リアル?モンスターハンター 異世界に飛んだ男の帰宅物語?   作:刀馬鹿

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活動報告通り、今回戦闘は一切ありません。
前篇後編に分けさせていただきました。

……長いなぁ

何とかしないと……


楽しんでいただければ幸いです

2010 1/2深夜 に改編しました
下位編にはなってないことを……信じています

2011 1/25夜
リオスさんの修行日数が全くない事に気づいて一行だけ文章を変えたのでご了承願います



渓流の異変 前編

チチチ、チュン、チチチ

 

 

小鳥のさえずりが俺の耳へと入ってきて、俺は意識を覚醒させる。

布団にくるまっていた体を俺は起こすと、軽く背伸びをする。

窓から入ってくる光はまだほとんどない。

それも当然だ。

まだ夜明け前なのだから。

 

 

「ふぁ~~~。眠い……」

 

 

盛大に俺はあくびをする。

こういった誰もいないときはさすがに日本語を話す。

話す相手がいないので、発音がどうなっているか若干不安だが、まぁ十数年使っている言語なのでおそらく大丈夫だろう。

 

 

まぁ日本語の発音がおかしくなっていたとしても当分関係ないわけですが……下手すると一生……

 

 

そう考えて軽く鬱になりかけてしまった。

俺は布団から出て立ち上がり、桶に張ってある水で顔を洗うことで強制的に思考を切り替えた。

 

 

「さて、今日も一日頑張りましょう」

 

 

声に出して俺はいつもの日課を行う。

まずグラハムとジャスパーを起こして朝飯の支度を行わせる。

俺はその間訓練もかねてひとっ走りして森と丘でムーナの餌を取ってくる。

その日によって餌はまちまちだ。

 

ファンゴ、ランポス、アプトノスetcetc

 

 

最近ランポスが減ってきたな……

 

 

以前は頻繁に見かけて餌探しが楽だったのだが、最近ではめっきり数が少なくなっていた。

狩りすぎたのかもしれない。

しかし、他の連中も時折見かけているらしいので絶滅はしていないだろう。

それに別の地域にはきちんといるみたいだし。

恐竜モドキが絶滅してもそこまで困らないだろうが、絶滅させるにしてもこの世界の住人が絶滅させた方が正しい気がする。

 

 

俺は一応まだここに骨を埋める覚悟を……完全に決めたわけではない

 

 

くだらないことを考えながら森と丘に到着し、俺はすぐに見つけたアプトノスを一匹狩る。

とどめを刺してから合掌し、俺は急いで捌いて自分の分の飯を焼き、残りを持ってきていた巨大な木の箱に入れて村へと戻る。

 

 

「キュゥ~」

 

 

朝のこの時間にいつも俺が帰ってくるのがわかっているムーナが、小屋からすでに庭に出てきていて俺を出迎えてくれる。

 

 

ここ数日でムーナはまた体が大きくなって、俺を乗せての飛行も可能となっていた。

まだ慣れていないからか長時間の飛行は出来ないが、それでも俺はムーナに乗っての空の散歩を連日連夜満喫していた。

ムーナ自身もようやく俺を乗せることが出来て嬉しいのか、頑張って俺との夜の空中散歩を楽しんでいた。

もちろんグラハムとジャスパーも一緒だ。

この日々の空の散歩のおかげで、俺らの絆はとても深い物になっていた。

最近では以心伝心に近いことすら出来るようになっている。

空を飛べるようになった記念として、俺は鍛冶士としての腕を駆使し、ムーナの鐙と鞍を作り、さらに野生のリオレウスと区別出来るようにこの子の尻尾などに旗をつけた布を縛り付けている。

ちなみにその旗にはユクモ村のマークが縫いつけられている。

 

 

ドラゴンライダー、とやらになった気分だな

 

 

ゲームや漫画に出てきそうな職業だ。

俺はそんなムーナの頭を撫でて上げて持ってきて肉を与え、ついでに野菜も与える。

そしてグラハムが作ってくれていた朝食を、先ほど焼いたこんがり肉と一緒にグラハムと分けながら食べる。

 

 

「おはようございます! ジンヤさん!」

 

 

そうして庭で朝食を食っていると、リーメが元気な声を上げて俺の家へと入ってくる。

気の施錠は俺が帰った時点で解錠しているので特に問題なく入ってきた。

リーメとは朝食後の夜明け寸前にいつも訓練を行っていた。

俺は朝食を手早く片付けると、ムーナの小屋の壁に掛けてある木刀を二振り手に取り、木で出来た方をリーメへと投げる。

ちなみに俺が使う方は鉄で作っているので相当重い。

 

 

「では訓練開始」

 

「よろしくお願いします!」

 

 

以前の約束通り俺は、リーメのための刀を作るために、まず訓練で刀の振り方を体に覚え込ませていた。

ちなみにこれはすでに二週間ほど行っている。

 

 

まずは素振り。

基本が出来ないと何も出来ないからな。

次に二人で演武を行い、それから演習。

 

 

これを朝の二時間ほどやるのが、ここ最近の朝の日課の一つなのだが……

 

 

リーメ……天才じゃないのか?

