リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語? 作:刀馬鹿
楽しんでいただければ幸いであります。
あとこいつも結構長いw
~刃夜~
レウスを討伐して、ムーナを飼い始めてから約十日。
俺がこの世界にどういうわけかきてしまっていから約一ヶ月。
喜ばしいことなのかどうか非常に謎だが……俺はここでの生活に慣れてきていた。
朝は日課の朝の鍛錬に加え、ムーナの朝食を調達しに森と丘へと赴き、ランポスを討伐して、それを持ち帰る。
そしてそれを捌いた後に俺はリオスさんの家に行って水くみと薪割りをして朝食をもらう。
そしてそれからねぼすけのレーファを叩き起こして、俺は自分の家へと戻る。
すると慌ててレーファが追ってきて、一緒に俺の家へと向かう。
村の裏口を出て、山の麓の森へと入り少し歩くと、純和風の家が建っているのが見えてくる。
この家が前回のムーナを飼うために俺が村の外へと行くことになって建てた俺の住居だ。
十日前の段階では、ただ屋根と床がある程度の家だったが、今はきちんと塀も頑丈な石組みで出来ていて、内装も完璧になっている。
畳もしっかりとい草に似たものを見つけてきて自分で編んで造った。
家、というよりもじいさんの趣味で、日本文化の代表的なものは叩きつけられた。
そしてその家全体を、簡易的な結界で覆っている。
結界と言ってもたいした物ではない。
俺が認めた人間しか内部に入れないような物だ。
入れないと言ってもそこまで強固ではない。
が、気を扱うことが出来ないと破れないので、ぶっちゃけ人間相手だとほぼ無敵の防御だ。
これはもちろん、俺の小さな同居モンスターのための措置である。
そしてその住居の横にはまだ使われていないが、大きな家畜小屋も建っていたりする。
家畜ではないのでその表現も誤りがあるのだが……まぁ気にしない。
ちなみにその小屋はムーナが大きくなったときのための小屋である。
他にも今日俺が掘ろうとしている物のために、露天風の小屋を設けており、きちんと洗面台と脱衣所のある小部屋も造られている。
開けた空間には、石垣を作るときに使った石を夜月で切断して造った石を敷き詰めた五、六人が足を伸ばして入れる穴を設置してある。
一人で暮らすには随分と広い家だが、同居モンスターがいる上に、レーファとリーメが頻繁に訪れるので問題なかった。
「キュウー、キュイー」
そこそこ頑丈な正門を開けると、すぐに膝くらいの子供レウス、ムーナが俺たちの元に駆け寄ってきて甘えてきた。
生命の神秘というのか、たったの十日程度でムーナは膝くらいの大きさになり、こうして元気に歩き回れるようになっていた。
レウスが果たして生後何日で歩き始めるとか誰もわからないわけだけど……
そんなことが頭をよぎるが、俺としてはそんなことどうでもよく、日々こうして平和に暮らしているのだからどうでもよかった。
が……俺にはこの世界に来てからずっと、ずっと、ずっっっっっっっっっっっっと! 耐えて我慢していたことがいくつかある。
その内の一つは……。
風呂
である。
この世界では基本的によほどの裕福層、俗に言う貴族しか湯浴みをしないという。
そら水道がない世界なのだからわざわざ水をくんで火で沸かしてそれに浸かるなど……重労働以外の何物でもない。
この世界の一般市民は、鍋などに水を入れてそれを沸かし、掛け湯しながら体を洗う、というのを週に一度するだけで、後は基本行水のみ。
ず~~~っと我慢してきたが。さすがにもう耐えられそうにない。
ようやく落ち着いてきたので、俺はこの村に来たときに硫黄の臭いをとらえてたので、それをもとに掘ろうと思っていた。
それだけでは判断しかねるし、確証はないが……。
温泉がある可能性がある!
それが俺の希望だった。
生活が一段落ついて落ち着いたらきっと掘ろうと誓って、俺は約一ヶ月、風呂のない生活というのに耐えた。
耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐え抜いた!
今こそ、温泉を掘り当てて、風呂に入るときなのだ!!!!!
しかも聞いたところによるとこの世界、温泉という文化もないらしい。
俺の本日の予定はすでに空けてある。
つまりこれから夜までの約半日近く、俺はひたすらに温泉を掘ることが出来るのだ!!!!
