃない。この世界でどうなのかは知らないが、俺は一応、奴の正体を知っている。だが、俺は自分からそれを言うつもりはない」
これは、ゆりにお願いされたことでもあるからだ。全てを知っている俺が答えをぺらぺらと口にすれば、それはゆりたちにとって面白いことではないだろう。まあ、俺の知っている事実が、この世界における事実と一致しているかどうかは――分からないが。
「……そうね、そうしてもらう方がありがたいわ。今回のことは私たちだけで解決する。でも音無くん、貴方の力を借りなければならないかもしれない。その時は、協力してくれるかしら?」
ゆりは、横髪をサラリと撫でながら問うた。その仕草は大変可愛らしく、また大人っぽくもある。俺は彼女の瞳に映る俺自身を見つめながら、まだ痛む右手を押さえて、健気に笑ってみせる。
「ああ」
「よろしく頼むわ。それじゃ、もう痛まないようなら、寮へ帰ってもいいわ。私はまだ、野郎どもが全員気を取り戻すまでここに居るから」
……やはり、ゆりは偉い。俺がリーダーだったとして、果たしてこんな真似ができるだろうか……? 多分ゆりは、あれから一睡もしていないだろう。俺はまだ痛む身体中に鞭打ち、ベッドを立って時計を確認した。
「もう夜中の三時を回ってるじゃないか! ……俺が代わるよ、無理は身体に良くない」
「無理じゃないわ。これくらい、どうってことないわよ。私はいいから、ゆっくりと自室で休みなさい」
ゆりは本当に余裕そうに言った。こんな世界だから、不規則な生活には若干ルーズなのかもしれないが……元々、あまり眠らなくても大丈夫な身体なのかもしれない。
「そうか……くれぐれもゆりがぶっ倒れないようにな。ゆりは戦線のリーダーなんだから」
「ええ、ありがとう」
それから俺は、簡単な別れの挨拶を告げてから、保健室を出た。
廊下は、明かりの洩れる保健室以外、いくらの光も差し込まない、完全な闇だった。
「そういや、ここ閉鎖中の棟だったっけ……」
全てを飲み込むような不気味な闇の中を、俺は一人寂しく歩いて行った。
***
》医局(閉鎖中)
音無くんを見送った私は、他のメンバーが覚醒するのを、室内をぶらつきながら待っていた。
今回、これほどまでの被害がでた直接の原因――それは今までの天使とは違う好戦的な天使の登場によるものだ。音無くんはどうやら正体を知っているらしいけど、私はまだ実物を見れてすらいない。
ともあれ、ノーマルの天使――私たちが今まで敵対していた、生徒会長である天使が何らかの形で絡んでいるのはほぼ間違いないと踏んでいる。
「……そこは天使を徹底的に調べ上げるとして、他に疑問点があるとすれば……」
今回、最も身体に多大な影響を与えられたのは音無くんだ。他のメンバーも、もし現実なら命取りにあるような怪我を負っているメンバーもいたが――大山くんや、辛うじて意識を維持していた松下五段の証言によれば、彼らはただ跳ね飛ばされただけで、直接的に攻撃を受けたのは音無くんだけ、とのことだ。
「そもそも奴は何者なのかしら。私たちの知っている天使そのものなのか、もしくは何者かにそっくり造られた
誰が? 何のために? 疑問は尽きない。これを解決するのは、そう容易いことではないだろう。
それに、今回の赤目の天使は今までに使ったことのない、強力な攻撃型のスキルを使っていたようだ。これまでの天使が発動させるスキルは防御型ばかりだったが、それでも私たちは苦戦を強いられてきた、それが、いきなりアグレッシブになってしまっては――こちらはもう、ろくに手出しをすることすらままならないだろう。
奴の正体と目的、そして新たな脅威に対抗するための、新たな力――次のオペレーションは、こういった問題を解決することに重きを置くことになるだろう。
「天使――貴女のその神がかり的な能力の出所を、私は必ず突き止めてみせるわ」