 

 

俺はここ数日でリーメの才能のすごさに驚きを隠せなかった。

当のリーメは訓練に集中しているので全く俺の動揺に気づいていなかったが。

 

 

間合いのはかり方、刀の振り下ろし方、その他諸々。

まるでスポンジに水を吸わせるがごとくの勢いでリーメは成長していった……。

普通に免許皆伝一歩手前くらいだ。

しかし、それはあくまで普通の剣術道場の場合。

 

 

俺の家の認定で考えるとまだまだだが……しかし、もう普通にランポス位なら一人で余裕で刀で討伐できるな……

 

 

元々、気が弱いのが災いしてリーメは実力の半分出せていなかった。

度胸さえつけばドスランポス位なら余裕で倒せるほどの実力は持っていたのだ。

実戦で見ていないのでまだ不明だが、刀の振り方を体にしっかりと覚え込ませれば、自然と刀を振ることが出来るだろう。

 

 

この分だと鍛造して上げてもいいかもしれない。

俺はここ一月で溜めている砂鉄と玉鋼のどれを使おうか悩む。

 

 

まぁ嬉しいことにほとんど上質な砂鉄しかないので何使っても問題ないんだが……

 

 

俺はそこでリーメが回収してきてくれていた、レウスの素材のことを思い出す。

どうせならばあれらを使って強い武器を作ろうと思ったのだ。

 

 

リオスさんのところに預けていたよな……今日辺り見てみるか……

 

 

素材の扱い方がいまいちわからなかったので、俺は素材一式を自分が持っている紅玉をのぞき全てリオスさんに預けていた。

リオスさんにしてもレウスの素材を見ることが出来て嬉しいのか、喜んで預かってくれていた。

 

 

火炎袋とか言うのがあったな……

 

 

可燃性の粉塵が大量に入っている火炎袋。

レウスからとれるのは貴重らしいのだが、それが結構な量入っている袋が二つとれたらしい。

それらを見てどんなものを作るのか考えた方がいいだろう。

 

 

とりあえずリーメには内緒で作るとして……

 

 

「あの、ジンヤさん?」

 

 

そうして俺が考え込んでいると、素振りが終わったのか、リーメが俺に話しかけてきていた。

俺はいったん考えるのをやめて、前々から用意していた刃引きした真剣(刃がついてない刀)を数振り持ってくる。

太刀、打刀、小太刀、脇差しの四種類だ。

これらは俺の家に造った自分用の工房で造った物だ。

 

 

「それは?」

 

 

当然、これで何をするのかわからないリーメは、俺が持ってきた物体を指さし、質問してくる。

俺はそれに応えずに黙って、まず狩竜よりも短くした刃渡り五尺(150cm)の太刀を差し出す。

リーメがそれを取ると、俺は打刀を持ち、それを正眼に構えて振ってみせた。

やることは理解したのだろうが、なぜやらせるのかわかっていないリーメがひどく困惑していたが、しかしそれを押し殺して素直に太刀を振るう。

俺はその動作を寸分の動きも見逃さぬように、凝視した。

 

 

重さに負けている……

 

 

わかっていたことだが、重すぎて太刀に振り回されている感があった。

まぁこれだけ長いと重いし、扱いにくくなるのでそれも当然だろう。

 

 

俺は引き続き打刀を持たせて振るわせ、次に小太刀、脇差しへと続けて行わせる。

それが一段落すると、ちょうど夜が明けてきた。

 

 

「よし、終わり」

 

 

俺は素振りを続けているリーメにそう言った。

リーメは脇差しを振るのをやめると、俺に向き直り綺麗な姿勢で腰を曲げて俺に挨拶をしてきた。

 

 

「どうもありがとうございました!」

 

 

爽やかな汗を振りまきながら、爽やかな笑顔でリーメがそういってくる。

特訓がよほど楽しいのだろう。

しかも複数の刀を振るわせても、それをさせている意味がわかっていないところを見ると、朝練を行っている理由を忘れているのかもしれない。

 

 

手段と目的が入れ替わるいい典型例かな?