俺は村の道具屋で買った、ピッケルを二本担ぎ、用心として花月を装備し、戦闘装束に着替えると、ムーナと戯れているレーファに向けてこういった。
「レーファ、ごめん。お宝掘ってくるから留守番よろしく。家の裏にいる。ムーナを外に出すなよ」
「お宝? ですか?」
「そう、俺にとってのお宝」
俺はそれだけ言い残すと、思いを新たに俺はピッケルと再度担ぎ直すと、俺は嬉々として家の裏手に回る。
「ふふふふふふふふふふふふ。掘れるかどうかは謎だが……もしも温泉が出たら俺は発狂するな……」
まぁそういう少々怪しい雰囲気を醸し出しながら、俺はピッケルをひたすら振って土を掘る。
掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る掘る
出ることを前提に、ただひたすらにピッケルを振り続けた。
半ば狂ったように振り続ける。
ガギン!
そうしていると、地盤が変化したらしく、とても硬質な地盤が姿を現す。
面倒な地盤が出てきて面倒なことになったと思っていると……。
なんとな~く地面が暖かくなってきた気がする……
俺はいったんピッケルを穴の外へと放り捨てると、四つん這いになって耳を地面に当てた。
すると、どことなく水が脈動している音が聞こえてくる気がする。
それを確認すると、俺はいったん穴から出て、ピッケルを少し遠くの場所の高台に置く。
これは勢いよくお湯が出てきたときにピッケルが流されないためだ。
俺はそれを置いてすぐにまた穴へと入ると、拳に気を溜めてそれを地面に打ち付けた!
「はぁっ!」
ゴガッ! ピシッ!
もしも仮に温泉の水脈があるならば、水圧があるはず。
こうして蓋に亀裂を走らせれば……
ピシピシピシ
ビンゴ!
地盤が壊れる確かな音を聞いて、俺はすぐさま穴から離脱して高い方へと走り、念のため木の後ろ隠れる。
場合によっては源泉は百度を超えることもあるので、用心に越したことはない。
そうして固唾を飲んでいると水圧に耐えきれなくなった地盤が破壊され、湯が噴き出してきた。
乳白色の濁り湯だ。
「よし!」
俺は思わずガッツポーズを取る。
よもや一発目で出てくるとは思わなかった。
そして先ほどの地盤が固く暖かくなっていたところ。
温泉だけでなく、地熱を利用した湯治施設も作れるやもしれない。
そんな半ば足らぬ狸の皮算用を行いながら、湯へ近づくと、どうやら問題なく入れそうだ。
そこの源泉と、石垣下に造った水道を通し、俺は内部に造った風呂と繋げる。
蓋はしてあるのでまだお湯は入らないだろうが。
それから俺は風呂上がりに飲むための飲料を調達しに村へと向かい、リオスさんに頼んで氷結晶と幻獣牛乳を分けてもらう。
氷結晶は武器以外にも、食材を冷やしたりするために使われる物で、ハンターだけでなく主婦の間でも貴重な物だ。
氷と違い、消耗品でないところがいい。
もらってきた牛乳を竹で造った容器に入れ、水に浸した桶に氷結晶と共に浸しておく。
万事準備が整った!
「あの、ジンヤさん? その穴なんですか? 貯水池?」
そうして俺がテンション高めにいろいろと準備をしていると、レーファがおそるおそる訪ねてきた。
ムーナも穴をのぞき込んだりして、興味を示している。
「キュ?」
「これは温泉だ」
「オンセン?」
以前に聞いたときに温泉がないことは承知済みなので、百聞は一見にしかずと言うことで、俺は蓋をしていた板を外す。
すると、家の裏にわき出た温泉が高低差でこちらに湯気と共に流れ込んでくる。
「お湯?」
「キュイィ~!」
湯気を出しながら流れてきた水にレーファは頭に?マークを浮かべ、ムーナは驚いて、俺のそばに駆け寄ってきて俺の体に隠れた、が興味はあるらしくちらちらと見つめている。
俺はそんなムーナを抱きかかえると、脱衣所に入り、衣服を脱いでタオルを腰に巻く。
「キュウ~?」
何をするのかわからないのか、ムーナはとても不思議そうに俺のことを見上げていた。
俺は桶に手ぬぐいなどの必要な物を入れると、脱衣所から風呂へと続くドアを開く。
「ジンヤさん? これっていったい……って何で裸なんですか!?」
あ、レーファがいるの忘れてた。
ま、腰にタオル巻いてるからいいや。
あまりの嬉しさに俺はレーファの反応を気にせず、桶に湯を入れて体を流すと、ゆっくりとお湯に浸かった。
「あぁぁあ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
じじくさい声が出たが、いったいそれに誰が文句を言うのか!
