ダンジョンに潜るのは意外と楽しい   作:荒島

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「よー『死にたがり』、元気か?」

 

ヘスティア・ファミリアに身を置いて、1週間が経過しようとしている。

生活はすっかりダンジョン中心に一変していた。

 

「のっけから皮肉っすか?そんな顔しないで下さいよ、綺麗な顔が台無しっすよ?」

「担当職員の忠告を再三無視するような不良冒険者にはこれでも甘いくらいだよ、馬鹿」

 

ギルドのカウンター越しに1人の女性職員が座っている。

キツイ目つきの妙齢の女性だ。

いや、眼つきだけでなく態度もキツイ。

一週間の付き合いになるものの、彼女の態度はずっとこんな感じだった。

 

「や、カリーヌさん。これには海よりも深い事情があるんですって」

「防具があるとはいえ、素手でダンジョンに潜る事情がどこにあるってんだ!アホか」

「まぁまぁ何だかんだ生きてるんだからいいじゃないっすか」

「ちなみに今、何階層だ?」

「8階層です」

「ただの自殺志願者だな、まったく……」

 

カリーヌさんは疲れたように頬杖をつく。

その姿に少し申し訳なく思うけれど、説明したところでこれまで以上に止められるだけだろう。

ははは、と頬を掻きながらも一応言い訳してみる。

 

「そっちの方が効率がいいんですって。ほら俺、武器の才能ないみたいだし」

「ドルフマンの奴もそうは言ってたがな、正直あいつの言う事は信用ならん。根拠が何一つないからな」

「おっさんは根性論大好きっすもんね」

「お・ま・えも大概だよ、カネダ」

 

こっちはちゃんと根拠あっての話だと言いたいけれど、向けられた怒りの眼差しに思わず黙る。

カリーヌさんは美人で人気のギルド職員だが、いかんせん怖い。

眼つきだけなら下手な冒険者では太刀打ちできない強さを彼女からはいつも感じるのだ。

 

「いいか?私はな、自分の担当した冒険者には死んで欲しくないんだ」

「それは承知してます」

「ならキチンとそれらしい行動をしろ。ギルド内で明日死ぬ奴No.1候補だってこと忘れるな?エイナじゃないが『冒険者は冒険するな』。勇敢と無謀の意味をはき違えるなよ」

「分かってますって。でも、ちゃんと理由があるんです。そのうちちゃんと話しますから」

「……お前はいつだってそうやって逃げる。ったく、今日はもういい。ベル坊も待ってんだろ?」

「うぃっす。じゃ失礼します」

「とっとと去れ、馬鹿」

 

また怒られてしまった、と頭を掻きながらギルドのカウンターを後にする。

適当に煙に巻いているけれど、正論なだけに耳が痛い。

何よりも本気で心配してくれるカリーヌさんに対して良心が痛かった。

 

しかし止めるつもりはない。

超インファイトで自分を危険に晒すことが【超超回復】を最大限に活用するスタイルだ。

ハイリスクハイリターン、という言葉が頭をよぎる。

しかしそれでも、自分はボクシングを止めるつもりはないのだ。

 

待っていたベルに駆け寄ると、彼は苦笑するように手を上げた。

 

「もう終わったの?またカリーヌさんに怒られてたみたいだけど」

「今日の所は解放してくれたよ……ま、悪いのこっちなんだけどさ」

 

誤魔化すように笑うと、ベルはため息交じりにこっちを見返してくる。

 

「イットも何か武器持てばいいのに。僕より筋力あるんだし、大剣なんてどう?」

「ロマンあるけど、やっぱり殴る方がいいや。耐久どんどん上がっていくし、何よりそっちのがロマンだ」

「やっぱり理由は熟練上げなんだね。いいなぁ、僕も何かスキルが発現すればいいのに」

「ベルってたまにスルーするよな……ま、ベルならすぐに発現するさ」

 

もし本当の意味での神様がいたとして、良い奴にはそれ相応の良いことをしてやるはずだ。

自分が神様だったなら、そうしている。

だから女の子好きでお人よしな彼にはきっといい事がある、とそう信じたい。

 

 

「あ、今日も潜るの付き合ってもらってありがとね」

「別に付き合ってるわけじゃないから気にすんな。俺もゴブリンのドロップアイテム集めなきゃいけないんだし」

「ゴブリンかぁ、最初は怖かったな」

「今大丈夫なら問題ないさ。とりあえず今日は2階層まで潜るぞ」

「うん」

 

頷くベルと共に、ダンジョンに向かう光景も見慣れたものになってきた。

ダンジョン中心に一変した生活を自分は案外、楽しんでいるのかもしれない。

 

 

 

 

イット・カネダ

Lv.1

力:I93→F312

耐久:H32→D546

器用:I61→H151

敏捷:I66→G240

魔力:I0→I0

《魔法》

【】

《スキル》

【超超回復(カプレ・リナータ)】

・早く治る

・受けた傷以上に回復する

・傷が深いほど上昇値は大きい

 

 

 

 

「超、アンバランス」

 

自分のステイタスを聞かされ、そう呟く。

耐久値と器用値の開きが400近いとは誰が想像できるだろうか。

言うまでもなく【超超回復】の影響だったが、それでも耐久値の伸びが凄まじい。

ゲーム的に考えるなら、立派なタンクとして活躍できるだろう。

 

「ま、それで十分ありがたいけどさぁ……ベルの方は大丈夫か?」

「すっかり寝ているよ。まだダンジョンに潜る事になれていないんだ、疲れたんだろうね」

 

ヘスティアはベルを膝枕しながら、髪を梳く。

可愛くて仕方ないのだろう、まるで子供のようにまっすぐで純粋なベルのことがヘスティアはお気に入りだった。

 

「今日はゴブリンの群れに襲われたからなぁ、ベルも頑張ってたよ」

「何だって!?ベル君はまだ冒険者5日目なんだから、気を付けてくれよイット君!!」

「俺も1週間目だし大丈夫大丈夫。3階層にちょっとだけ足踏み入れただけだよ」

「……2人揃ってボクは余計不安になったよ」

 

少しヒヤリとした場面もあったが、今日も何もなく切り抜けることが出来た。

ベル・クラネルという少年は順調に一歩一歩確実に成長している。

この分なら彼の夢を叶えることも、そのうち出来るだろう。

 

そう『ダンジョンで女の子を颯爽と助け、恋に落ちる』ことを。

 

「くくくっ」

「うん?何がおかしいんだい?」

「いや、思い出し笑い」

「うん?変なイット君だね」

 

怪訝な顔をするヘスティアには分かるまい。

ロマンを求めるのは男の性なのだ。

恋愛にしろ、地位にしろ、生き様にしろ。男は誰にでも何か1つにロマンを感じるものがあるのだ。

そういう意味で彼の夢には共感できるのが、正直なところだった。

 

「じゃ、ベル送り届けたしそろそろ行くわ」

「ドルフマンの所だね、晩御飯はいらないんだろう?」

「おう。おっさん、何か大切な話があるとか言うけど、何だろうな?」

「さぁ?なんだろうね……はっ!別のファミリアへの引き抜きだったら、断ってくれよイット君!!君はベル君のお目付け役としてまだまだ必要なんだ!!」

「ひどいなぁ、おい」

 

冗談だとは思うけれど、ベル関連だとあながち冗談だとは言い切れない部分がヘスティアの怖いところである。

……俺の存在意義、それだけじゃないよな?

 

「ともあれ大事な用件らしいし、行ってくる」

「気を付けて行ってくるんだよ」

「おう、行ってきます」

 




1週間経って進展したもの。

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