 

 

「お疲れ」

 

 

俺は苦笑混じりにリーメにそう言うと、刃引きした真剣たちを元の場所に戻す。

さきほどの素振りで、俺が知りたいことは完璧に知ることが出来た。

 

 

予想通り……小太刀だな……

 

 

小太刀。

刃渡りとしては大体二尺(60cm)よりも若干短いとされる刀。

分類としては大脇差しと言われることもある。

 

 

太刀は馬上からの攻撃で重さで斬ることを考えて作られた得物。

足軽が増え地上戦が多くなったので、小回りがきかない太刀を、使いやすいサイズにしたのが打刀。

脇差は組み伏せった時や、密着状態のときに使うための超接近戦用。

小太刀は脇差しの一種と考えられているが、俺の家では小太刀と脇差しは完全に別物として考えている。

 

 

刀とは基本的に、その重さから両手で扱うことを前提に考えられて鍛造されている。

両手で使う武器はこの世界にも多く存在するが、基本鈍器扱いだ。

リーメは大剣も使えるようだが、本職は片手剣なので、両手で扱うことに慣れていない。

そうなると片手でも振りやすい小太刀が妥当だろうと思っていたのだが、その予感は見事に的中した。

 

 

作る得物は決まったので、今日辺りから制作に入るとしようかな?

 

 

とりあえず今日の帰り道にリオスさんの家に行ってレウスの素材を引き取らせてもらわないといけない。

ちょうどこれからいつものようにリオスさんの家に向かうので、その時ついでに伝えておこう。

 

 

「すまないグラハム、ジャスパー。リオスさんの家行く。先に店行ってろ。すぐ行く」

 

「了解ですニャ!」

 

「店で準備して待ってますニャ!」

 

 

二匹の返事を聞いて、俺はそれに手を振って応えてから、リオスさんの家に向かった。

 

 

 

 

村に入り、しばらく歩くと市場が見えてきて、その一角にリオスさんの家である武具屋は存在している。

俺はその建物の道路に面した店への入り口ではなく、勝手口からその中へと入っていく。

入ってすぐに、リビングへ向かおうとしていたラーファさんと出くわした。

 

 

「おはよう、ジンヤ君」

 

「おはよう、ラーファさん」

 

 

勝手に入ってきたこと特に何も言わず、少し眠そうな表情で、俺に対してそう挨拶を交わしてきてくれた女性。

ラーファさん。

レーファの母親であり、俺よりも背丈は低い。

普通体型で髪の色が薄い紫色なのが特徴だ。

 

 

「レーファを起こしに来てくれたの? いつもありがとうね」

 

「気にしないで。それに今日はリオスさんに会いに……」

 

「おはよう、ジンヤ君」

 

 

そうしていつもの挨拶をラーファさんと交わしていると、俺が来たのに気づいたのか、リオスさんが工房から顔を出してくれた。

工房での鍛冶仕事を行っているため、五十代であるにも関わらずその体には全く贅肉のない、たくましい体。

茶色と白髪の交じった髪を後ろで一つに縛り上げている。

この世界に迷い込んでレーファにつれられてこの村に来て、俺によくしてくれた恩人のリオスさんだった。

 

 

「おはよう、リオスさん」

 

「先ほど、私のことを話していたようだが、何か用事でも?」

 

「はい。預けている素材、欲しくて」

 

 

そう言ったとき、リオスさんの顔つきが一瞬変わったのを俺は見逃さなかった。

リオスさんは押し黙ると、静かに工房へと戻り、すぐに大きな袋を二つ持ってきた。

リーメと俺、二人分の素材が入った袋だろう。

だいぶ時間が経つにも関わらず、その袋からは壮大な気の本流が感じられた。

 

 

「ありがとう、リオスさん」

 

「うむ……」

 

 

妙に押し黙るリオスさんから俺は二つの袋を受け取った。

何か話があると思い、俺は少し待ってみようとしたが、リオスさんにしては珍しく逡巡しているようだ。

あまり時間を無駄に出来ないので、俺はとりあえずレーファを叩き起こしに行くことをラーファさんに伝えて、二階へと上がっていった。

 

 

 

 

~レーファ~

 

 

「起きろ、レーファ」

 

 

朝。私が布団にくるまってとても気持ちよく寝ていると、いかにも呆れたといった感情が含まれた声が私の意識を浮上させる。

しかし、自他共に認める寝起きの悪い私はそれだけで起きることは出来ない。

私はその声から遠ざかるように寝返りを打つと、再び夢の世界へと旅立とうと意識を沈下させる。

 

 

「やれやれ。起きろ」

 

 

その声と同時に、私の体は宙へと舞い、そして回転し床へと落ちた。

 

ビターン!