約一月ぶりに入ったお湯はもう、まさに極楽だった!
このまま眠ってもいいくらいである。
湯に、それも自然にわき出たお湯に入るなど、聞いた子もないであろうレーファは、ものすごい物を見た、といった表情をしており、結構滑稽に見える。
「キュ、キュゥ……キュイ?」
ムーナも、俺のことを不思議そうに眺めている。
レウスの嗅覚がどれほどの物か知らないが、この硫黄の独特な香りはあまり好みじゃないのかもしれない。
しかし意外なことに、ムーナは尻尾からお湯につけると、それで問題ないとわかったのか、俺と同じようにゆっくりと浸かろうとして……沈んだ。
ドボン
深さを考えていなかったのか、バシャバシャと暴れている。
「キュ! キュイィィ!」
「何をしてるんだか」
俺は苦笑しながら、ムーナを抱き上げてやると、胸に抱いて一緒に浸かる。
するとムーナも気持ちよさそうに温泉に浸かった。
「あぁぁ~~~」
「キュゥ~~」
ムーナも気持ちよさそうにしているところを見て、さすがにレーファも入ってみたくなったらしく、俺の裸を気にしながら、すごい、ちらちらとこちらを見ている。
入りたくても俺が入っているので、女の子として入ることが出来ないのだろう。
俺はそんなレーファに苦笑しつつ、ムーナとともにいったん上がると、体を軽く拭いて以前に作っておいた浴衣に着替えた。
そして冷やしていた牛乳を一気飲みする!!!
「かぁぁぁ~~~! うまい!」
まさに極楽至福の時であった。
一月ぶりの風呂はマジで神がかっているほどに気持ちがよかった。
「キュ! キュイ! キュゥゥ!!!」
俺が飲んでいるのが飲みたいのか、ムーナが浴衣の裾を噛んで引っ張っている。
多めに冷やしていたので、俺はムーナの口元に牛乳を持って行くとゆっくりと牛乳を注いで飲ましてやった。
「キュ!」
どうやらムーナもお気に召したらしい。
少し大きくなった尻尾を左右にかわいらしく振っている。
それを見届けると、レーファに声を掛ける。
「リオスさんとラーファさん呼んでくるから、入ってていいぞ。布はこの中。着替えもこれなら中にある。ムーナも一緒に入れてやってくれ」
俺は脱衣所を指さし、次に浴衣を指さした。
着替えである浴衣は、寝間着にも使用する予定だったので五着ほど用意してあり、レーファが着るには大きいが、さすがに素っ裸にするわけにはいかないだろう。
俺はお礼もかねてリオスさんとラーファさんも温泉に招待するつもりだったので、俺はそのまま財布だけ手にして、家の外へと向かう。
「あれ、ジンヤさん? どこかにお出かけですか?」
そうして外に出た瞬間に、俺の家に向かってきていたリーメと合った。
格好は普段着だが、用心のためか、フロストエッジの剣だけ腰に装備していた。
レーファが裸になって風呂に入っているのを見られるのはかわいそうだったので、俺はリーメの肩に腕を回す。
「ど、どうしたんですか?」
「買い物行く。付き合ってくれ」
有無を言わさず、俺はリーメを連れてリオスさんの家へと向かおうとした。
そこでようやく俺は、リーメが大きな布に包まれた何かを持っていることに気がついた。
「なんだそれ?」
「あ、これはレウスの素材です」
前回のレウス戦の素材を剥ぎ取っておいて俺に持ってきてくれたらしい。
何でも火炎袋などの内蔵も豊富にあって、だいぶいい素材が手に入ったらしい。
ムーナがいるため、剥き出しではなくわざわざ布に包んで持ってきてくれたらしい。
俺はそれをありがたく受け取ると、正門脇に置いておいてリオスさんの家へと二人で向かう。
そして二人を完成した我が家に招待し、小さな宴会をする予定だったので、俺達四人は食材市場へと足を運んだ。
「いらっしゃーい、っておや、ジンヤ君!」
「こんにちは、ガヌアさん」
野太い声を張り上げながら、俺に挨拶をしてくれたのは魚屋の店主ガヌアさん。
よく魚を買いに来るので親しくなった。
ランポス大群討伐、イャンクック討伐、リオレウス討伐。
この三つのクエスト達成だけで俺は相当な金を持っている。
しかも砥石や回復薬、ペイントボールなどの消耗品も全くと言っていいほど使用しない上に、家なんかもほとんど独力で作っているので、食い物くらいにしか金を使っていないのだ。
金を市場で大量に使用し、しかも言葉遣いがあれとはいえ、仲良くなるために結構頑張ったので、市場の人とは仲がいい人が多い。
そんな人たちと雑談を交わしつつ、俺はいつものように買い物を済ませると、三人と一緒に荷物を分担して家に帰ろうとした、その時だった。
