Angel Beats!―The repeated heaven― 作:いさか
この作品は不定期更新です。なるべく一週一回は更新できるように尽力します。
》学園寮(女子)
今は、天使をはじめ一般生徒が授業を受けている真っ最中――私たちはそんな時間帯を狙い、天使の部屋の捜索を試みようとしていた。
部屋のピッキングを行うのは日向くんだ。彼は以前の侵入作戦の際も、巧みな技術で見事、施錠された部屋のピッキングを成功させた。一応、信用に値しないということはないという判断で、今回も彼にその役割をお願いしたのだ。
私を筆頭に、日向くん、野田くん、松下五段、その後ろに竹山くんが、目的地の前にたどり着く。私たちは念のため、手にしていたハンドガンを一斉に扉の前へと向ける。
「日向くん、お願い」
「よっしゃ、任せとけ」
日向くんがピッキングを開始する。あの天使のことだから、もしやすれば何かしらの対策を施しているかもしれない。そうなればこの作戦の意味は消滅し、囮役の音無くんは無意味に――赤目の天使にやられることになる。
金属同士が擦れる音が、静かな学園寮の廊下にこだまする。……こ゚の前よりも長い。緊張を強いられながら、私は日向くんの様子をじっと見つめる事しかできない。
指をかけたハンドガンを今にもぶっ放してしまいそうな時間が経過してようやく――カチャリ、とロックが解除される音が聞こえる。
「よし、開いた」
「遅すぎるわよ、バカ」
「悪りい、勘を取り戻すのに時間が掛かった」
「いいから、さっさと入るわよ!」
日向くんをどついてから、私は扉を速やかに開ける。すぐさま銃口を室内へと向け、誰もいないことを確認してから、男どもを室内へと招く。
天使の部屋は相変わらずで、ベッドは天蓋付き……などでは無論ない。ぬいぐるみなどがちょこちょこと配置されていて、外見だけなら女の子らしい、可愛い部屋だ。――しかしこれも、間違いなくミスリード。何故神の使い、天使である彼女が普遍的であることをアピールしたがるのか、私には理解できない。
メンバーが全て部屋に入り、松下五段が扉を閉めたのを確認すると、私は竹山くんに指示した。
「じゃあお願いね、竹山くん」
「はい。それと僕のことはクライストとお呼び下さい」
「おいテメェ。新参のクセしてゆりっぺに指図してんじゃ――」
斧を竹山くんの喉笛に突き付けようとする野田くんを、松下五段が静止する。……野田くんには松下五段が不可欠といっても過言ではない……というくらいに、この光景は見慣れたものだった。
デスクトップ型のPCの電源を入れる。OSは、オリジナルの物だろうか、しかしどこかで見たことのあるようなロゴが、ディスプレイ上に浮き出る。
「この前侵入した時はパスワードが掛かってて、中身を見ることができなかったの」
「パスワード……僕の腕の見せ所です」
竹山君はUSB端子を接続し、自身のノートパソコンを起動させ、カタカタとタイピングを開始した。如何にもそれらしいソフトウェアが起きあがっており、何やら処理を行っている。
「パスワードの解析を行います」
「……ほう、一応は役に立ちそうじゃねえか」
後は時間との勝負だ。いつ赤目の天使に悟られてもおかしくはない。――今頃逃げ回っているであろう音無くんたちのためにも、なるべく早く情報を早く引き出したい。
「どれくらい掛かるの?」
「今、解析の進行中です。すぐ終わります」
画面上では、処理の進行具合を示すパーセンテージが着々と値を上昇させている。
「あぁ、今頃は音無が堕天使ちゃんの方に喰われちまってる頃合いかなぁ」
日向くんの何気ない一言、それを私は聞き逃さなかった。
「日向くん、それ採用」
「……へ? 何をだ、ゆりっぺ」
「だからその呼称よ。今まで『赤目の天使』だとか、そのまま過ぎて何かしっくりこなかったのよ。堕天使ってのは、奴をかなり的確に表現した呼び方だと思うわ」
ポカンとしていた日向くんの顔が、見る間に笑顔に変わった。
「おお! やっぱり俺には名づけの才能があるのかもしれねえぜ! 思い返せば生徒会長のことを『天使』って命名したのも俺だよな!」
「あーそういうこともあったわねー」
「フッ……自分の名づけセンスが恐ろしいぜ……我が子に名づける時は困らねえな、これは」
これ以上構う気もなかったので、私は日向くんから目を逸らし、またPCのに見向く。
「解析終了。これより、HDDの内部を――」
「よくやったわ竹山くん! ちょっと貸して!」
「ちょ、ちょっと……あと僕のことはクライストと」
竹山くんからマウスを奪い取り、情報の物色を始める。数あるファイルの中で、私が最初に開いたのは、生徒の名前が並べられたテキストファイルだった。
「何よ、これ」
「名簿じゃないのか?」
「一般生徒、だけじゃなくて私たちの名も載ってるわ……これは関係なさそうね」
続いて、スタートページにある奇妙なアイコンのソフトを起動させてみる。
「――これは⁉」
慌ててソフト名を確認。『Angel Player』と記載されている。
「何なのよ、これ!」
「恐らく何かしらの制御ソフトでしょう。プログラミングされている項目が多々あります」
項目をスクロールさせていく。並んだ単語群の中、私の目を惹いたのが。
「……『
そこを、クリックしてみる。
画面上、右上を占めた人体のシルエット……その右手の部分に、刃物のようなものが出現する。そのシルエットはどう見ても、ハンドソニックを発動させた天使のそれに他ならなかった。
「…………」
絶句した。何の言葉も発せなかった。
これまで神の力だと信じてきた、あの人知を超えた力――。
それは、単なるプログラミングの成していた代物だった。
「くっ!」
私は次に、『
今度はシルエットが、瞬く間に二つに分身した。
「これか……!」
分身した方のシルエットは、警句を発するかのように赤く点滅している。
再び項目の欄を見やると、これまでになかった目新しい単語が複数、出てきていた。
「……分身させたたけじゃない、分身を好戦的にするスキルも……何よ、エアソニックって――」
「それじゃねえか? 昨日、音無の銃がやられたってスキルは」
「ありゃ、反則級だぜ」
私は直接見ていないから、どれほどのものか判断できない――だがメンバーの口ぶりからすれば、かなり鬼畜なものであるようだ。
いっそのこと、これらのスキルを全て消してしまうか――いや、なるべくスキルを弄ったことは悟られない方が望ましい。
私はもう一度、項目を辿っていく。
「『
カチッ、と左クリック。すると分身していたシルエットがぴたりと重なった。
「やった! こいつが『
今この瞬間、堕天使はこの世界上から消滅したはずだ。
「竹山くん! もし天使が『
「お任せ下さい。あと僕のことはクライス」
「急いで! もう昼休みも近いわ。天使が何かを察して、こちらへ向かってくるかもしれないわよ」
焦らしておきながら、私の心は安堵感に満たされていた。これで何とか、堕天使という脅威を排除できる。……ギルドには申し訳なかったけど、これでもう対堕天使用の武器は必要なくなった。
……ただ、一つだけ胸に引っかかることが、私にはあった。
――どうして「天使」が、わざわざ自ら能力を開発しなければならなかったのか。
そこから導き出されるのは、最悪のシナリオ。
――――どこにも神など、居やしない。