 

 

「ぶぎゅ!」

 

 

その音と同時に体に痛みが走り、私は強制的に眠りから覚まさせられた。

痛む箇所を抑えつつ、私は布団を引っこ抜くという荒い方法で私を起こした人物を睨みつける。

 

 

「う~~~ジンヤさん! いつも言ってますけどもう少し優しく起こしてください!」

 

「文句あるなら自分で起きろ。優しいと起きないだろ?」

 

「そ、それは……確かにそうですけど……」

 

 

それにしたってもう少し起こし方があると思うんだけどな……

 

 

不満を抱きつつも、忙しい中こうして毎日起こしに来てくれているジンヤさんにはあまり文句を言うことは出来なかった。

 

 

ジンヤ クロガネさん

 

私が、特産キノコを採りに、森と丘に一人で行ってランポスに襲われていたときに助けてくれた命の恩人。

見たこともない服装に、見たことのない髪と目の色。

さらに見たこともないような細長い剣を持って、私の前に現れて私を守ってくれた人。

 

 

そして……私の……す、好きな人……

 

 

「レーファ?」

 

 

床に座って考え事をしているとジンヤさんが私の顔をのぞき込んできた。

 

 

「っ!?」

 

 

突然のことで、私は思わず息をのんでしまう。

しかし、ジンヤさんはそれに取り合わずに、私の額に自分のおでこを当ててきた。

 

 

「熱は……ないみたいだな……」

 

「じ、ジンヤさん……その近い……です」

 

「? 近い、問題か?」

 

「も、問題って……」

 

 

顔が真っ赤になっているのがものすごくよくわかる。

でもジンヤさんは本当にいつも通りで……。

ジンヤさんは顔を話すと、私の頭に手を乗せて撫でてくれた。

 

 

「体問題ないだろ? 起きろ。仕事行く」

 

 

そして頭を撫でてくれていた手で、私の右手を掴むと優しく立たせてくれた。

咄嗟のことでバランスを取ることが出来ずに、私はそのままジンヤさんの胸に飛び込んでしまう。

その私を、ジンヤさんは優しく抱き留めてくれた。

 

 

「どうした?」

 

 

見上げたその先にはジンヤさんの笑顔があった。

けどその顔は特別な人に向ける笑顔ではなく、子供とかに向けた笑顔に見えて……。

 

 

いつまで経っても子供扱い……

 

 

そのことに私は悲しくなりつつも、憤りを感じてしまう。

 

 

ランポスが押し寄せてきたあの日。

私は一世一代の告白をしたっていうのに、この人は気づいているのかいないのか……何の変化も見せてくれなかった。

 

 

確かに私は子供かもしれないけど……

 

 

見た目もそうだけど、なによりも私は間違いなく年齢的に子供だ。

昔から十八で大人とされている。

今の私の年齢は十四。

つまりあと四年はしないと大人になったと誰も見てくれない。

 

 

けど……あと四年経っただけで……大人になれるのかな……

 

 

あと四年。

私が大人になるとされている年齢。

けど私には大人になった自分が想像できない。

そもそも何を持ってすれば大人になれるのかわからない。

 

 

ジンヤさんは大人だけど……

 

 

普段の態度がとても落ち着いているからジンヤさんは誰が見ても立派な大人だった。

何でも出来るし……何でも出来てしまう。

 

 

私……ジンヤさんに並び立てるような女性なのかな?

 

 

そう考えると……どう考えても答えは違った。

体格的にも、年齢的にも、精神的にも……。

どれをとってもジンヤさんに並び立てるとは思えなかった。

 

 

フィーお姉ちゃんならどうだろう?