一台の村の外から来た商売人の台車が目に入ったのは。
「あれは!?」
「どうしたんだい? ジンヤ君?」
突然声を張り上げた俺にリオスさんが俺に声を掛けてくれるが、俺はそれに取り合わずにその台車の元へと駆け寄った。
「これは……米!?」
一瞬見間違いかと思ったが、そこには麻袋に包まれた、精米されていない米が籾の状態で大量に入っていた。
そしてその横には大豆まで置かれていた。
「いらっしゃい。それは家畜用の餌ですよ」
「家畜? これが?」
「そうですよ。知らないんですか? ちょっと高いんですが家畜が元気になりますよ」
そこで俺において行かれた三人がやってきた。
三人とも俺が家畜用の餌を見ているのを不思議に思ったらしい。
聞いてみると、米は基本的に籾を剥いてそのまま家畜に食わせるのが一般的らしい。
ようするに米の調理の仕方を知らないのだ。
大豆はまだ食事として使われるが味があまりしないため人気がないらしい。
よし!
その話を聞いて俺は嬉々として、大量の紙幣が入った財布を叩きつけた。
「これで買えるだけこれと、この大豆を売ってくれ」
持ってきていた合計金額は四人家族の一ヶ月分の食料費と同等だった。
それを全部家畜用の餌を買うと言い出して、リオスさん、ラーファさん、リーメ、店主がそろって奇異な物を見る目で俺を見てくる。
が俺はいっこうにかまわなかった。
まさか今日だけで俺の不満点が全部解消されるとは!?
俺が我慢していたもう一つの要因。
それは食事。
日本人に生まれたならば……わかってくれると思うんだ……。
米、味噌、醤油のない食生活とか……あり得ないから!!
あり得ないから!!!!!
いや俺だって耐えられる。
裏家業の関係上、海外に一月ほど行くとかそういう仕事結構あったからね。
でもな……このユクモ村は結構いじめなんだよ……。
山と海が近い関係上、食生活はどうしても山になる木の実や果実、山菜に海産物になる。
当然その中には魚料理があるわけで…………。
刺身で食ったら涙流しながら食えそうなほどうまい魚も、それに合う調味料がないために基本的に加熱調理される。
何度刺身を食いたいと思ったか!
幸か不幸か……俺は実は味噌も醤油も原料から作れる知識と経験が合ったりする。
米は家の敷地内に小さいとは家族五人がまかなえるだけの量の米が毎年収穫できたし……。
味噌と醤油は親戚の家が作っていたので、その手伝いで手順とこつなどを覚えさせられた。
さらにいえばその親戚、日本酒も造っていたりする。
よくこっそり飲ませてもらったのものだ…… ←お酒は二十歳になってから飲みましょう!
小学校とかで、自由課題で自由研究とか、自由工作とかあるだろう?
あれに、味噌の麹の発酵具合を観察した日記、日本酒の造り方をまとめたレポートとか、三味線や和傘を作って学校で発表したときのクラスメイトの白い目を思い出す……。
あれは子供心ながら、結構つらい物があった……。
まさかその時に得た知識が役に立つ日が来るとは……人生わからないものである。
二十キロほどの米が入った麻袋が二つ、大豆が二十キロ入った麻袋一つ。
俺は三つのそれを器用に担ぎながら、三人が不思議そうにしながらも、嬉々として自宅への道を歩いている。
そして家に着くと、湯気が出ているのを見て、三人が
「火事!?」
と慌てて、家に入ろうとしているのを、俺は回り込んでどうにか止めた。
リオスさんとラーファさんはまだいいだろうが……さすがにリーメに裸を見られたらレーファがかわいそうだ。
「レーファ、湯浴み中。ラーファさん、様子見て」
それを聞くとラーファさんもわかったみたいで、無駄に俺に笑顔を向けながら、中へと入っていった。
そしてすぐにこちらに顔を出して手招きをしてきたので、男三人の俺たちも中へと入っていった。
すると、ぽかぽかと、体から湯気を出しながら、浴衣を着て、縁側でムーナと一緒に涼んでいるレーファがいた。
「お帰りなさい、ジンヤさん!」
レーファはそういいながら満面の笑みを俺に向けてくれた。
~レーファ~
『米が食える!!!!』
ジンヤさんは何か叫びながらそう言うと、狂喜乱舞しながら一風変わった台所へと向かっていった。
この家はジンヤさんの暮らしていた国の家らしく、内装が随分と私たちが暮らしている家と趣が違った。
でもこのタタミ? っていうのがすべすべしててとても気持ちがよくって、なんか癒される気分だった。
「これがジンヤ君の家か? すごいな」