 

 

そこで私は、十九歳でドンドルマのギルドナイトに勧誘された、私の大好きなお姉ちゃんのことを思い出した。

お姉ちゃんといっても、別に血がつながっている訳じゃない。

近所に住んでいて私のことを妹のようにかわいがってくれた優しいお姉ちゃん。

手紙のやりとりはずっと続けているけど、ここしばらく会っていない。

男勝りの性格で、レグルお兄ちゃんとかでもかなわなかったフィーお姉ちゃん。

お姉ちゃんとジンヤさんが並んで歩いているところを想像してみると……とてもお似合いなカップルが見えた。

 

 

今頃何をしているんだろう……

 

 

しばらく合っていないフィーお姉ちゃんのことを思った。

けどきっとフィーお姉ちゃんのことだから元気にもんすたーを狩っているんだって思う。

この前もリオレイアを一人で討伐したって手紙に書いていたし。

 

 

フィーお姉ちゃんみたいになるのはまだ無理だけど……私も頑張ろう!

 

 

フィーお姉ちゃんは小さい頃から何でも出来ていたけど、私はフィーお姉ちゃんほどすごくない。

だから少しずつ頑張って、ジンヤさんに並び立てるくらい……ふ、ふさわしい女になろうって決意した。

 

 

「レーファ。下に行くぞ。さっさと着替えてこい」

 

「あ、はい」

 

 

ジンヤさんはそう言うとさっさと先に下へと行ってしまった。

時間も時間なので私は慌てて着替え始めた。

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

相も変わらずねぼすけだな……

 

 

和食屋で給仕の仕事を始めたら、少しはねぼすけ癖も直るかと思ったのだが、疲れと緊張で余計に眠りが深くなったようだ。

 

 

仕事を頑張ってくれているから疲れているのか……

 

 

きちんと仕事をしてくれているのでだいぶ助かっている。

他のアイルー達との仲もいいようだ。

 

 

戦力として活躍してくれて助かっているし、何か礼でもするか

 

 

異世界に来てこうして安定した生活をしていられるのも、レーファのおかげであることは間違いない。

何か考えて上げてもいいだろう。

 

 

が、まずは今日の仕事片付けてからだな

 

 

そろそろ店の開店時間だ。

店に行って朝礼を行わないといけない。

 

 

「ではリオスさんとラーファさん。仕事行きます」

 

 

俺は下のリビングに置いておいたレウスの素材が入った袋を持ち、二人に挨拶をして出て行こうとした。

 

 

「ジンヤ君」

 

 

その時だった。

リオスさんが声を掛けてきたのは。

 

 

 

 

~リオス~

 

 

「ジンヤ君」

 

 

私はとても重い気持ちで青年の名を呼んだ。

その気持ちがわかっているのかいないのか、その青年……振り向いたジンヤ君のその顔はとても真剣の物だった。

 

 

「何か?」

 

 

その言葉からはどこか申し訳ない響きがにじみ出ている。

おそらく言葉遣いを気にしているのだろう。

その証拠に彼はきちんと綺麗に起立をし、私の目をまっすぐと見つめていた。

 

 

いつもそうだ。

彼は自分の言語不足を補うために、その態度や仕草はとても丁寧でかつ真剣な物が多かった。

 

 

「……レウスの素材を引き取りに来たと言うことは武器を鍛造するのだろう?」

 

「はい」

 

 

予想通りと言うべきか。

彼はレウスの素材を使った武器を作るために私に預けた素材を引き取りに来たのだ。

つまり彼が行っていた特殊な武器の鍛造をすると言うことだろう。

 

 

……見てみたい

 

 

それが私の偽らざる本音だった。

彼が武器を鍛造するときにしていたあの技法は、大陸随一と言われた私でも見たことがない方法だった。

しかもモンスターの素材を一切使わずに作っていた。

そして完成したその武器も、大陸中を見渡しても見たことがないとても細く長い、鉄の剣だった。

 

 

正直な話、モンスターの素材を一切使わずに作ったその剣は、すぐに折れるだろうと私は思っていた。

あれほど長大なのにあの身幅の薄さでは、とてもではないがモンスターに致命傷を与えられる訳がないと……。

しかし結果としてはそれは正反対だった。

いや、誰もが考えもしなかった方法でジンヤ君はモンスターを倒したのだ。

 

 

切断……斬ると言うこと

 

 

これは簡単なようで難しい。

肉ならば簡単に斬ることができるが、生物には骨がある。

骨は密度が高く、普通は切断できる物ではないのだ。

しかもモンスターは骨だけでなく、その体は硬い鱗に覆われている。

鱗は堅い。

飛竜種に至っては、その鱗にハンマーですら弾かれることもあるのだ。

 

 

しかし……この青年は違った

 

 

そう、ジンヤ君だけは竜種でも最強とうたわれる飛竜、リオレウスを切断してのけたのだ。

もはやギルド専門の討伐対象と言ってもいいほどに強い生物の鱗を、この青年は斬って討伐したのだ。

リーメ君が記念に切断された鱗を持って帰ってきていて、それを見せてもらったがその断面は恐ろしく滑らかだった。

 

 

斬ることが可能な武器

 

 

私はそれにとても強く惹かれた。

鍛造法だけが特殊で、実戦では通用しないと思っていたその武器……その鍛造法がとても知りたくなったのだ。

 

 

だが、武器の鍛造法は他人に教えるような物ではない。

私も修業時代は師に教えをこいだが、師匠はただ私に鍛造する仕事風景を見せてくれただけだった。

私はそこから見ることで師の技術を盗み、鍛冶士となった。

 

 

しかしそれはあくまで弟子として正式に迎えられていたからだ。

もしもただの他人ならば師も私に仕事風景を見せることはなかっただろう。

 

 

もちろんそれはジンヤ君にも言えることだ。

彼は気にせずに鍛造していたが、本来は見てはいけない物だったのだ。

だが私は好奇心に勝てることが出来ずに彼の鍛造を凝視していた。

しかし見れた機会は一度だけ。

さすがにそれでは技術を盗むことが出来なかった。

しかもその技術は全く見たこともない未知の鍛造方法だ。

見ただけで盗めるとはとても思えない。

 

 

だから私は……

 

 

「鍛造するところを……見学させてはくれないだろうか?」

 

 

そう言うと、私はジンヤ君に向かって頭を下げた。

私とてプライドがある。

本来ならばこんな年端もいかないような子に教えを請うなど……ありえないのだが……。

だがプライドよりも私は、あの技法が知りたかった。

 

 

「……いくつか条件ある」

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

……あんたは本当にすごい人だな

 

 

それが俺のリオスさんに対する素直な感想だった。

 

 

教えて欲しいとはいえ、自分の子供とほとんど変わらない若輩者である俺に頭を下げたのだから。

その拳に力が入っていることから本人としても少し屈辱なのだろう。

 

 

しかしリオスさんは、リオス個人のプライドも、鍛冶士リオスとしてもプライドもかなぐり捨てて俺にこうして頭を下げたのだ。

これに関しては思わず感嘆の溜め息を漏らしてしまうところだった。

 

 

「……いくつか条件がある」

 

 

俺のその言葉に、リオスさんがいったん頭を上げた。

 

 

……本来は教えてはいけない物なのだが

 

 

本当は教えるどころか鍛造している姿さえ見せてはいけないのだ。

刀の技術はそれだけ秘密なのだ。

 

 

正宗という刀を知らない日本人はそうそういないと思う。

 

 

その正宗の息子……団九郎は、焼き入れ(熱した刀を水に入れる作業)の水の温度を盗もうと片腕を水に突っ込んだ瞬間に、実の父である正宗に腕を切断されたという……

 

 

それほど刀の技術製法は門外不出なのだ。

だがリオスさんはそれを見たいという。

確かにこの世界の武器を見る限り、刀の製造方法は異常……常軌を逸しているといってもいいくらいの方法だ。

しかもそれが最強と謳われるリオレウスを切断したというのだからその技術は鍛造師として純粋に知りたいのだろう。

だが彼は自分のお願いが不躾であるということがわかっているのだろう。

だからこそ、一人の鍛冶士として、別の鍛冶士であるこの俺に教えを願っているのだ。

 

 

一人の男として……か……

本来ならば……絶対に教えない……というか教えていることがばれたらじいさんに九割五分殺しにされるのだが……

 

 

はっきり言うがリオレウスなどじいさんに比べればミジンコ並だ。

じいさんならばリオレウス十匹に囲まれても五分で片づける。

当然俺なんぞ片手どころか指一本で殺せる。

というか実際に何度も殺されかけた……。

 

 

……いかん、嫌なこと思い出した

 

 

俺の本来の家にいるじいさんとの修行の日々が脳内に流れそうになって、強制的に回想を遮断した。

いつまで経っても条件をいおうとしない俺だったが、リオスさんはそれでも真剣眼差しで俺を見つめていた。

 

 

「一つ、質問されても答えないのは答えない」

 

「……うむ」

 

「二つ、造り方は教える。けど俺の家の秘密は教えない」

 

「家の……秘密?」

 

「そう」

 

 