「これ、ほとんど一人で作ったんでしょ? すごいわね」
「作ってるときのジンヤさん、すごかったですよ。武器で木材をほとんど一瞬で作ってしまって。僕たちも呆気にとられながら見てましたよ」
リーメさんもその場にいたので、私たちはジンヤさんの家を見ながら話をしていた。
「キュゥ~」
ムーナちゃんは私の膝で丸くなっている。
ジンヤさんが相手を出来ないときには基本的に私にこうやって甘えてきてくれる。
私はリーメさんは、結構このムーナちゃんの世話をしているからまだわかるけど、お父さんとお母さんはムーナちゃんを怖がらない。
なんでもまだ小さいから大丈夫らしいけど。
『わははははは。米が食えるなら俺に怖い物はない!』
とても興奮しながらジンヤさんは包丁を振るって魚を捌いていた。
なんか知らないけど、さっき市場で家畜の餌を買って喜んでいたってお母さんが教えてくれたけど……どうしたんだろう?
そう考えていると、家畜用の餌をジンヤさんが、何か鍋のような物に入れている。
でもお鍋にしては大きい。
とても独特な蓋をしてそのまま煮込んでいる。
戦闘能力、鍛冶士ともに一流で、掃除炊事家事が出来て家も建設出来る……。
もうジンヤさんには本当に驚かされてばかりだった。
万能にもほどがあると思う。
「出来た~」
ジンヤさんがそういいながら、汁物が入った鍋をもて来て、テーブルの上に並べてくれる。
女王エビの汁物。
リュウノテールの炭火焼き。
棍棒ネギ、砲丸レタス、スネークサーモン、シモフリトマトのサラダ。
他にも様々な食材が並び、ヘブンブレッドが並べられる。
「キュゥゥ~」
ムーナちゃんには、ジンヤさんが狩ってきたランポスの肉をちょうど食べやすいサイズにしてお皿に盛りつけて床に置いてあり、ムーナちゃんは一心不乱にそれを食べていた。
けれど、一番不思議なのはジンヤさんが鼻歌を歌いながら自分の座る席の前に置いた白い湯気を出す謎の食べ物だった。
「ジンヤさん、これなんですか?」
「これ? ごはんだよ」
「「「「ゴハン?」」」」
その場にいる全員で聞き返してしまった。
ジンヤさんが言うのはこれは先ほどの家畜用の餌の米らしいけど……。
「いただきます」
不思議そうに眺める私たちをよそに、ジンヤさんはとても嬉しそうにそのゴハンというのを食べたはじめた。
その食べるのに使っているのも不思議な物で……二本の細長い棒で器用に挟んで食事をしている。
『あぁ、久しぶりに米が食えた……泣ける……』
何を言っているのかわからなかったけど、なんか涙で目を潤ませながらゴバンと言うのを食べていた。
おいしいのかな?
そうして人がおいしそうに食べているのを見ると、食べてみたいと思うのが、人の心情だと思う。
「私も食べていいですか?」
「いいよ~」
ジンヤさんはそうして、ゴハンというのが盛られている底の深い器を私に差し出してくれた。
私はそれをスプーンですくって食べてみた。
「……おいしい!?」
それはとても不思議な味だった。
パンと違ってとても甘くってもちもちしていて、つぶつぶの食感が何ともいえない。
私がそういうとお父さんとお母さんにリーメさんも気になったのか、ジンヤさんにゴハンをわけてもらうと、とてもおいしそうにしていた。
~刃夜~
米が好評か……まぁ魚を普通に食える人種だから米のうまさもわかるんだろうけど……
俺がご飯を食べていると他のみんなも食いたいと言い出したので、多めにおひつにお米を追加する。
それを見て四人とも普通に食べ出した。
この四人は結構異文化というか見慣れない物(異人種の俺とかムーナとか)でも普通に受け入れてくれた人たちだが、ひょっとすると他の人にも好評かもしれない。
生と死があまりにも近すぎて、他のことに気を回す余裕がないんだろうな……
中世程度の文化と技術レベル。
モンスターがいると言えばおとぎ話のようだが、これはおとぎ話ではなく現実だ。
いつモンスターが村を襲うかもわからない。
そんな状況で暮らしている以上、他のことに時間を掛けることは出来ないんだろう。
特にこの村は辺境といってもいい場所にある。
自然豊かではあるがそれ以外に観光になりそうな物が何もない。
無論そのためにハンターと言う職業があるのだが、ハンターだって人間だ。
何も一日中モンスターを狩っているわけにはいかない。
娯楽だってほしいだろう。
そしてここは田舎と言ってもいい特色もない村。
この村のハンターは俺をのぞいてここで生まれ育った人間だ。
……使えないか?
俺はここに住んでからずっと思っていたこの村の活気のなさをどうにかしたいとこのとき考えはじめ……どうにかしたいと思い始めた。
米が家畜用の餌という認識はこの村だけじゃない……そしていま見た通り、ご飯は十分おいしいと好評。しかもここには温泉がある
食材は山と海があるので豊富でしかもうまい。
温泉という文化はないが、あれば絶対にはまること請け合いだろう。
そして俺の家を珍しがっていたのだから和風な村を作って宿を作れば……。
いけるな……!!
俺は勝手にこの村の村おこしをしようと画策し、明日にでも村長に相談しようと考えていたのだった。
「あ~~~~~癒される~~~」
お礼を兼ねた食事会を終え、リオスさんとラーファさん、リーメを見送った俺は、残ってムーナの面倒を見てくれていた。
それで俺は先ほどレーファに譲ったためにあまり長湯が出来なかった温泉に、こうしてゆっくりと浸かっていた。
ちなみに三人にも温泉に浸かってもらったが、絶賛だった。
そして何故か知らないが、ラーファさんがニヤニヤ笑って俺に挨拶をしていたのだが……あれはどういうこと?
「星が綺麗だ……」
冒頭でさんざんこの世界での嫌なことを述べたが……別に嫌いな訳じゃない。
産業革命が起こっていないので、どこへ行っても綺麗な空気。
特にこのユクモ村はとても自然豊かで紅葉に似た植物もあるので、とても綺麗だった。
そして飯。
ご飯がないなどの文句はあったが、どれも自然が全く破壊されてないためか、素材本来の味が際だっていて何を食ってもうまい。
俺はどこぞのグルメリポーターかよw
自分自身につっこみを入れながら、俺は静かに湯のすばらしさを満喫している時だった。
「……ジンヤさん」
「キュイ」
脱衣所からレーファの声が響いてきたのは……。
~レーファ~
「どうした?」
「えっと……その……こっち見ないでくださいね?」
「あ?」
とっても恥ずかしいけど……お母さんがこうすればいいって言ってくれたから頑張る!!
でも一人ではとても無理だったので、眠そうにしていたムーナちゃんにも一緒に来てもらった。
私は決意を新たにすると、服を抜き始めた。
「し、失礼します……」
心臓が飛び出るんじゃないかと思うくらいに鼓動している。
逃げ出してしまうくらいに恥ずかしいけど……私は勇気を振り絞ってお湯に使った。
顔がもう火が出るくらいに熱く感じてしまう。
「何のつもりだ?」
「え、えっと……私も一緒に入れたらなって……」
頑張ってこうして一緒に入ってみたけど……ジンヤさんはあまりにもいつも通りで……私はなんだか寂しい気持ちになってしまった。
「ジンヤさんって、すごいですね」
「んあ?」
「何でも出来て……」
そういうと私はジンヤさんが私を助けてくれてからの日々を思い返した。
森と丘で私の命を救ってくれた人。
ランポスを素手で倒してしまうほどに強いのに……言葉が通じなくってとても一人で心細そうにしていた。
私を庇って大けがをしたのに、その怪我も自分のせいだって言って、それを証明するためにランポスの大群相手に一人で戦って……。
イャンクックも速攻で倒して……。
お父さんがとても興味を持つような武器の鍛造も出来て……。
空の王者と言われて怖がられているリオレウスでさえもジンヤさんはすぐに討伐してしまった。
おまけに家事炊事洗濯、家の建築とかも出来るし……それに対して私は……
お母さんの手伝いくらいは出来るけど、今日のジンヤさんがだしてくれた料理みたいに手の込んだ料理は作れない。
ハンターになるなんてそんな勇気もない。
頭だって、ジンヤさんが言葉が通じていない今だからこそ役に立ているけど……そんなによくない。
そうして私が自信喪失していると、ムーナちゃんが私のことを気遣ってくれたのか、舌で私の頬を舐めてくれた。
「ありがとう……」
ポン
ムーナちゃんにお礼を言うのとほとんど同時に、ジンヤさんが私の頭に手を置いていた。
そしてそのまま優しく撫でてくれる。
嬉しかったけど、腕を伸ばせば届く距離にいるってことは距離が近いってことで……。
「え? あの、ジンヤさん近い……」
「あんまり気にするな。お前がいないと俺は困る」
「……え?」
思わぬジンヤさんの言葉に私の胸は高鳴った。