家の秘密。

それはつまり俺の家の他にも刀を鍛造することが出来るという意味だ。

そのことを知ってリオスさんは驚愕に目を見開いていた。

まぁ刀そのものがないこの世界では、刀を複数の家が作ることが出来るという事実は驚愕に値するのだろう。

その驚きはとりあえず無視することとして……。

 

 

「三つ、この武器はモンスター相手には向いていない。自分で……自分の力だけでモンスターを討伐できる武器を考えること」

 

 

そう、はっきり言って刀はモンスター相手には絶対的に向いていない。

それはそうだろう。

 

 

刀とは本来、人に使うことを前提に開発された武器だ。

当然、人には毛皮や鱗、外殻なんぞありはしない。

俺が狩竜でリオレウスを討伐できたのは俺が気を使用してリオレウスと戦ったからだ。

普通の人間が使えば、よほどの達人でない限り鱗なんぞ切断できるわけがない。

 

 

……じいさんと親父なら可能だけど

 

 

あの二人は規格外なので置いておくとして。

しかもいくら鋭い刀と行っても一度に切断できる骨などの数は決まっている。

それも考えずに振るっていてはすぐに刀身がいかれてしまう。

 

 

リオスさんはモンスターに向いていないという俺の言葉の意味はわかっているらしく、俺の言葉に素直に頷いた。

 

 

「それでいいなら今日から夜。俺の家に来て」

 

「……よろしくお願いします」

 

 

そうしてリオスさんは再度俺へと深く頭を下げてきた。

 

 

よもや鍛造の師匠にまでなるとは……

 

 

世の中わからないものである。

しかも相手はこの世界ではだいぶ有名な鍛造師だという。

そんな人を果たして俺が指導できるか不安ではあったが……。

 

 

引き受けた以上、やるしかないか……

 

 

今日からさらにやることが増えてしまったが、それも運命という物だろう。

俺はそう思うことにして無理矢理自分を納得させた。

 

 

「よろしく、リオスさん」

 

 

俺は自分自身に苦笑しながらリオスさんにそう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

~刃夜~

 

 

「調査?」

 

「そうなんだよ、ジンヤ君」

 

 

和食屋閉店後にやってきた村長とその村長の孫娘のユーナちゃんが共にやってきて、村長が俺に向かってそう言ってきた。

村長の態度から何か話があると思い、俺はレーファにユーナちゃんの世話を任せると、一番テーブルに向かい合って座っていた。

 

 

「この村の近くに渓流があることは君も知っているだろう?」

 

 

渓流。

村長が言ったようにユクモ村のすぐそばにある自然豊かな場所で、森と丘と違い水辺が多く、植物も多様性がある。

ユクモ村の特産品であるタケノコや、ユクモの木と賞賛されている材木はこの渓流と呼ばれているフィールドで採取されている。

そこにも当然モンスターは生息している。

ガーグァと呼ばれる草食の鳥竜種。

アイルー、メラルーの獣人種。

ケルビと呼ばれる鹿のような草食動物。

この辺のモンスターは基本的に人間に無害なので問題はない。

 

 

危険なモンスターと言えばアオアシラと呼ばれる熊や、ドスファンゴと呼ばれる猪がそれだ。

だがこれは、人間を食すようなモンスターではなく、よほどのことでない限り直接襲われたりする危険もない。

仮に襲われたとしても、鼻がいいのでモンスターなどの糞を固めた肥やし玉と呼ばれる物をぶつければ、逃げて行くのでそこまでの危険はなかったのだが……。

 

 

「渓流に今までみたこともないようなモンスターが来てね。ギルドに問い合わせてみたが、あれはどうやら最近発見されたジャギィとジャギィノスと呼ばれる鳥竜種の一種らしい」

 

「ジャギィとジャギィノス……」

 

 

山吹色と薄い紫色の皮に、襟巻きトカゲのような襟がある方が雄のジャギィ。

雄よりも体格が大きく、耳が大きくたれているのが特徴的な雌のジャギィノス。

 

 

それらのモンスターが渓流に姿を現したという。

 

 

……………ひょっとしなくても……生態系が若干変化したのか? いやそうしたのは俺か……

 

 

この村を襲った三桁ほどのランポス。

さらにムーナの餌として毎日狩り続けて、へたしたらこの地域のランポスはほとんどいなくなったのかもしれない。

あるいは危険を感じて別の地域へと避難したのか……。

 

 

食物連鎖という言葉がある。

植物を草食動物が食べ、草食動物を肉食動物が食べる。

やがてどちらも死骸となり、それらを小型の虫や土壌にいる微生物が分解し、それが木々への栄養へとなり、植物が育ちそれを草食動物が食す。

 