ランポスの大群に飛び込む前に伝えたあの気持ち……けど言葉がわからなかったみたいでジンヤさんはその後も普段通りだった。
もしかして……
そう淡い期待を抱く私だったけど……
「ムーナも寂しがるし……」
……む~~~
結局そういう扱いだとわかってしまって、私は頭に乗っているジンヤさんの手を掴むと、ジンヤさんを下から見上げた。
~刃夜~
「し、失礼します……」
そういってレーファは湯船に浸かった。
タオルを巻いていたので、普段ならばタオルを湯につけるのを叱るところだが、なんかそういう感じではなさそうなので俺は仕方なく今回は不問にすることにした。
「何のつもりだ?」
「え、えっと……私も一緒に入れたらなって……」
何のつもりかは知らないが、何か言いたそうにしているので俺はレーファが語るまで、星空を見上げていた。
「ジンヤさんって、すごいですね」
「んあ?」
「何でも出来て……」
嫉妬でもしているのか?
俺がそこそこいろいろ出来るのに嫉妬でもしているのだろうか?
これは拷問にも近い特訓で身につけた物であって最初から何でも出来るわけではない。
が、これを伝えたくても言葉に出来ないので俺にはどうすることも出来ない。
しかし、放っておくとどんどん自閉してしまいそうなので、気づかれないようにそっと近づいて、俺は以前と同じように頭に手を乗せて撫でてやった。
「え? あの、ジンヤさん近い……」
「あんまり気にするな。お前がいないと俺は困る」
「……え?」
「ムーナも寂しがるし……」
それがよくなかったのか、レーファは途端に不機嫌になると、俺の手を払いのけるように掴んで、俺のことを見上げてきた。
「……それだけなんですか」
「あ?」
「それだけなんですか! ジンヤさんにとって私は!」
どうやらまずいことを言ったみたいだ……
『私……私は……ジンヤさんのことが大好きなんですよ!』
あんまりにも速すぎて聞き取れないので何を言っているのかわかりゃしない。
が、レーファはそれに気づいていないのか、さらに興奮して俺に詰め寄ってきた。
『本当は……今だってすごく恥ずかしいけど! ジンヤさんに……特別な人として見てほしいからこうやって頑張って!!!』
「すまんレーファは言ってることがわからない。少し落ち着いて……」
『落ち着いてなんて……』
いられないと言おうとしたのだろうか……が、顔が本当にゆでだこみたいに真っ赤になると……レーファはそのまま俺の胸に倒れ込んできた。
のぼせたか……
風呂に入ったことがないのだから加減がわからないのだろう。
しかもどうしてかわからないが、レーファは入る前から緊張していたようだ。
男と入るのがのぼせるほど恥ずかしいのなら入らなければいいものを……
俺は心の嘆息すると、俺とレーファに挟まれて苦しそうにしているムーナをまず救ってあげると、レーファの肩と膝裏を抱きかかえて湯から上げる。
「やれやれ、手間のかかる妹だな」
レーファが何を言っているのかわからないが……妹の弓が俺のそばにいるみたいで、俺はとても嬉しかった。
~フィーア~
「呼び出しに応じ、ギルドナイト所属ハンター、フィーア。ただいま出頭いたしました」
「ご苦労。楽にしろ」
「はっ」
私は、先日の緊急クエスト、レウスの討伐から約十日。
懲罰も受けずに普段通り過ごしていた。
何も私が懲罰を無視して過ごしていたわけではない。
次の指令がくるまで普段通りしていろと、隊長からそう通達されたからだ。
その隊長は今、執務机に座り、何枚かの資料を見つめていた。
「先日の無断でのクエスト受注で呼び出したわけだが、あまり気にしなくていい。今回の件は不問とする」
「不問……ですか?」
「そうだ。だが、完全に懲罰なしでは他の者に示しがつかないので一定時間の懲罰訓練は受けてもらう」
「了解しました」
「だが、今日呼び出したのそのことだけではない。君と一緒にクエストに行った男、ジンヤという男のことについて、実際にクエストで一緒になった君に意見を聞きたいと思ったからだ」
「はい……」
不問、と言われた時点で何となく予想できた答えだった。
普段通りにしている隊長だけれど、その顔はとても真剣だった。
「無礼を承知でお願いがあります、隊長」
「なんだ?」
「……自分でもにわかに信じがたいのですが……私が話すことは全て事実です……。それをご承知していただけますでしょうか?」
その言葉に隊長は一瞬目を丸くすると、とても面白いことを聞いた、という風に声を出して笑い出した。
さすがに少し気分が悪くなってしまう。
「……何か私はおかしなことを言いましたか?」
「いや、すまない……。嘘なんてほとんどつかない君が言う者だから、妙におかしくってね」
まだ隊長はおかしそうにしていたけど、ひとしきり笑い終えると、再びまじめな顔つきになった。
「もう大丈夫だ。君の言うことを全て信じよう。こちらとしても嘘偽りない情報が欲しい。話してくれるか?」
「はっ」
~???~
全てを語ってくれたフィーアに、明日からの懲罰訓練を伝え、下がらせると私はソファーに深く腰掛けた。
こうして信頼できる部下から聞いても、とてもではないが信じられない話だった。
レウスの攻撃を予見、攻撃を直上に飛んで回避、空中で再度跳躍、尻尾を切断、そして……レウスそのものを真っ二つにした……か……
とても信じられる話ではないが……クエストが完了した後、剥ぎ取った部分以外のレウスの死骸をギルドに買い取り要請をしてきたので、その死骸をこのドンドルマに回収した折、その異様な討伐の仕方を目の当たりにしている私としては、信じるしかなかった。
切断することが可能な武器……
日に日に強大になっていくモンスター相手に、ギルドの討伐にも限界があった。
絶対的にハンターの数が足りないのだ。
一定の腕前を持っていることがギルドの加入条件だ。
その基準を下げては討伐に支障が出る。
だからこの判断基準を下げるわけにはいかないのだが……。
武器の開発も滞っているしな……
ハンターが少なくても、武器を進化させればどうだろうと、ドンドルマの最高の鍛冶場工房に新型武器の製造を依頼したのだが……開発は難航。
先ほどのフィーアのつてで伝説の鍛冶士のリオスにも新たな概念の武器制作を依頼したが、苦戦しているのか音沙汰はない。
……レウス討伐時間がたった十数分
腕前に関してはフィーアが敗北を認めるほどだ。
問題はないだろう。
ランクが低いのはこちらが書類操作をすれば問題もあるまい。
「そうと決まればさっそく動くとしよう」
私は手順をざっと頭の中で思い浮かべると、席を立ち、執務室を後にした。
第一部、しゅうりょ~~~~う
ここまでお読みいただけまして誠にありがとうございます。
初めてのことばかりで日々驚きと興奮と恐怖の連続でした。
何度か小説を書いて友人に見てもらったことはあったのですが、すぐに評価なんかがわかるのはすごい怖かったです。
日に日に総合評価やお気に入り登録が増えるのも嬉しい以上に怖かったですw
さて、最終回的な後書きになってしまっていますが、第一部が終了しただけで、まだもちろん続きます。
……無事帰宅するかどうかはまだ作者の中でもきまっていないのですがw
さて、この小説を読んでいると言うことは、皆様方はハンターである、もしくはそれに関係する方だと思います。
不肖、この私もハンターの一人でして、そこそこな腕前を持っていると自負しておりますw
今はこうして武器を置いて筆を執って、文章を書いていたのですが……ユクモ村と言うところから
「村お抱えのハンターになってくれませんか?」
と言われまして。
モンスターに日々怯えているユクモ村の方々のために久しぶりに筆を置いて武器を取り、本業に戻るつもりであります……。
そういう訳でして大変申し訳ないのですが、いったん休業させていただきます。
自分でもびっくりするほどのハイペースで約文庫本一冊分の文字を書いてさすがに疲れましたw
大学の友人二人があまりにも長い期間執筆しないと二人でたこ殴りにされてしまうので続きは必ず書くと、ここに約束させていただきます!
ちなみにその一人は以前に書いたH.M.氏ですw もう一人はT.T.氏w ジロリアンw
もしもまた、こんな未熟の私の小説を読んでいただけたら、喜ばしい限りであります!
二部はもう少しちょうどいい長さにしたいと思っております、頑張ります!!!
長々と失礼いたしました。
ではハンター諸君! しばしの別れを! 失礼いたす!