 

この一連の構成は絶妙なバランスを保っている。

草食動物が増えすぎては植物が食い尽くされてしまうし、肉食動物が増えすぎては草食動物がいなくなる、つまり肉食動物たちの餌がなくなってしまう。

生態系の神秘のシステムなのかどうかは知らないが、よほどのことがない限りこのバランスが崩れることはないと考えられている。

 

 

……そう……よほどのことがない限りだ………

 

 

百匹の肉食動物を殺すことは……間違いなくよほどのことだろう。

それによって草食動物が増え、それらの餌を求めて別の地域から肉食動物が移住してきても不思議はない。

 

 

村を救ったのは事実だが、それとは別に違う問題までも発生させてしまったか……

 

 

予想外とはいえ、自分がこの事態を起こしている可能性がある以上、それから目をそむける訳にはいかないだろう。

自身に心の中で溜め息を吐きつつ、俺は村長に質問をする。

 

 

「俺はそれを討伐するのか?」

 

「ある程度討伐し、何体かは村に持ち帰ってくれないか? ギルドに提出して分析して欲しいのだ」

 

「なるほど……」

 

 

新種のモンスターならば俺としても見てみたい。

ちょうどリーメの小太刀が完成間近なので、卒業……というよりも実戦テストをかねてそれらを見て、免許皆伝くらいは与えてもいいと思っていた頃だ。

調査目的なので数日間は寝泊まりで渓流のキャンプ地に寝泊まりすることになるだろう。

その方が効率がいい。

そうすればアイルー達がきちんと俺抜きで仕事を回せるかも確認できる。

おまけにムーナも連れて行けばあいつも数日はのびのびと過ごすことが出来る。

しかもムーナに乗り、空からも観察すれば作業効率もいいだろう。

一石だけでいくつもの鳥を落とすことが出来るのだ。

 

 

いろんな意味でタイミングがいいな。

 

 

俺は村長に承諾の意を伝えた。

 

 

 

~レーファ~

 

 

「わかった。調査を行おう。リーメも一緒がいい。ムーナも連れて行く」

 

「わかった、私から彼に話しておこう」

 

 

またお仕事……かぁ……

 

 

村長が直々に頼み込んできた仕事なので、村にとって重要なお仕事だって言うのはよくわかる。

けど、頑張ろうって決めたその矢先に頑張って認めて欲しい対象が別の場所に行ってしまうのかと思うと少し悲しかった。

調査目的なので数日は家に帰ってこない。

そうなるとこのお店はますます忙しいことになるだろう。

 

 

「レーファ、すまない、数日この店任せる。任せると言ってもたいしたことじゃない。普通に仕事してればいい」

 

「……簡単に言いますけどジンヤさん、それって結構つらいですよ。特に一番お仕事の出来るジンヤさんが抜けるなんて」

 

「そうですニャ! 店長!」

 

「いくらなんでも無謀ですニャ!」

 

 

グラハムちゃんやジャスパーちゃん、それに他の従業員であるアイルー達からも苦情が殺到する。

ジンヤさんはそれを予想していたのか苦い表情をしていた。

 

 

「確かにきついだろうが、俺がいなくても回ると思ったからこそ俺は依頼を受けたんだぞ?」

 

 

その言葉に、私も含めて全員のブーイングが止まった。

そしてジンヤさんの次の言葉を待った。

 

 

「いいか、嘘でも苦し紛れの冗談でもなく、これは試験だ。俺がいなくても回せるならば、俺は本来の仕事に戻る。無論ヘルプなどにも入るが基本的にオーナー的存在になり、店を実質取り持つのはお前達に任せる」

 

 

ジンヤさんの厳しい瞳が、私たちみんなを見つめる。

 

 

「それにいつまでも俺がここにいる訳じゃないんだぞ? クエストの途中で死ぬかもしれない……いなくなるかもしれない」

 

 

……え?

 

 

最後のほう、ぼそっと言ったけど、私はジンヤさんの言葉を聞き逃すことはなかった。

 

 

いなくなるって……どういうこと?

 

 

咄嗟に私はジンヤさんの顔を見る。

その視線に気づいているはずなのに……ジンヤさんは私の顔を見てくれなかった。

 

 

 




だいぶ変えました……レーファを……

これがましな改編になっていることを……私は信じます……

何かご意見、ご感想がありましたら是非送ってください

怖いですが……きちんと受け止めます。
あ、でもオブラートに包んでくださいねw

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